「それでは各生徒の実技成績を、モニターに映します。」
彼らが今いるところは雄英高校の会議室のなか。
広さ20畳ほどの大きさで、部屋はモニターの映像を見えやすくするためか少し薄暗くなっている。
モニターがある方向にコの字を向ける形でテーブルが置かれており、そこには十人余りの教師たちが座っていた。
今彼らが行なっているのは、実技試験の評価付である。
ポイントで実技が決まるのに評価が必要なのだろうか?と、そう思うだろう。
しかし、いや、やはりといったところか。
彼、天野翔が予測したように、撃破ポイントだけで決まるわけではなかった。
撃破ポイント以外の評価付けの対象となるのは、レスキューポイントである。
レスキューポイントとは読んで字のごとく、試験時間中に自分以外の他者を救済、援護した時に発生するポイントである。
やはりあの試験は、戦闘力だけを見てはいなかった。
ヒーローは戦闘だけをするわけではない、ヒーローは平和を守るそんな人たちだ。
よって、災害時の救済活動など、人が困っていたら助けるのも仕事のうちだ。
試験ではそれも見ていた。
この会議室では、そのポイントを決めていたのだ。
今モニターに映し出しているのはポイント付けを終え、ヴィランポイント、レスキューポイントそれぞれを同時に映し、総合ポイント順に並べて表示していた。
ここにいるのは毎年ポイント付けを行なっている先生たちが多い。
しかし、それでも驚きの声をあげるものが多かった。
「しっかし、本当に今年の試験は色々あったなぁ。」
ある一人の教師がそういった。
それに続くように次々と各人の感想を述べて行く。
「まさか2位と3位の差がここまで開くとはなぁ。一位はやはりといったところではあるが、二位がこれほどとは....。」
やはりみんなが注目するのはトップの二人であった。
一人は、爆豪勝己。
薄暗い金髪に、鋭い目つきを持つ少年だ。
度々言動に問題はあるものの、最後まで一人でヴィランを撃破い続けたタフネスボーイだ。
彼はヴィランポイントだけで77ポイントという驚くべき成績を叩き出し、ヴィランポイントだけなら1位をも上回る差をつけた逸材だ。
「所々言動に不安はあるが、強力な個性、表面とは裏腹に精密な戦闘、ただの一直線な馬鹿じゃない。あれは頭の回転が速いな。」
そう評価した言葉に各人が頷く。
それもそうだろう、雄英高校といえどもここまでの逸材が入ることは多くはない。
彼の言動に問題はあるが、言動で不合格にするよりも、入学してから矯正すれば良いと考える人の方が多かった。
次に注目が行くのは、爆豪の上を行く、1位となった少年。
天野翔だ。
この少年は知っている人は、知っていたのであろう。
No.3のヒーロー、ヒーローネーム「ウェルシュ・ドラゴン」の息子であるということを。
この成績を見ても納得の表情を浮かべている者が多かった。
「彼が、あのウェルシュ・ドラゴンの息子ですか。」
彼、翔が獲得したポイントは驚くべきことに123ポイント。
今までにない、類を見ないほどのポイントである。
今ここにいる先生方はこのポイントを見たことがないくらい高ポイントであった。そもそもたった10分で100ポイントを超えることは異常と言ってもいいかもしれない。
彼が獲得したヴィランポイントは63ポイント。
見る限り、スタートダッシュを人より一歩遅れた印象があった。
しかし、変化してからが早かった。瞬時に全体を俯瞰できるポイントまで飛び、入り口付近から反対側にいる、生徒が行くことが少ないところにいるヴィランに目をつける判断力。
上空からの急降下による一撃を与えて、その周りのヴィランを即座に戦闘不能にする、機動力に、戦闘力。
彼が後半を、0ポイントの巨大ヴィランとの戦闘、救助目的の戦闘に移らなかったら、ヴィランポイントだけで爆豪を抜いたことは想像が難しくない。
一方のレスキューポイントは、60ポイント。
はじめにカエル型の個性を持つ少女の救出により、10ポイントが与えられ、
0ポイントヴィランが現れてすぐに、現場に向かう勇敢さ、即座に状況を把握し、周りの逃げ惑う生徒に指示を出すリーダーシップ、
そして、彼が最後に行った、巨大ヴィランを一撃で粉砕するほどの戦闘力。
これらを持ってレスキューポイントへプラス50ポイントが与えられた。
入学試験前から翼の息子の翔が入学試験を受けることは知っているものも多かった。
しかし、これだけポイントを獲得するのは予想を超えたのであろう、
ほとんどの生徒から称賛の声が上がっていた。
「本当に、それだけかねぇ、俺には前半の戦闘が爆豪と同じくらい危うそうだったけど...」
