風邪を引いてしまいました。風邪を怠慢感と間接痛が……
しかし、仕事は休めず、忙しい。辛い。
だが、小説は書く。正直勢い任せに書いてしまいました。
「ちょっと、やめてもらっていい?」
ある日の早朝、サムライガールこと八重樫雫は、庄司愛美のことを大物だと思った。
なんと、ヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーの手を払い退けたのだ。
昨日、勇者召喚のあったハイリヒ王国へ訪問しに来ていた皇帝ガハルド。ちなみにそこで、勇者光輝との模擬戦で護衛の一人に化けて、彼を殺しにかかるという問題を起こしてる。
そして、今日の早朝は何を思ったか、訓練施設に足を運び、日課の朝練をしていた八重樫雫と鉢合わせ。その意識の高さと剣の筋の良さに惚れて求婚……というか、愛人になれと誘った。
しかしというか勿論、雫本人は丁寧お断りしたのだが……皇帝陛下が、本当に~? ともう一声。
その場面を、皇帝と同じく何故か訓練施設に来ていた庄司愛美が、雫の肩に乗る皇帝の手を払ったのだ。
パチィンッ! となかなかに良い音が訓練施設に響く。皇帝は驚いた顔だった。
「……なるほど、お前もなかなか良い眼をしてやがる」
「気持ち悪いわ。それともその劣情まみれの眼差しで私を孕ませるつもり? とんだゲスね、気持ち悪いわ」
おぉう、そこまで言うか一国の主に、と思う雫。というか、どうしていつもは嫌な事ばかり言う彼女がそこまで味方に付くのか、分からない。
「フハハハッ! 言うじゃねぇーか! お前、名前は?」
「……はい? なぜ、貴方のような発情した猿に名前を教えなくちゃいけないの? 意味不明。例え、教える理由があろうと教えませんけど」
完全なる拒絶の意志。しかも、その言い様と来たら……聞いていた雫が思わず溜め息を吐くほどである。
言われた本人であるガハルドも、ここまで酷い言われようは今まで体験した事がないのか、ポカーンっと口を開いたままだ。
「あら? 口なんか開きっぱなしにして、どうしたのかしら? ぁあ、鳥の糞の投下待ちなのね。帝国にはまとな食べ物も無いのね、可愛そ──いえ、いい気味ねぇ」
どこぞのウサギよりも失礼で、何処かの反逆者並にウザい。
すると、皇帝はやはりプルプル震え出した。流石に怒ったのだろうと雫が焦るが……
「──フハハッ、フッハハハー! 良いぞ、貴様! その物言い気に入った!!」
どうやら、真っ向から自分に畏れなく文句を言う姿がお気に召したようである。
「気持ち悪っ……ドMかよオメェは? “ピー”野郎が。“ピー”と“ピー”を引き抜いて、オメェの“ピー”にブチ込んでやろうか?」
庄司愛美はキレると、すこぶる口が悪くなる。あまりの言いように雫が青ざめ、流石の皇帝も内股になった。
「お、おう。こりゃ、想像以上だ……」
「す、すみません。彼女は口が悪いので……」
頬を引き吊らせながら謝罪する雫。
しかし、そんな彼女の脇腹を肘で軽く小突く愛美。
「ちょっと、なに謝ってるの? 貴女も言ってやりなさいよ。この“ピー”野郎って」
それは女の子が口にするような言葉ではないので、雫は意地でも言わんと首を横に振るう。
雫にそのような暴言を吐かれず、密かにホッと胸を撫で下ろす皇帝陛下。
「ま、まあいい。貴様を気に入ったのは、本当だ。俺に二言はねぇーからな。お前もいずれ、雫と共に俺の愛人に──」
「大変申し訳ありませんが、そのご要望が叶うことは未来永劫、来世だろうとパラレルワールドであろうと御座いません。……あぁ、ただ唯一貴方の空想の世界なら叶うかも知れませんね。──独りで“ピー”ってろ、この“ピー──ング!? んぐ!」
途中でパッと愛美の口を両手で覆う雫。そのまま目線で、早く行って下さいっとガハルドに伝える。
ガハルドは神妙な顔立ちで頷き、訓練施設をあとにするのだった。
──ガハルド・D・ヘルシャーはにげだした!
