ありふれた転生で世界救済   作:妄創

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 吹っ飛びました。そして少し短いです。

 


攻略の最後に

 

 

 

 オルクス大迷宮の奈落の底、の底の底。レンジは一人で三角座り(体育座り)擬きをしながら、第百階層へと繋がる扉の前に居る。

 

 仲間とはぐれた訳でも、捨てられた訳でもない。ただ、置いていかれただけだ。

 

 ここに辿り着くまでに様々な階層があり、いろいろな苦難に直面してきた。特に、ハジメに発砲したあとのユエの機嫌の悪さ。あれは、英雄をもってしても難しい難題であった、と言えざるをえない。

 

 さて、時々ハジメとレンジの仲の良さに嫉妬するユエや、ドンナーとフルミネの敵の即殺で活躍できないユエや、先攻して魔法を使いまくり魔力切れしたユエなどいろいろと不憫な思いをしたユエだったが、ここでその全てを払拭する出来事が起こる。

 

 ようやく辿り着いた百階層の入り口にて、ハジメはレンジにこう提案したのだ。

 

「ここは、俺と“ユエ”に任せてくれないか?」

 

 どうやら、ユエが封印されていた部屋にいたサソリ擬きを、レンジが即刻爆殺した事を受けての発言らしい。

 

 ハジメとしては、どうしてもレンジと対等である事を望んでいるようである。十二柱の神殺しの英雄と、本当の意味で肩を並べるには、今のハジメではあらゆる面で足りないことが多すぎる。

 

 しかし、それは経験を積めば、人生を歩んでいけば、いずれは追い付ける者だとハジメ信じている。だが、それは一人ではきっと出来ないだろう。

 

 でも、「レンジは最強。でも、ハジメと私は……弱い。けど、二人なら最強になれるっ。……ハジメと私の二人で、最強になる。──そして、レンジも合わせて三人で無敵!」と言ってくれたユエと一緒ならっと。

 

 その最初の一歩として、ユエと二人で百階層で待ち構えているであろうボスと戦いたいのだ。

 

 ユエはユエで、好意を寄せるハジメと折角二人っきりになれるチャンスに歓喜した。

 

 ハジメもレンジも、どちらの事も好きなユエだが、二人に向けている好意の意味合いが異なる。ハジメに向けるのは異性としての好意で、レンジに向けているのは尊敬としての好意だ。

 

 最初はレンジに異性としての意識を向ける事も少なくなかったが、少しユエのことを子供扱いするし、レンジは一人でも最強だったので、ハジメと一緒にフォローされる事ばかりだった。

 

 そうすると、少しずつ異性としての意識が尊敬の眼差しへと変わっていた。その代わりに、肩を並べてともに 戦うハジメへと向ける意識が、より明確なり深まっていく。

 

 言ってしまえば、ユエにとってハジメは恋心を向ける男であり、レンジは尊敬するお兄ちゃんなのだ。

 

 大好きなハジメと二人っきりになるチャンスであり、尊敬する兄に自分の力を示すチャンスでもある。

 

 そんな二人の心情など察するに難しくないレンジは、代表としてハジメに……

 

「そんなにロリと個室でイチャつきたいかっ! このロリコンめっ」

 

 少し肩の力を抜いてやる事にしたのだ。何もそんなに力む事はない。気楽に行きなさいよ、という英雄からの気遣いである。

 

 まあ、その代償は大きかった。なんだかんだで、既にハジメも人外。その膂力から放たれるボディブローは、正しく殺人級の威力。レンジで無ければ死んでいる。

 

 そのお陰で体育座り(三角座り)のように腹を抱えて地面に座り込むようになっている。ぅーぅーっ、と呻き声をあげながら右にゴロゴロ、左にゴロゴロ。

 

 ハジメは英雄の気遣いに肩の力が抜けたが、その意気込みは一層と深まり、ユエはこれが終わったらハジメを食べると誓った。

 

 さて、そんな経緯で扉の前に、ボッチ待機しているレンジ。一応、ピンチになれば迷わず呼べっと言っているので、大事には至らないだろう。即死でもしない限りは。

 

 そして、ハジメとユエがレンジを置いてボスの部屋に入ってから五分、十分、十五分を過ぎた頃。

 

「レンジ! 助けて、ハジメがっ!」

 

 ガチャリと扉が中から開き、ユエからの救援要請。

 

 レンジは立ち上がるのと同時に疾走する。弾け飛ぶが如き勢いで、中で倒れているハジメへと近付く。

 

 その時、部屋の中に魔法陣が浮かびあがり、カッ! と光ると、六頭を持つヘビの魔物が出現した。まるで神話の怪物ヒュドラのようである。

 

「……ッ、嘘! また……」

 

 ユエの狼狽した声から察するに、このヒュドラがボスだったのだろう。

 

 ヒュドラはレンジを補足すると、その六つの頭全てから……

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 と大音響の咆哮を放つ。しかし、レンジの意識はハジメの容態にしかなく、その咆哮を聞くと──

 

「“黙って隅で大人しくしとけ”っ!」

 

 ヒュドラはいそいその隅の方へ移動して、丸くなって冬眠中のように動かなくなった。

 

