ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~ 作:Ocean501
今回も拠点回です
次は戦争できたらいいな(願望)
「夜間対艦攻撃?」
守屋の口から吐き出された内容に誰もが目を丸くし、唖然としたようなリヒターの声がヘクサーの耳に届いた。守屋の出現に興味を掻き立てられたのか、いつの間にか集まってきていたランヴァボン隊の面々もみな一様にあっけにとられている。そんな様子を作り出した張本人は「その通り」といつものように芝居がかった身振りで肯定した。
「今回の作戦では爆撃機部隊の面々は暇だっただろうからね、ここらで一仕事やってもらおうと思う。夜間対艦攻撃の訓練はやっているだろうし、運よく今日は雲一つない満月だ。月明かりを頼りにした爆撃は出来るだろう?」
「いや、まあ、月明かりが出ているのならSボートに直撃させる程度は簡単ですが…」
歯切れの悪いハンスが、隊の面子を見まわしてから守屋を見る。「空母が見つかったのですか?」
空軍道において艦上爆撃機や艦上攻撃機などの機材が使用されている以上、対艦攻撃目標は存在する。その最たるものが航空母艦とそれを取り巻く駆逐艦部隊だった。艦隊の運航は殆どがAI制御であり、人の乗組員はパイロットと整備士、航空管制官に指揮官程度で文字通り浮かぶ洋上基地としての機能を持ち、艦上機を搭載して進出することで、うまく利用すれば思わぬ場所から学園艦の航空基地や航空戦力に打撃を与えられた。
艦全体は戦車道と同じく特殊カーボンによって包まれており、命中した火器の位置、威力などを勘案したうえでダメージ判定を出し、規定値以上のダメージを受けると赤色の煙を放出し撃沈判定となる。その際、格納庫内に居る艦載機は全て全滅、搭乗員も戦死判定となった。その時に飛行している所属機は、即座に撃墜判定が下されはしないが、帰るべき家を失った航空機の末路など碌なものではない。そして、撃沈判定を受けた空母は、1月の間戦闘停止を命じられ港での待機を余儀なくされた。
上手く使えば大戦果だが、運用を間違えば大打撃の諸刃の剣と言っていい戦力、それが機動部隊だった。なお、現在空母を保有しているのはサンダース、知波単、黒森峰(ただし、航空隊の所属は陸上基地)、プラウダ、アンツィオ、BC自由学園などある程度の規模を持つ学園艦に限られる。
「いや、見つかってない。まだ、な」
「あ~、司令。まさか」
嫌な予感を感じた青年――声色から彼がランヴァボン1なのだろう――が若干頬を引きつらせる。彼の予想は残念ながら覆されることにはならなかった。
「察しが良いじゃないか、ヴィニー。ランヴァボン隊は索敵装備に換装し次第出撃、敵艦隊を捜索せよ」
「どうせそんな事だろうと思いましたよ。それで、捜索範囲は?」
「グリッドEB85、86、75、76だ。学園艦の東側の海域だよ」
守屋は懐から取り出した周辺海域の海図を地面に広げる。学園艦の位置が中心からやや東側に黒いバツ印でかきこまれ西側の海域には聖グロリアーナ学園艦を示す紅いバツ印が描かれていた。2つのバツ印の距離は120㎞程度と近い。航続距離の短いドイツ軍機でも十分届く距離だった。だからこそ、昼間にあれほどの大規模な攻撃隊を送り込めたのではあるが。
EB85、86、75、76海域とは学園艦東側、100㎞から200㎞の海域だった。ハンスが確認するようにこの4つの海域までの空路をなぞり、最もな問いを投げかける。
「何か根拠があるので?」
「今回の聖グロリアーナの攻撃隊だが、陸上機の他に艦上機も混じっていたのは見たか?」
初耳なのか首を横に振る。ランヴァボン1、ヴィニーは「そういえば、護衛機の中にマートレットが混ざっていた」と記憶の中から情報を引っ張り出す。
