ある国の、ある学者見習いの記録
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ホルド暦5年
今まで俺は"例の計画"で集まった鱗やら甲殻やらの仕分けをやらされていたが、今日から捕獲したやつの"手入れ"と"採取"をする管理係に昇格した!それも上の連中が苦労して手に入れたナルガクルガ希少種の"手入れ"をさせてもらえるらしい。今まで地道に、真面目にやってきた甲斐があった。給料もだいぶ上がったし、シュレイドから出稼ぎにきた価値はあったようだな。記念して今日から記録をつけることにした。といっても毎日単調だからな。文章も苦手だし、なんか変化があったときに書くとしよう。とりあえず今回はこれで終わりだ。
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管理係1日目
すげぇな。姿形は通常種より大きいくらいだがなんとも言えない綺麗な色をしている。おまけに刃翼が鋭くて油断したらこっちが怪我しそうだ。もっと反抗的かと思ったが、ここに来て2年というだけあって近づいても反応しねぇ。時々唯一動かせる首を捻って水を飲んで、肉を目の前に置くとただ食べるって感じだ。試しに鱗を何枚か引き抜くとさすがに唸った。まぁでもそれだけだ。体も立ったままの姿勢でガチガチに鎖で縛ってあるし口も半分くらいしか開かないようにしてあるし、状態も問題ない。それにしてもあの鱗、一枚くらいくれたりしないかな。紙みてぇに軽くてバカみてぇに堅くて綺麗な鱗。誰かに送ったら喜ぶだろうな。
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管理係20日目
今日は十分育った刃翼の採取だったんだが、うっかり触っただけで怪我しちまったよ。ついてねぇ。それもそうだがこの刃翼とにかく堅い。専用のハンマーを何十回何百回打ってやっと折れた。あれも暴れようとしてたが勿論ムダだ。
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管理係27日目
全く、何であんなことしなきゃならなかったんだ。今日はいつものあいつの…精液採取。何でも湿地帯で雌のナルガクルガ亜種を見つけたそうで、近々そいつを捕獲してあいつとの子を作らして採取量を増やすんだと。勿論拘束を解く訳にゃいかないから人工交配を試みるらしい。そのための精液採取だがねぇ…いやなんの、でかすぎるし出しまくるしで思わず笑っちまったよ。あれも鱗抜くときより反応したんじゃねぇの?
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管理係35日目
どうやら雌の捕獲に失敗して殺したらしい。素直にハンターに頼めば良いのに。まぁ、代わりはたくさんいるだろうからそのうち成功すんだろ。
俺はこの仕事に慣れてきた。1枚の鱗を砕いて剥がし、その下の皮膚と周りの鱗との段差を利用してその鱗を用具で挟んで全力で引っ張る。結構な労働だが抜けたときは快感だぜ。フンの掃除は面倒だけどな。
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管理係192日目
おいおいマジかよ。伝承にあった「極み駆ける」ナルガクルガを見つけたって上が騒いでた。どうやら雌らしく近々軍を出動させるらしい。こりゃあ運が良ければ"伝説種"にお目にかかれるぞ!俺はシュレイド人だが軍の健闘を祈るぜ!
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管理係221日目
やった!やったぞ!捕獲用精鋭部隊500のうち483が殺られたらしいが捕獲に成功したらしい!しかもだ!俺がそいつの"手入れ"も担当することになったんだ!給料も倍だ!明後日ここに来るから早速採取だ。楽しみだな!
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管理係223日目
すげぇ真っ白だった!雄の希少種の方より大きいし、なんかこう…特別な感じがするな!でも傷が酷いから採取はお預けだ。いやー、俺って本当に運がいいな!
