竜と少年R15ver   作:神座(カムクラ)

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 この小説は私が執筆しているモンハンR18小説「竜と少年」のLow effect versionです。ごく一部の演出を抑えていますがストーリーは同じなので生々しい表現や性描写が苦手な方、18歳未満の方はこちらをご覧ください。


第壱話 歯車は廻る

 

 

 

 「ほらユタ、トーマ、離れるんじゃないぞ。もうじきナルガクルガの巣だ。」

 

 ある夫婦ハンターが子供に狩りを見せるため、2人の息子を連れている。兄の名はトーマ。12歳で両親と同じハンターを夢見ている勇敢で優しい兄だった。その6歳年下のユタはお世辞にも勇敢とは言えないが優しく、また幼いながらあらゆる武器の扱いの才能を見せていて家族や村の期待の星だ。父カヤックと母カンナは念を押すように

 

 「もうすぐだ…村のみんなには内緒だぞ?」

 

 「ギルドにもね。特別だから。」

 

 ハンターは狩猟許可区域外のモンスターを狩ってはいけない。それは鋼の掟。これには重大な理由があるのだが、そのハンターたちは息子たちに勇姿を見せるため本来は入ってはならない区域に入り、目的のナルガクルガの巣へと向かっていた。

 

 「あった…今は留守か…?」

 

 「待って、中に何かいる…」

 

 巣の中には小さな黒い塊を見つけたユタが

 

 「ナルガクルガの赤ちゃんだー!」

 

 と言えばトーマも覗いて

 

 「ほんとだ。意外と可愛いな。」

 

 子供達にとってつぶらな瞳の迅竜の仔は可愛いだけなのだが、ハンターの両親にとっては違ったらしく、カヤックはホクホク顔で妻に言った。

 

 「これは良い。連れて帰ってある程度育てて傷をあまりつけずに殺せば良い素材になる。トーマの装備にしてやるのも良いかもな。いや、生きたまま売ればかなりの金になるかもしれない。」

 

 「なら早く連れて帰りましょう。」

 

 ギッギッと鳴き声を上げる幼体のナルガクルガに麻酔弾を撃ち込もうと母カンナが銃口を向け…

 

 「ちょっと待ってよ!可哀想だよ!」

 

 その非道な行動を止めようとユタが母のボウガンを引っ張る。すると父が止めさせ

 

 「ユタ、俺たちはハンターだ。そして竜は獲物だ。竜に情けなんてかける必要はない。それにこいつで装備を作れば兄さんのためになるんだぞ。」

 

 と言って退かせる。

 

 「でも…」

 

 ──よくも私の子を!──

 

 「えっ?」

 

 「なんだ、どうした──」

 

 ハッとユタが母の方を向くと、音を立てずに近づいていた2つの紅い残光が、我が子に一番近いカンナを引き裂いた。

 

 「カンナぁぁ!!」

 

 「母さぁぁん!!」

 

 ギャオオォォン!!!

 

 「くそぉっ!」

 

 カヤックは大剣を振りかざすがナルガクルガはいとも簡単に交わし我が子に覆い被さるように立つと棘を飛ばした。なんとか誰も被弾しなかったが、ここでカヤックは子供たちの存在を思いだして一先ず逃げることを選択する。

 

 「逃げるぞ!」

 

 煙玉を投げ子供たちの手を取ろうとしたとき、母を殺したナルガクルガにユタはこう叫んだ。

 

 「逃げて!子供を連れて逃げて!そうじゃないと大勢の人が殺しに来る!だから───」

 

 ユタが次に気がついた時には家の物置の椅子に縛り付けられていた。言うまでもなく父の逆鱗に触れたのである。

 

 「何故あんなことを言った。」

 

 「だって子供を守っただ──」

 

 手加減のない平手打ちが飛ぶ。

 

 「この人でなしがっ!母さんが殺されたのは正しいと言うのか!!」

 

 「でも…でも…父さんだって兄さんが殺されそうになったら同じことを───」

 

 「黙れ!人様と本能だけで生きてる畜生を同じにするな!!」

 