マートレットとは、元々は第二次世界大戦中にアメリカからフランスへ売却される予定だったF4Fワイルドキャット(フランスではG-36)で、本機を受領する前にフランスが降伏してしまったため満足のいく艦上戦闘機を欲していたイギリスへと供与された曰く付きの機体だった。
「さらに、クラウン隊が交戦した爆撃機部隊についていたのもハリケーンではなくシーハリケーン。交信記録からコヨーテ隊で間違いない。コヨーテ隊は聖グロリアーナ空軍道海上部隊、フォーミダブルの航空部隊の一つだ。学園艦の航空基地の部隊ではない」
「では、近海に機動部隊が展開していると?」
「そう考えるのが妥当ではないかね?リヒター君」
ううむ、と唸るリヒター。司令の言い分にはある種の説得力があったが、疑問点はまだ残る。たとえば
「しかし、それだけで近海に機動部隊が展開しているとは言い切れないのではないでしょうか?聖グロ学園艦近海に展開した空母から発進したとも考えられる。それに、先ほどおっしゃられた海域は学園艦の右舷側。昼間に襲来した攻撃隊の方向とは真逆です」
そうだ。態々危険を冒して空母を前進させる必要はない。戦闘行動半径内なら、学園艦近海から出撃させた方が安全だ。そして、攻撃隊の進入方向。主攻の攻撃隊は方位320付近から、クラウン隊が迎撃に当たった小規模の攻撃隊は方位220付近。黒森峰学園艦が北上している最中では、どちらも艦の左舷側だ。
リヒターの投げかけた問いに、司令は目元に刻んだしわを深くさせて笑みを見せる。あたかも、自分の望む回答を出した生徒に喜ぶ教授のように。
「まず一つ目、聖グロの司令部が空母航空隊も出撃させた可能性だが低いと言えるだろう。数が少なすぎる」
「数、ですか?」
「空母航空隊の手も借りたいほどの大規模出撃であるなら、それこそ空母航空隊全てを一度に叩きつけてくるはずだ。ところが、今回確認されたのはコヨーテ隊の4機と12機のマートレット。1と1/3個航空隊に過ぎん。ハーミーズでももっと多くつめるさ。つまり、確認された16機の艦上機の目的は大規模な攻撃ではない」
「では、なぜ少数を投入したので?」
「こいつは予想になるが」と前置きし、言葉を続ける。
「主攻に交じっていた12機のマートレットだが、これは攻撃よりも偵察に重点を置いていたとみていいだろう。その証拠に、戦闘が始まっても増槽を落とさず、戦闘事態には積極的に参加していない上に、戦闘が始まってから一定時間が経過するごとに1機ずつ戦場から離脱していった。情報を持ち帰ることが任務だとでもいうようにね。しかも、スカイアイのレーダー記録を見ると1度だけレーダーの端を掠めて東側へ飛んで行く
「では、コヨーテ隊の方は?」
「臨時の手伝い、だったのではないかな?本来ならば護衛に当たるはずの航空隊が何かの理由で任務を実行できなくなり、司令部は臨時に機動部隊へ掩護要請を出した。しかし、機動部隊の方は別の作戦を遂行するためあまり多くの護衛を出したくない。4機しか出撃させなかったのはそのあたりの折り合いだろう。ウチとは違って機動部隊と陸上航空隊の指揮系は別だからね。しかも、犬猿の仲と来た。コヨーテ隊はあまり練度が高くなかったのではないかな?」
確かに、言われてみれば自分たちの奇襲をあっさり見逃し爆撃機を食われた。隊長機はともかくとして、少なくとも2機は彼我の高度差、速力を考慮せず遮二無二上昇し失速。ハンマーヘッドターンで針路を変えた自分にあっさりと破れている。練度の高い人間であるならば、高空を悠々と飛ぶBf109に非力なシーハリケーンで垂直上昇をかけながら攻撃するという無茶はしなかったはずだ。
「さて、残る問題として何故聖グロの機動部隊は東へ向かったと言えるかについてだが、彼らの目的が解れば理由も解る。ハンス君、聖グロの連中がこのままやられっぱなしで引き下がるようなタマと思うかね?」