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管理係244日目
ようやく今日採取したんだが…信じられねぇ。あのでっかい刃翼、先はあんなに薄いのに堅すぎる。それにすごく軽い。もうハンマーで打つのも慣れたハズなのに豆がいくつもできちまったよ。ハンマーもボコボコになっちまったし…これを剣とかにしたら最強だな。そうそう、これはなんでも妙な力を持っているとかで、毎日薬を餌に混ぜ込まないといけないんだ。面倒だが仕方ない。それと明日から種付けが始まる。これとあれの子、どんな素材が採取出来るか楽しみだ。たくさん産まれたら俺にも鱗何枚かくれないかな。
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管理係245日目
今日は尻尾を採取してから種付けだ。まず雄の精液を特注のデカイ木製のピストン容器に出させて、温かいうちに雌のほうに入れる。雌の反応が面白かったな。訳が分からないって焦ってるみたいだった。まぁすぐ慣れんだろ。これから使えなくなるまでたくさん作るんだから。
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管理係315日目
あれから2ヶ月経つが、毎日種付けしてるのに出来る気配がねぇ。胎生の竜が子供を産みにくいのは知ってるが、もう人工交配慣れちまったぞ…。全く、他のやつが管理しているジンオウガはそんなに経たずに孕んでもう腹も大きくなってきてるってのに。薬の影響でもあんじゃないのか?
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ホルド歴6年、管理係366日目
祝!昇格から1年!と、祝いたいところだがそうもいかねぇな。産まれたばっかのジンオウガの子が死んじまったらしい。ちゃんと子ジンオウガの檻には干し草が敷き詰めてあったってのに。気温も十分なハズだ。聞くところによると親ジンオウガから苦労して採った乳に見向きもせず、ピストン容器で無理矢理飲ませていたんだがどんどん弱って、鳴かなくなって、代わりに親がうるさくなってきたから親の檻に入れてみたらそのまま寄り添って寝た、と思ったら死んでたらしい。うちは大丈夫なのか?
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管理係375日目
ヤバイ。親ジンオウガも死んじまった。原因不明。子供の後追い…とか?まさかな。人じゃあるまいし。子供がいなくなったら次の子供を作るって偉い学者も言ってただろうが。あ、そうそう。薬は止めることになった。やっぱダメだったんじゃん。
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管理係443日目
よっしゃ!遂に雌の白ナルガが孕んだぞ!いつもなら睨んで暴れようとするのに妙にしょげた顔してるから調べてみたんだ。以降採取は雄の希少種からだけにして餌も増やす。俺の給料ももっと上がるぞ!ジンオウガの二の舞にはしない。
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管理係516日目
信じられねぇ…夢を見てるみたいだ。あいつが、雌ナルガが餌をグチャグチャ何やってるのかと思ったら文字を書いたんだ。肉を食いほぐしてミミズみたいにして、でも確かに「話をさせてくれ」って書いてあった。試しにインクと紙を目の前に置いて、俺が指にインクを付けて線を引いたのを見せたらあいつ、自分の上
「お前たちの目的は理解している。産まれたばかりの仔竜は親と離ればなれになると死んでしまう。少なくとも授乳が終わるまでは一緒にいさせてくれ。そして、どうか私と同じ目に合わせないでくれ。どんなとがめも受ける。だから頼む。不幸になる仔など産みたくない。自由にしろと言っても無駄だということはわかっている。だからせめて酷い目に合わせないでくれ。私達も生きてるんだ。私達にも心があるんだ。」
…だってさ。まぁジンオウガの件もあったし、上の許可も下りたからとりあえず母子一緒にっていうのは承諾した。それと、今まで立ったままの姿勢でガチガチに固定してたのを弛めて立ったり寝そべったり横になったりくらいは出来るようにしてやった。貴重な仔だ。俺達も産んでもらわないと困る。目的は採取だから同じ目には合うがな。気の毒だが。
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管理係706日目
あいつの腹もだいぶ大きくなって、撫でてみたら胎動した。なんと言うかこう…変な気分だ。あいつは孕んでから随分おとなしくなって、元気がなく見えた。死にはしないだろうな?