 その後何日か虐待された後兄トーマが止めに入って事は終結したものの、住んでいた村には親不孝者として知れ渡った上ユタに竜と意思疏通する力があると分かればもはや人間として扱われなくなった。ただ一人、兄だけは違い、ユタに本を買ってやったり遊んでやったり森に連れていってやったりと、大切な弟をとても可愛がっている。

 

 その4年後、父カヤックは皮肉にもナルガクルガ狩猟依頼に失敗し帰らぬ人となり、トーマはこれを期にある決断をしたのだった。

 

 「なぁユタ、話があるんだが、引っ越しをしないか?」

 

 「引っ越し?」

 

 「この村を出るんだ。もう目星はついてる。ユクモ村ってところだ。ほら温泉で有名な、龍の凄む村だ。」

 

 「うん、知ってる。」

 

 「あそこならきっとお前も暮らしやすいだろう。なんたって村の奥の霊峰ってところにアマツマガツチとミラボレアスっていう古龍が住んでいて、毎年お祭りしてるようなところだ。信じない人も多いけど俺の知り合いはその古龍から貰ったっていう鱗をみせてもらった。」

 

 「そうなんだ…でも兄さんは良いの?」

 

 「あぁ。大事な弟を人間扱いしない村に用はないさ。もう話はつけてある。知り合いの守人が護衛として来てくれるってよ。」

 

 守人とは、ギルドが自然の理に反した狩猟をしていないか監視するための組織、ハンターの逆である『ガーディアンズギルド』通称竜の守人のことである。守人たちは、密猟者の取り締まりの他に、ギルドに寄せられた依頼が正統かどうかを判断する。違反すれば一国の王でさえ罰せらる権限をもった。

 

 この制度は初めはなかなか受け入れられなかったが、あるとき現れた『幻月の守人』と呼ばれる守人の奮闘により徐々に世に受け入れられ、今では国家組織として国から承認・支援されつつ国の権力から独立している。

 

 2千年近く前、人が竜を根絶やしにしようとして大戦争になって生命のバランスが大きく乱れてしまい、それを正すため当時の龍王だった真祖龍が人間とその文明をことごとく滅ぼした。しかしあくまで平衡を保つのが目的だったため、当時のシュレイド王やハンターズギルドマスターに『人間と竜が本当の意味で共存できる世界を望む』と言い残した。その時の反省、そして真祖龍の言葉を実現するために設立されたのが竜の守人だった。

 

 「それにお前、竜医者になりたいんだろ?ユクモ村には優秀な竜医者もいるらしいし、貴重な資料もたくさんあるって話だからお前にはピッタリじゃないか?」

 

 「うん…ありがとう兄さん。」

 

 こうして兄弟は旅だった。その道中。

 

 「この辺りで休みましょう。

 

 案内人のその一言で湿地林の真ん中で休憩。ユタは護衛の守人、ラーザとそのオトモアイルーと一緒に何か採取出来るものはないかと探していた。

 

 「あ!これ落陽草だ!花も咲いてるから生命の大粉塵が作れる。」

 

 「作れるのか?」

 

 「出来ます。」

 

 上位ハンターでも苦戦する調合なのだがあっさりとやってのけたのでラーザは感心する。

 

 「すごいな。生命の大粉塵なんて実物は初めて見た。」

 

 「まだあるかもしれないから探しましょう!」

 

 そうしてしばらく辺りを探していたとき

 

 ──いやだ…死にたくない──

 

 「あっ…」

 

 「どうした?」

 

 ──だれか…──

 

 「聞こえる…」

 

 「何がだ?俺には何も聞こえないが。」

 

 「竜が助けてって言ってる…」

 

 「竜!?お前竜の声が聞けるのか!?」

 

 「うん…」

 

 ──死にたくないよぉ…お母さぁん…──

 

 「そんなに遠くない!」

 

 「なら行ってみよう。」

 

 「信じてくれるんですか?」

 

 「あぁ。そいつはきっと声渡し(こわわたし)だ。ごく稀に人間にもいるらしい。案内しろ。ここは狩猟許可区域じゃないから密猟者かもしれない。おい、レン!」

 

 「ニャ!」

 

 「お前は戻って伝えてこい!」

 

 「分かったニャ!」

 

 声を頼りに探すと見つけたのは全長350cmぐらい(内半分以上は尻尾だが)の幼体のナルガクルガ。あちこち怪我をしている。

 

 「こんな真っ白なナルガクルガは初めて見た…4、5歳ぐらいか?」

 

 小さいなりに弱々しく威嚇をするが、ユタは動じず優しく話しかけた。

 

 「大丈夫、襲ったりしないよ。どうしたの?」

 

 驚いて威嚇をやめ、ユタにだけ聞こえる声でいった。

 

 "人間に襲われた!お父さんもどうなったか分からないし、お母さんが大変なの!助けて!お母さんが死んじゃう!"