「いえ、まったく。右の頬を殴られたら、にこやかにボディブローを叩き込む連中でしょう」
「結構!いや、まったくもってその通り。我々は昼間の航空戦で基地の一部を破壊したが、彼らは攻撃に失敗した。事実、アドラー、シュヴァルベ、ヴュルガーには一発たりとも爆弾は落ちていない。防空戦闘団の面目躍如と言ったところだが、プライドの高い彼らがそのまま放っておく訳がない。必ず、第二次攻撃が開始される。その先兵が東側に展開したであろう機動部隊だ」
哨戒範囲として指定された4つの海域をトン、と指で叩く。
「昼間の攻撃で黒森峰の戦術コンピュータ群の警戒は併進する聖グロリアーナ学園艦が存在する西側に振り向けられている。さらにシュヴァルベ・シャンツェの戦術コンピュータは駆逐戦闘航空団の哨戒機のシフトを西へ設定した。まぁ、これは攻撃や哨戒の大部分を担う戦術コンピュータの習性と言うものだから仕方がないが、東側への警戒は確実に薄くなっている」
「其処を突くための機動部隊ですか」
「どうだい?案外与太話と言うわけでもないだろう?」
ニヤリと口角を上げる守屋に、集まったパイロットの面々は何も言えなくなってしまう。探せば粗がありそうな推理だが、ここまで論を展開されると本当にそこに機動部隊がいるのではないかと言う強迫観念じみた錯覚に襲われる。
「空軍道の大部分の指揮が戦術コンピュータに移管された今、司令部が能動的に動かせる戦力は一つの任務につき1個飛行隊までだ。とは言え、その飛行隊が有力な戦力と遭遇した場合、戦術コンピュータ群は保有する航空機内で即座に作戦を作る。これは戦術コンピュータの作戦だから出来る限りの飛行隊が使用可能だし、出撃する飛行隊はある程度こちらで誘導できる」
「そのための出撃待機ですか。完全武装で待機している飛行隊を戦術コンピュータが見逃すはずがない、これ幸いと作戦に組み込み出撃させる。特に、攻撃座標が刻一刻と変わる対艦戦闘ならばなおさらだ」
ヘクサーの言葉に大きく頷く。
「その通り。だから、
「Bf110Cのズーク隊は手ひどくやられてましたからね。
納得したようにランヴァボン隊の面々が頷く。Bf110Gは爆装も出来る戦闘爆撃機だが、爆撃機として開発されたJu88には及ばない。そして、長距離偵察も双発重戦闘機の重要な任務の一つだった。守屋は先ほどまでの教え子を相手にするような教師の仮面を外し、指揮官として再度命令を下す。
「ランヴァボン隊は追って少佐から指示が来る。詳細を受領し次第出撃せよ」
「ランヴァボン・リーダー了解。司令の推理に賭けてみましょう。ランヴァボン隊はこれより出撃準備に入ります」
彼らの行動は歴戦の飛行隊らしく素早く、命令が実行されるや否や集まっていたパイロットが一目散に換装作業が進む愛機へと疾走していく。作業の手伝いを行い、少しでも早く出撃状態に持っていく為だろう。
「よし、残りの諸君も出撃準備に取り掛かってくれ。準備が終了次第、エプロンまでタキシングして待機。情報が入ればすぐに出撃できるように準備せよ」
「クラウン隊、了解」
「ジルウェット隊、了解」
敬礼を交わし、愛機へと踵を返そうとしたところで、ヘクサーはふと気になった疑問を投げかけた。
「司令、機動部隊の攻撃の目標となるのは何処でしょうか?」
「君も薄々感づいているんじゃないかな?黒森峰にはいくつかの滑走路がある。聖グロリアーナの目的は滑走路を叩いて、その基地に所属する航空機の行動を封じることだ。滑走路が破壊された割合に応じて、飛行できる航空機の数も減少するからね。通常の滑走路には重爆の水平爆撃で片が付くが、一つだけ
「やはり、そうなりますか」
予想通り過ぎてゲンナリとする。ひょっとすると昼間の8機の爆撃機も本来は滑走路の破壊ではなく、威力偵察が目的だったのだろうか?
