今回短いです。インスピレーションが湧かなかった……。
シア・ハウリアは奇跡を起こした。いや、その意志の力で勝ち取った。シアが発動させた神の領域に踏み出す肉体強化魔術『
だが、勿論というか当たり前というか、レンジのように使いこなしてはいない。
術式の構成が実に甘かった。魔力消費は激しく、強化量も消費の割りには高くない。それでも、レンジの素のステータスである20,000にギリギリ追い付いている。
「……これは驚いたよ。まさか、不完全だけど発動まで漕ぎ着けるとはね……」
「……っ、本当はもっと、上手くなってから、使いたかったんですけどね」
「やっぱり、体への負担が大きいか……」
幾ら無類の才能があろうと、この世界トータスとは違う世界の魔法。それにもトータスより遥かに上位に位置する世界である。
奇跡を勝ち取ろうとも、何かしらの代償は払わなくてはならない。今、シアに掛かっている負担は、レンジの神格使用時とほぼ同等のモノ。
吐血などはしていないのものの長時間使い続ければ、内部が体が壊れていく。制限時間は……
「……だいたい、三分ですかね…」
「お前は地球の超人か何かかよ……」
ぶっつけ本番にしてはかなり上々、というか文句無しである。
「さて、シアちゃんにはあんまり時間が無いみたいだし、そろそろやり──」
「──せいっ!」
「──ごフッ!」
シアの不意の一撃っ。
上昇した筋力にものを言わせた重たい一撃である。
まるで発砲された弾丸のような加速で、見事にレンジの不意をつき、横っ腹にドリュッケンを叩き込む事に成功。
まさかの不意の一撃にレンジは為す術もなく、吹き飛ばされる。しかし、彼は英雄である。この程度の一撃でやられる男ではない。
吹き飛ばされるつつも、空中でぐるりと器用に体を回転させて、推進力を回転力に変換して勢いを殺す。
だが、シアはそれを想定しており、レンジの足が地面に着く頃には……
「──ッ!」
「──スタンプですぅ!」
「──あぶねぇー!」
顔面を粉砕する気満々で放たれたドリュッケンの一撃を紙一重で回避する。目標をうしなったドリュッケンはバキンッ! と激しい音を立てて地面を破壊する。
「まだまだですぅ!」
「死ぬっ!」
──ビュォンッ!! と空を切るドリュッケン。当たればひとたまりもない致死の一撃を、レンジは一歩下がって避けていく。
「ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー!」
「なんか楽しんでるっ!?」
左右に勢いよくドリュッケンを振り回しながら近寄ってくるシア。正直、対処する気になれば何とでもなるのだが、あまりにも清々しくスイングするので止めちゃいけない気がするレンジ。
「まだまだぁ!」
「クソッ!」
防戦一方に持ち込まれているレンジだが、何処かその顔は楽しそうである。
気分の高揚や血行の促進がレンジの反射神経に最大限の力を発揮させ、シアの攻撃を次々と躱していく。
だが、今この瞬間もシアは成長している。ドリュッケンを振るうごとに次の一撃が鋭くなっていく。ゆっくりとではあるが、確実にレンジの体を捉えようとている。
しているのだが、シアの顔色は優れなかった。遅すぎる。遅すぎるのだ。三分間というタイムリミットでは、ドリュッケンをレンジに当てる事は出来ない。
より速く、より正確に。そうは思っているのだが彼女の体からは魔力と共に力がどんどんと抜けていく。限界が近いようだ。
しかし、ここまで来たのなら最後までやりきりたい。例え体を壊す事になろうとも。
「こんな所で終われません! 器を超え──」
「それは駄目だ」
──ドズンッ!
