連載開始時とは方針を変え、1話ごとの文字数を減らして話数を増やそうと思っています。とはいえ超亀々更新……1年って早いね!
生存報告を兼ねた参話です。
所々に小川が流れる明るい森を、短い列が進んでいく。先頭は黒衣を羽織った青年、後ろに少年、ガーグァ5匹が引く竜車、それに純白のナルガクルガの親子が乗り、竜の守人が最後尾を歩いていた。
「そろそろ着くよ。」
時間は正午前。観光客等の目もあるため、ユタとラーザは村の正面から、ツェルはナルガクルガを乗せた竜車と村の裏の農場へ向かった。
「人、多いんですね。」
「有名な村だからな。温泉でも、その他でも。」
ちゃんとした道に出ると、ハンターや運び屋の竜車等が村まで連なっている。それについていくと大きな宿屋が見えて、独特な匂いも漂ってくる。
大きな門をくぐると並んでいるたくさんの屋体に目を奪われつつ、ユタはラーザに連れられ村の階段を上りながら奥へ。
「あぁ、ラーザ様とユタ君ですね?お待ちしておりました。お話はトーマ様やツェル様から聞いております。ようこそユクモ村へ。わたくしが村長です。」
着物を着た白髪混じりの竜人族の女性は椅子から立ち上がって歩み寄る。
「お部屋を用意してあります。ご案内しましょう。あなたのお兄様もお待ちです。」
家がまだできていないためそれまでは宿暮らし。村長の後に着いて階段を上り、立派な宿屋の中へ。
「荷物を置いて落ち着いたら是非大浴場に行かれてみてください。入浴の仕方などで不明なことがあれば番台アイルーに訊けばお分かりになるでしょう。あぁ、それと、ここに来るまでに大きな卵のようなオブジェがあるお店をご覧になりましたか?」
ラーザはあまり周りを見ていなかったので気づかなかったが、ユタはうなずく。
「あのお店にいけばユクモ村名産の温泉卵を買うことができます。他のお店でおまけの無料券を貰えばお一人にひとつサービスしてくれます。」
これは宿から、と村長は袖から卵が描かれた小さな四角い麻の券を3枚取り出してユタに渡す。後で兄弟で食べたらどうだ、とラーザに言われて頷くユタ。しかしユタの興味は他にあった。
「あの、あのナルガクルガ達のことは…」
「ご心配なさらず、この村に竜が住み着くのには慣れております。」
「慣れてるって……じゃあよく竜がこの村に巣を作るんですか?」
村長は上品に笑い、懐かしそうに話し始めた。
「いいえ、そんなことはありませんよ。今から219年前、この村の専属ハンターだった少年が雪山で依頼実行中に遭難した際、幻獣と呼ばれし古龍と出逢ってこの村に連れてきてから色々なことがありましてね…」
「古龍が住んでたんですか…!?」
「ええ。時が経った故お伽噺のような扱いになっていますが、事実です。あのときのことはよく覚えています。」
「えっ……」
「ユタ、竜人族は俺たち人間の何倍も生きるんだ。」
「そういうことです。あぁちょうど良いところに。」
村長は廊下の壁に掛けられていた掛け軸を指した。そこには渋い色で幻獣と思われる角の生えた白馬のような生き物と少年が描かれ、その後ろにはセルレギオス、空には先日出逢った古龍ともう一匹、ユタがどこかで見たことのある気がする白龍が描かれていた。またラーザは先日あった龍のことを思い出した。
「そういえばここに来る途中にジンオウガに襲われて………」
ラーザの言葉に村長は手のひらを口に当てて驚くそぶりを見せる。
「まぁ、それは大変でしたこと。守人様がお相手に?」
「それが古龍に助けられたんです。この絵によく似た古龍に。これはやはり嵐龍なのですか。」
ラーザが絵の龍を指すと村長は頷いた。
「ユイ様に会われたのですね。道理で……」
「その"ユイサマ"もここに?」
「いいえ。ここ渓流の奥地に霊峰と呼ばれる地があります。我々がユイと呼
ぶ嵐龍アマツマガツチはそこにお住まいです。あなたもここで暮らすのならいずれまた会うことになるかもしれません。」
三度階段をのぼって廊下を進み、扉をいくつか過ぎたところで止まる。