「
「君達の奮励努力に期待する!アッハッハッハ!」と言う高笑いを背中に聞きながら、自分の愛機に向かって走る。夜間航空戦を単座戦闘機にやらせるなよと思いつつ、月が出ているのなら何とかなるかと言う考えも浮かんで来たのだった。
鋭角の艦首が傾きかけた月明かりに照らされた海面を切り裂き、月が映る鏡をかき乱していく。白波を蹴立て30㏏で滑っていくバトル級駆逐艦が先陣を切り、その両翼を同型艦が続く。次に姿を現したのは排水量約5600t、全長156m。艦前方に3基、後方に2基、合計5基の13.3cm連装高角砲を備えたダイドー級軽巡洋艦。合計で10門に及ぶ両用砲はまだ見ぬ獲物を前に、潮風を受けながら沈黙を保ち続ける。艦首が噴き上げる波は駆逐艦のそれよりも巨大で、時折来るうねりを踏みつぶし、”
従順な守護騎士の後を進むのは、基準排水量22000tの巨大な海の女王。アメリカ海軍のヨークタウン級や大日本帝國海軍の蒼龍と併せて、中型空母の完成形とされる一隻。その、姿かたちを模した影法師。
聖グロリアーナ空軍道第1機動艦隊旗艦、SGS アーク・ロイヤル。
その旗艦の装甲化された艦橋の中で、第1機動部隊を預かる空軍道司令は忌々しく空を見上げる。
「チッ、快晴か。ツイてない、これでは上空から丸見えではないか。戦術コンピュータは何と言っている?」
「『作戦に変更なし、予定地点まで前進せよ』です」
副官の抑揚のない声にため息を吐き出す。彼自身の見解として、この奇襲攻撃はあまり好みでは無かった。知波単やサンダースとの艦隊決戦を見越して仕上げていたというのに、記念すべき初仕事が陸上航空隊の尻拭いなどとは。しかも、まだまだ不安の残る夜間奇襲でだ。何とか攻撃時間をずらし、攻撃隊が着艦する時間を日の出後にすることが出来たのは不幸中の幸いだった。この時期に夜間着艦など悪夢以外の何物でもない。
「暖機運転は?」
「順次開始しています。第1次攻撃隊として戦闘機36機、爆撃機48機の84機。第2次攻撃隊として戦闘機24機、爆撃機36機の60機を予定。旧式のソードフィッシュやフルマーを第二次攻撃に回し、苛烈な迎撃が予想される第1次攻撃にはマートレットやファイアブランド、バラクーダを当てています」
「よろしい。だが、あれだな。バラクーダでも高性能扱いは悲しいものだ」
イギリス製艦上機のお寒い事情に艦橋に失笑が漏れた。
「しかし、我が艦隊のパイロットは一流ぞろいだ。性能の差が戦力の決定的な差ではない事を黒森峰に教育してやろう」
飛行甲板には暖機運転を行うため格納庫からあげられた艦載機が並びつつある。その光景はアーク・ロイヤルだけでなく、後続するイラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアスの甲板上でも見られた。
空母4隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻を伴う機動部隊は一抹の不安を抱えつつ黒森峰を目指し西進する。頭上を飛び交う無数の航海無線の中に紛れた、高度に暗号化された通信に気づかぬまま。
【淑女たちは裏門から庭に入った。歓迎の笛を鳴らせ】
空軍道の帰還中でも海上無線は普通に飛び交いますので
こういった通信の見逃しが起こることもあります
黒森峰の空母はグラーフ・ツェッペリンおよび
ペーター・シュトラッサ―が現役
ヴェーザーがモスボール保存。オイローパが改装中(予算不足で作業中断)
基本的には第1航空基地の飛行隊が着艦して運用されます
ポン着けの簡易着艦装備を付けて
着艦はフライトコンピュータ制御で無理やり降ろします
惑星WarTunderでは着艦装置なしの零戦一一型や陸上戦闘機が
普通に離着艦するので多少はね?
それでは次回、「Mission09 夜の海に魔笛は響く」 でお会いしましょう ノシ