 

 

  その偶然の出逢いは奇跡という名の運命。   

 

 

 

 ────────4年前─────────

 

 

 

 極ナルガクルガ。純白の毛に覆われ、目の周りや刃翼、尾などには紅の模様があり、全身に淡い光と微かな気流を纏う特殊な種族。任意の至近空間を真空にすることができる力を持ち、その古龍を凌駕するほどの力から遥か昔より龍王の下僕として仕えてきた一族でもある。そしてその血を受け継ぐ1匹の雌の極ナルガクルガは今まさに臨月を迎えようとしていた。

 

 "痛むか…?"

 

 "あぁ…せめてお前が……側にいてくれれば…"

 

 話しかけたのは不幸にももうすぐこの世に生を受けるこの仔の父親。だが互いに触れるどころか1度も顔を合わせたことがなかった。

 

 

 ───さらに2年前───

 

 

 雌の極ナルガクルガ、カラはいつも通り若き龍王である祖龍ミラボレアスへ獲物を献上するため狩りに出ていた。その日は気分で少し遠くへ出かけていたのだが、突然、大勢の人間に襲われ、あと一歩のところで捕らえられてしまった。人間に劣る彼女ではないのだが、流石に何百もの軍勢には勝てなかった。気がついたときには立ったままの姿勢で固定され、どこかに閉じ込められていた。

 

 彼女は王の下僕として人語を話すことが出来たが、口は与えられる肉が食べられるギリギリまでしか開けられず、交渉することも出来ない。傷が癒えてしばらくしてから人間たちの目的を、身をもって知ることとなった。

 

 「よし、抜け。」

 

 「グ…グウゥ…!」

 

 鱗を引き抜かれたり、自慢の刃翼に何度も金属の塊を打ち付けられて折り取られたり。自分はエサという材料を稀少で強力な素材に変える道具として扱われるのだと絶望したとき、

 

 "おい…聞こえるか…?"

 

 隣の牢から聞こえてきたそれはナルガクルガ系統のみが使える超高音、低音域の鳴き声。同族だという証拠だった。

 

 "聞こえる…お前は…?ここはどこなんだ…?"

 

 "おぉ…会話をしたのはいつぶりだろう……"

 

 聞けば彼は朧月(おぼろづき)のナルガクルガ、俗に言う希少種で、かなり前からここに囚われているらしい。自分のことも話すと

 

 "王の下僕…!そなたのような竜まで捕らえてしまうとは人間とはなんと……いやどうでもいいな。私の名はユミト。そなたの名は?"

 

 "私はカラだ。"

 

 "カラ…この鳴き声で話せるのはそなただけ。普通の声では人間からの罰が待っているからな…話し相手になってくれないか?私はもう…今にも気が狂いそうなのだ…"

 

 "むしろ私からお願いするよ…"

 

 それからは彼らは定期的に素材を「採取」され、その度に互いに励まし合っていた。だがある日、人間たちは奇妙な行動に出た。

 

 "なぁカラ…"

 

 "なんだ?"

 

 "そなた最近…胎に何か入れられてないか…?"

