では、どうぞ〜
唐突に事件は起こる
微睡みの中から意識が覚醒するのを、少年は自覚できた。
そろそろ朝……起きて朝食の準備をしなければ。でないと煩い姉に文句を言われてしまう。
年上のあんたが作れよ、とは言わない。自分が好きでやってることだし、何よりもう慣れた。
いつものように寝返りを打ち、まぶたを開き、さぁ1日を……
「あれ?」
目の前に見える天井は、どう見ても知らないものだった。いや、似たようなものを見たことはある。病院に入院していた時の天井と似ている気もしなくもない。
とりあえず身体を起こしてみる。
「ここ、どこだ?」
おかしい。
少なくとも自分の部屋は、家は、間違いなく和風だったはず。襖と畳、そして布団。あまりいろんなものを置かない自分の部屋は、それくらいのものしかなかった。
では、今自分がいる場所はどこだというのだろうか。
白い天井に白い壁。およそ和風とは言えないベッドには、何やら色々と置かれている。備え付けらしいテーブルと椅子、そして棚には紅茶のセット。
「えぇと……どこだここ?」
全く心当たりのない部屋で目覚めたことに、少年は戸惑う。まさか誘拐?いやでもそれなら拘束なりされているはずだろう。第一自分を誘拐するような相手がいるとは思えないし、自分は確かに自室で寝たはず……
「あれ?」
何故だろう。昨日の出来事が全然思い出せない。まるで靄がかかっているかのように、記憶を辿ろうにも辿れない。
なんだこれは。
記憶が断片的にしか思い出せないことに、僅かながら不安を覚える。しかしそれよりも今は自分の現状をもっとしっかりと把握しなければ。
「そういえば、こんな服持ってたか?」
しみじみと呟きながら、改めて自分の服装を見てみる。黒と赤を基調にした洋服は、どうにも自分の記憶にはないものだ。しかし同時に、何故かやたらとしっくりくる。
「うーん……いよいよよく分からなくなってきたな」
と、少年が呟いたその時、部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。
長い黒髪で長身。全身が紫色を基調とした衣装に包まれている。日本人であることは間違いなさそうではあるが、今まで見たどんな女性よりも美しくあり、また妖しくも見えた。
「エミヤさん、起きていますか?そろそろ……あら?」
「えっ」
少年と目があった女性が止まる。
口を開き、女性を見上げる少年。
驚きの表情で少年を見つめる女性。
思いもよらぬ邂逅は、今後の2人の関係を変えるなどと、誰が予想できただろうか。
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サーヴァント、源頼光は戸惑っていた。
いつもの時間に現れなかった同僚が気になり、その部屋を訪ねてみると、
「?お姉さん、誰だ?」
ブーディカに何処か似ている赤い髪に、琥珀のように見える瞳。あどけなさの残る表情に、声変わりする前の高めの声音。
全くもって見覚えのない少年が、自分を見上げている。
驚きこそしたものの、ここはカルデア。いつまた新しいサーヴァントが現れてもおかしくはない。一先ず挨拶から始めるべきだと判断し、頼光は少年に目線を合わせるために屈み込んだ。
「あらあら、初めまして。私、源頼光と言います」
「源頼光?なんか、昔の英雄みたいな名前だな」
「あら、私のことを知ってるのですか?」
「源頼光のこと?ああ。歴史の授業とかで聞いたことあるぞ」
「歴史ですか?」
自分のことを知識として得たわけではなく、歴史の授業で学んだ、ということは少なくともこの少年が自分より後の時代の日本から来ていることがわかる。
「あなたのお名前、聞いてもいいですか?」
「?いいぞ。俺はしろうっていうんだ」
「シロウ、ですか」
同じ名前のサーヴァントが1人思い浮かぶ。
自分より後の日本に生まれた彼、天草四郎時貞。思えば彼と同じく、赤と黒の服をこの少年は来ている。もしや、彼の幼い姿?
