翔が一佳からカバンを受け取ると、二人して仲良く帰路につく。
「そういえば翔は高校どこにした?やっぱり雄英高校?」
秋も深くなる、この時期に綺麗な紅葉が咲き誇っている。
そんな並木道を歩いていると一佳は翔にそう尋ねた。
「そうだよ。一佳も雄英でしょ?一佳は偏差値も安全圏にあったよね?」
今までの話に出てきた高校、雄英高校とはヒーロー科がある、高校である。
しかし雄英高校は、今までオールマイトを始め名だたるヒーローを輩出してきただけあって、他にもヒーロー科のある高校があるにもかかわらず、倍率が300を超えて、偏差値75を超えており、日本一と言われる某国立大も真っ青な学校である。
全11組あり、A、B組がヒーロ科、C、D、E組が普通科、F、G、H組がサポート科、I、J、K組が経営科と分かれている。
A、Bは計40名の募集で内4名が推薦であるため、36の枠を何千人と争うのである。
入学試験は筆記と実技に分かれており、実技ではヒーローとしての素質、個性の能力を見ている。
一佳はそれに少し不安そうに答えた。
「筆記は大丈夫そうだけど、実技の方が少し心配かな。」
翔はそんな一佳の表情に微笑みかけながら話しかける。
「大丈夫だよ、一佳だって一緒に頑張ってきたでしょ?一緒に訓練だってしてきたし。」
一佳は翔とともに、雄英に受かるために個性の練習を重ねてきた。
翔は彼の父親、天野翼から個性の制御を学んでおり、翼のつてで彼の同僚の息子と訓練するなど実戦を学んでいる。
まぁ、同僚の息子は嫌々と不機嫌な様子で訓練しているが。
それの他に翔は、中学二年生の頃に出会った彼女に一佳とともに雄英高校について色々と伺っており筆記、実技共に対策はしている。
「まぁ、そうだけどさ。」
一佳の不安が消えることはない。
一佳にとって最も不安なのは翔と一緒の高校にいけなくなることへの恐怖なのだ。一佳とて、ヒーローに強い憧れを抱いている。
しかし、一佳にとってヒーローとは、翔がいたからヒーローに強い憧れを抱いたのだ。
翔は、初めてヒーローを志した日から、ちょくちょく幼稚園で仲が良い、一佳にヒーローについて、自分の父親のかっこいいとこについて語り続けた。
そんな一佳が憧れたのは、彼が、翔が憧れるヒーローという職業にである。
そんな一佳の表情を見かねたのか、携帯を取り出し、ある人物へメールを送った。
「一佳。明日は土曜日だしさ、一緒に運動しようか!」
翔は一佳を安心させるように微笑みながら、そういった。
「え?運動?」
一佳は翔のそんな唐突なセリフに目を丸くした。
「そうそう。一佳が何に不安なのかわからないけどさ、今まで一緒に頑張ってきたでしょ?なら大丈夫。僕が保証するよ。でも、不安ならさ、運動して気分転換しようよ。」
翔は鈍感ではない。一佳が何を不安がっているかはぼんやりとはわかる。一佳は中学に入ってから翔にはバレないように、こっそりと翔の母の飛鳥に、翔がどこの高校に行きたがっているのか、聞いていたのだ。翔がどこに行こうとも付いていけるようにと。
まぁ雄英高校と聞いて小学校まではあまり力を入れてこなかった勉強に本気で取り組んで、雄英高校の模試判定Aまでこぎつけたのだが。
その場面を翔は偶然にも目撃して、そのあまりの健気さに、可愛らしさに、悶えていたようだったが。
まぁそれでも、一佳は勉強より運動が大好きなので、翔は運動に誘ったのだ。
「ありがと、翔。私だって頑張ってきたし、全力出すまでだよね!!」
一佳は満面の笑みで、翔の前に躍り出て、両腕を後ろに組み、体お前に倒しながらそう言った。
一佳とは同じ幼稚園なだけあってご近所さんであったため、このように登下校を共にしていた。
一佳と翔は家の分かれ道で挨拶をして分かれた。
翔は、あれから10年が経つ家に着く。新築同様だった家は少し廃れてしまってはいるが、彼の母の飛鳥が手入れを欠かさないためか、綺麗な白色を保っており、庭の手入れも行き届いているため、とても綺麗であった。
