祭りの名残も消えた頃、ユタとトーマはいつも通り朝の森にでかけてタケノコやキノコなどを採りにいく。守人の見習いとして勉強や鍛錬するのももちろんだが、村の一員として貢献することも大事なことだ。
「あー…おっも……兄さんちょっと待って…」
「欲張りすぎたな。」
背負ったカゴには山菜やらタケノコ、今日家で使う薪などが詰まっている。まずは村長に山菜を納品向かった、その途中。
「ニャー…Aちょっと待つのニャ…」
「Nは荷物多すぎなのニャ!どんだけ火薬とその材料詰め込んだら気が済むのニャ?現地調達すれば良い話だニャ。せめてガーグァ便を使うべきだったニャ。」
狐のお面を被ったアイルー(?)が2匹、その片方が身長の倍ほどある大きさの荷物を背負っている。さらに、その荷物を後ろから支える黄色に黒い斑点模様のあるアイルーと、最後尾には彼らより頭ひとつ分身長が高い大柄なアイルーが続いていた。
「あんなアイルーこの村にいたっけ…?」
そう思いつつ村長に山菜を届け、謝礼のお金と幾らかの野菜を受け取って自宅に戻ると荷物を置いて、今度は農場へ。
「お待たせ。」
竜舎にいる2匹の竜に声をかけて河端まで移動させる。水浴びの時間だ。カラはともかく、レナにとってはまだ川が深いので水に浸かっている母竜の隣でユタが洗ってやっていた。
どうせいつも水浸しになるので湯浴みシリーズをこのためだけに余分に用意している。おけに水を一杯に入れて、レナの背中の上からかけてやると気持ちよさそうに目をつぶって身体を震わせた。さながらロアルドロスである。
正直、浅いところなら入っても大丈夫なような気がするが、こうして水をかけられることが好きらしいレナは毎日これを要求してくる。
「わぁっ、ちょっ、舐めないでくすぐったい!」
わなわなと腕を震わせながら桶を掲げてレナに追加の水をかけようとしていたところで脇腹を舐められて思わず身をよじり、そのままよろけて尻餅をつく。
レナが面白がって裸の彼の腹や背中を舐めまわしたのでゾゾゾッという感触に悶えた。
「やめないか、ユタが泥まみれになる。」
母竜の一声で小さな白いナルガクルガはしぶしぶユタから離れ、大人しくユタにタオルで拭かれた。2匹は竜舎に戻り、ユタも砂だらけになった身体を洗っていると突然誰かに背後から抱きしめられて心臓が跳ね上がった。
「やっほー、今日はいい天気だから水浴びにはもってこいだねぇ!」
数日前の祭りで現れた竜人族の青年だ。研究員らしき人にしていたように背中を丸めてユタの肩に顎を乗せる。
「な、なんですか…」
「君に用があってねぇ。まぁ半分頼み事なんだけど。楽しんでいるところ悪いけど、身体拭いて服着て来てくれる?おれ農場の出口で待ってるから。」
彼はユタを離すと何事もなかったかのようにスッと農場を出ていく。
「…濡れてない。川の中入ってきてたのに。」
彼は黒い旅衣や靴から水滴ひとつ垂らさなかった。もうその程度で驚くユタではなかったが。
少ししてユタが彼の前に向かうと、彼は吊り目をキュッとさせて微笑む。
「…お待たせ、しました。えっと…」
「ハクちゃんって呼んでくれて良いよー!薄暮だからねぇー、あと敬語。おれ、歳下に敬語なんて使わせてたらみんながみんな敬語になっちゃうからね。」
見た目は兄と同じくらいだが、竜人族なので数倍以上は生きているのだろう。
「そ、それで、用って、」
「あぁ、こっち。」
そこにいるようでいないような彼は、あの祭りの日のように観光客や村人の間をスイスイ進んでいくので油断すると見失いそうになる。
ユタの家を通り過ぎ、他の村人の家が並ぶ道を歩き続け、そのはずれに行くと見慣れない円形のテントのような建物が3つ見えてくる。
「あれはゲルって言ってね、遊牧民とかが使うんだ。おれたち色んなところに行くからあれがあると便利なんだ〜。」
「…つまり仲間ってことですか。」
「ま、そういう感じ。あー、いたいた。」