「──んぐぅ! ぷはーっ! ちょっと何すんのよ!?」
ガハルドが居なくなり、雫が愛美から手を離すと、雫の予想した通り、愛美の口から出たのは文句である。
「はぁー。……貴方ね、相手は一応、一国の主なのよ? 同盟国の皇帝よ?? 一歩間違えれば……いえ、もう国際問題よ……」
トホホ……、と溜め息を吐く雫に、この女どんだけ心配性なん? とまるで珍獣を見るような目で彼女を見る愛美。
「……私の為にやったんでしょうけ──」
「はぁ? アンタのためぇ??」
すごい……馬鹿にされた、と雫はしっかりと感じ取り、イラッとする。額に一つ青筋が……。
「ま、そ。……本当は貴方のためではないのだけれども! そういう事にしましょうか。ええ、しましょうとも! 貴方のための国際問題。そう、国際問題よ! 響きが良いわねー国際問題ってー」
大袈裟に身ぶり手振りをつけて煽ってくる愛美に、イライライライラっと怒りを溜めていく雫。
「あっ、怒った? ねぇ、怒った? 清楚系ビッチの雫は怒っちゃったのかなぁ~?」
「……いい度胸ね、貴女」
怒りのボルテージがMAXになった雫は、その手を腰に差していた訓練用の剣に置いた。そのまま、居合いの構えに……
居合いの構えに入った。そして、愛美も居合いの射程圏内。しかし、居合いは放てなかった。
クラスの仲間だからとか、冷静な状態に戻ったからなどではない。日頃の鍛練の成果で、構えを取った瞬間に神経が研ぎ澄まされて見えたのだ。
彼女と自分の間に、居合い斬りを阻むように張られた極細の鋼線が。それも無数に設置されている。
いや、これらの鋼線は居合い斬りの障害にはなり得ない。雫ほどの腕前があれば、威力と速度は若干落ちるが鋼線を切り裂いて決定打になりうる斬撃をすることは可能だ。
しかし、庄司愛美は“狩猟師”である。罠と隠蔽行動、それから探敵に優れた天職を持っている。つまり、これらの全ての鋼線は、ワイヤー罠なのだ。
鋼線に少しでも振動が加われば、鋼線が撓んでしまいそれが仕掛けを動かすスイッチとなる。恐らく、居合い斬りの速度を越えた何だかの攻撃で、先に決定打を食らうのは雫である。
雫はほんの少しだけ、鞘から訓練用の剣を抜く。訓練用のなので、刃は潰されているが十分強力な鈍器であるし、刀身にも銀色の輝きがある。その刀身を鏡のように利用して背後を確認をする。
雫の後ろにも無数の針金が。勿論、左右にもある。そして……
「勿論、上にもあるわよ?」
この狩人娘には、抜かりなど一つとしてない。そして、何一つとしてミスも無いだろうと雫は予想を付ける。この時すでに、八重樫雫は詰んでいる。
そもそも、八重樫雫と庄司愛美のステータスの総合値はほぼ同じ。さらに、元々の戦闘能力もほぼ同じ。まあ雫は知らない事だが、実は愛美は秘密結社のエージェントなので戦闘訓練は幼い頃から、それこそ雫と同じ、或いはそれ以上に行っている。
有事の際には監視対象の破壊・抹殺が求められるので、エージェントには必須のものだったのだ。
二人の素の実力は拮抗している。しかし、そこに罠が加わるとなると、圧倒的に雫が不利となる。
「……いつの間に…?」
「貴女が大人しく私に煽られている間に、よ?」
そう、大袈裟な身ぶり手振りをしていた時だ。既にその時には、愛美の布石が置かれていたのだ。
「ま~あ~、折角朝から訓練しに来たんだし? お互い一人稽古よりも相手が居た方が良いでしょ? 掛かって来なさい。私より
そう言い残すと愛美は逃げるように施設内の訓練場の方へと走っていく。
「………やってやるわ!」
闘志を燃やす雫が彼女に追い付き、訓練場に着いたのはもう少し後こと。しかし、その時には訓練場もトラップだらけだったりしたのだが……またそれは別のお話に。
…………あと、ちなみに実はもう一人この場に居合わせていた人物が居たのだが、誰しもその存在には気が付く事が無かった。……浩介は独りで泣いた。
