やっぱり風邪は辛い!
たぶん、誤字脱字がぁぁぁ
「さぁ、気持ちを楽にして下さい。悩み事とは時に打ち明けるもの。しかも恋の悩みならば尚更ですよ?」
「……いや…だから、その……恋という訳では」
「なら、その殿方を誰かに盗られても?」
「──それはイヤっ!」
あ。 と咄嗟に優花の口から飛び出した本心。
その言葉にクーリアはニコニコといい笑顔を浮かべる。
「別に、その殿方の名前を出す必要はございません。貴女が好きになった殿方の特徴と、貴女が殿方に向ける想い、殿方が貴女に今現在向けているであろう想い。そして、今後その殿方とどうなりたいのか……ゆっくりで構いませんので、話して楽になりましょう」
「えぇー。これ、本当に言わなきゃダメな奴……?」
「勿論で御座います。もし言わないのであれば、『ロートゥス・エクェス』のメイドネットワークの総力をあげて調べさせて頂きます」
「な、何よ、それ……?」
優花は聞いたことのない名前に首を傾げる。
当たり前である。『ロートゥス・エクェス』はハイリヒ王国に蔓延る、メイドによる、レンジのための、メイドの秘密結社なのだから。
「別に大した事のない、小さなローカルコミュニティですよ。三百人程度のありふれたメイドの集まりです」
「なにそれこわい」
確かに、そんなコミュニティがあったら、怖い。むしろ、そのようなコミュニティが蔓延るハイリヒ王国は大丈夫なのだろうか。
オラ、早く吐いて楽になっちまえよ! と視線で脅してくるクーリアに仕方なく、優花は折れることにした。
断じて、話したかった訳ではない。もやもやとする想いを打ち払いたいとか、この想いに共感して欲しいとか、断じて思ってはいなかったのだ!
「……はぁ、わかったわよ」
「そうです、それで良いんです。さぁ、その初々しき乙女心を打ち明けるのですっ」
うわ~本当に面倒な人に捕まってしまったー、そんな事を思いながら優花は彼……蓮ヶ谷レンジとの出会いをポツリポツリと語りはじめた。
勿論恥ずかしかったので、レンジの名は伏せることにしたが。
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園部優花の実家は洋食レストランを営んでいる。別に、どこぞの会社の重役や政府機関のお偉いさんのような富裕層が足を運び入れるような高級店ではない。
どこの街にでもあるような、地元に根付いた個人営業のレストランだ。所謂、隠れた名店という奴である。
その名前は『ウィステリア』。店内は派手過ぎず、かといって味気な無さすぎず。落ち着いた雰囲気の中に微かな気品さを感じられる。
その日、当時中学三年生だったレンジがウィステリアに入店したのは、実に偶然だった。
親の仕事柄の理由で取ってある英国誌と、市立の図書館から幾つか借りている著書を持って、視界に入ったレストランに入っただけの事である。
本来なら、図書館で読み終えて借りずに帰ってしまうのだが、今日は休日という事もあってか来館してくる人が多かった。
しかも、何故か子供や年配の方が多かったので、若い自分が居座るのは悪いなっと思って、珍しく本を借りて出てきたのだ。
しかし、わざわざ家に持ち帰って読むと、返しにまた出掛けるのが二度手間なので、何処か空いている店に入ろうとしていたところにウィステリアが見えた。
そんな偶然だった。ありふれた偶然ではあるが、そこから始まる人間関係もある。
先程も述べたが、その日は休日。勿論同じく当時中学三年生で学校が休みだった優花は、両親の営むこの店の手伝いをしていた。昼間ピークを過ぎてアイドルタイムに入る時間になり、一息つくところ。
さて、裏方の仕事をしますか、とカウンターの後ろに下がりかけたところで、チャリンチャリンと来客の知らせが聞こえた。
アイドルタイムに来店するお客さんは大体が、食事目的ではなく、奥様方のお茶会の集まりでコーヒーくらいしか頼まない軽いオーダー。そう気張る必要はないのだが……
入店してきたレンジを見て、優花は気張った。
それには主な理由が二つ。一つは、レンジのルックスの良さ。少し長めに切り揃えられた艶のある黒髪、強い眼光の中に確かな包容力のある瞳、そして女顔ともいえる綺麗な中性的な顔立ち。身長も高く、体格も悪くない。悪くないどころか、鍛え上げ締め上げた見事な逆三角形である。
