ありふれた転生で世界救済   作:妄創

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 や、やらかした感!


奈落の英雄

 

 

 

 レンジは浮遊感を感じていた。

 

 視界の広がるのは、単純な暗闇。振り返って見れば、もうすぐ見えなくなってしまうであろう小さな光。

 

 レンジは今まさに、奈落へと向かって落ちている。何故、このような事になったか説明すると長いので簡潔的に纏めると……

 

 光輝と檜山、それからベヒモスが悪い。一番悪いのは檜山とか言うクソガキだ。

 

 

 事の始まりは、オルクス大迷宮に進軍を始めて二十階層にたどり着きもうすぐ二十一階層そうへと進もうとしている時だった。

 

 恐怖で怯えた(実際は違うのだが)仲間を思わんばかりに、勇者こと天之河光輝が放った大技(洞窟内で使う技ではない)。

 

 それを受けた迷宮の壁の一部が崩れ落ち、中から女性の心を虜にする宝石(グランツ鉱石)が現れたのだ。

 

 勿論、クラスの女子達は宝石にうっとりとした。そして、何を思ったのか(大体の理由は察する事ができるが)、檜山がメルド団長の静止も聞かずにグランツ鉱石を取りにいった。

 

 ところが、どっこい。そのグランツ鉱石は転移魔法が仕掛けられた罠だったのだ。そうとも知らずに、檜山はグランツ鉱石に触れてしまい、皆を巻き込んで転移トラップを発動させてしまう。

 

 そして、転移した先で最強クラスの魔物であるベヒモスと退治。さらに、後ろからも湧き出し続けるモンスター。

 

 でも、ここで頼れるヒーロー光輝君が沸き出るモンスターを切り開き道を作る。

 

 さらに、グッドアイディアでハジメがベヒモスの動きを止める。そして、限界ギリギリまでベヒモスを拘束しつづけて、最終的にはクラスの皆がベヒモスへ向けて魔法の一斉射撃。

 

 やったー! と思ったのも束の間。なんと、ベヒモスに殺到する魔法郡の中から一発だけ誤射があったのか、ハジメに直撃してしまう(確りとガードはしていたようだが)。

 

 なんてこった!ハジメが深い崖へ落ちちまったぜ。泣き叫び崩れ落ちる香織。悔しげな顔を浮かべる光輝とメルド団長。ここで、ニヤリと笑う檜山。

 

 

 そして、英雄は決断した。

 

 敵は必ず殺す。身内は死んでも守る。

 

 必殺死守の誓約をレンジは再びその心に宿し、誰に止められる前に、ハジメの背中を追って奈落へと飛び込んだ。

 

 そう、後にハジメが豹変し魔王となって這い上がる奈落へ、レンジは再び英雄となるため、その誓いを果たすために足を踏み込んだ。

 

 

 まぁつまり、全て檜山のせいだ。

 

 

 起きてしまった事はどうしよもないので置いて、レンジが今もっとも恐れるのは、ハジメの落下死だ。もう結構な時間、落下体験をしている。

 

 ハジメのステータスは確か現段階ではオール12という洒落にならない低さだったので、どうにか減速しなければ間違いなく死ねる高さだ。

 

 最悪、死んでしまっても『蘇生神(アライフラ)の心臓』を使えば、普通に生き返らせる事が可能ではあるが、レンジの体に掛かる負担が馬鹿にならない。

 

 アライフラが司ったのは、生命と繁栄。命を生み出し、命無きものに命を与え、あらゆるものを繁栄・成長させる神。

 

 その蘇生神の神格があれば、死者に再び命を与える完全な死者蘇生が可能となる。命のみならず、繁栄も司るので、一瞬でその体を最適な状態に戻し維持する事だって可能だ。

 

 むしろ、肉体の最適化やその状態を維持するのが本質ではなく、繁栄が本質なので無限に成長させ続けるのが本来の性質なのだが。

 

 実は、その性質ゆえ、その神格を手にしているだけで、レンジに様々な恩恵を与えている。傷が治るのが某不死身の分隊長並みに早かったり、筋肉酷使のあとの超回復の効率が異常に良かったりっと、肉体的な面での恩恵である。

 

 ある意味では、転生後の器が大英雄の魂魄という強大無比な力に耐えていたのも、ひとえにこの恩恵のお陰だったのだろう。

 

 しかし、その奇跡的な肉体と魂魄の均衡はトータスに来てから崩れてしまったのだ。どうやら、急激に力を付けたのが駄目だったらしい。

 

 単純に強靭な肉体を作っても、均衡が保たれる訳ではない。むしろ、両方の釣り合いが取れていたから均衡していたのだ。そりゃ、片方だけ強くしたり大きくしたら、その均衡は崩れるだろう。

