翔が部屋着に着替えて階段を降り、リビングの扉を開けるとそこにはソファーの端っこにお人形さんのようにちょぴっと座り、こちらを見て笑顔でいる妹の風香がいた。
風香にとって彼が帰宅してから眠るまでが彼女の女の見せ所、アピールタイムなのである。
風香が生まれたのは翔が5歳のことである。
それから、翔が小学校にあがると、放課後は友達とそこそこ話をし、すぐに帰宅していた。
彼は家事に忙しい母の飛鳥に変わり、放課後は彼が風香の面倒を見て来たのである。風香が大きくなり、小学校に上がってからは、風香が帰宅すると、帰って来た兄とリビングでお話をするのが日課であった。
「お待たせ。風香。今日は何のお話をしようか。」
翔は風香の隣に座ると風香を抱えて膝に乗せた。
これは翔が、風香が小さい頃に良くやっていたのだが、風香が大きくなってやらなくなると風香が不機嫌そうな顔するため今まで続けて来たのだ。
「そういえば母さんは?」
翔が母の不在に気がつき風香に尋ねた。
「買い物に行ってて今はいないよー。それより、今日なんか男の子がちょっかいかけて来たの。」
母の話題もそこそこに風香がそう言ってきた。
彼女は一佳の匂いを嗅ぎ取り不機嫌であったのである。
「そうか、きっとその子は風香のことが好きなんじゃないかな?好きな子にはちょっかいかけるのが男の子だと思うし。」
翔が少し眉を歪めながらそう言った。かけるにとって妹は大切なのだ。男に接点を与えたくないため、ここは男子が風香のことを嫌っているから風香も近ずいちゃダメだよ。といえば純粋な風香はそうするだろう、と翔は思っている。しかし、彼もそんな器の小さなことをしたくないため、そうは言わなかった。
「私が好きなのは、お兄ちゃんだけだし、迷惑だなぁー。」
風香は翔の眉毛が下がるのを見て少し満足したのか、そう言った。
「僕も風香が大好きだよ。」
翔は鈍くはないが今まで同じように接していたため、兄として好かれていると思っているので自分も同じように、好きだと返した。
風香は、このセリフに胸を高鳴らせて、やはり好きだと、再確認した。ドSであり、近親婚などと考えてはいるが、やはりまだ10歳、純粋なのである。
風香は顔を赤らめながらもその話を切り、次の話題へ移っていった。
彼らの父と母が帰ってくると、母が夕食の準備をしているうちに彼は、父の翼と話をしていた。
「やはり、高校は雄英高校のにするのか?」
あれから10年が経ち、彼は35歳となったものの、鍛えられた体は衰えることなく、顔も昔とあまり変わらず若々しいままである。
「うん。そうだよ。やっぱ父さんと母さんの母校だし、そこに行きたくって。それに、ねじれ先輩が行ってる高校だしね。」
彼のそんなセリフに嬉しくなったのか、翼は嬉しそうにそうかそうかと頷いた。
彼の父と母の出会いは、雄英高校である。
同じような個性なためか、すぐに仲良くなり、そのまま、付き合うことに。
そして高校卒業と同時に、彼らは籍を入れた。
翼はそのままプロヒーローに、飛鳥は専業主婦へと。
その2年後の20歳の時に翔が生まれる。
翼は気にはしていないが、台所で聞いてた飛鳥はねじれ先輩と言われた時にやはりか、と思った。
小さい頃から危惧していた通り、彼の父に似て、随分と女性の扱いがうまくなり、とてもモテるようになってしまった。
ねじれと翔が仲良くなってねじれがうちへ遊びにきた時に、感じた限りでは、限りなく確信に近い脈を感じていた。
飛鳥としては、自分も高校の時に翼のモテように苦労したため、彼女が応援する、一佳に頑張って欲しがっている。
一佳に聞いた話では、先生が翔に気があるんじゃないかと聞いたときは、流石に呆れたが。
それに飛鳥はふと思う時がある。風香が今もそうだが、翔がねじれ先輩と言った時にしていた目を見て、まさかと思ったのだ。
流石にそれはないなと思ったが、女の感故か、その微笑みの向こうに何かがあると感じ取っていた。