 

 "……あぁやはりお前の…"

 

 "気づいていたか。"

 

 "生憎、ご多分に漏れず鼻は利くんでね。…私にお前との仔を産ませて取れる鱗を増やすつもりか…全くなんて残酷なことを…"

 

 "すまない…雄である私にも何も出来ない…"

 

 "お前は悪くないさ。どうせ私の一族は宿しにくいんだ。"

 

 だが現実は牙を剥いた。普通のナルガクルガでも胎生であるため妊娠率は低く十数年に1度仔を産めば良い方であるのに、捕らえられておよそ1年で腹の奥底が脈を打ち始めた時は絶望した。自分は不幸になる仔を産まねばならぬという事実。なんとか、なんとかこの仔だけでも。そう思った彼女はふと肉片をみて思い付いた。期待はしていなかったが、藁にもすがる想いで肉片を噛みほぐし、汚いがなんとか読める文字を書いた。

 

 ──話をさせろ──

 

 世話係はそれを見たとき、状況が呑み込めなかったのかしばらくカラとその肉文字を交互にみて、別に急かしてもいないのに慌ててその場を去ると、いくらかの紙とインクを持って帰ってきた。カラの目の前でインクで紙に書く光景を見せると恐る恐る差し出してきたので、慎重に、こう書いた。

 

 

 ───私はお前たちの言葉がわかるし、お前たちの目的も理解している。産まれたばかりの仔竜は親と離ればなれになると死んでしまう。少なくとも授乳が終わるまでは一緒にいさせてくれ。そして、どうか私と同じ目に合わせないでくれ。私はどんなとがめも受ける。だから頼む。不幸になる仔など産みたくない。自由にしろと言っても無駄だということはわかっている。だからせめて酷い目に合わせないでくれ。私達も生きてるんだ。私達にも心があるんだ───

 

 

 世話係の驚きぶりは相当なものだったが、当然だろう。ただの物として見ていなかった存在が、その悲痛な願いを伝えてきたのだから。落ち着いて、しばらく姿を消して、再び戻ってくると

 

 「拘束を緩めてやる。それと、お前が書いた内容の大方は上も認めた。だがもちろん採取はさせてもらう。他になんかあったらまた書け。」

 

 その日から立ったり寝そべったり、横たわったりはできるようになった。少なくとも産んですぐに引き離されることはないという安心感はあるものの、やはり激しい罪悪感はこれっぽっちも消すことができなかった。

 

 "聞いてもいいか…?子供のこと"

 

 "あぁ"

 

 "その…どんな感じだ?"

 

 "最近動き始めた。なんだろうね、罪深いことをしているというのに、無性に嬉しくなってしまう…所詮は本能か…でも正直不安だ。直接交わった訳でもなく、酷い扱いを受けると決まった仔…中途半端に一緒にいるより、さっさと引き離してくれた方が楽かもねぇ…"

 

 "そうか…"

 

 何もできないユミトは『それでも少しの間だけでも愛した方が良い』など言えるはずがなかった。普通の雄ならそんなに気遣うことはないだろうし、触れたこともないのに勝手に自分の仔を宿した雌やその仔を気遣おうとも思わないだろうが、正確には5年もの間独りで苦しみ続けた彼にとってカラやその子供は希望の光であり、生きる糧であり、かけがえのない存在だった。

 

 

 そしてカラの腹は大きく膨らみ、今に至る。

 

 

 「ウグゥ……グ…グギギ…」

 

 「そら頑張れ。」

 

 破水して数分、世話係の応援が気に障るが一応腰を擦ってくれているので我慢する。

 

 "カラ…すまない…頑張ってくれ…"

 

 "お前は優しいね…グ…今更謝るのは止めておくれよ…私よりもずっと長く苦しんだ、優しいお前との仔だ…産めて光栄だよ…グゥゥ……"

 

 鱗を抜かれる痛みなど虫が停まるに等しいと思えるほどの激痛の波。だが力をいれて、痛みのピークが訪れる度に我が子が少しずつ移動しているのを感じると、不思議な元気が湧いてくる。そして

 

 「ク……キ……キャウ…キャウッ…!」

 

 "カラ…!産まれたのか…!"

