よければご覧ください。
プロローグ
・・・・トクン。
・・・・トクン。
一定のリズムを刻みながら聞こえるこの音は、生命の鼓動。
この星に住む73億人、その中で日本の一つの病院に一つの命が誕生した。
「おぎゃぁぁーーー!」
この世界での人口の増加は、1日におよそ20万人が生まれ、1秒に換算すると2.3人が生まれることになる。
命の誕生とは特別ではあるが、世界的に見たらとてもありふれている。
しかしこのとき生まれた子供はそんなありふれた命の誕生でありながらも、のちに空の王と言われるまで名を轟かすそんな命である。
「次のニュースです。今日の午前11時ごろに八王子市の駅前で、ひったくり事件が起こりました。しかし偶然にも近くでパトロール中のヒーローがおり、迅速な対応により、一般市民に被害が出ることなく逮捕された模様です。」
この都会特有の騒がしい街中で美しい女性とその女性の美貌を将来性に伺わせるような男の子がいた。
電気屋の入り口にある大きめのテレビから流れるニュースを聞き、男の子が立ち止まった。
「ねぇ、おかぁーさん。ひーろーってなぁに?」
そんなことを聞いたのは、まだ4、5歳であろう子供である。
名前は天野翔(あまのかける)。
背丈は100センチといったところで、子供特有のきめ細やかな白い肌。丸みを帯びており触ると気持ち良さそうな頬。母親とよく似た少しタレ目気味で大きく、銀色がかった青の目。
光の反射で輝く綺麗な銀髪。
そして、肌の所々から生えている爬虫類を思い浮かばせるような、銀色に輝く鱗。
「それはね、悪いことをした人を捕まえて、みんなのことを守ってくれるすごーい人たちよ。」
優しさに満ちた声で答えたのは、彼の母なのであろう。
名前は天野飛鳥(あまのあすか)。
168ほどの女性としては高い身長。
緑がかった、腰のあたりまで伸ばしてあるストレートな髪。
細身でありながらも腰、胸共に出るところは出ており、引き締まったくびれ。しっかりと筋の通った鼻、少しタレ目気味のパッチリとしたエメラルドを思わせる綺麗な目。
いつも微笑みを絶やさないその姿は、現代の聖母といっても過言ではないだろう。
その証拠にさっきからすれ違った男性たちは明らかに子持ちであろう女性にしばしば目を奪われている。
「じゃぁ僕もひーろーになる!お母さんは僕が守るからね!」
男の子は大きく手を広げてキラキラと輝くような満面の笑みで女性に言った。
「ありがとう。でもお母さんにはもうヒーローがいるから大丈夫よ。お母さんはかける君がみんなを守ってあげられるような、強くて、やさしくて、太陽のような、みんなを幸せにできる、そんな人になってほしいなぁ。」
女性はそんな男の子の仕草が可愛かったのが光に輝く銀髪を撫でながらそう答えた。
現在の地球において昔に言われていたように普通の人は少ない。
この世界の総人口は、超能力、通称「個性」という不思議な力を持った人たち、が8割を占めている。
いや、すでに8割まで超能力を持った人たちであふれているのならそれが‘普通‘の人になったのだろう。
そんな超能力であふれた社会を超人社会とまで言われている。
始まりは、中国・軽慶市(けいけいし)で発光する赤子が生まれたことを境に各地で次々と不思議な力’個性‘を持った子供が産まれ出した。
それにより人口8割が超能力を持つ超人になるまで次々と増えていった。
今までが普通であったものが異常に、異常であったものが普通へと。
超能力者が次々と増える中で超能力を使った犯罪が増えるのは必然であっただろう。
超能力を使って犯罪を犯す者、通称「敵(ヴィラン)」、が暴れる中で普通の人では逮捕できない中、ヴィランに対抗するように増えていったのは、通称「ヒーロー」。
ヒーローは政府が超能力使った犯罪者の対処をどうするかで長々と結論を出さないまままごついてる中、カッコよくヴィランを逮捕して行った者たちであるである。
ヒーローが憧れの対象になるのはもはや必然であった。
こうして今の現代社会を形作る社会の構造はかたまっていった。
「かけるくーん。そろそろお家着くよー?ふふっ、寝ちゃったか。今日はお買い物ではしゃいでたものね。」
飛鳥が今いるのは都会から少し外れた、緑が溢れる住宅街。
平均よりも大きめの、真新しい一軒家が彼女たちの家である。
二階建ての白塗りの清潔感あふれる外装。小さな子供が走り回れて、キャッチボールできるくらいの芝生で覆われた庭。
アンティーク長の、木目が綺麗な大きな玄関を開けて女性は家の中に入っていった。
「あなたー、今帰ったわ。かける君が寝ちゃったからちょっと荷物運ぶの手伝ってー。」
「あぁ、おかえり。飛鳥。かけるは寝ちゃったかぁ。楽しかったかな?買い物はどうだった?」
飛鳥の声に反応し、玄関右脇のあるリビングの扉から出てきたのは飛鳥の旦那であり、翔の父親だった。
名前は天野翼(あまのつばさ)。
身長は185ほど長身。
紅を思わせるような輝くような赤い、長髪。
母親と同様に、優しさがにじみ出るような笑顔が似合う優しい顔立ち。
タレ目気味ながらも、強い意志を思わせるルビーのような目。