そして二つ目は……自分と同じ学生であるという事。学生とはよく食べるものだ。しかも、男子ならば当然の事。さらに、レンジのその体格的に、かなり食べてそして運動して体作りをしていると見受けられる。
平気な顔してペロリと何人前も……なんて事もあるかも知れない。故に、昼間終わりで弛んでいた気持ちを優花はもう一度引き締めた。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも。一人何だけど、大丈夫ですか?」
「はい。空いている席へどうぞ」
もう店内に残っているお客さんはほぼ居ない。なので、わざわざ席まで案内する必要性はない。
レンジはニッコリと、ありがとう、と言い残すして店内を一目見回して、一番近い席……ではなく、数少ない二人用の席へと座った。
普通、社会人ではない学生それも中学生ならば、何も考えずに一番近い席へ座っただろう。自分あるいは自分達が何人なのか気にせずに、その席は何人席なのか考えずに、座ってしまうものだろう。
しかし、見た目は子供、中身はおっさん。レンジはちゃんとTPOを弁えている。
まあそんな事をしらない優花は、おぉ礼儀正しいというか常識人というか……、と感心していた。
さて、二人席に座ったレンジは迷うことなくメニューを開く。数ページあるのだが目をやるのは最後の方のページ、ドリンク関係が記載されているところである。
「……コーヒーかぁ…」
実はレンジ、これまでちゃんとしたコーヒーを飲んだ事が無かった。前世の世界にはそもそもコーヒーという飲み物は無かった。茶はあったのだが、豆を焙煎し挽くという発想はなかったのである。
まあ、地球でも、現代のようや焙煎した豆から抽出したコーヒーが登場したのは十三世紀頃と言われており、茶や酒と比べると実は歴史は浅かったりする。
だが、前世に無かった物珍しいモノにレンジが手を出さない筈もなく、缶コーヒーならば飲んだ事はある。しかし、店で出てくるようなちゃんとした代物には手を付けていなかった。
始めてくる店で飲む、初めての物。それも悪くはないっとレンジはコーヒーを頼むことにする。
テーブルに置かれている呼び出しベルをチリンッと鳴らす。ちゃんと店員さんが分かるように、されど他のお客さんの注意を無駄に引かない程度に手を上げておく。
今時珍しい電子化されていないアナログなベルだ。これで遊ぶ若い子もそう少なくないだろう、とレンジは店員さん達の普段の苦労に苦笑いを浮かべる。
「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
「うん。ホットコーヒーを一杯、お願いします」
「はい、畏まりました。少々お待ち下さい」
レンジの所に接客しに来たのは、勿論優花である。彼女は慣れた感じで、レンジとの対応を済ませて厨房にオーダーを通しに行く。
同い年くらいなのに、そのキリッと働く彼女の姿にレンジは感心しながら、英国誌を開く。勿論、英国の新聞なので英語の文体がびっしりと印刷されている。
見る人が見る人なら、解読不能の暗号のようにも見えるだろう。だが、レンジはそういう人ではないので問題ないし、英国誌をかなりのスペースで読んでいく彼の姿が、その英語力の高さを示している。
黒髪黒眼の男の子が英国誌を日本人離れした速度で読んでいく姿は何処か、いやかなり浮世離れしている。
そりゃそうである。見た目が完全に日本人なのに、英国の速読家と張り合う速度で読んでいるのだから。
だが、その姿は浮世離れしているのと同時にかなり絵になるものだった。それには注文のコーヒーを運んで来た優花も、一瞬時を忘れて見惚れてしまう。
しかし、それも僅かな時間だけ。優花も一応は働く者の身。働いている時にはちゃんとそういう切り替えが出来ている……はず。
「お待たせしました。ホットコーヒーです」
「──ん、ありがとう」
コーヒーの到着に、一旦英国誌を読むのを止めて、それを受け取るレンジ。
めっちゃ丁寧~っとか、英国誌とかナンチャッテ風ラッピングでしか見たことないっとか思いながら優花はさっとレンジの座る席から離れた。