 

 "あぁ…なんとか…"

 

 拘束されているので、事前に伝えていた通りに世話係が仔の膜を破り、へその緒を千切るとそれを合図に我が子が産声を上げる。親切にもカラの目の前に置いてくれたので拘束が許す限り口を開けて舐めた。

 

 (私の子…)

 

 その後も打ち合わせ通り世話係はその子の体を拭き、排出された胎盤を始末してから子供とカラを少し洗った。子供が乳を飲んでいると

 

 "カラ…その…なんといったら良いか…"

 

 "何も要らないよ。励ましてくれただけで十分だ。"

 

 それからしばらく経ち、娘はすくすくと成長してあっという間に乳離れの時期がやって来る。不本意にできた子ではあったが、いざ育てると本当に可愛くて人間たちからの拷問も楽に耐えられるようになり、ユミトに娘の様子を聞かせるのが日課になった。

 しかし楽しい時間も終わり。約束の時間が来て無理矢理引き剥がされ泣き叫ぶ望まぬ子から目をそらし、忘れようとする。よほど大きな声で鳴いているのか見えない別の場所に連れていかれても声が聞こえて、こっちまで泣きそうになった。

 

 "カラ…"

 

 "今はそっとしておいてくれ…"

 

 が、不意に鳴き声が大きくなったと思うと世話係が娘をつれて戻ってきた。

 

 「今日は返す。上に掛け合ってやるよ。」

 

 するとその翌日

 

 「許可が出た。当分は一緒にいられる。感謝しな。」

 

 

 

 "ユミト…あいつは変な人間だよ…"

 

 "だがまぁ…良かったな。"

 

 "あぁ…そうだ、名前を付けてやらないか?"

 

 相談の結果、娘を"レナ"と名付け、出来る限りの範囲で愛した。

 それからまた時が経ち

 

 "母さぁん…!"

 

 "レナ…"

 

 鱗を数枚剥がされて涙声ですり寄る娘。

 

 "どうしてこんなに痛いことされるの?私、「外」に行ってみたい…"

 

 "ごめんよ…レナ…"

 

 この頃、ユミトから返事が来なくなり、話しかけられることもなくなった。長年の苦痛がついにその精神に牙を向き始めたのだ。自分やこの子もやがてそうなってしまうのかと思うと、カラはレナを宿してしまった自分を呪った。

 

 

 

 〇〇〇

 

 

 

 "……?"

 

 それは混濁した意識の中で、ふと気がついた異変だった。

 

 (何だ…?この音…)

 

 恐らく迅竜にしか聞き取れないであろう音。その正体に気づいた瞬間、消えかけていた心が燃え上がった。

 

 (そうかこれか!これが壊れかけている!)

 

 全身に力がみなぎるのをユミトは感じた。長い間ユミトが苦痛で身をよじろうとしていた時の負荷が積み重なり、数年の時を経て壊れ始めている音だった。ふとユミトは隣でカラと、娘の声を聞いた。

 

 (そうか…もう話せるのか…とすると私はかなりの間意識を…クク…こんな私でも…まだできることがあるかもしれない…)

 

 それから毎日、ユミトは力を込めて鎖を引っ張り続けた。その間、敢えて親子に話しかけることはしなかった。そんな暇があれば休み、拘束を破ろうと思ったからだ。少しずつ手応えを感じ、

 

 (これなら…)

 

 己の刃翼の修復が終わり、もうすぐで折り取られるであろう時期を見計らって渾身の力で腕を引っ張った。直後、ビシビシッという音が響き、甲高い音と共に根本から千切れた。

 

 (しめた…!)

 

 自由になった右腕の鋭い刃翼で残っていた尻尾の鎖を叩き斬ると檻をぶち破った。

 

 "カラ!レナ!起きろ!今出すぞ!"

 

 "何───"

 

 初めてその純白の姿を捉えるとその檻も破壊し、娘を抱きたいという衝動を抑えてカラの拘束を千切った。

 

 "いくぞ!"

 

 満身創痍の体で外を目指していると、カラが見回りの1人を押さえつけると人語で問いかけた。

 

 「出口はどこだ。」

 

 言わなければ殺す、というように腕を軽く振り上げると人語を話したことさえ気に留めず震える手で指をさした。すぐに信用はせず男を口にくわえてその方向へ向かうと一行は格子に隔たれた門にたどり着く。ユミトが叩くが壊れなかったのでカラは男を放し

 

 "私がやる。この子を。"

 

 困惑したレナを預けるとその場で3回まわって勢いをつけ、ユミトとは比べ物にならないほどの速度で一撃。火花が散り、金属の格子の一部が折れる。それを数回繰り返してついに脱出口を確保すると、とにかくその場から離れようとするが破裂音が響き、咄嗟に飛び退くと何かが高速で通りすぎた。

 

 (ボウガンか…!)