誰にも聞こえないであろう声量ボソッと声が漏れた。
そういったのは彼であった。
肩よりも長い髪ではあるが、全く手入れされていないのであろうボサボサの髪、ドライアイなのか、赤く充血した目、大きなマフラーが特徴の男だ。
彼はヒーローの一人だ。
ヒーロー名は「イレイザーヘッド」
目で見た人物の個性を抹消させることができる能力からその名をつけたらしい。
彼は翔が前半に戦闘に夢中になる程の戦闘好きを危惧していた。
ヒーローが戦闘好きで悪くはない。
しかし、彼は根っからの合理主義者である。
彼の性分は避けられる戦闘は避け、出来るだけ被害を少なくする戦いを好んでいるため、戦闘好きそうな彼とは馬が合わないと感じたのかもしれない。
その二人の評価が終わると残りの生徒の評価が始まっていた。
今年は余程豊作であったのであろう、それぞれが明るい表情で、評価しあっていた。
しかし、評価の途中で評価に困る生徒がいた。
緑谷出久、緑色の天然パーマが特徴的な、少し気弱そうな少年だ。
それもそうだろう。
彼が獲得したのは、50ポイント。
ここだけ見れば、普通に上出来と思うだろうが、彼はヴィランポイントは0である。
彼は、爆豪とは対照的にレスキューポイントだけで50ポイントが与えられていた。
彼はスタート開始から他の人とは違い、個性すら使った様子が伺えなかった。
ヴィランに出会っては逃げ惑い、ヴィランに攻撃を与える意思さえないのかと思われ、教師たちはなぜこの子はヴィランに攻撃しないのだ?と思われていた。
しかし、ラスト3分で0ポイントヴィランが放たれ、それに真っ先に逃げるであろうと思われたが、彼が、巨大ヴィランの前で、岩に足を挟まれた女の子を見た瞬間走り出した。
そのまま両足に力を込めて全力でジャンプした。
そのまま、巨大ヴィランに目前までくると、右手を大きく振り絞り、ヴィランの顔面へと叩き込んだ。
ヴィランはこれにより戦闘不能となった。
ここだけ見たら、女の子のピンチに駆けつけ、強大な敵に立ち向かい、勇敢にも撃破する。と思われるだろう。
しかし、彼はたったそれだけの動作で、左手以外の四肢がグチャグチャになる程であり、
彼はそこから自由落下をはじめ、着地する手段がないのか慌てていたが、彼が助けようとした女の子に助けられるというなんとも言えない結果となる。
そのあとすぐに試験終了の合図が出て、彼は0ポイントで試験を終えた。
この結果を知っていれば、十中八九普通の試験官なら愚かと口にするだろう。
たったひとつの動作で使い物にならなくなるとは、ヒーローとしてはまともに活動すらできない。1を助ける為に全を犠牲ににするのは現実では正しくない。
それが賞賛されるのは物語の中くらいであろう。
しかし、ポイント付けを行っていたのは、幸か不幸かヒーローたちである。元々彼らは、そのような物語に憧れ、ヒーローを目指したような人たちが。
そのような人達が、このような熱い展開が嫌いなわけがない。
それによって、巨大ヴィラン撃破ということで、かけると同じ50ポイントが与えられた。
何故、彼らが評価に困っているか、それは今年の合格最低ポイントは総合50ポイントであったからだ。
そう、緑谷は本当に、本当にギリギリ合格をもぎ取っていた。
彼らは、まさかギリギリ合格するとは思わなかったのだろう。
あの行いに50ポイントを与えたが、彼を見た限り、1回の個性使用で腕がボロボロ、足がボロボロとなっていた。
それで彼が雄英でやっていけるのか、偶然勝ち取るのなら彼の一つ下の成績の方が安定しているので、彼の方がいいのではないかと、彼らは心の中で思っていた。
そんな思考を言葉に出した人がいた。
「あんな成績で、雄英に受かるとは。本当に合理的じゃないね。彼がこれからやっていけないことは目に見えている。」
ヒーロー、イレイザーヘッドである。
彼は、誰にも聞こえないであろう声量でボソボソと呟いただけであったが、
思いのほか会議室が静かであった為、他の教師たちの耳に入った。
「....。確かにそうだよなぁ。どうせやっていけないならひとつ下の子を入れた方がいいのかも。」
イレイザーヘッドの言葉に誰かが続いた。
それから、各人が思っていた言葉を発し始めた。
しかしその言葉に待ったがかかった。
「いいではありませんか。面白そうで。私はこの子がどんなヒーローになるのかが、見てみたいです。」
この学校の最高責任者の校長先生であった。
流石に校長には反論しにくいのであろう教師たちは口を閉じる。
そのまま緑谷の評価を終え、合格者全生徒の論評が終わった。