「なぁ、頼光のお姉さん、ここってどこだ?」
「どこ、と言いますと、(この部屋に)迷い込んだのですか?」
「うん。(この場所に)迷い込んだみたいだ」
「あらあら。良ければマスターのところに行ってみますか?きっと(自分の部屋が)分かりますよ」
「マスター?よくわかんないけど、行ってみるかな」
絶妙にベストマッチしているようでミスマッチしてる会話である。しかし当の本人たちはそのことに全く気づかない。
「では、私が案内しますね」
「ありがとう、頼光のお姉さん」
ニパッ、という効果音が聞こえるような気がした。無垢な笑みで自分を見上げる少年の様子に、
———トクン
と、一瞬胸が高鳴る。この気持ちのことはよく知ってるつもりなのに、何故か新鮮味さえ感じる。
「では手を。ここでは逸れてしまうと大変ですから」
「そうなのか?」
そう言いながら、少年が頼光の手を握る。自分より少し体温の高いその手を感じ、また先ほどの高鳴りを感じる。
「では、参りましょう」
そう一声かけてから、頼光は少年の手を引き、その部屋を出た。
そもそもその部屋の主がどこに行ったのか、そのことは完全に頭から抜けていた。
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今日の朝食当番が別の人だったから、エミヤと頼光がキッチンにいないことに対して疑問を持つものはいなかった。
が、逆に食堂でご飯を食べている間、マスターの側に頼光がいなかったことに対しては、何名かが首を傾げていた。
そのうちの1人でもあったマスターの藤丸立香は、自室に戻り、頼光の様子を確認すべきかどうかを悩んでいた。と、
コンコンコン、と扉をノックする音。続いて聞こえた声に、心配事はすぐに消える。
「マスター、いらっしゃいますか?」
「頼光さん?丁度今会いに行こうかと思ってたんだ。朝食堂で見かけなかったから」
「あらあら、心配をおかけしたようですね。申し訳ありません。ですが、マスターに確認したいことができまして。入っても良いですか?」
「俺に?うん、いいけど」
「失礼しますね」
扉が開き、いつも通りの頼光が入ってくる。綺麗な長い髪も、紫が多い衣装も、手をつないでいる少年も……
「ってあれ!?」
「あんたがマスター、って人か?よろしくな」
そう行って笑いかけてくる少年は、立香の初めて見る相手だった。少年の姿のサーヴァント自体は珍しくもない。カルデアでは成人と少年の両方が現界しているケースもいくつかあるからだ。
どことなく誰かに似ているような気もしなくもないが、この髪色のサーヴァントで彼と似ている相手には心当たりがない。
「えっと、頼光さん?この子は?」
「?マスターが召喚していたのではなかったのですか?どうやら迷子になっていたようなので……マスターに合わせるのがいいかと」
「いや、俺も召喚した覚えはないんだけど……」
困惑した表情を浮かべる立香と頼光。そんな2人の様子を、少年は頼光と手を繋いだまま見ている。
「えっと、俺は藤丸立香。カルデアのマスターだ。君は、その……」
「俺はしろうだ。よろしくな」
「あ、うん」
ステータスが見えることから、間違いなくサーヴァントなのだろう。いや、それにしても、驚きのステータスである。
低い。
いや、本当に低い。
最弱を自称するアンリ・マユや、戦闘は苦手と言っていたマタ・ハリと比較しても、そのステータスは大幅に下回っている。
こんなサーヴァントがあり得るのだろうか?
なんにせよ、シロウ、というサーヴァントには1人しか心当たりがない。
「えーと、シロウは、もしかして天草って名字?」
まぁ多分そうだろうとは思いながらも、一応確認してみる立香。しかし、
「違うぞ」
と、予想外の答えが返ってくる。
えっ、と口を開いた立香と頼光に対し、少年は彼らにとって衝撃的な名を口にする。
「俺は士郎、衛宮士郎だ」
というわけで、しばらく子供エミヤ、もとい子供士郎がカルデアに現れます
何話か引っ張りそうですけど、ご容赦