 その様に、ユエはポカーンと口を開けてしまう。まさか、自分とハジメが苦戦した敵を言葉だけで完封しようとは、夢にも思わなかっただろう。

 

 煩い邪魔者を黙らせたレンジは、意識の戻らないハジメの容態を確認する。どうやら、血を失い過ぎたのと、毒を受けたのが原因のようだ。

 

 ユエが神水をガブガブと飲ませたようだが、余程強力な毒なのか、効果が薄い模様。しかし、それでも神水。ゆっくりとは回復している。

 

 このまま放って置いても問題ないが、悲痛に顔を歪ませる少女の顔など見ていたくないので、レンジはさらっと神の力を使う。

 

「──神通門、解放(リンク・スタート)

 

 使うのは、レンジ自身と度々お世話になっている『蘇生神(アライフラ)の心臓』。

 

 レンジは自分の手首を少し切ると、その切り口をハジメの口に押し当てる。

 

 傷口から吹き出る血が、ハジメの口を介して体内へと取り込まれていく。普通の状態で手首を切るのは自殺行為であるし、傷口を口に押し当てるのも、他人の血を飲むのも衛生面で非常によろしくない。現代医師がこの行為を見れば、意図が分からず顔を顰めるどころか激怒するだろう。

 

 しかし、レンジがハジメに与えているのは神の血だ。現代科学や医療の領域を遥かに超えた神秘の代物。ハジメは今、蘇生神の恩恵を受けているのだ。

 

 実際にレンジが与えた血は少量だ。レンジ自身も蘇生神の力を受けているので傷の治りは早いし、手首に付けた傷もそう深くはない。

 

「よし。これで大丈夫だ」

 

 ハジメの体を犯していた毒は完全に消え、神の血の力で失った血液も戻ったはずだ。だが、本人の体力は別。こればっかりは睡眠で回復してもらうしかない。

 

「……ん。でも、起きない」

「それは本人の気力の問題だから、その内に目を覚ますよ」

 

 今にも泣き出しそうなユエの頭を優しく撫でるレンジ。そこには、彼の母が持っていた慈愛が、確かに宿っている。

 

 しかし、彼は母親のように全てのモノにそれを向ける事は出来ない。

 

「……ハジメを抱えて、先に行けるかい?」

「……え? ……う、うん。大丈夫だ……」

 

 レンジのその言葉に、何か黒いヌメっとしたモノが含まれていたことに、ユエは敏感に気が付く。

 

 しかし、それをこの場で聞く訳にもいかず、ハジメをなんとか背負い、奥へと進む扉へと向かった。

 

 扉を開くとそこには、反逆者の住居と思わしき空間が広がっている。中に踏み出し、レンジにも来るよう呼び掛けようと振り返った時……

 

「──ッ!!」

 

 レンジのその顔を見てしまった。

 

 部屋の角で丸くなって動かないヒュドラに向けたその笑みを。決して、いつものような美笑ではない。

 

 あれはダメだ。あの顔は直視してはいけない、見続けてはいけないっとユエは思い、すぐに視線からレンジの姿を外す。

 

 そして、レンジはヒュドラと戦うのだろうと、何も言わずに扉を閉めた。

 

 戦闘時にたまに、というかちょくちょくハジメが作る好戦的な笑みとは違う。あれは、強いて分類するのならば、“ゲス顔”だ。

 

 いつもの慈愛の美笑ではない、諧謔心で命を弄ぶ狂人の笑顔。命をものとも思わない、いや命を玩具としてしか見ていないあの瞳。

 

 下種だ。下種以外に言葉に表しようのない、怪物的な悪意が宿っていた。

 

 ユエは理解できてしまった。レンジの前世アルリムを裏切った者達の気持ちが。彼等は見てきたのだろう。神々での戦いで同じ顔をするアルリム(レンジ)を。

 

 しかも、当時は全盛期。彼が纏う神威は今の比にならなかった筈だ。もし仮に、そんな奴の敵意が此方に向いたのなら?

 

 十二柱分の神通力と十二柱の神格を自在に操り、そして誰よりも知識と経験持ち、命を玩具のように弄ぶ敵。想像もしたくない。

 

 わかってしまった。理解できてしまった。だが、ユエには共感は出来なかった。何せ、それでも彼女にとっては、尊敬する兄だ。

 

 ユエ自身と自分の好きなハジメを守ってくれて、いろいろな事に気を使ってくれる心優しいお兄ちゃんなのだ。

 

 起きもしないもしもの事のために、裏切ることなんてユエには出来ない。ハジメだってそうだろう。

 

「……さぁ、ヘビ野郎。ハジメを瀕死に追いやり、ユエを悲しませた報いは、受けてもらうぞ?」

 

 本当にそれをやったヒュドラは既に死んでいるのだが、これは八つ当たりだ。別の個体だろうと、どうでもいい。

 

 怒れる英雄はフルミネを右手に、黒剣を左手に構える。

 

 

 レンジがユエ達と合流したのは、約一時間後となる。その時には、いつもの美笑をユエに向けていた。

 

 

 




 
 なんかシリアス(ホントに?)な流れがあるので、次回からはコメディっぽく、したいなぁーとか、ネタとかいれたいなぁーとか、思っていますが多分作者には無理。

 次回で奈落から脱出します。多分。

 
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