お昼に更新待っていた読者様には申し訳ない。めっちゃ忙しかったんです。
驚愕だった。
その様は、十二柱の神殺しの英雄であるレンジをもってしても、そう思える圧倒的な意志の硬さ。
何度拒まれるようと、何度足蹴にされようと。その度その度に、諦めずに何度でも向かってくる。
もういっそ、逆に何がしたいのかよく分からない。これは、これは一体何がしたいのか。もしかして、そういうプレイがお好みなのか!? と言いたくなる程のしつこさ。いや、執念なのかも知れない。
あまりに必死過ぎるその形相は一周回って、
這い寄るカオスの化身シア・ハウリア。これが彼女との初邂逅時にレンジが抱いた第一印象である。
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ハジメ、ユエ、レンジの三人は奈落の最深部にある解放者オスカー・オルクスの隠れ家に住み着いていた。そこは言ってしまえば、ほのぼの系箱庭である。
疑似太陽があり昼夜の時間帯を演出して、畑や小川、そして緑が多い。自給自足には何も困らないような場所である。
オスカー・オルクスの残した楽園。そこは、奈落の果てにあるっという皮肉が実によく効いている。
そんな楽園に、三人は二ヶ月間も滞在していた。主に、ハジメ事情で。
一つは、無くなった左腕の件。オスカーの住居で義手を見付けたのだ。それの調整に手間取った事。
さらに、ヒュドラとの闘いで右目を蒸発させてしまっている。しかし、オスカーの義手に施されている技術を応用し、義眼『魔眼石』を製作した。その際、レンジも開発に携わったので、『神眼石』とも言えるのだが……。
そして、最後に義眼や義眼を使用しての戦闘による最終調整や、ガンマンとしての腕を磨いていた。相手はレンジだったのだが、最後には悔しそうな顔をするハジメを見れば結果は言わずとも分かるだろう。
レンジ自身もハジメの作る現代兵器擬きを複製したり、その消耗品を複製したりと何気に忙しかった。レンジ曰く、『宝物庫』なるアイテムを見付けたハジメが悪い。
そこに更に、ハジメとの模擬戦や、ガン=カタの伝授。さらには、ユエにも外界魔術を教えていた。
何故レンジがガン=カタなんて知っているんだっと思うのだが、某アクション映画を観賞したからではない。『
身体機能と反射神経を高次の機能へと昇華させ、さらに過去現在未来という時間概念に関係なく全ての武術体系を使用する事ができるっという反則的な力で、レンジは未来の完成されたガン=カタを習得したのだ。それをハジメに伝授する。
ちなみに、『
未来のハジメによって完全な武術体系となった技が、レンジによってさらに研ぎ澄まされ、今のハジメへと伝授される。タイムパラドックス感が否めない。
まあ、むしろレンジとしては、直系の弟子にして二代目になる“ミュウ”という人物が凄く気になるのだが……。
それはさておき、以上の事から楽園で過ごした二ヶ月間は中々に忙しかった。それこそ、ハジメとユエの夜の営みが気にならないくらいには。
そんな毎日から解放されたのは、勿論出発の日だ。レンジは思ったのだ、大量生産は一人でやるもんじゃないっと。工場の生産ラインは偉大である。
さて、出発の当日、予め目をつけていた、外へと出る魔法陣に足を踏み込むと、出た先は再び洞窟だった。
「なんでやねん」
どうやら普通に外に出れると思っていたハジメが、落胆ながら虚空へとツッコミを入れている。
「まさかとは思うがハジメ……」
「……秘密の通路……隠すのが普通」
「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」
正しくその通りである。それくらいの警戒心が無ければ、解放者は七人を残すことなく討たれていただろう。
二ヶ月の間に平和ボケしたのか、地上への帰還に対する期待からか、少しハジメは気が緩んでいたようだ。
ハジメはそんな自身を戒めて、気を入れ直す。しかし、というかやはりと言うか、洞窟を進む足し取りは何処か軽いものがある。それはユエも同じことだ。
まぁ仕方ないか、と思うレンジ。ハジメにとっては数ヶ月、ユエのとっては数百年待ちに望んだ外の世界である。気が踊る気持ちも分からなくはない。逆に、そんな二人の分までレンジは警戒を怠らない。
いつ何時、何が起きてもすぐに対応できるように、フルミネに右手を置いている。
しかし、隠し通路にまでトラップや試練はないようですんなりと外に出られた。まぁ、谷の底であるのか、絶壁に前を塞がれていたが。
だが、待望の外である事には何ら変わりない。ハジメとユエはその体で地上に帰還したことを精一杯に喜んだ。
「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」
「んっーー!!」
そこはライセン大峡谷。ここでは発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまう。魔法使いには鬼門の地である。
「……さて、御二人さん。ご帰還の感激に浸っているところ申し訳ないけど……敵さん達のお出ましだっ」
その土地の特性の割りには魔物が多いのが、なんとも意地が悪い。ハジメ達はすでに魔物に囲まれていた。
