( ´・ω・)⊃旦 そ……。
未だ眠りつくハジメをユエに任せて、レンジは反逆者の住居内部を探索していた。
住居内のいくつかの部屋は魔法的な仕掛けでロックされていたので、ハジメが目覚めてから一緒に探索しようと無視しておく。
途中、ベッドの設置された寝室らしき部屋を発見したので、ハジメをそこへ運び、ユエも待機させておく。
その際レンジは、ハジメの目覚めを待つ少女に「しばらく戻ってこないから、ごゆっくり」と言うのを忘れない。言葉の意味を理解したユエの頬が赤く染まっていた。
再び住居の探索に戻るレンジ。まるで探し物をするのように、扉の開く部屋を調べている。いや、事実探し物をしているのだ。
ここに残されているであろう反逆者の遺物を。
開かない部屋を外界魔術を使って開ける事は可能だが、開く部屋に扉を開ける為のなんらかの手段が用意されている筈である。
もし、それが無いようなら、ここの反逆者は本当に質の悪い糞野郎である。まさか、奈落をクリアしてきたのに、何もないなんて。
しかし、レンジの予想通りの結果となる。
それは住居の三階。三階には一部屋しかないく、扉を開けると、そこには直径七、八メートルの魔法陣が部屋の中央に刻まれていた。このトータスで見てきた中で、もっと精緻で繊細な魔法陣である。その技のきめ細かさには、一種の芸術性すら感じる事が出来るだろう。
「──
魔法陣を読み解く為、レンジは迷うことなく『
神の脳による魔法陣の解読は、秒読みを始める前に終わってしまう。どうやら、この魔法陣は簡単に言うと、記録再生と魔法強制習得の効果を持つらしい。
そうと分かれば魔法陣は後回しだ。レンジには他にどうしてもやっておきたい……いや、やらなければならない事があった。
それはその魔法陣の向こう側。豪奢な椅子に座った人影、反逆者の骸にしなければいけない事。
その遺体は細胞の腐敗どころ、既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された上等な外套を羽織っている。椅子にもたれるように俯いた姿勢から、最後の瞬間をこの場所で待っていたのだろう。
レンジは魔法陣を踏まないように避けて歩き、白骨化している反逆者の元へと行き着く。そして俯いたままの彼、または彼女の肩に片手をポンッと優しく置いた。
「お疲れ様でした。アナタの来世が良きものである事を、切に願っています」
同じ偉業を果たそうと、道半ばで朽ちた同胞に、レンジはそう優しく告げる。
レンジはそのまま、そっと遺体を持ち上げて床に寝かしてあげる。次は魔法陣に踏み込んでみる。
それが終わり次第墓を作ってやろうと思いながら、レンジは目の前に表れた青年を見ながら思う。どうやら、男性だったようだ。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
魔法陣に記録再生効果によって写し出された青年は、オスカー・オルクスと名乗ってみせる。まあ、記録映像を投射しているのだから当たり前である。
「ああ、質問は許して欲しい。これは唯の記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして、オスカー・オルクスは真実を語り出した。
内容を簡単に纏めてみると、筋書きはレンジの予想通りのものだった。
オスカー・オルクスが語る真実、それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神エヒトはどうやら、レンジの前世の世界中に居た神々にも劣らぬくらいの屑のようだった。
神代の少しあとに、エヒトは各種族に別の種族を“神敵”であると認識させ、戦争遊戯を行っていたらしい。それも、数百年という長い期間で。いや、現に今も行っているのだろう。もはや、千年は越えているのではないだろうか。
しかし、当時その神エヒトの悪行に終止符を打たんと、立ち上がる者達が居た。それが、今まさに反逆者と呼ばれる者達で、その時は“解放者”と呼ばれていたらしい。
だが、結局のところ“解放者”達は神エヒトと戦うことすら出来ずに、敗北する事となった。神殺しを決行する前に神エヒトに感付かれ、“神敵”に堕とされ“反逆者”に堕とはれた。
神の敵となった彼ら“解放者”は守りたかった者達に相次いで討たれていき、最終的には中心メンバーである七人のみが生き残る。オスカー・オルクスのその一人。
生き残った七人は、神エヒトを討つことはもはや不可能であると悟り、世界各地にバラバラに散っていった。しかし、それはただ逃げたっという事ではない。
彼らは後世に神殺し意志を託す為、各々で迷宮を創り潜伏することにしたのだ。別々の場所、別々の試練を用意し、それを突破した強者のみに自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを切に願い。
しかし、少なくともオスカーの存命中に、そのような者は現れなかったのだろう。現れていたのなら、このようなメッセージは残すまい。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
レンジは英雄で神殺しで、ハジメを救い、彼とそしてユエと元の世界に帰る為に此処に居る。だから、順当に事が進めば、神殺しをする必要はない。
いや、順当に進むからこそ、神エヒトと合間見える事となるのだろう。その時は……
「貴方達の分まで、神を殺しましょう」
レンジはそう言って、映像の最後に微笑むオスカー・オルクスに一礼する。