 

 だが、時間が立てば肉体に魂魄が徐々に馴染んでくる。吐血や、全身に走る激痛なんかは一時的なものだ。

 

 話が大分逸れてしまったが、要するに例えハジメが死んでしまっても蘇生させれば済むので、対して心配する必要はない。

 

 だが、その代償はレンジの命である可能性が高い。それに、命を直接与えるのは神の所業である。つまりは、神になるっという事。

 

 まあ、だから何? 程度でその必要があるのならば、レンジは神の所業に手を出すし、その領域にも足を踏み込むだろう。例え、自分の命が燃え尽きようとも。

 

 それが、彼の誓った“必殺と死守”の誓約なのだから。

 

 

「だから、ハジメ死んでも構わない。──ただ、身体は置いてけよ?」

 

 

 暗闇の中で、その先へ落ちているであろう少年の無事を祈って、レンジはうっすら不敵な笑みを浮かべた。

 

 そして、崖の壁から吹き出していた水鉄砲に呑まれた。

 

 ──ぎゃあああああっ! こんなの聞いてねー。

 

 勢いよく吹き出す水鉄砲を空中で耐えきれる筈もなく、レンジはあっさりと吹き飛ばされる。

 

 しかし、飛ばされた先にも水鉄砲がっ! また吹き飛ばされた!

 

 ──ぎゃあああああっ! 何かいっぱい吹き出し口あるー。

 

 

 まるで間欠泉の如く水が吹き出す発射口は、いっぱいあった!

 

 激しい水流の力に為す術もなく揉みくちゃにされながら、ピタゴラス○イッチの要領でどんどん奈落へと流されていくレンジ。

 

 このくらいの水流、海流神(アクエリア)を使えばどうにでもなるが、神の力の大安売りはするべきではない。

 

 結局、レンジに出来る事は無かったので、そっと意識を手放した。というか、この水流の中で居眠りをこいた。

 

 

 

 

 

 ザァーと降り頻る水の音が、徐々にレンジの意識を覚醒させていった。暗闇に沈んでいた視界が明確になり、四肢の感覚も戻る。

 

 一番強く感じたのは、冷たさだ。どうやら、浅い地底湖のような所に浮いているらしい。

 

 レンジは直ぐに立ち上がり、体を暖めるために外界術式で魔術を構築する。別に、トータスの魔法でも構わないのだが、やはり慣れ親しんだ前世の技を選んでしまう。

 

 特に詠唱もなく魔術が発動して、一瞬レンジの体が仄かな青い光に包まれた。

 

 前世で、生活魔法なんて呼ばれて広く普及していた極一般的な魔術だ。周囲の環境に合わせて適切な効果を自動的に付与してくれる環境適正化の魔術『ネイチャーレジスト』、の上位互換『グレーターレジスト』。

 

 魔力の消費を無視すれば、宇宙空間やマリアナ海溝、北極でも生存が可能だ。その場合は、また別の魔術を使った方が魔力消費の効率は良いが。

 

 

 周囲の環境とレンジの状態を解析して、それに適用できるように、発動した魔術は適切な力を執行した。

 

 レンジの体が一瞬の内に暖まり、服に染み込んでいた水分も一瞬で気化した。乾いていない洗濯物をそのまま着れる便利な魔術だ(注意、そういう用途の術ではありません)。

 

「……さて、ハジメは何処に落ちたのか?」

 

 周囲にハジメらしき人物は見当たらないし、彼の所持品らしき残留物もない。恐らく、ハジメも水鉄砲に揉まれて何処か別の所に落ちたのだろう。

 

 手っ取り早くハジメを見付けるため、技能の周辺感知と魔力感知を同時に発動する。すると、かなり強い魔力を持つ魔物がうじゃうじゃ居る事が分かった。

 

 ほとんどがベヒモスクラスであり、唯一一匹更に強大な魔力を感じる。そんな中、一つだけやけに反応が弱い個体があった。

 

 悲しいかな、ハジメである。

 

 正直、ここの魔物はハジメの手に負えるレベルを遥かに凌駕している。早く合流してやりたいのだが、道が直通ではないし、道中魔物が居るしっていうか、レンジの方へと向かってきている。

 

 そして、レンジの前に一匹のウサギが現れた。レンジと目を合わせて、ぴこんとウサミミを動かしている姿は愛らしいものだ。

 

 その大きさが中型犬ほどもあり、やけに後ろ足が発達していて、皮膚表面に露出した大動脈のような真っ赤な線をドクンドクンと脈動させていなければ。正直、可愛いどころか、くそ気持ち悪い。

 