だが、そんな事はハジメとレンジの前では関係ない。
義手によって二丁持ちが可能となったハジメは、ごく自然な動きで、ドンナー・シュラークを撃ち放つ。放たれた弾丸は願いを違わず命中。
レンジもフルミネを発砲。しかし、ハジメとは違い全く持って別の所に……当たって跳弾して命中した。何故、跳弾なんてさせたのか。
その様子にハジメがジト目でレンジを見つめる。レンジはその視線から逃れるように顔を背けると、
「……気分と気持ちの問題だ」
どうにも、やりたかっただけらしい。
さて、ここライセン大峡谷では、ユエの出番は──お休みだ。奈落で頑張ってくれたし、ここは魔法使いには鬼門。適材適所でそういうことにした。
ちなみに、言い出しっぺがハジメであり、彼の言葉を理解しつつも少し納得いかなかったユエは拗ねてしまった。
そのせいか、ユエはハジメから離れてレンジの方に寄ってくる。どうやら、兄に甘えるようだ。
ハジメとレンジは素早くアイコンタクト。視線だけの会話で、今後に悪影響がないようにユエの好きにさせる事に決定する。
しかし、ハジメよりも、やや近接戦を好むレンジは動きが激しい。近くにユエが居ても気にせず自由に戦える方法それは……
「……で、肩車になったのか?」
「まぁ、そうだね。視界に困らないし、肩車なら激しく動いても大丈夫だ」
普通の、ごく一般の方々は確実に大丈夫ではないのだが、生憎この中には人外しか存在しない。
「……ん。でも、後ろを向いたらぶっ飛ばす」
「「………」」
それはそうだ。信頼を置く人でもやって良い事と悪い事は存在する。まあ、忠告されずともレンジはそのような事はしないのだが……ユエさんの声が怖かったので頷いておいた。
さて、結局のところ、ユエがレンジに肩車されていたのは一時間しないくらいの時間だ。
理由は、このライセン大峡谷は歩いて移動するには長すぎた。途中で乗り物に乗り換える事になり、ハジメの宝物庫から取り出したお手製のバイクに乗る。
三人でサンドイッチで乗るには、スペースが無さ過ぎるのでサイドカーが取り付けられた。サイドカーに座るのはレンジである。
誰も何も言わなかったが、共通認識でハジメとレンジが共にバイクシートに乗る事は却下される。
少しだけ機嫌が良くなったユエと運転手のハジメがバイク本体に乗り、レンジは一人でサイドカーに座る。これが最善の形なのだ。
ちなみにだが、バイクはハジメの力作。エンジンの仕組みは知らなかったので、魔力による直接操作で車輪関係機構を動かす仕組みになっている。その恩恵で駆動音は電気自動車のように静かである。
しかし、ハジメはロマンでエンジンの音を付けたかった。……のだが、そこで現れる天才レンジ君。もう、前世に無かった物は何でも知っていると言わんばかりに、エンジンの構造も知っていた。
だが、その時は既に魔力駆動二輪は完成していたし、エンジンを作っても燃料が無ければ意味はないし、ガソリンの変わりになるモノを探そうにもエンジンはそれなりに精密な機構であるので、下手なモノは入れられなかった。
作り直しは検討されず、レンジの付与術式でエンジンの駆動音に似た音がなる魔術(オリジナル)が付けられた。レンジも男の子、ロマンという言葉には共感できる。
という訳で、エンジンキーやエンジンセルの駆動音、勿論エンジン音、さらにマフラーから上がる白煙など様々なモノが再現されている。しかし、全てのモノが実際に走行には一切の関係性も持たない無駄なオプションである。さらに、その無駄なオプションのオン・オフを切り替えられる
そのエセバイクの完成に、男の子二人は大変喜んだ。それをユエにジト目で見られていたのだが、二人の意識の外での出来事だ。
勿論、単純にロマン機能だけでなく、実用的な機能も付いている。悪路を錬成して難なく走行を可能にする車輪など。
さて、話を戻して、とんでもエセバイク(+サイドカー)で悪路をものともせずに快走していると、それが見えた。
恐竜である。いや、別に珍しいとは思わなかった。奈落の底にも、恐竜擬きが出てくる階層があったからだ。
大峡谷で出会ったのは、二頭を持つティラノサウルスである。ダブルヘッドティラノモドキ、と呼ぶべきだろう。
そのティラノモドキは此方に向かってきている。いや、ティラノモドキの前を走る女の子を追い掛けて此方に向かってきているようだ。
その少女、頭なら何か生えていた。しかも二本ある。此方に向かって走って……ピョンピョン跳ねてくる。
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
何か、必死だなぁっと何故か英雄は余裕そうである。ハジメもユエも面倒くさそうな表情を作るだけ。
しかし、この少女こそ、英雄レンジをも驚かす意志の持ち主なのだ。
その少女は、後にステータスのみならばレンジと同等にまで至るバグの権現にして、這い寄る
「あ、飛んだぁ」
「ウサミミだな」
「……面白い」
ティラノモドキの攻撃の余波で、ギャグのように空高く上がる彼女を見て、そんな未来に気付く者は居ない。少なくとも、この三人には不可能である。
一瞬だけのシアちゃんでした。
次回から本格にシアちゃんが出てきます。