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ホルド歴7年、2月07日、管理係768日目
監視係の報告で急いで行ったらすでに破水していた。俺は慌てて後ろ脚や腰、尻尾の拘束をさらに弛めてやった。あいつが随分苦しそうに鳴き声をあげるからこっちまで力が入っちまったよ。1時間半か2時間くらいで同じ"伝説種"の雌のナルガクルガが産まれて、俺はあいつの言う通り膜を剥いでへその緒を切って、体を拭いてやった。しばらくしたら鼻を鳴らしながらあいつの下腹部にある乳首に吸い付いて…まぁ、それなりに可愛かったよ。あいつは…うっとりしてたな。
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管理係841日目
乳離れしたようだから仔ナルガを引き離すことにした。親ナルガは諦めてるのか何もしなかったが仔ナルガはまぁ暴れるわ暴れるわ。やっとのことで離れた檻に入れて固定してたんだがずーっとギャアギャア鳴いて、おまけに涙まで流しやがった。ジンオウガの時も最初はずっと鳴いてたらしいってのを思い出して今日のところは元に戻してやった。あいつも驚いた顔してた。今更かもしれないが意外と表情豊かだな。後で上司に言ったら二の舞になるよりはましだってことで、ある程度拘束した上で、採取の時以外は一緒にしてやれるようになった。感謝してほしいぜ。
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管理係877日目
仔ナルガの試験採取をやった。毛はさすが手触り最高だが鱗の強度はやっぱりまだまだだ。運用出来るようになるのはまだ先だな。散々泣き叫んで、戻してやると親ナルガにキューキュー鳴きながらスリスリしてた。親の方も大事そうに舐めてたよ。
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ホルド歴8年元旦、管理係1096日目
祝!二周年!そして2度目の試験採取。前よりも強度が上がっているし、力も強くなった。今は後ろ脚に鎖を繋いでるだけだが全身縛るのもそう遠くないかもな…。
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ホルド歴9年、管理係1494日目
何てこった!雄の希少種ナルガが鎖を引きちぎって檻を破壊しやがった。採取から少し経って自分の刃翼が元に戻るのを見計らったんだ!それだけじゃねぇ。顔合わせもしていない、お互い存在を知ってるかも分からないはずの雌ナルガとその子供の檻と鎖も破壊したんだ!そして見張りや見回り兵を何人か殺して脱走しやがった!ありえねぇ!みんな逃げちまうなんて!同族のよしみなのか!?ナルガ共は群れないはずだぞ!?交尾もさせてないのに自分の子供と相手の雌だってわかったのか!?分からねぇ…会ってもいない雌のためにディアブロスだってちぎれない鎖を何本も…。それとも野生ってそんなもんなのか?でもそれをいうならリオレウスとリオレイア、テオ・テスカトルとナナ・テスカトリを除いて群れない竜の雄と雌は出会って交尾して別れるんじゃないのか?分からねぇ…あり得なさすぎる。
それにもうひとつ、あいつらが外に出て、ここの見張り達に砲撃されてるときに雄ナルガが雌と子を先に行かせるようなことをしたんだ。
雌ナルガがあんなことを伝えるならもしかしたら雄も字が書けないだけで…?心もあるんだってそういうことなのか?でも初対面のやつを…愛せるのか?
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管理係1497日目、最後の記録
脱走の原因は、どうやら雄ナルガを拘束していた鎖の固定具が弱くなっていたらしい。きっと採取する度に痛みで力を入れて抵抗しようとしてたのが功を成したんだろう。当然、俺の責任だ。上司は、相手が相手だし、今追跡中だからもう一度チャンスをやると言ってくれたがちょうど故郷が恋しくなってきたし、そんな気分じゃないから辞めることにした。
あいつらが逃げるとき、俺と鉢合わせして、俺、雄ナルガに殺されそうになったんだが雌ナルガが鳴いたら攻撃がギリギリで止まったんだ。そして俺なんか見てないとでも言うように行っちまった。なんだよ。子供と一緒にさせたお礼とでも言いたいのかよ。
…ここだけの話、実は俺、仔ナルガがもう少し成長したら母子ナルガだけは逃がしてやろうかってほんのちょっと考えたこともあった。朧月のナルガクルガと極み駆けるナルガクルガ…野生だし、雌雄だし、子供もいるし。
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このナルガクルガ達が不思議な人間の少年に出逢うのはもう少し先のことだった。