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「え!? クーリア、やめてしまうんですかっ?」
ヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーが狩人娘から罵声を受けていたのと、ほぼ同時刻のこと。
ハイリヒ王国の第一王女であるリリアーナ・S・B・ハイリヒは驚愕の声を洩らしていた。
「いえ。長期休暇で御座いますよ、リリアーナ王女」
「あ、そうなんですね。ビックリしちゃいましたよー。いきなり『お暇を頂きます』なんて……メイド長の貴女居なくなったらトホホ……」
ハイリヒ王国の王宮メイド長クーリア・リベリオは、この度個人の理由から休暇をもらう事になった。既に国王と王妃の許可は得ているので、王女であるリリアーナにも挨拶に来たのだ。
「……しかし、寂しくなってしまいますねへリーナ」
「そうでございまね、リリアーナ様。……しかし、今生の別れではございません。長い休暇──里帰りだと思ってしまえば良いのです」
「ヘリーナの言う通りで御座いますリリアーナ王女。すぐにお戻り致しますので」
「……まぁ、確かにそうですね。早く帰って来て下さいよ? あと、出来ればお土産もお願いしますね?」
欲張りな王女様である。将来肥えてしまいそうだ。
「ええ。今一度の別れではありますが、お元気でリリアーナ王女。ヘリーナ、後の事は頼みましたよ?
何か含みのある言葉だったが、自身の部屋から退室していくクーリアをリリアーナは見送ることしか出来なかった。……何せ、王女という立場上すこぶる忙しいからである。将来はワーカーホリックになってしまいそうだ。
さて、部屋から出たメイド長ことクーリアは旅に出る支度を始める。と言っても、私室として与えられた部屋から荷物を
私物の無くなった部屋を一通り掃除してから出ていく。借り物を綺麗にして返すのは、道徳の基本中の基本である。
部屋から出て、さっさと王宮からも出てしまおうと思っていた彼女は、王宮の中庭にてある人物を見付けた。なんで中庭なんかに行ったんだ、と思うが王宮の構造上の問題である。
その人物とは、勇者の一団の一人
中庭に一人で座り、大きな溜め息を吐く彼女の姿はそれなりに目立つ。まるで、難儀な恋をする乙女のようにも思える。
そんか姿に思わず興味を引かれて、クーリアは彼女に話し掛けてしまった。
「……恋の悩み、でしょうか?」
「わあっ!?」
「申し訳ありません。急に話し掛けてしまって、驚かせてしまいましたね」
「い、いえ。こちらこそ大きな声を……」
いきなり話し掛けられた優花は大変驚いた様子だったが、話しかけてきたのがメイド服の女性だと見ると落ち着きを取り戻す。
「──それで、恋の悩み、なのでしょうか?」
「え!? いや、違います!!」
「ふむ。図星ですね」
何故かグイグイくるメイドのクーリアさん。やはり、女の子だから恋話には敏感なのだろうか。
「な、なな、何でそうなる!?」
「貴女のため息、その反応、その初々しさ……正しく男を知らぬ少女のようでしたから」
「お、男を知らないって、それって……どういう?」
「文字通りの意味ではありませんよ? 深い、それは深い男女の仲のことです」
何を想像したのか、優花の顔が一気に真っ赤に染まる。
「──あぁ、良いですね。若々しく初々しい処女の花の顔です」
「しょしょしょ、処女っ!?」
「さぁ、恋の迷宮に迷える子羊さん。私と恋話しましょう」
優花は物凄く動揺しながらも冷静に、あぁ面倒な人に捕まったなぁ、と思っていた。
これが、彼女とクーリアの、いや園部優花と“ものすごくよく訓練された”メイドさんの初邂逅であった。
後にこの二人は、とってもそれはとーっても深い関係になるのだが、その話は少し未来の事。その時に語るとしよう。
メイドさんの名前が決定。
これからも“ものすごくよく訓練された”メイドさんをよろしくお願いします。
そして、次話はこの続きから始まるかと……。