ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~ 作:Ocean501
気づいたら文章が1万字超えてたので
分割投稿となりました(;´∀`)
暗い夜空に月がぽっかりと浮いている。太陽から放射され虚無の空間を突き進み、38万km離れた月面で反射された光が周り周って高度16000ftを飛行する22の猛禽の群れを照らし出す。双発爆撃機と急降下爆撃機によって形作られた4つのダイアモンド編隊の前方を、8機のBf109がV字型に隊列を作り前方の警戒に当たっている。そして、そんな護衛される側の機体、Ju87D-3が4機で構成されるジルウェット隊の隊長機、そのコクピットに収まったパイロットは退屈そうに膝の上に張り付けられた地図にチラリと目を落とした。
学園艦から出撃してから早数時間、途中で何処からかき集めて来たのか3機もの給油機から空中給油を行い、航続距離を無理やり延伸して進出したが敵はまだ見えない。
何時もなら賑やかな航空無線も、まだこちらの所在が露見していない以上おいそれと使えない。既に中天を過ぎた月から降り注ぐ白銀の光に包まれたコンソールは、最初の内こそ幻想的と感じさせるほどだったが今となっては単に昼間よりも見難いだけだった。低く響くエンジン音と主翼を流れていく風の音だけをこうやって聞き続けるのはいつ以来だろうかと現実逃避気味の考えも持ち上がってくる始末だった。
「なぁ、おい。ランヴァボンの奴ら、フライング・ダッチマンでも見つけたんじゃねぇのか?」
【命令の意味不明、再入力せよ】
ヘルメットのスピーカー越しに聞こえてきたのは部隊のメンバーの声ではなく、機械的な合成音声の返答だった。空軍道においてJu87をはじめとする複座の航空機に、定員通りに後部機銃手や航法手が乗り込むわけではなかった。幾ら男子高校生の嗜みとして広まっている空軍道でも、後部機銃手や通信手を専門に行う乗員をそろえられるほど人数は多くなく、そもそもパイロットや整備士、航空管制官に比べてそう言った裏方の業種を選択する酔狂な人間もまた少なかった。
このため、Ju87の様な単発の軽爆撃機や、Bf110の様な双発重戦闘機においては後部機銃は火器管制コンピュータに全てを任せ、実質的に単座機として運用することが主流だった。また他にも、He177やB17、ランカスターなどの複数の銃座をもつ大型爆撃機であっても、機銃手は1名で安全な乗務員区画から、一つの機銃を担当し他の機銃は火器管制コンピュータに任せる形をとっていた。である為、たとえB29の様な超重爆撃機であっても、パイロット2名、爆撃手、機銃手の4名で運用されていた。
後方機銃手としての機能を搭載された火器管制コンピュータには、ヘルメットの通信機を介して口頭での命令を受付実行に移すプログラムが組み込まれていた。とは言え、ただ命令を実行しパイロットを補佐するためのシステムであるから、今回の様な雑談は不可能だった。
「ランヴァボン隊の情報に間違いは無いのか?」
【現時点での作戦中止連絡は確認できず。逆説的に司令部はランヴァボンの情報に間違いが無いと判断している】
「お前はどう考える?」
【命令に文章的欠落あり、再入力せよ】
「火器管制コンピュータは、我々特務戦闘航空団が、この戦いに勝てると考えるか?」
【ランヴァボン隊からの報告では航空母艦3隻以上、軽巡洋艦2隻以上、駆逐艦10隻以上が確認されている。仮に航空母艦3隻、イラストリアス級と仮定する場合】
「思考過程を省き、結論を述べよ」
火器管制コンピュータが逡巡したのか、一瞬の静寂。
【勝利は不可能】