 

 ハッと建物の上部を見ればバリスタもある。王の下僕として人間が使う武器についての知識も備えていた。

 

 "ユミト!まずは走れ!今すぐ飛んではかえって危ない!"

 

 ナルガクルガは飛行能力にはあまり長けていない。飛行中はかなりのスピードを出せるが、浮遊し滑空するまで時間がかかる。その間にバリスタで撃たれれば終わりだ。幸い建物は森に囲まれていたのでそこを目指す。ジグザグに移動して弾を避けているとユミトが方向転換。

 

 "ユミト…!?"

 

 "逃げてくれ!娘を頼む…!"

 

 後ろからは既に人間が迫ってきていたのだ。ユミトは返事を待たずに迎え撃った。

 

 "絶対追いかけてこい!"

 

 そう叫ぶと森の入り、走り続けた。

 

 "ハァ…ハァ…"

 

 "お母さん大丈夫?"

 

 "あぁ…今日はこのあたりで休もう。"

 

 数時間走り続けて疲れきったカラは見つけた川で水を飲んでから死んだように眠った。

 翌朝起きるとレナを背にしがみつかせて鎖をぶら下げながら飛び続け、途中で狩りをしてようやく落ち着いた。レナは初めての外なので、もう旅行気分である。虫と遊び疲れて休む我が子を抱いて、ユミトへ心からの感謝の祈りを捧げてその日を終える。その後もあてなく飛び続けてもう逃れたかと思っていたときだった。

 

 (囲まれたな…)

 

 2日後、眠っているカラがその気配に気づいたときには遅かった。普段ならもっと早く気づくだろうが、疲労ゆえに深く眠りすぎていたのだ。

 

 カンッ…ドォォン!!

 

 「ギャッ!!」

 

 "母さん…!"

 

 何かが弾かれるような音と爆発音。刹那、右足に激痛が走り、見れば貫通はしていないが穴が開いている。

 近年開発された新型の武器の小型火砲、通称石火矢である。小型化した大砲のようなもので、大人の腕ほどの太さ、長さ1mの金属をベースにした銃身からは金属のつぶてが発射される。火薬は樽爆弾と同じものを使用しているため反動がかなり大きいが、ボウガンよりも遥かに威力が高い。

 今のところ1発限りかつ装填に時間がかかり、また反動が大きいため精度が低く実戦に向いているとは言えないが、不幸にもまだ鱗が再生しきっていなかったその足に命中したのでそれだけでカラのナルガクルガとしての戦闘力を根こそぎ奪ったと言える。だがカラは普通の竜ではない。痛みを堪えてレナを自分の下に移動させると身震いした。

 

 「グォォォォ…!!」

 

 カラの上に巨大な真空空間とそれによって無数の真空刃が発生。さらにそこへ流れ込む空気による凄まじい気流の流れによって周囲に迫っていた人間は皆その空間へ吸い込まれて鎌鼬(カマイタチ)の海の餌食となった。ただの赤い液体として飛び散った人間だったものを見回し、他に敵がいないことを確認すると

 

 "よし…行こう。"

 

 "お母さん…今の…"

 

 "私ら極の名を持つ一族の特別な技だ。"

 

 "そうじゃなくて脚…"

 

 "あぁ…平気だ。行こう。"

 

 が、脚を動かそうとしてゾッとした。痛み以外の感覚がない。

 

 "お母さん…"

 

 "やられたね…大丈夫。さぁ。"

 

 傷を舐めるレナを促し、右足を引きずりながらその場を離れる。しばらく歩いていると

 

 "ウ…ウグゥ……"

 

 "お母さん…もう休もうよ…お母さんが…"

 

 "だめだ。あの人間のことだ。今も私たちにせまってきているだろう。"

 

 "でも血が…"

 

 (確かに出血が止まらない。それに何だこの痛み。まるで脚の内側からえぐられているような感覚だ…)

 

 "ねぇ…?休もう……?"

 

 "…分かった。"

 

 その日は休み、出血も止まったので翌日また歩き出す。踏ん張りが効かず飛ぶのは無理だった。

 

 "ねぇねぇ、この森、綺麗だね!"