彼が指さしたのはテントの前にいる、紺色の装衣を着た1匹のアイルー。黄色の毛並みにに焦げ茶のマダラ模様があって、耳の裏側は黒と白の模様がある。先程いた猫一行の内の1匹だ。
「あの子なんだけど、新入りだから経験積ませるためにもユタ君に面倒見てもらおうと思ってね。」
「オトモってことですか。」
「そうそう。…そんな顔しないでよ、やましい気持ちはないって。おーい、」
アイルーは三角形の耳をピクリと動かして顔をこちらに向けると走ってきた。
「ニャ!ご主人!そちらが僕の留学先にゃ?」
「そうそう。…ユタくん、この子がおれの
「御使い?オトモじゃなくて?」
「おれはハンターじゃないからね。それに、一緒に行動してるときの方が少ないからから”お供”じゃ合わないと思って御使いって呼ぶことにしたんだ。なんか良いでしょ?御使い。まぁ役に立つと思うよ。他の御使い達もしばらくこの村にいるから頼って。君の専属はこの子だけだから、報酬が発生するかもしれないけど。それじゃ、R、あとはよろしく。」
「ちょっ、もう行くんですか?まだ…」
「ごめんねぇ、おれ忙しいから。またこんどゆーっくり遊ぼうねぇ。」
「えぇ…」
そして彼は、またスーッと村の中に消えていった。
「仕方ないにゃ。あぁいうお方にゃ。気にしたらダメにゃ。…今日から君がご主人にゃね。ボクは御使いR、よろしくにゃ。」
「う、うん…え、でも給料とかどうしよう…」
「にゃ、ユタさんからの給料はいらないのにゃ。あくまで留学だからにゃ。」
「あ、そう…ところで普通の名前ってないの?流石に御使いRって…」
「にゃー…まぁこれからしばらくはユタさん専属のオトモだからにゃ。ボクはラク。ちょっと前までカムラの里にいて、ご主人にスカウトされて御使いになったにゃ。」
「そっか…よろしくね。」
「んにゃ。じゃあ他の御使いの紹介もするにゃ。まだみんなテントにいるにゃ。」
そう言ってラクはユタを手招きすると早速テントの一つに入っていく。最初のテントにはあの大柄な茶白アイルーがいた。
「御使いMさんだにゃ。」
「よろしくニャ。」
厳つい見た目で、アイルーとしての原形は保っているものの筋骨隆々だ。
テントの中には金づちや分厚い金属の板などが整頓されて置いてあり、加工屋の工房のようである。
「Mさんはボクと同じカムラ出身にゃ。あのおっきな盾を使うにゃ。」
ラクは御使いMの後ろに立てかけられている正三角形の金属板を六角形になるよう互い違いに2枚重ねて造られた、分厚い盾を指差す。大きさはユタより少し小さいくらいで、御使いMの身長とほぼ同じである。
「でかい…あんなの持てるの?」
「見ての通りニャ。」
御使いMは片腕で掲げてみせる。
「特注カムラ製の盾ニャ!グラビモスの熱線だって防げるニャ。モンスターのブレスに困ったらオイラを呼ぶと良いニャァ。」
「よ、よろしく…」
個性が強すぎるアイルーにたじろくユタそっちのけでラクは彼を別のテントに引っ張っていく。次に入ったテントには薄い木の板や怪しげな粉が入った瓶などが並んでいたが、肝心なアイルーの姿が見えない。
「…あれ、Nさんいないにゃ。仕方ないにゃ、先にこっちにゃ。」
「どんな人…じゃないどんなアイルーなの?」
「残念、Nさんはメラルーにゃ。しかも白い毛がない黒猫さんにゃ。火の国に行った時、たまたまご主人や他の御使いがいない時に炎龍が襲来したそうなのにゃ。…そうにゃ、テオ・テスカトルにゃ。で、たまたま居合わせた御使いNさんが特製の爆弾で追い払った、ってNさんが言ってたにゃ。本当かどうかはわからないけど、でも僕もNさんに地雷の作り方を教わったのにゃ。」
「そ、そう…」
なら最後のテントには一体どんな化け猫がいるのかと恐る恐る足を踏み入れる。瓶やらタルやら様々な植物が植えられた植木鉢が整頓されて置いてあるテントの奥で、狐の面と傘を被り、白を基調としてふり袖や袂に紅の模様がある着物のような装束を着たアイルーらしきアイルーが何やら粉を調合していた。