「──ッう!」
まさかの『
衝撃が首を伝い脳を揺らす。振り回していたドリュッケンを支える事が出来ず、シアはハンマーの重さで倒れてしまう。
「ただでさえ不安定かつ不完全な術式なんだよ? 二重掛けなんてしてしまったら、体への負担どころか死んでしまうよ」
「……それ、でも……、勝ちたいんですっ。……私も皆さんと、一緒にっ」
ドリュッケンを支えにガクガクと震える脚をなんとか立たせようとするシア。その姿には、十二日前の他力本願な脆弱な少女は何処にもいない。
「なら、余計にでしょ? 怪我人は連れていけない。それに、二重掛けしても俺には勝てないこと、分かってるでしょ?」
「……ッ、はい……」
今のシアが『
レンジが同じく『
別に、この決闘のルールでレンジに対して、フルミネも魔術の使用も禁じていない。まあ、フルミネを使う際は非殺傷弾を使用する事になっている。
今まで、使う必要が無かったから使っていないだけで、特に何の制限も掛けられていない。
例え、ステータスが同等になろうと、ドリュッケンがあろうと、シアはレンジには追い付けない。ドリュッケンの一撃を叩き込んだとしても、それは完全に防御されて防がれた上で反撃をされていただろう。
忘れないでほしい。彼は、蓮ヶ谷レンジは英雄なのだ。それも十二の神を殺した大英雄。その神の中には、時間軸に関係無く全ての武術を極めていた神も存在する。
レンジはそんな神々に勝利してきたのだ。身体能力が同じだろうが相手が武器を持っていようが自分が弱体化していようが、十二日前に戦う事を決意した天才程度に負けはしない。
いや、負ける事は許されない。自分の殺した神々と、それらに苦しめられた人々の思いを軽視させない為にも、英雄は負ける事を許されない。
彼女の意志の強さも、実力や伸びしろもレンジは認めるだろう。しかし、自分に勝つことだけは認めない。
「君がどんなに努力して力をつけて技術を磨こうとも、絶対に俺には勝たせない。悪いけど、これは俺の意地だ。これを譲る気はない、絶対に」
「……絶対に、連れていってもらえないんですか……」
「いや、着いて来ても良いけど?」
「え?」
「え?」
あれ? 何か会話が噛み合ってない? と思うレンジとシアだが、それは観客席に居るハジメとユエも同じだった。
「だって、この決闘に勝たないと連れていかないって……」
「言ってないよ、そんな事?」
「え?」
「俺が言ったのは、『少なくとも無強化のハジメを超えてみせろ』、だよ。それをユエちゃんとシアちゃんが納得しなかったから決闘したんでしょ?」
「あっ」
「そして、君はハジメを超えるどころか、一部の分野ではユエちゃんも超えてみせた。条件は十分満たしている」
「……あぁっ」
「これで勝てないから連れていかないなんて言う程、俺は酷な人間じゃないよ」
気が付けばシアの瞳からボロボロと、涙が零れ落ちていた。
「っ、着いて言っても良いんですかっ!」
「良いよ。でも、後ろに隠れるように着いてくる事は許さない。君は強いし、その意志も何者にも折れないだろう。だから、ハジメとユエの隣を歩いてあげてほしい。彼らと一緒に、素晴らしい人生を歩んでくれ……約束してくれるかい?」
「も、もちろんです!」
「なら、一緒に行こう。歓迎するよ」
未だ立ち上がれないシアに回復魔術を掛けて、その手を取るレンジ。こうして、シア・ハウリアが仲間になった。
レンジは嬉し泣きでボロボロと涙を流すシアの涙を拭ってあげる。その時、シアがレンジの言葉で引っ掛かった事について聞いてきた。
「……あの、ハジメさんとユエさんの隣? レンジさんは──」
レンジさんは含まれていないんですか? と聞こうとしたシアに、レンジは不敵な笑みを浮かべる。
「思い上がるなよ、ウサミミ? 偉業を為していないお前達が俺の隣に立てる訳ないだろう?」
十二柱の神殺しを知らないシアには、その言葉に込められた思いはまったく分からなかった。
さて、先週まで毎日の様に更新していましたが、これからは2~3日に一回くらいになりそうです。
理由が気になる方は、活動報告をご覧下さい。大した理由はない、作者の我が儘なので……。
そんな訳で、次回の更新は水曜日以降になると思います。どうかお許し下さい。
これからも、『ありふれた転生で世界救済』をお楽しみ下さい。