「お兄ちゃん!おかえりーー!」
彼が木目の綺麗な玄関を開けると、人影が飛び込んできた。
彼は胸に飛び込んできた人を慣れた手つきで抱きかかえた。
飛び込んできたのは、10歳そこそこの綺麗な金髪をなびかせた女の子だ。
彼の妹である、天野風香(あまのふうか)である。
彼女は翔が5歳の時に生まれた女の子だ。
まだ成長期がきていないのかスレンダーな体。
そして遺伝とも言える、穏やかな風貌をうかがわせる筋の通った鼻に、垂れた目尻と透き通るような綺麗な金色の瞳。
母に似たのか、彼女は母の飛鳥の子供の頃によく似ていると言われている。
彼女はきっと飛鳥に似て女性らしい体、マリア様と言ってもいいくらい穏やかな女性になると、翔は信じている。
こんな可愛らしい子に、反抗期が来て嫌いなど言われた日には父、息子共々泣きわめくであろう。
翔にとって大切な妹であるため、シスコンと認めている。
翔は、妹が彼氏を連れて来た日には父と共謀して危ない橋を渡るくらいの覚悟である。
「ただいま、風香。お兄ちゃんは制服を着替えてくるから、リビングで少し待っててね。」
翔はそう微笑みかけると風香を下ろし、彼の部屋がある二階の階段へと向かい登っていった。
余談ではあるが、翔と風香の部屋は二階にあり隣部屋である。そして飛鳥と翼の部屋は一階の一室だ。なぜ離れているのかは、ある程度大人な人なら分かるであろう。
飛鳥と翼は付き合ってからも結婚してからもラブラブである。それも、子供が二人だけなのが不思議なくらいである。
そんなラブラブな夫婦が夜になると子供にとってはとても刺激的であり、風香の教育に悪いことがほぼ毎晩起こってしまうので部屋が分かれているのである。
流石に今現在まで夫婦が仲良しなのは翔にとって驚きであったが。
風香が生まれ、部屋が離れるまでは翔は一緒の部屋にいた。翔は見ての通り、周りよりも精神が若干大人びている。
しかし5歳そこそこで大人なことを理解しているわけではないが、無駄に記憶力がいいため、15歳になる今まで覚えていた。
翔は親の背中を見て紳士となった。
翔は紳士である。故に女の子に恥をかかせはしないだろう。
たとえベッドであろうとも。初めてであろうとも。やり方は知っているのだ。
風香にとって兄とは特別である。
いつでも優しく微笑みかけてくれ、楽しそうに彼女の話を聞いてくれ、可愛いと褒めてくれる。
彼女の周りにいるような男とは天と地ほどの差があるのだ。家族の贔屓目を抜いてもそうである。顔は王子様と言ってもいいくらいの美形、女性に紳士的で、お姫様のように扱ってくれるその態度。
彼女の周りにこんな小学生はいない。いや、彼女の周りだけでなく日本中を探してもほとんど見つからないだろう。
そんな彼女が、兄以外の異性に興味を持たないのは当然であった。
「また一佳ねぇの匂いがする。」
風香は兄が階段を登りきるのを確認すると、少しばかり口を歪めてこう言った。
個性の副作用であるのか、嗅覚が鋭い風香は一佳の香りを嗅ぎ取った。
「まぁ、個性婚があったくらいだし、近親婚もあるよね?なんて言ったって内の家系はドラゴンに変身できる強力な個性だし、血を薄めたくないもんね。」
兄の目をもってしても家族フィルターがかかっていたのかそんな風香の性質に気がつけなかった。
いや、あのリトル飛鳥の風貌の娘がこんな危ない思考を持つなんて想像できなかったのであろう。
「一佳ねぇ、2番目だったら認めてあげないこともないよ。一番は私だけどね。土下座したら認めようかな♪」
ドSである。ここまで表裏一体、内面と外面が合わないのは珍しいのではないか。
その頃二階の自分の部屋へと入った翔は、着替えてると急に強烈な悪寒にさらされた。
本能ゆえか、今まで鍛えられた個性ゆえか、翔は敏感に反応したが彼が風香の本性に気がつくまでその正体に気がつくことはないであろう。
風香たん怖過ぎ、((((;゚Д゚)))))))