「Aさん、Nさんは知らないかにゃ?」
「さっきどこかに行ったニャ。どうせいつもみたいに火薬草とかを探しに行ったんだろうニャ。…うニャ。君がユタ君かニャ。御使いAだニャ。」
そう言ってAはお面と傘を脱ぐ。紺色の縞模様がある青色の毛並みの、至って普通のアイルーだったのでユタは内心ほっとした。さっきの御使いMが濃すぎただけなのかもしれない。
「よろしくね。」
「うニャ。」
「Aさんの薬はとってもよく効くにゃ。ボクのシャボン玉の原液も、Aさんに教わった通りの調合に変えたら効果が上がったのにゃ。」
「シャボン玉?」
「薬液をシャボン玉にして浮かせるにゃ。割って液体を浴びれば傷の応急処置ができるのにゃー。カムラのネコ秘伝技のひとつにゃ。」
「Rは御使いとしてはまだまだだけどニャ、頑張り屋だから長い目で見てやってほしいニャ。」
ラクの態度を見る限り、さっきの御使いMよりも頭が上がらないらしい。師匠的な存在なのかなと思いつつ、御使いAと別れる。
「うにゃー、Nさんはどこに行ったにゃ…森に行っちゃったかにゃ…」
「探しにいく?ちょうど、さっき兄さんがツタの葉が足りないって言ってたし、肉もちょっと欲しいからそのついでに。兄さん今日は加工屋と打ち合わせがあるらしくて今は一緒に来れないんだ。」
「うにゃ!オトモするにゃ!」
「じゃあその前にレナ達のご飯があるから、その後でね。」
「例のにゃルガクルガかにゃ?ボクもみてみたいのにゃー。」
「もちろん良いよ。こっち。」
ラクを連れて農場へ。譲り受けたオトモとはいえ、アイルーを連れて歩くとなんだか一人前になった気分になる。
氷結晶冷蔵庫からケルビの肉を取り出して農場へ向かえばいつも通り小さなナルガクルガが飛びついてユタの手から肉を奪い取り、咀嚼しながら見慣れないアイルーを興味深げに見つめて首を傾げた。
「にゃあ。ボクはごはんじゃないにゃ。…思ってたより小さいしおとなしいんだにゃあ。そういえば、親はどこにゃ?」
「あぁ、レナのお母さんのごはんは2日に1回くらいなんだ。そのかわり大人のアプトノス1頭分食べるから、調達するのが大変なんだよね。」
厳密に言うと、アプトノス1頭分くらいの肉を2日間かけて食べる。
「森から帰ったら食べカスの掃除しないと。」
「にゃー、大変だにゃー。Mさんとかに頼めば喜んで手伝ってくれると思うにゃ。」
「流石に悪いよ…」
握りこぶし程度の肉塊を3つ与えてもう終わりだよ、と言うと竜舎へ戻っていく。
「さ、僕らも準備しようか。…そういえば君のテント、なかったみたいだけど…」
「僕のテントはユタさんの家の裏にあるにゃ。」
「はや…」
ユタは家に戻ると扱い易いよう改良したライトボウガン「ハンターライフル」と弾薬をいくらかを持って、いつの間にか建てられていた円形テントに向かうと黒色の忍装束を着てリュックを背負ったラクが出てくる。
「服も変えたの?」
「うにゃ。さっきのは普段着にゃ。」
「似合ってるよ。じゃあ行こうか。」
ライトボウガンを背負って、オトモを連れて森へ。気分はすっかりハンターだ。ツタの葉をいくらか採取してから、ナルガクルガ達の餌を調達するため茂みからガーグァの群れを狙う。
「にゃ、ナルガクルガに食べさせるなら、頭狙った方が良いにゃ?」
「そうだけど、さすがにガーグァの頭を撃つのは難しいかな…ブルファンゴとかならまだなんとかなるけど…」
ユタがそう言うと、ラクはブーメランを取り出した。
「いけるの?」
「任せるにゃ。」
ラクは茂みから出てソロソロとガーグァに近づくと、ちょうどこちらに尻を向けた個体に向かって全身でブーメランを投げる。距離は約40メートル。緩やかな弧を描いたブーメランが見事ガーグァの頭に命中、するところでガーグァが虫を啄むために頭を下げる。