しかし、その興味は既にレンジに向いていたのか、視線だけが彼から離れない。一目で好感の持てるルックスや、同世代の男子にはない余裕のある大人っぽさや、絵になる浮世離れした姿が、ゆっくりとではあるが徐々にそして確実に、彼女の心を惹き付けていく。
対してレンジは前世由来で研ぎ澄まされている感覚で、優花から視線が向けられている事に気付く。だが、悪意や害意は含んでいない、むしろ好奇の色を感じたので、まぁいいかっと無視する事にした。
そして、冷める前に一口くらい飲まないと失礼だな、と思ってコーヒーに口を付け……そして、硬直した。
それを見た優花は、あっちゃ~っと内心で彼の不幸を嘆く。ウィステリアのホットコーヒーを含めてブレンドコーヒーは、全て優花の父親のオリジナルである。
そのウィステリアのオリジナルブレンドとは、所謂大人の味であり、香りも酸味もコクも、そしてアフターテイストつまりは口当たりの余韻も、子供の味覚には酷なものなる。
それをミルクも砂糖も無しに飲めば……正に口の中は地獄だ。やれやれ、と思いながら、すぐに口直しに甘い飲み物でも注文するだろうっとスタンバる優花。
しかし、残念な事だが……レンジはその程度の事に屈するような男ではない。むしろ……
「──あぁ美味い」
彼はその味がしっかりと分かる人である。
思わず洩らしたその言葉は小さくて優花には届かなかったのだが、よくお客さんが言ってくれるその言葉は直接聞かずとも、口のその動きだけで理解できる。
思わずキョトンとしてしまった。そして、すごく嬉しくなった。同世代でも、父の味に、父の努力に、純粋に美味しいと言ってくれる人が居たことが、彼女にはどうしようもなく嬉しかったのだ。
レンジはそのコーヒーの味を大変気に入ったようで、ほんのりと笑みを作り、もう一口飲むと再び英国誌の続きを読み始める。
次のお客さんが来るまで、優花はレンジから視線を逸らせずにいたことは、無意識だったのか本人でも気が付いていない。しかし、暇な時間帯になっても娘が裏方に来ないのはどうしたことか? と何かあったのでは、と不安になった両親が顔を出したのだが、頬をうっすら紅くして一人の少年を見詰める娘の姿に……ニコニコしながら無言で奥へと戻っていく。
もし仮に、この際に優花が振り返り両親と顔を合わせていたのなら、彼女の両親はサムズアップして奥へと消えたのだろう。
そうなれば、彼女は羞恥心に悶えて両親に八つ当たり、そしてその想いも一時の気の迷いとなり、彼に向けられる想いは、単なる憧れの人やアイドルなどに向けられるソレになったのかも知れない。
しかし、それは起きなかった。アイドルタイムの事や、その時間に終わらせておきたい事、両親の気配や視線など忘れてしまうくらい、もう彼女は彼に惹き付けられていた。
そして、これから先も。
「ご馳走さまでした。コーヒー、凄く美味しかったですって是非伝えて下さい」
「はいっ、ありがとうございます。またのご来店お待ちしております」
「ええ、そうさせてもらいます。ここのコーヒー、凄く気に入ってしまったので」
英国誌や借りてきた書物を読み終えたレンジは料金の精算をささっと済ませて、そんな挨拶……いや約束をして店を出ていった。
優花はご機嫌でそろそろアイドルタイムも終わり、徐々に忙しくなっていく厨房へと入っていく。そこで何故かニコニコと笑顔を浮かべる両親と対面した。
「……な、なに? どうかしたの??」
「ううん、別に」
「そうね、ただ恋かなぁって」
はっ? 恋?? なんのこっちゃい、と思った優花だったが、脳裏というか思考いっぱいにレンジの事が浮かび……
「こ、恋ちゃうし!」
まったく説得力ない事を叫ぶのだった。
ところで、彼がまた来店するという約束を守ったのか、というとむしろ常連になったくらいだ。土日の必ずどちかは来るくらい頻度で。
それは受験シーズンの受験勉強が忙しくなる時でも変わらず、休みの日は勉強しに来ていた。その時、同じ高校を受験する事を察した優花は、一緒に勉強しませんか? と恐る恐る申し出てみたり、ドキドキしながら連絡先を交換してみたり、と実に青春していた。
そんな優花の両親は、彼女の受験勉強か、それともその恋を応援したいのか、勉強中の二人にコーヒーを出して上げたりとかいろいろと気を使ってあげた。勿論、優花は両親のそんな働きに羞恥心に悶えたようだが、何故だろう?