背中の後部座席側に収まった火器管制コンピュータの結論にフンと鼻を鳴らす。
コンピュータの結論に不満があるわけではない。むしろ、勝ち負けで言えばこの戦闘に勝利はない事を彼はよく知っていた。
こちらが繰り出したのは双発爆撃機8機、急降下爆撃機4機、戦闘機10機。中型爆撃機が存在することを差し引いても、搭載機数がショボいことで有名なイラストリアス級相手でももう少し頭数は多いだろう。
聖グロリアーナの空母はその殆どが装甲空母で、
つまるところ、今回の特務戦闘航空団の役割は。
「露払い兼時間稼ぎってところだよな」
【命令の意味不明、再入力せよ】
ポツリとつぶやいた言葉に火器管制コンピュータが反応し、いい加減うっとうしくなってきたので命令入力モードをオフにする。
そう、露払いだ。黒森峰の統合戦術コンピュータが我々に求めているのは完全勝利ではなく、後に続くであろうアドラー・シャンツェの攻撃機部隊の道を開くこと。立ちふさがる護衛艦に爆弾を浴びせ、装甲空母に致命傷を与えられる雷撃部隊の突破口をこじ開けることだ。そのために、両翼に250㎏爆弾を搭載したと守屋は出撃前に語っていた。
しかし、その為ならば腹の下に抱いた1000㎏爆弾は要らない。命令と武装がちぐはぐだったが、彼にとってはそうではなかった。
――可能であれば、敵空母に痛打を与えよ
このシナリオを描いた守屋司令と、この作戦を承認した特務戦の戦術コンピュータはジルウェット隊にそう言っているのだ。試されていると言ってもいい。機数不足のため大規模な作戦に投入されず、今までパッとしなかったジルウェットに負って湧いたチャンス。モノに出来なければ、スツーカ乗り失格だ。
「だから、頼むぜ。
他の20機を見下ろす位置。編隊直上1500ft付近をぽつんと飛ぶ1組のロッテ編隊。眼下の爆撃機や戦闘機の翼に時折影を落としつつ、道化師のエンブレムと1のナンバーを身にまとったBf109は静かにそのナイフを突き立てる相手を待ち続けていた。
「来たな」
そう呟いたヘクサーの声は、無線から飛び込んできたスカイアイの興奮気味な声にかき消された。
『無線封鎖解除!無線封鎖解除!12時方向!敵機4!続いて9時方向4機!爆撃機に近づかせるな!護衛部隊は戦闘を開始せよ!爆撃機部隊は隊形を維持しつつ前進!』
『ミンクス・リーダーより各機!無理に墜とさなくてもいい!爆撃機から追っ払え!防御機銃に当たる様なヘマはするな!このまま1発ブチかましたら全機ブレイク!宅急便の道を開くぞ!』
『アプサラス・リーダーより各機!護衛はおてんば娘と空中ピエロが片付ける!編隊を密にしろ!陣形を崩すな!』
『ミンクス2!タリホー!敵はシーハリケーン!』
『ミンクス5!よりミンクス6!遅れるなよ!』
『オシメ持参でお供します!』
一気に賑やかになった無線。それに引っ張られるように、それまで月の銀色の光に満ちていた夜空の一角から曳光弾が伸びていく。戦闘が始まったのだろう。V字型に隊列を成したミンクス隊から吐き出された曳光弾の奔流はフィンガーフォーの陣形でヘッドオン体勢だったシーハリケーン4機に降り注ぎ、1機が20㎜機関砲の直撃を受けたのかまばゆい火球となって、パラシュートを伴いながら空に散る。
「行くぞ、リヒター。敵の防空網に風穴を開ける。クラウン1!エンゲージ!」
『精々でかいのをこさえてやろう。クラウン2!エンゲージ!』
スロットルをマックスへ叩き込むとDB601Aが甲高い悲鳴を上げ、機首両側の排気口からはチロチロと蛇の舌のように炎が微かに伸びる。急に振動が大きくなった機体を抑え込みつつ緩降下、ミンクス隊の編隊による機銃掃射を生き残った3機の内、他の2機のようにダイブして攻撃を回避せず、ヘッドオンのまま突入を続け爆撃機に迫る1機に照準。ヘクサーの目標となった機体は、目の前に迫るアプサラス1に意識を集中させていた為か反応が一瞬遅れる。