ブーメランは虚しくフォンフォンと鳴りながらどこかへ飛んでいき、頭上を何かが通過していったことに気づいたガーグァは一目散に逃げ出した。
つられて他のガーグァ達も逃げ出し、ユタが1発撃ったが外れ、ラクは何もいなくなったところに落ちていたブーメランを黙って拾い上げた。
「ま、まぁ、今のは運が悪かっただけだよ。」
「…反則にゃ。なんてタイミングで頭下げるにゃ。千里眼でもついてるのかにゃ?」
その後はしばらくあたりを探し回り、運良くブルファンゴを発見する。
「僕がやるにゃ。」
正面から近づくと魚型のネコ用剥ぎ取りナイフを首に突き立てて返り血を浴びながら息の根を止める。ユタは生唾を飲んだ。
「お、おみごと…」
ブルファンゴの毛皮はなかなか刃が通らないくらい丈夫なのに、やはり鍛治で有名なカムラの里製ナイフは違うのか、それともネコがすごいのか。ユタは前者であることを祈った。
「お待たせにゃ。」
川で返り血を洗い、ブルファンゴを解体してポーチに詰め込む。
「ブルファンゴって皮が厚いくて1発じゃ仕留められなくて反撃されちゃうから普段はあんまり狙わないんだ。助かったよ。」
「うにゃ。ドスファンゴくらいまでなら朝飯前にゃ!朝飯といえば、ボク今日まだ何も食べてないにゃ…」
荷物整理で忙しかったらしい。
「美味しい魚あるよ。温泉卵も。」
「にゃ、ほんとかにゃ!温泉卵は食べたことないのにゃ。楽しみにゃ〜。」
「あとねー、タケノコの炊き込みご飯とか。今朝採れた新鮮なタケノコが…どうしたの?」
ラクが聞き耳を立てていた。
「大きい足音が向かってくるにゃ。肉の匂いに釣られたにゃ?」
「逃げよう。」
急いで荷物をまとめて村の方へ小走りで向かうと、ラクとユタをジャギィ達が追い越していく。
「まずいにゃ!ドボルベルクだにゃ!しかもなんかすごい怒ってるにゃ!」
バキバキと枝を折りながらこちらに向かって猛突進する尾槌竜。
「もしかしてこないだの…!」
角が少しかけている。撃退されたドボルベルクが戻ってきたのだろうか。
「オトモダチだったのかにゃ!?」
「いや違う!!ねぇちょっと!僕ら村に帰りたいだけだから!」
そう言っても反応はない。通じていないのだろうか。意思疎通ができる条件がいまいちわからなかった。
「ユタさんそのまま走るにゃ!」
ラクは立ち止まってリュックから携帯シビレ罠を取り出して、ドボルベルクの目の前で設置する。拘束されたドボルベルクは怒りの吠え声を上げた。
「止まっちゃダメにゃ!ドボルベルク相手じゃすぐ壊れちゃうにゃ!」
「いや、今のうちにこやし玉を…!」
「ダメにゃ!こんなんじゃもっと怒らせるだけにゃ!」
木の根や地面のくぼみにつまずかないよう気をつけながら岩壁に挟まれた道を走る。動けるようになったドボルベルクとの距離は縮まってきている。
…と、岩壁の直角カーブを曲がったら、御使いAと同じ狐のお面と傘を着けて白と淡桃の装束を着たアイルーが目に飛び込んでくる。
…アイルーは自分より大きなタルを頭上に掲げていた。
「そこを退くニャ。」
ラクにグイッと手を引っ張られるまま脇に避け、そのままうつ伏せに転んだ。その直後に空気が振動し、強い光と熱を感じて思わず顔を背ける。
ドボルベルクの苦悶に満ちた咆哮が響く。
「火薬を抑えた爆弾にしてやったのに、逃げないなんて往生際が悪いニャ。」
振り向くと、アイルーは背中に携えていた藍色の棍棒のようなものを構える。先端は球体になっていて、赤橙色に光る固体ではない何かに覆われていた。
ドボルベルクが尻尾を高く上げてアイルーを叩き潰そうとする。振り下ろされる前にアイルーはドボルベルクの足元に潜り込んで、その棍棒で脚を殴る。
ドボルベルクは少しよろけて、この小さい相手を尻尾の餌食にするのは難しいと判断し、今度は轢き殺そうと頭を下げて突進の体制になる。
しかし突然爆発音が聞こえるとドボルベルクは巨大な図体を地面に叩きつけられた。