映像の終了とほぼ同時に、レンジの脳に何やら刻み込まれるような感覚があった。それは常人には、酷い頭痛のように感じられるだろうが、レンジは神殺しの際には魂魄そのものに彼らの力を刻み込まれたので、大した事は無かった。むしろ、え? これだけ? みたいな感じだった。
さて、レンジの脳に直接書き込まれる形で宿った力は、トータス神代に於ける古代の魔法。現在ではとっくの昔に失伝しており、俗に“神代魔法”と呼ばれているものだ。
そして、レンジは記憶の中のあの転移魔法と、この神代魔法はどうやら同じ部類、というかあの転移魔法も神代魔法の類いである事を『
「……やっぱり、エヒトは亜神か……」
亜神。レンジの前世の世界では、肉体を捨て切れない超越存在だったり、長きに渡り生きて信仰から神格に近しいモノを取得した者の事である。
神になれない半端者や、神域に片足突っ込んだ者っという人達も居た。ちなみに、
「……確か、聖アルヴ族だったか? 神域に片足踏み込んだ体を捨て切れない半端者……だったかなぁ」
これもちなみにの話だが、聖アルヴ族は高次魔法生物と呼ばれる保有魔力量と魔法技術に長けた種族だった。見た目は、日本ファンタジーに出てくる美形華奢長耳のエルフである。
それはさておき、レンジが手に入れた神代魔法は“生成魔法”。なんと、魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ。
素晴らしい。まさしく、ハジメの為にある様な、夢の魔法だ。
だが、レンジには不要だったりする。何せ、前世の魔法、今の名称は外界魔術であるがそれには、付与術式という応用術があり、鉱物を問わずに魔術効果を物体に付与出来る。
レンジが奈落に落ちて早々に行った『
勿論、通常の術式を付与術式に変換する必要があるので求められる技術力は桁違いになるし、消費魔力も遥かに多い。しかも、効果は永続せず、付与術式と共に込めた魔力量で持続時間が左右されてしまう。まあ、レンジには何一つとして問題にはなり得ないのだが。
前世では、知識や技術を創世記末から生きていた母オラトリアから学んで、神殺しの為に鍛練を重ね保有魔力量を増やしていた。そして、今世では前世の力を受け継いでいる。しかも、保有魔力限界を突破して魔力を蓄積出来る技能“魔力貯蓄”を取得しているし、“高速魔力回復”もあるのでこうしている今もレンジは物凄い勢いで魔力を溜めている。
その事から、あまり生成魔法はレンジには必要無かった。そう彼は思っていたのだが……
「……いや、待てよ。永続的に付与出来るのなら、地脈神の力と併用すれば……」
レンジはその頭で幻視した。魔法効果が地理レベルで付与された大地を──。怖くなったので、考えるのをやめた。
いや、確かに大地そのものがアーティファクトに成るなど、恐怖以外の何物でもない。
「さて、そろそろオスカーの墓を作るか……」
そう思い、部屋を出ようとした時……
──アババババババアバババ
まるで電流を流されたようなユエの声が聞こえた。どうやら、ハジメが目覚めたのだろう。
お墓は少し先延ばしになります、とオスカーに頭を下げて、ハジメとユエが寝ている寝室に向かう。
そして、そこには全裸のハジメと全裸のユエが抱き合う姿があった。
「! 違う待て! これは──」
「おはよう、ハジメ。上に面白いものがあったんだ。ハジメにとっておきのモノだ。見に行こう」
あまりにも普通に、全く動揺もせず普段の、失望して批判する事もなく、レンジはいつも通りの美笑をハジメに向ける。
「?!」
ハジメの予想では、激しくロリコンと罵られると思ったのだが……レンジは気にも描けていない様子。一体どういう事か。
そればかりか、寝室のクローゼットからハジメの為に洋服を取り出し、ユエにもカッターシャツを着せてあげる。
「な、なに……? どういう、事だ……? ま、まさか、お前っ!!」
「……ったく。ハジメみたいな、勘のいいガキは嫌いだよ」
ニタァ……と笑うレンジ。ハジメの額からツゥーと汗が顔を伝う。
「……そうさ。こうなると知りながら、ユエを差し向けたのは、このぼ──」
「死にさらせぇーッ!!!」
「グハッ!」
魔力でわざわざ強化までした渾身の右ストレートが、レンジの腹部を穿つ。あまりの威力に体が跳ね上がり、天井へと激突した。ハジメとユエの二人を幸せにする代償は、大きかったのである。
その後、ハジメとユエも神代魔法をゲット。二回も再生される同じオスカー・オルクスにレンジは苦笑いを思わず浮かべてしまった。
彼等がここから再び帰還への道のりを歩むのは、二ヶ月後の事だった。
~~~おまけ1(?) お風呂~~~
「ハジメ、ここには風呂があるんだよ」
「マジか。日本人の血が騒ぐな」
「あぁ、男同士裸の付き合いと行こうか」
「私も混ぜて」
「ユエちゃん、ハジメと二人で入っていいよ」
「おいコラ、サラリと逃げるな英雄」
~~~おまけ2(?) 血の味~~~
「そういえば、ユエってレンジの血は飲まないのか?」
「……はっ! 飲んだこと無かった……」
「忘れてたのかよ……」
「ちょっと貰ってくる!」
「ん~? 俺の血が飲みたいの?」
「ん。ダメ?」
「別に構わないけど……多分そんなハジメと変わらないと思うよ」
「頂きます」かぷっ、ちゅーちゅー
「どうだ、ユエ?」
「おっ、ハジメ。お前の差し金か……」
「……ん。ご馳走さま」
「で、レンジの血の味は……?」
「ハジメのとも違う至高の味……極上の嗜好品。まるで、最高級ワインみたい……嗜好品だから、ご褒美の時に所望する」チラッ
「ア、ハイ」
~~~おまけ3(?) 嫉妬? ~~~
「あれ? 何か急に殺意が……」
「香織!? 背後に般若が見え──私も急に胃がムカムカするわ? まるで庄司さんと話している時みたいな……」
じ、次回、『空飛ぶウサミミ(仮)』
一週間でここまで来たのかぁ