レンジもレンジで、ご厚意に甘えるばかりには行かないっと次回来る時には菓子折りを持参したりと、なかなかの良識人っぷりを見せたりしている。
そして、翌年の春も優花の前に進まない恋は続く。
なんとか同じ高校に入学したが、クラスは別々になってしまい、ちょっと意気消沈の優花。でも、休み時間の廊下ですれ違った時には挨拶をして世間話の一つやふたつをする。合同授業でも、たまに席を然り気無く隣にしたりと、相変わらず甘酸っぱい青春が続いていた。
しかし、初々しい恋の物語だけで終わらないのが、甘酸っぱい青春というものである。
レンジを慕う他の女子生徒から、優花はやっかみを受ける事になった。女子生徒グループから散々酷い事を言われ、あることないこと噂するぞっと脅されたり、両親やその仕事を馬鹿にされた。
凄く悔しかった。ボロボロと泣いてしまう程に、辛くて悲しくて悔しかった。何も言い返せない事や、あの人なら解決してくれるとか、まあ私なんかじゃ釣り合わないよねなんて、思ってしまう自分のことがどうしようもなく恨めしい。
気が付けば、飛び出してその場から逃げ出していた。そして、誰もいない体育館の裏でしゃがみこみ、泣きはらした。
延々と泣き続けて、気が付けば授業の一つを半ばサボっているような状況。目元は真っ赤でヒリヒリと痛むが、このままサボるのは良くないっと立ち上がり、校舎へ戻ろうとした時……彼が居た。
「……え?」
「どうして、ここに? って顔してるね」
「う、うん。だって」
「授業始まってるのに?」
「うん」
泣きはらした後だからか、かなかな上手く言葉を紡げない彼女に変わって、レンジがその言葉を代弁してくれた。
そんな彼に優花は、あぁ全部お見通しなんだろうなぁ~っと何処か呆れたような嬉しいような気持ちが湧いてくる。
「泣きながら走って行く君が見えたからね」
「で、でも、授業が──」
「そんなものはどうだっていい。君が泣いていることに比べれば、どうでもいいよ」
そう言い放つレンジの表情はいつに無く真面目なものだった。それを本心から言っている事が、やや混乱状態にある優花にもヒシヒシと伝わってくる。
「それが俺が原因なら尚更だよ。もし
“他の誰か”、これは天之河光輝とか無意識というか無自覚に問題を起こす輩を示していたのだが、優花はそれが自分以外の誰か、だと捉えた。まあ、やや混乱状態の時に惚れている人物からこんな事を言われたら、誰だってそういう認識になるだろう。
ぽわぁ~、と優花の頬が赤くなっていく。あれ、なんか間違った? とレンジは一瞬思ったりした。ある意味、大正解。
しかし、優花はまだ恋人ではない彼には情けない姿を見せたくないという意地があった。それと同時に、なにさ! 釣り合わないなら釣り合うように自分磨きしてやるっ! と奮闘心に燃えはじめたのだ。
目元は腫れて赤いままだし顔も真っ赤だが、彼女は胸を張ってレンジの言葉に対抗した。
「いいえ、大丈夫よ。……それにこれは私の問題。だから、私が納得するまで私自身の手でなんとかするわっ」
確かな決意に満ちた言葉だった。
レンジとして、イレギュラーな自分のせいで起きた、本来の歴史にはないイレギュラーなことの筈なので、何としても自分自身の手で修正したかったのだが……彼女の意志を無下に出来るほど、レンジは冷たい人間ではなかった。
「……はぁ~、わかったよ。でも、どうにも出来なかったら言ってよね?」
「……そうね、どうしようもなかったら、お願いするわ」
けど、優花は最後までお願いしなかった。目標は彼の隣に立つ事。その前段階の障壁に躓くようでは、隣に立つなんて到底叶わないし、彼に迷惑ばかり掛けるのは嫌だったから。
しかし、まあなんというか、本人の頑張りもあってか、翌年にあがる前には優花へのやっかみは無くなっていた。むしろ、他の女子(例の子達も含め)にレンジの貴重な話を聞けると、重宝されお友達が凄く増えた。そう、凄くだ。
さて、本当にレンジが何もしなかったのか、というと……優花と仲良くなった女の子は必ず前日レンジと昼御飯を一緒に食べていたっという目撃情報がある、とだけ述べておこう。
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「──まぁ、そんな感じだから、こ、恋とかそんなんじゃないです」
「いや、どのあたりからそう思えと?」
この子は、難儀なというか、素直になれない恋愛をしてるなぁー善きかな善きかなっと優花の甘酸っぱい青春を堪能するメイドさん。
ちなみに、その相手がレンジだと言うことは、看破されていたりするのだが、それを指摘するほどクーリアは性格悪くない。某狩人娘ならやりかねないが……。
申し訳ない、作者に恋愛の話は書けない!
本当にすまない……