…さっき殴られた片足が無惨なことになっている。
「そういえば、コブは珍味らしいニャ。この期に試してみるかニャ。」
そう言って、もがくドボルベルクの頭に向かって棍棒を振り下ろす。見た目以上の衝撃だったらしくドボルベルクが一瞬大人しくなる。アイルーは独特な形の鞘に棍棒の先端をしまうとドボルベルクに背を向けた。
殴られた箇所に赤い何かがついていることにユタは気づいた。
「爆破は正義ニャ。」
ボンッ、とドボルベルクの頭が爆発して角の破片が飛び散り、ドボルベルクは大きく痙攣し、やがて動かなくなった。
「にゃ…助かったにゃ…Nさん…」
「Nさん…じゃあこのアイルーが御使いN…」
頭が弾けたドボルベルクを背景にして悠々と歩いてくるアイルーからはお面越しでも独特なオーラを放っていた。
「すごいね…確か上位クラスだってリーエンさんが…」
「爆弾は正義ニャ。」
「えっ?」
「すなわち爆破は正義なのニャ。」
「えーっと、たしかにすごい威力だったけど、」
御使いNはまるで聞こえていないかのようにラクに向き直る。
「R、」
「にゃ、はい…」
「観測隊の情報、見なかったのかニャ?注意報が出ていたはずニャ。大型モンスターはいつ出現するかわからないニャ。もう昼ニャ。朝の情報なんてあてにならないニャ。」
「うっ…」
「ハンターでもない子供を、注意報が出ているかどうかの確認もせずに森に連れてくるなんて、オトモとしてあってはならないのニャ。仮にあのドボルベルクを独りで倒せる腕があっても、ニャ。」
ラクは何も言い返せずにうつむいた。
「それに、村に向かって真っ直ぐ逃げるなんて他の人が巻き込まれたらどうするニャ。まったく、オトモの自覚が足りないニャ。」
そう言って御使いNは地面に転がっていた自分のリュックを背負う。
「ほら、村に戻ってコイツのことを報告するニャ。」
「う、うん…」
しょげているラクの手を引っ張って、御使いNと一緒に村へ向かう。
「それにしても、よく僕達の場所がわかったね。」
本当はずっと影から見ていたのではと思うほどタイミングが良かった。お陰で命拾いしたのだが。
「この辺りの地形は把握してるニャ。それで先回りしたニャ。」
「でもなんであんなに怒ってたんだろ…僕を見てからじゃなくて、最初から怒ってたし。」
御使いNが唐突に立ち止まる。
「勘の良い子供は嫌いだニャ。」
「えっ?」
「冗談ニャ。まぁ、ちょっと起爆実験してたら刺激しちゃったみたいだニャ。でもボクが村を出るときはもう注意報出てたから、あわよくばおびきだして撃退しようと思ってたところだったのニャ。まさかユタ君が森に入ってるとは思わなかったしニャ。」
「ごめんなさいにゃ…」
「僕も確認してなかったから…ラクのせいじゃないよ。」
「その通りニャ。オトモに苦労ばっかりかけるのも悪いニャ。ところで、お代はサシミウオ1匹で手を打ってやるニャ。」
「えっ、」
「爆弾の材料費ニャ。むしろまけてやってるほうニャ。」
「そ、そう…まぁいいけど……ところであのタル爆弾だけど、組み立てから僕達のところに来たの?そのリュックには入りそうにないし…」
「答えは神とネコのみぞ知る、ニャ。生も良いけど今日は焼き魚にしようかニャー。」
それならみんなで昼ご飯を食べようかということになり、ラクも元気を取り戻して何を食べるかという話で盛り上がりながら村へ戻る。
「お〜、仲良さそうじゃん。良かった良かった。」
宿の屋根の上で黒衣の竜人の青年があぐらをかきながら少年とネコ2匹を眺める。
「ご主人、」
その隣に、御使いA、Nと同じ傘と面をつけ、藍色の装束を着たアイルーがよじ登ってくる。
「言われた奴らを拘束した。誰にも見られてないニャ。」
「おっ、サンキュー。じゃ、俺も仕事の時間だね。」
どっこいしょ、と立ち上がる。
「やれやれ、これでようやく役者が揃った。舞台の幕開けってとこかな?」
「オチが楽しみだニャ。」
つづく