身長が185もあるのに、そこまで広くない肩幅と、争いごとが苦手そうな風貌から頼りない印象を受けるかもしれないが、シャツをまくった腕、浮かび上がる胸板からしっかり鍛えられているのがわかる。
翼が飛鳥から翔を受け抱えるとリビングのソファに寝かせた。
その間に荷物を置き、飛鳥はキッチンでお茶を入れている。
一息つくために夫婦が横長のソファに仲良く座ると飛鳥がさっきの質問に答えた。
「買い物は楽しかったわ。かける君は貴方に似てかっこいいから何着ても似合っちゃうもの。
それより、帰りにかける君がヒーローについて聞いてきたから、僕はヒーローになる!だって。やっぱ男の子ね。いや、貴方に似たのかしら?」
飛鳥のそんな楽しそうに答える様子に一瞬見惚れながらも、翼は嬉しそうに答えた。
「そうかぁ!翔はヒーローになりたいのかぁ。やっぱ翔も男の子だもんなぁ。」
翼はよほど嬉しいのかソファで寝ている翔の頬をプニプニとつつく。
「でも、私は少し心配だなぁ。ヒーローが立派な職業ってのはわかってるけど、危険のものには変わりないもの。これでも貴方のことすごく心配しているのよ?」
いつもの笑顔が真剣なものになり、翼を真っ直ぐ見つめる。
普段から優しそうな表情が真剣な表情に変わるのを見て、翼は少しおどけたように答えた。
「もぉ、飛鳥は僕のことが好きすぎるからなぁー。」
そんな翼の様子に飛鳥の表情はジト目になりながらもより一層曇る。
「うそうそ、ごめんよ。でも君も知ってるだろう?僕の強さを。これでも、トップヒーローたちと肩を並べてるんだよ?大丈夫。怪我をしないとは言えないけど、絶対に、飛鳥を、翔を置いて行ったりはしない。僕がいつまでも守るから。だから信じて。」
そう翼は飛鳥の頬に手を置いて微笑みかけた。
そう。翼は今や人気な職業となっているヒーローなのである。
今やこの時代は個性を使うだけでも資格が必要になる。
それの取得を支えるのがヒーローについて教える、ヒーロー科がある学校である。
そこを卒業しヒーローの仕事についたのが翼である。
翼は、トップヒーローと言われる、個性「ワン・フォー・オール」を持つオールマイト、個性「ヘルフレイム」を持つエンデヴァーなどのように圧倒的とまでは行かないまでも、強力な個性を有しており、かつその甘いマスクで世間からの評判も良く、人気なヒーローのうちの一人である。
「...。ずるい。また、そんなこと言われたらこれ以上言えないじゃない。」
飛鳥は翼に手を添えられ、微笑みかけらことにより、顔を真っ赤にさせながらもそう言った。
本人たちは至って真面目ではあるが誰が見ても付き合いたてカップル以上に甘々な空間が出来上がっている。
そして翼はそんな飛鳥の表情に我慢ができなったのか顔を近づけキスをした。
飛鳥は一瞬驚いた表情を見せながらも目を閉じてキスを受け入れ始める。
そんなことを数分続けていると飛鳥は視線を感じで横を向くと、目を開けてこちらをじっと見つめている翔と目があう。
そんな翔に飛鳥は驚いて、翼から顔を離した。
「お父さんとお母さんまたチューしてるー。」
翔は慣れているのかあまり驚いた表情を見せずにそう言った。
「お父さんたちってなんでチューしてるのー?楽しいー?」
当たり前だがまだキスの意味も知らないであろう純粋な質問が翼たちにとぶ。
「翔、チューっていうのは好きな人同士で気持ちを確かめ合う時にするんだよ。翔は好きな子がいるか?」
翼がそう答えながら、翔がなんて答えるのかニヤニヤとしながら翔の返答を伺っている。
「そうなんだ!うーん、よくわかんない。でもみんな好きだよ!友達だもん!」
翔の純粋無垢な満面の笑みに翼が少し驚く。
「へぇそうなのかぁ。翔、好きな子がいるならちゃんと優しくなきゃダメだぞー。じゃなきゃ好きになってもらえないからなぁ。それに好きな子だけじゃなくて女の子にはみんな優しくするんだぞ。」
そう答えた翼に反応したのは翔ではなく飛鳥。
「ちょっと貴方、そんなこと言ってかける君も貴方みたいにタラシになったらどうするのよ!」
飛鳥が、可愛らしく頬を膨らませ、翼の肩を叩きながらそう言った。
「ご、ごめんごめん!で、でもそんな僕はタラシなわけないじゃないか!君一筋なのは君も知ってるでしょ?ずっと君しか見てなかったし。それに女性には優しくって僕は教わったからそうしているだけで...。」
翼は全く痛くもない、攻撃を食らいながらも少し焦った表情で言い返す。
「っ〜〜〜!恥ずかしいこと言わないで!.....貴方のそういう直球なところがずるいのよ。いつも。」
飛鳥は照れながらも嬉しそうに愚痴を漏らす。
翼と飛鳥がそんな言い合いを続けている中、翔も父と母の楽しそうな表情を見て自分も自然と笑顔になっていた。
そんなまた甘々な空間を作り出す夫婦に育てられている翔は幸せ者なんであろう。
しかし、こんな仲良し夫婦、しかも女性に対して恥ずかしげもなく頬に手を添えたり好意の言葉を言える父を見て育つ息子がどのようになるのは想像するのも難しくはない。
こんな何気ない日常、何気ない1日から翔の物語は始まっていく。
ヒーローとしての興味を持ち始めたのは翔が4歳に誕生日を迎える少し前の出来事の、穏やかな風の流れる、そんな昼下がりであった。