《なぁっ!?敵?!》
「上方注意だ!ルーキー!」
目を細めてトリガーを握りこむ。機体が振動し4丁のMG17からマズルフラッシュと共に徹甲曳光弾の流星雨が打ち出され、シーハリケーンのコクピット前方へと降り注いでいく。何とか躱そうとペダルを蹴飛ばしたのか右へと針路をずらす敵機。しかし、秒速850m以上で殺到する弾丸に間に合うはずもなく、コクピット前方と左翼部分の燃料タンクを撃ち抜かれる。いくらセルフシーリングが施されていたとしても、無数に着弾する焼夷効果付きの徹甲弾に耐えられるはずもなくすぐさま発火、爆発してしまう。
『グッキル!ヘクサー』
『スカイアイより護衛部隊!上空直掩の戦闘機が集まってきた、注意せよ!』
「クラウン1よりスカイアイ!数は?!」
『現時点で16機!足の速い機体も混じっている!シーハリケーンの様には行かないぞ!』
『リヒターよりヘクサー。たぶん、シーファイアだ。型式は解らないが手ごわい相手に違いない』
「出来る事なら発艦に失敗していてほしかったな」
『それは言えてる』と軽く笑うリヒターの声を聴きつつ周囲を警戒。未だ爆撃部隊に損害はない物の、今度の敵の数はこちらよりも多く、機体の性能も同等かそれ以上。気は抜けないだろう。
「くそっ!読まれていたか!」
空の向こうで真っ赤な流星が海へと落ちていく姿を見ながら、第1機動部隊の司令は吐き捨てる。距離は20㎞もない、もうすぐ爆撃機がこちらへと突入してくることは明白だった。
勿論、彼とて黒森峰が黙ってやられるだけではない事は重々承知している。しかし、今回はあまりにもタイミングが悪かった。飛行甲板には発艦を今か今かと待ちわびる戦闘機や爆装した爆撃機が並び、風上に向けて艦を全力疾走させている状況。
AI制御による操艦でも回避行動は行うが、発艦直前の機体が甲板に固定されていない場合はその回避機動には大幅な制約がかけられる。
「なんてことだ!これでは腹に火薬を抱えて撃ってくださいと言わんばかりではないか!」
「司令!直ちに発艦を!」
「馬鹿モン!全機発艦にどれだけの時間がかかると思っているんだ!?その間に爆弾の直撃を許してみろ!艦上機コクピットは250㎏爆弾の至近弾に耐えられると思うか?!甲板後部の駐機スペースに喰らえば何人死ぬと思う?!」
「で、では…」
「全パイロットは一度艦内へ退避!隙を見て戦闘機パイロットのみ離艦させ、爆撃機の迎撃に当たらせる!」
「作戦は如何するのです?」
「我々の存在は既に露見した!最早奇襲は不可能!そもそもこれは陸上航空隊のごり押しで決まった作戦だ!こんな作戦で虎の子の空母をすり潰せるか!」
指揮官の怒声が響く艦橋に、空に生まれた新たな流星が海へと落ちていく光景が飛び込んで来る。戦闘距離が近くなった為か、炎の尾を引いて墜落していく機体の形を数人の目の良い人間は識別することが出来た。
黒森峰の主力戦闘機とよく似てはいたが、その独特の丸みを帯びた機体は、まぎれもなく上空直掩についていたシーファイアのモノだった。
実際、発艦準備中に空爆喰らったらとっとと全機上げるんですかね
まあ、今回は空軍道なので人命優先で結果的に火だるまになってましたが
あのセリフを司令に口走らせたかっただけとも言う
艦橋に不敗の魔術師も撤退上手なペテン師もいませんので悪しからず
次で聖グロに機動部隊には沈んでもらいましょうか
SC1000抱いたスツーカにあの人の同位体放り込んでいる時点で
無傷で帰ることはありえんでしょうし