 げんなりした顔のレンジを、ウサギ擬きは敵だと判断したようで、独特のファイティングポーズを取った。シュッシュッ! と挑発するように素振りの脚撃を空中に打ち込む。

 

 しかし、それはかなりの威力が込められていたのか、余波の力がレンジの体を叩きつけて、髪がぶはぁと浮いた。

 

「……獲物、久し振りにそう言える奴に出会ったかなぁ」

 

 獲物、つまりは敵だ。それは必ず殺さなければならない。

 

 レンジは腰に帯刀していた剣を抜き取る。それは柄から剣先まで、まるで削り出して作ったように同一の金属でできた無骨な黒剣だ。

 

 これはハイリヒ王国の所蔵していたアーティファクトの一つで、その力は“不毀”というただ一つ。その刃は壊れず欠けず。

 

 ある意味では、理想の武器と言える。しかし、クラスメイトの誰も欲しがらなかった。もっと、魔法の道具的な効果を彼らは期待していたらしい。

 

 しかし、無いというなら、付けてしまえばいい。そう、逆に考えるんだ。

 

 レンジは不壊の黒剣の腹をそっと撫でながら呟く。

 

「……摂理を燃やせ【獄炎(ヘルズフレイム)】」

 

 付与魔術【獄炎】。それは通常の炎のような物理的な反応は起こさない。

 

 獄炎が燃やすのは、その物体にある概念そのもの。例え、不燃物だろうが破壊不可能という概念を持っていようが、全てを灰に変える概念の炎である。

 

 まあ、燃えにくくはなるのだが。だから、この黒剣を選んだ訳だし。

 

 この魔術は、前世でレンジが作ったオリジナルの魔術だ。神殺しに大変役立った。例えば、鳳凰神(フレアデス)の創った第二の太陽を燃やすのだったり、恋愛神(ラヴァリア)の美しいっという概念を持った顔を燃やすのにだったりだ。

 

 他にも何柱はこの魔術の被害者であるが、ここでは割愛させてもらう。誰も聞きたくないだろう、不死身の眷属種を燃やされて泣きわめく神の話とか、自分の芸術を焼き払われて放心する神の話とか。

 

 それはさておき、黒い炎で刀身が燃えあがる剣を見て、動物の本能がなせる技か、ウサギさんは体をビクンとさせると、逃げ出した。

 

 その高い脚力の出せる全力を使い、足元を爆ぜさせて必死に逃げた。

 

 しかし、レンジを前に敵を向けたのが運の尽き。英雄、いや死神はそう易々と逃がしてはくれない。

 

「一撃にて、堕ちよ『神滅崩哮斬』」

 

 英雄の大技が放たれた。それは神を殺す為に磨きあげた剣術が、魔法の領域にまで達した魔法剣。

 

 神ですら直撃すればただでは済まされない、極撃の一振り。

 

 ズガガガガガーッと洞窟を広げながら、放たれた斬撃は哀れなウサギさんを二つに割断して、付与された獄炎が灰へと変えた。

 

 そして、レンジは吐血する。洞窟内で扱う技でもないし、今の体で使っていいような技でもない。割りと、馬鹿をする英雄である。

 

 無茶をしても、蘇生神(アライフラ)の力のお陰で直ぐに体調は戻るのだが、あまり体を酷使するものではない。

 

「ごほっ……、あぁ早くハジメのところに……ハジメの霊圧が消えた…?」

 

 いや、元々の霊圧など感じて、いやレンジならば魂魄の存在も感知できなくはないが、そんな事はしていない。

 

 しかし、レンジが感知していた筈の、ハジメの魔力が雲隠れした。何やら近くに最強クラスの魔物が居たようだが、道無き道をどんどんと切り開いて突き進み、そのまま反応が無くなった。

 

 一瞬、レンジをしても驚くほど濃厚な魔力の塊を感知したのだが、一体なんだろうか?

 

 だが、ハジメの方に関しては予想が出来る。運悪く、この階層の最強の魔物に出会したのだろう。そして、錬成師の力で洞窟の壁を掘り進み難を凌いだ。

 

 魔力が感知出来なくなったのは、おそらく掘った穴を埋めて密室状態になったからだ。

 

 レンジの周辺感知は万能の力ではないので、ある程度空間同時が繋がっていないと感知出来ない。家の中などは感知出来るが、ハジメのように錬成で塞がれてしまうと感知出来なくなってしまうのだ。

 

 ちゃんと、酸素を確保出来ているのか心配だ。

 

 もしくは、魔力切れになるまで錬成を酷使したか。しかし、冷静なハジメなら……いや、最強クラスの魔物と対峙したのだ。ただの日本の高校生が冷静でいられるとは思えない。

 