彼女は、好きならばしょうがないと既に諦めの感情を持っているが、翔がいつか、刺されるのではないか?と、ヒーロー活動での怪我よりそっちの方が多そうだ。と少し、笑ってしまった。
それから、家族団欒で食事を楽しみ日が沈んでいった。
翔の休日の朝の日課は、5時に起床しての1時間のランニングである。
彼の個性「竜化」はとても強力な個性だが、デメリットがないわけではない。
彼の個性のデメリットは個性の使用時の体力の消耗の激しさである。
彼の竜化の特徴として、三段階のレベルがある。
一つ目は通常時の人間形態。これは普段通りであるため、体力の消耗はない。
二つ目は、彼が10歳の時にできるようになった、部分竜化。
これは、変化しているだけでも、体力を使ってしまう。そこそこの激しさの戦闘では、1時間がリミットである。それからは休憩を20分は挟まないと変化することすらできない。
これでもかなり時間が伸びている。
はじめの頃は1分変化しているだけでも、バテていたのだ。
体の変化は、体を銀の鱗が覆い隠し、150センチほどの尻尾が生え、瞳が爬虫類のようになり、全体的により筋肉質になり身長が2メートルほどになる。
そして背中の肩甲骨あたりから生える、一対の銀色に輝く大きな翼、直径150センチほどもある。
そして三つ目は、竜の完全体である。
これは文字通り竜となる。
最大で全長7メートルくらいで、全身銀の鱗で覆われており、完全なドラゴン形態となるのだ。
しかしこれのデメリットもひどく、時間にしておよそ10分。間に20分ほど挟み、次に変化できるのは、第二形態のみ。
いや、無理をすれば第三形態まではいけるだろうが、第三形態になると疲労が酷いため、彼はまだ一日に1回のみと決めている。
翔は体力を増やすために毎日1時間は朝に走っているのだ。
彼がランニングから帰ってくると、向かう先は庭である。
そこそこの広さのため、彼はそこで父の翼と組手を行なっているのだ。
翼と向かい合った翔は精神を集中させる。
体のうちにある力を感じ取り、全身に行き渡らせる。
感覚としては心臓にある熱を動脈を通し、全身に行き渡らせるような感覚だ。
通常の人間形態のみの時でも、力をより引き出すためである。
通常時では他の人より少し力が強く、頑丈であるくらいではあるが、訓練のため力を引き出した。
彼はこれを5秒ほどかかっているが、彼の父はコンマ5秒ほどでできてしまう。さすがプロである。
二人とも準備を終えると、はじめに動いたのは、翔だ。即座に足に力を込め3メートルほどあった間合いを一瞬にして詰めた。
翔が翼の顎にめがけて拳を振るうが、翼が大きくバックステップをして躱した。
「かける、普通に急所狙ってるじゃん!」
翼は、訓練ではあるが躊躇わずに狙うその姿勢に冷や汗をかいた。
いや、そのように教えたのは翼ではあるが。
そこからは、翼が動いた。翔と目があっていたのを利用し、目線で誘導して、その隙に一気に翔の左脇に周り込み、右足を大きく動かし、回し蹴りを放つ。
翔は、目線で誘導されたことに、一瞬反省しながらも、とっさに腕をクロスさせてガードした。
「父さんもすっごい重いの放ってくるね。」
翔は、腕をぷらぷらと振り、より一層笑みを深くしながらそう答えた。
それからは激しい攻防戦である。
基本的に、技量差ゆえに、父が攻撃に回り、翔に反撃の隙を与えないのではあるが、息子の鋭い一撃が飛んでくることがあるため、彼の訓練としても十分に活用できている。
それから、30分ほどして彼の母の飛鳥に朝食に呼ばれるまで組手は続いた。
ちなみにこの時、風香は二階の窓から身を隠しながら兄の勇姿をビデオに収めていた。
この風香に気がつかない兄と父ではあるが、戦闘中であり組手をしていたせいというのもあったが、それだけでなく、それだけ風香は気配を消すのがうまかったのであろう。
なんていっても、兄の盗撮歴3年である。
貫禄が違うのである。
風香さん。なんてこったい。