 

 "そうだね。"

 

 "この間の森と違って明るいし、川の流れも早いし、木の葉っぱの色が綺麗!あの葉っぱお母さんの目のこれみたいに赤い!段差が多いのは大変だけど……"

 

 無邪気な娘をみて気が楽になる。

 

 "そういえばレイム様の住む森も美しい月の見える、色とりどりの綺麗な森だとおっしゃっていたな…フフッ……まさか、な。"

 

 "どうしたの?"

 

 "いやなんでもない。独り言だ。"

 

 レイム。かつて人と竜の争いを紅龍、煌黒龍共に食い止めたという真祖龍。真の力を持つ祖龍でありながら早々と養子に王座を譲り、ユクモ村という人間の集落から少し離れた霊峰に番と住み、今も人と竜の関係改善に尽力しているという。そんなことを考えていると以前より増した痛みが襲ってきた。

 

 "グ……グゥゥ……"

 

 "お母さん…!"

 

 "くそ…何だこの傷は…"

 

 止血していたはずの傷口から再び血が流れ始め、いよいよカラから命を奪っていく。それだけではない。化膿し始めたその傷から毒素が広がり、全身が気だるく頭痛もしてきた。元々疲労困憊だったカラはついに

 

 "レナ…私はここで休む。先に進んでてくれ。"

 

 "いや!やっと出れたのに!"

 

 "レナ、大丈夫。母さんは強い。お前は先に行っていてくれ。運が良ければ良い人間に見つけてもらえるかもしれない。そうすればホルド様のところに戻れるかもしれない…レナ、もし同族に会ったら助けを求めるんだ。同族なら極の私たちを絶対に助けてくれる。そうしたらここの場所を教えて助けに来ておくれ。"

 

 "……分かった。"

 

 "レナ!"

 

 "な、何?"

 

 "母さんはお前を心から愛しているよ。"

 

 走り去る娘の背中を見つめ、星となったであろう娘の父親に祈る。自分は血の匂いを振り撒いているのだから、鳥竜ならまだしも大型の竜に見付かってしまえば危うい。可能性が無いわけではないが、レナにいったのは自分を置いていかせるための嘘だった。もちろん、仔竜で、しかも今までずっと閉じ込められた場所にいたレナが生き延びていくのは難しい。それでも共倒れするよりはましだと思っての苦渋の決断だった。

 

 〇〇〇

 

 あてもなく、救世主との奇跡の遭遇を目指して幼い極迅竜は森を進む。なんとなく母はもう助からないのではないかと、そんな気がして悲しげに鳴くレナ。ふと足音と荒い息を聞き付けて、その方向を向こうとした瞬間、ガブッとなにかに噛まれてパニックになる。鳥竜種、ドスジャギイに見つかったのだ。しかしこの個体は群れから独り立ちしてしばらく経った若いもので、手下を持っていなかったのは幸い、やみくもに暴れると刃翼の先が相手の目に突き刺さり、レナを放して逃げた。

 

 (危なかった…)

 

 痛みに呻きながら森を進もうとするが今の恐怖で動けなくなってしまった。

 

 (死にたくない…誰か…助けて…お母さん…)

 

 再び別のなにかが近づいてくる音が聞こえ、心臓が破裂せんばかりに動く。少しすると木々の間から人間が2人現れた。

 

 『ナルガ…クルガ?』

 

 (え…?)

 

 不思議な感覚だった。2人のうち、小さい、若い方の言うことだけ理解できたのだ。

 

 『大丈夫。襲ったりしないよ。傷を治してあげるからおいで。』

 

 小さい人間が優しくそう話しかけるとレナは威嚇をやめ、反射的に訴えた。

 

 "お願い助けて!お母さんが死んじゃう!"

 

 その人間こそ、ユタとラーザだった。

 

 「お母さんもいて、死んじゃいそうだって!行かなきゃ!」

 

 ユタはレナに向き直り

 

 『案内して!』

 

 

 

 全てはこの出逢いから始まった。一人の少年と一匹の竜の歯車は今噛み合い、廻り始める…

 

             




 

 
 極ナルガクルガはモンスターハンターフロンティアの極み駆けるナルガクルガのことです。

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