・・・・コンコン。
「失礼します。影山先生に用があって来ました。」
彼、天野翔が今いるのは、彼が通う中学校の職員室である。
彼に答えたのは、担任の先生である、影山日陰(かげやまひかげ)先生。26歳独身、絶賛彼氏募集中の人だ。
真っ黒な艶のある、肩のあたりで切りそろえてある癖のない髪。
グラマラスと言うほどではないが、しっかりとメリハリがあり、スレンダーな体躯。
鍛えてあるのか、女性特有の柔らかさはあまり見えないが、好きな人は好きであろうたるみが全くない、黒のリクルートスートから覗く太もも。
彼女の黒の髪に驚くほどに映える、真っ白の肌。
鼻筋も通っており、目元はつり目であり、きつい印象を与えるが、素材が良いのだろう、驚くほどに美人である。
「来たか、天野。お前の進路調査書を見たが、本気か?」
本当に美人ではあるのだが、悲しきかな、それを台無しにするほどの欠点を抱えている。
女性であるはずが、男顔負けの堂々とした口調、疲れが溜まってるのか眉間にシワがよっており、美人は怒ると怖いって言うが、不機嫌そうな表情により、あまり男が寄り付かない。
寄り付いたとしても、付き合って、数日で破局していたのであろう。
酒癖が酷いのである。
そのせいもあってか、26歳にもかかわらず、まだ女になったことがない。
「はい。もちろんですよ。」
天野が微笑みながらそう答えた。
あれから10年。天野も成長していた。
身長は、中学生にしては高く180ほど。髪も少し伸びて、男にしては少し長めの、綺麗な銀髪。
優しめな風貌であり、笑顔でいることが多く、女性に対しての扱いから陰では王子と呼ばれてはいるが本人のあずかり知らぬところである。
「そうか。まぁお前の成績なら安全圏だし、個性も強力だからな。受かるとは思うが、まさかお前がなぁ。争いごとが、苦手そうだし、その見た目だ。アイドルでもやるのかと思ったが。」
先生にしては珍しく少しおどけた風に言った。
その証拠に、隣にいる彼女の同僚の女性が少し驚いた風な表情をしている。
日陰は、翔とは個人的な付き合いはないが、ちょくちょくこのように翔を呼び出して話をしていたため、少しばかり気安いのだろう。
「僕も男ですからね。やっぱりヒーローに憧れてはいますね。それに、父の背中を見て来た身としては自分も父の隣に立ちたいと思ってます。争いごとは好きではないですけど、個性のせいですかね?戦うことに関しては抵抗はないですね。アイドルですか?それなら先生もアイドルできるくらい、美人で可愛いと思いますけど。」
翔が言っていることは本当のことなのであろう。
父の話をするときの目は普段の大人っぽい雰囲気から、少年のような瞳で、キラキラしていた。その表情に、隣の教員は口をぽかんと開けて眺めていた。
日陰も翔に褒められ慣れてるのであろう、顔に大きな変化はないが、少し頬が緩んでいた。
「ん、んんっ!まぁ、わかった。じゃぁ、そこで良いんだな?雄英高校で。」
「はい。」
「わかった。もう戻って良いぞ。」
それに翔は挨拶をして扉から出て行った。
「日陰ちゃん、ずいぶん楽しそうだったね?めっずらしぃー!あの日陰ちゃんがねぇ。」
隣の話を聞いていた女性の教員がニヤニヤしながら日陰をいじってきた。
「う、うるさい!別に楽しくない。ただの進路相談だ。
それに日陰ちゃんと言うんじゃない!」
日陰はさっきとは違い、頬を赤くしながらそう答えた。
彼女と日陰は大学時代から友好関係がある。
それによって日陰をよく知っているのであろう。
それによって、日陰の男っ気のなさに呆れてはいたがまさか学生相手にあんな表情したことにすごく驚いたのだ。
「でも、天野くんを呼び出す回数多いんじゃない?問題児ってわけじゃないのに、なんでかなぁ?公私混同はだめだぞ〜?」
彼女はまだ日陰をいじる。
日陰も図星であったのであろう。言葉に詰まりながら、答えた。
「...。な、何にもない!いいから仕事をしろ!」
彼女としては友人の珍しい春に喜ぶべきか、相手が生徒であったことに対して哀れむべきか、非常に悩むところである。
翔が呼び出されたのは放課後であったため、校舎の中に生徒は少なく、校庭から野球部の元気な声が聞こえてくる。
翔が教室にカバンを取りに戻ると、翔の机の隣に、一人の少女が佇んでいた。
彼女は拳藤一佳。翔の幼稚園の頃からの幼馴染である。
あれから身長も伸び、今や166ほどである。
髪型は昔と変わらずサイドに一つにまとめてはいるが、髪は10センチほど伸びており、髪を解いたら腰より少し上ほどである。
体の方も驚くべき成長を遂げた。本当に中学生なのかと、思うほどに丸みを帯びており、制服を押し上げている双丘、女性らしさがにじみ出ている引き締まったくびれ、鍛えているのであろうピチピチの太もも。
翔も男であるため、一瞬胸に目が行きそうになるが、彼はあれから成長を遂げた紳士である。
そのようなことはしない。
「翔!遅いよ!ほら、荷物持って早く帰ろうよ。」
少し不機嫌な表情を浮かべながらそう言った。
それもそうであろう、自分の好きな男が女と会っていたのだから。
一佳は知っているのだ。日陰が翔を見ていた目を。
普通は気がつかないくらい変化がないのであろうが、そこはやはり、恋する乙女の感なのか、一佳は日陰が翔を狙っているのだと思っている。
日陰としては、日々の疲れを癒すため、役得と思うくらいで翔に絡んでいるのである。まぁ日陰としては翔に迫られたら断れないと本能的には自覚しているのではあるが。
それはともかく、一佳この10年の間で自分の恋心に気がついた。
気がついたからと言って彼らの関係が変わることはないのだが。
翔としても、鈍感なわけではない。
なので先生がなぜ自分を呼び出すのか、一佳が不機嫌なのか気がついている。
しかし、この10年で染み付いたのであろう。
翔は女性には優しくするし褒める。そう教わってきたのでそれを止めることはない。
一佳もそれをわかっているため不機嫌な表情で済ませている。
翔は苦笑しながらも一佳に答えた。
「ごめんごめん。そんな不機嫌そうな表情するなよ。可愛顔が台無しだよ。」
翔の褒め言葉に慣れている一佳は照れながらもそれを流した。