僭越ながら、ショートショートを書きました。

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少し不思議なショートショート「孤思相愛」

とある田舎町に、口数の少ないエルという人物が居た。

 

エルが5才の時、彼には脳の障害があることが分かった。エルの両親は、短い言葉しか喋れない息子を見て、泣き崩れた。

 

エルが8才の時、彼は同級生から口数の少なさと知能の低さをからかわれた。エルの両親は、イジメを受けて泣きわめく息子を、ただただ慰め続けた。

 

エルが15才の時、彼の両親は思い病を患い、永眠した。両親の葬儀には、エルしかいなかった。エルの口数は、更に少なくなった。

 

エルが16才の時、義務教育を終えた彼はすぐに荷物運びの仕事に就職した。同僚からのイジメを受けながらも、彼は黙って仕事をし続けた

 

エルが32才の時、独り暮らしに寂しさを覚えた彼は、一台の家政婦アンドロイドを購入した。感情もなく、会話も言われた事を繰返して、相づちをうつくらいしか出来ない安物だった。

 

エルが33才の時、彼はアンドロイドに『マキナ』と名前をつけ、話しかけるようになった。短い言葉で、足りない知能で、マキナと会話をした。エルはマキナと会話することが楽しくなり、やがてのめり込むようになった。

 

「マキナ、家事はできたか」

 

「わたし、家事はできたわ」

 

「いつもありがとう、マキナ」

 

「いつもありがとう、エルさん」

 

マキナは相づちをうつだけ。エルはマキナの言葉が自分の言葉を繰り返してるだけだということに気付かず、マキナは自分と会話出来ているのだと思った。エルの知能では、言葉が繰り返されていることに気づけなかった。

 

エルが35才の時、彼はアンドロイドであるマキナに惹かれ始めていた。彼の同僚たちと違って、アンドロイドであるマキナはエルを見下したりしないからだ。エルはそれ以来、マキナを遊びに誘うようになった。

 

「マキナ、一緒に本を読もう」

 

「わたし、一緒に本を読むわ」

 

「マキナ、トランプで遊ぼう」

 

「わたし、トランプで遊ぶわ」

 

マキナはエルからの誘いを断らなかった。そういう風に、プログラミングされているからだ。機械的な動きでトランプをめくり、無機質な瞳で読書をした。

 

エルが38才の時、彼はマキナに求婚した。エルはマキナと長い時間を過ごしていく内に、アンドロイドと人間の区別がつかなくなったのだった。熱情に満ちた瞳でマキナを見つめ、熱っぽい息で想いを告白した。

 

「マキナ、君が好きだ」

 

「エルさん、貴方が好きよ」

 

「結婚してくれ」

 

「結婚するわ」

 

マキナはエルと抱きあい、冷たい唇で無感情なキスをした。エルが自分を求めたから、マキナはアンドロイドとして彼に応えたのだ。

 

エルが46才の時、彼は貯金をはたいてマキナと外国旅行に出掛けていた。アンドロイドを伴侶にしているエルを、周囲の人々は奇特なものを見るめで見ていたが、エルは気にしなかった。それよりも、マキナとの旅行に夢中になっていた。

 

「キレイな夜景だね」

 

「キレイな夜景ね」

 

「君と結婚してよかった」

 

「貴方と結婚してよかった」

 

マキナはプラスチックの肌を街灯に照らされながら、エルを真似てメトロポリスの夜景を眺めた。感情をプログラミングされてないので、夜景がキレイである理由を理解できなかった。

 

エルが52才の時、彼はマキナと口喧嘩をした。ふとマキナの相づちが素っ気ない気がして、それが喧嘩に発展したのだ。マキナは言葉を繰り返すだけなので、エルは単に一人相撲をしているだけだ。だが、マキナを人間だと思っているエルが気付く由もなかった。

 

「君の顔なんか見たくない」

 

「貴方の顔なんてみたくない」

 

「さようなら」

 

「さようなら」

 

マキナは抑揚のない声でそう言って、エルを視界に入れないようそっぽ向いた。感情がないので怒ってはいなかったが、エルの言動を繰り返す事しかできないので、怒っているように振る舞った。

 

エルが53才の時、彼は心臓病を発症した。両親が発症したのと同じ遺伝性の物で、治療費を払えない彼は仕事を止めて家で療養することにした。みるみる内に症状は悪化し、彼はベッドから起き上がることも出来なくなっていた。

 

「マキナ」

 

「エルさん」

 

マキナは一年ぶりに呼ばれた自分の名前に反応して、彼の名前を呼んだ。

 

「僕が悪かった、許してくれ」

 

「私が悪かったわ、許して」

 

エルは自分が死ぬ前にマキナとの仲違いをどうにかしようと、マキナを呼んだ。それも直ぐに、解決した。「ありがとう」とエルは笑った。

 

マキナは「ありがとう」と、エルを真似て笑った。

 

エルはゆっくりと、短く少ない言葉で話しかける。

 

「僕はもう、死にそうだ」

 

「もう、死にそうなのね」

 

マキナはいつものように相づちをうつ。

 

「いつもありがとう、マキナ」

 

「いつもありがとう、エルさん」

 

エルはいつものように話続ける。

 

「マキナ、君が好きだ」

 

「エルさん、貴方が好きよ」

 

マキナは繰り返す。

 

「君と結婚してよかった」

 

「貴方と結婚してよかった」

 

エルは気付かない。

 

「さようなら」

 

 

 

………………………………

 

 

 

「逝かないで」

 

 

 

 

 

 

エルが53才の時、彼は息を引き取った。死因は、心臓病による心不全だった。

 

マキナは亡きエルの遺体に寄り添うように、その機能を停止していた。

 

もう、動かない。

 


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