「何にせよ、早く合流しよう」

 

 

 

 

 ハジメが掘り進めた穴を発見し中に入ると、痛ましい姿になったハジメが転がっていた。

 

 腕が、左腕がどこにも無かった。そのことにレンジは唇を噛む。

 

 どうやら、魔力を枯渇させて気を失ったようだ。

 

「……これが魔力の正体か」

 

 レンジが感知していた膨大な魔力の正体が分かった。

 

「……魔力の結晶か」

 

 トータスで神結晶と呼ばれるものは、レンジの前世の世界には多々あった。まぁ一般に普及する程の価値ではなかったが、国家予算を空にすれば買えるレベルだ。

 

 神結晶から流れ落ちる高濃度の魔力の雫が、上手いこと天井を這ってながれて、ハジメの真上で滴っている。

 

 これのお陰で、ハジメは生き長らえたらしい。腕を切断されれば出血もさることながら、激痛によるショックで死ぬことも珍しくない。

 

「……お前は運が良いし、割りと図太い神経してるのかもな」

 

 レンジにはハジメの左腕の欠損を治す事もできたが、それはやはり蘇生神(アライフラ)の神格を使用する必要がある。

 

 つまり、今は治してやる事はできない。もちろん、死守の誓いの事は破るつもりはないが、左腕がない=死には結び付かないので、自身が死ぬ可能性がある神格の使用は行わない。

 

 というか、今はハジメの体の傷よりも、心の傷をどうするかだ。絶対絶命の状態に陥り、片腕も失ってしまったのだ。心に傷を負わない訳がない。

 

 しかし、それを癒してやる事はレンジには……。出来ちゃうから少し困る。

 

 強引な手で、という注意書きが入るが可能だ。レンジも代償を払う必要が出てくるし、時間も掛かる。

 

 だが、やるしかない。彼の心を殺す訳にはいかない。死守を誓ったのだから。

 

 レンジは、神の力を使う事を決意した。

 

 ──神通門、解放。神格にアクセス。

 ──『芸術神(ハルモニア)の声帯』を選択。

 

 

「──さぁ、ハジメ。俺は君を死なせないぞ? 死にたいなんて言わせないからな。──“生きろ、生きろ、生きて足掻いて、また生きろ。その命ある限り、生きて生きて生き続けろ。生きることを許可しよう。死ぬことは許されない”」

 

 音楽と調和の神ハルモニア。かの神の力は実に強大だった。

 

 調和を司る事で誰とでも心を通わせ、音楽で言葉を聞かせる力を持った神。これだけ聞けば、危険の無さそうな神だ。

 

 しかし、使い方によっては、生きる者と死せる者全てを支配する力であった。

 

 ハルモニアには、強制的に魂魄に語りかけ、直接魂魄に命令を下す事が出来たのだ。いくら、魔術で精神汚染を防ごうとしても、それは調和。調和事態に害はないので防ぐ事はおろか、感知すら出来ない。

 

 そして、全ての者の心を響かせる美声。逆らえる者など居なかった。

 

 そんな神を殺したレンジでさえ、逆らう事は出来なかったのだから。だが、レンジは完全なる無心になる事でそれを看破してみせた。

 

 無心に状態から放つ究極の一撃で、その喉を切り裂いたのだ。一番始めに殺した神であり、類を見ない強敵であったっと言える。

 

 そんな不可避の絶対命令権を持つ神の力を使い、レンジは命令を下したのだ。

 

 衰弱しきったり魂魄や、拒絶状態にある者には効果が無さそうなだが、調和の力がそれを打ち消すのだ。

 

 レンジのように無心、いや無意識下で相手を殺しに掛かるように成らなければ、芸術神の権能は防げない。

 

「……お休み、ハジメ。目が……覚めたら、少し話を──」

 

 レンジはそのまま気を失った。

 

 神格を使用した事で、レンジの肉体は崩壊を始めていた。しかし、肉体はそれを本能的に回避する為、気絶したレンジの意思とは関係無しに、神格にアクセスを行った。

 

 崩壊する身体。それを癒す『蘇生神(アライフラ)の心臓』。崩壊と再生が、幾度となくレンジの身体で行われる。

 

 そして、それはハジメの精神も同じ事だった。もう死にたいっと思う事を禁止されたその心は、何れある答えに辿り着く。

 

 そして、その答えが彼の生き方を左右し、彼はこう呼ばれる様になる。──『奈落の魔王』と。

 

 

 




 
 まさかの迷宮前夜カット&迷宮内事件を大幅カットぉぉぉ。

 すいません。許してくだしい。
 全部、檜山君が悪いんです。はい。
 
※修正しました。
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