「トーマ様、いらっしゃいますか。」
村長がノックしてからそう言うと少しして扉が開いた。
「兄さん。」
「ユタ。無事に着いたか。それでその……ナルガクルガを見つけたんだって?」
ユタは頷いた。
「今はツェルっていう人が農場に連れてってくれてる。」
野生の竜を保護して世話をしようとしているユタに兄トーマは戸惑い気味だったが、それ以上はなにも言わずにユタに荷物を置かせた。
守人ラーザや村長とはここで別れて2人は勧められた温泉へと行ってみる。
「ニャ、温泉は初めてかニャ?」
番台猫の説明を聞いてから貸出し用お風呂セットを手に湯船へ。この時間はまだあまり人がいなかった。
「見かけねぇ顔だな。兄ちゃんたち兄弟か?」
体を洗い終えて広い湯船に浸かり景色を眺めていると妙齢のハンターらしき男に話しかけられてトーマが答える。
「俺は今朝、弟はさっきこの村に着きました。引っ越してきたんです。」
リーエンと名乗るハンターはユクモ村の専属ハンターらしい。
「ここの温泉は特別。なんたって霊峰には雨神様がいて、その雨の水も地面に染み込んでいずれ温泉になるんだ。浸かってるだけで絶好調だ。にしても兄ちゃん良い体だな、ハンターか?坊主も顔の割に締まってんじゃねぇか。歳いくつだ。」
「俺は16で……」
「11歳です。」
その後は前住んでいた村のことだの好きなモンスターは何だの話をして、ユタがのぼせそうになったので温泉を出た。リーエンは気前よく2人にドリンクを奢ると森に出かけると言って2人と別れる。ユタとトーマは農場にいるナルガクルガ達の様子を見に行くことにした。
途中何人かに場所を聞きながら着くと、ちょうど村に向かっていたツェルと合う。
「やぁふたりとも。ナルガクルガ達は大丈夫。ギルドの方にも連絡送っておいたから。」
「ありがとうございます。」
それじゃあまた今度、とツェルは村の方へ向かう。2人はそれを見送ってから農場に建てられていた大きな屋根の下にいるナルガクルガの様子を見に行った。
「こんなナルガクルガがいるなんて…」
純白のナルガクルガを見て呟くトーマ。彼女らは寝ていたが親竜はピクリと耳を動かして瞼を開けた。
「あ…大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。」
村に来てちゃんとした治療を受けたナルガクルガのカラは幾分元気を取り戻したようだった。
「お前がユタの兄か?弟を巻き込んですまなかった。」
「いや別に……」
ユタから聞いていたとはいえ人語を操る竜に違和感を隠せない。カラはカラでそんな扱いに慣れているのか気にすることもなく欠伸をした。
「起こしてごめん。ゆっくり休んで。」
ユタはその場を後にしトーマもそれに続く。
「ねぇ兄さん、さっき村長に温泉卵無料券貰ったんだ。食べながら散歩しようよ。この村のこともっと知りたいし。」
「あぁ…それが良いな。」
二人の兄弟は活気溢れる屋台通りの人混みへ溶け込んでいった。
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"おかえりなさい。彼らはどうでしたか、ツェル。"
"君にそう呼ばれるのは慣れないなぁ………そうだね、まだ少ししか見てないから分からないけど、あの兄弟、ふたりとも何かを抱えてるってことは分かった。あと、ユタ君はハンターには向いてないね。今言えるのはこれくらいかな……"
"もう行くのですか。"
"悪いね…しばらくはここにいれそうにない。ギルドにカラとレナのこととか例の人間達のこととかの報告書を書かないといけないし、ユタ君への推薦状を作らないと。"
"あの子を守人に。確かにそちらの方が合っているかもしれないですね。"
"その方が安全だしね。さてと、まぁでも夜には戻ってくるから。後でね、ユイ。"
次回「竜の守人」へ続く。
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