今回はそのパニックの導入部的な感じなのかな?
いや、思ったより長くなりそうだなこの事件……
突然の事に、士郎は戸惑っていた。
背後から抱きしめられたため、頼光の表情が見えない。なんとか身を捩らせ、抱きしめられたまま振り向く。
「頼光さん?」
彼女の顔を見上げ、士郎は更に戸惑う。彼女は、どこか泣きそうな表情で彼を抱きしめているのだから。
「どうしたんだ?どこが痛いのか?苦しいのか?マスター、呼んでこようか?」
不調でもあるのだろうかと心配し、士郎は頼光の様子を伺う。しかし質問に対する回答はなく、彼女の抱きしめる力が少し強まるだけだった。
「頼光さん?」
「……のですか?」
「えっ?」
「……誰にも、甘えたことがなかったのですか?」
震える声で頼光が問いかける。どこか悲痛なまでのその声は、幼い少年の動揺を誘うのに十分だった。
「知らずに育ったのですか?母親を」
「知らずに育ったのですか?母の愛を」
「知らずに育ったのですか?甘えることを」
これまでに見てきた
きっと良い母に育てられていたのだろう、なんて思っていた。
けれどもそうではなかった。
きっと彼は己の面倒を見て、身内の面倒を見て、そうならざるを得なかっただけなのだ。この少年を見ていてもわかる、彼は心優しい人だ。そんな彼だからこそ、人の面倒を見るのも、苦ではなかった。
母を知らずに育ったが故に、誰よりも母親らしさを持った彼。それはひどく歪にも思え、同時に頼光にとっては寂しく見えた。
子供が寂しがる時、彼はいつもそばに居る。でも彼が寂しかった時、誰か居てくれたのだろうか。
子供が怪我をした時、彼は優しく手当てしてあげる。でも、彼が怪我をした時、誰か手当てしてくれたのだろうか。
子供が良いことをした時、彼は笑顔で褒めてあげる。でも、彼が良いことをした時、誰か褒めてくれたのだろうか。
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「?……よく分からないけど、ありがとな頼光のお姉さん」
「?どうして、ですか?」
「だって、今泣きそうな表情してるの、きっと俺のためなんだろ?俺のことを思ってくれてる。だから、その……ありがとう」
少し困ったようで、でも感謝の気持ちが伝わる。そんな笑顔を、士郎は頼光に向ける。きっと何故泣いているのか、よくわかっていないのだろう。
それでも彼は、その事を驚きながらも、戸惑いながらも、自分の為なのだと感じ、感謝した。
(優しい子に育っているのですね……誰に教えられるでもなく、誰に育てられるでもなく……父親と姉、そのお二人がいたから、なのかもしれませんね。でも……)
家事は全くできないから、自分が面倒を見ている、そう彼は言った。それでもその時の彼はめんどくさがっている様子はなかった。それどころかどこか嬉しそうにも見えた。
誰かの役に立っている事。
誰かの助けになっている事。
その事こそが、彼にとっての喜び。
まだ幼い少年が抱くそれは、とても歪で、何処までも他人本位で、何処か危なっかしい。
頭をよぎるのはあの赤い外套。
休む事なく、彼は誰かのために動いていた。
例えば厨房で食事を作る事。
例えば子供の世話をする事。
例えば病気の者の看病をする事。
例えば女性陣の相手をする事。
例えば模擬戦の相手を務める事。
例えば危機的状況で、真っ先に盾となる事。
彼が誰かを庇うようにし、怪我をしたことは一度や二度のことではない。
時にそれはマスター。
時にそれはデミ・サーヴァントのマシュ。
時にそれはレイシフト先の人間。
そして時にそれは仲間のサーヴァント。
『どうして、か……そうだな。私がそうしたいから、としか言いようがないな。誰かの為に何か出来るのなら、それをしない理由がない。ただそれだけのことだよ。それに、私自身も、そうする事に喜びを感じているんだ』
そう言って、彼は笑った。何処か幼くも見える、クシャッとした笑顔で。
いつだって、彼は人のために動く。
それが、
その優しさの果てが、
でも、それでは……
それでは……
(彼はいつ、誰かに甘えたのでしょうか……)
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「頼光さん?早くしないと、みんな来ちまうんだろ?」
なかなか離してくれない頼光の様子に、少し困った顔をして笑う士郎。ちらりとまだ調理途中のキッチンに視線を向けて、もう一度頼光に微笑みかける。
「そう、ですね。皆さんも、マスターもお腹を空かせちゃいますからね」
瞳に溜まった涙を指で拭いながら、頼光は士郎に微笑みかける。
「ではペースをあげましょう。大丈夫ですか、士郎?」
「うん……って、今、呼び方」
「ダメ、ですか?」
「そんなことはない、けど……なんだか不思議な感じだ。頼光さんみたいな大人の女性に名前を呼び捨てにしてもらったことなんてなかったからな」
少し照れくさいのか、はにかみながらも士郎は料理の手を進める。頼光がペースを上げてみても、一応ついて来られている。
もう間もなく終了といったところで、
「……士郎、少しいいですか?」
と、頼光が声をかける。
「何?」
「実は、「邪魔するぜ!っと、今日は頼光の姉ちゃんだけか?」……あら?」
続く頼光の言葉は、営業時間と共に遮られる。入ってきたのは青い髪に全身青いタイツのような服装。長い髪をしばり、朗らかな笑みをひっさげた男。
「クー・フーリンさん。早いですね」
「おう。なんか知らんが、あの赤いのが見当たらないってセイバーのやつが騒いでたもんでよ。まぁ一応確認ついでに飯を食おうと思ってな。まっ、やっぱいないみたいだな」
ドサリとカウンター席に座るクー・フーリン。
「ご注文は?」
「おう。取り敢えず肉が食いてえ。いいもんあるか?」
「それでしたら今日はハンバーグがありますよ。どうですか?」
「おっまじか?ありゃマジでうまいからすぐ無くなっちまうしよ。早くにきて正解だったぜ。んじゃ、それのセットで頼むわ」
「はい」
士郎が手が離せない状態だったため、頼光が注文を聞く。人気メニュー、というよりも騎士王オルターズにほとんど取られてしまうハンバーグがあると聞き、クー・フーリンは上機嫌だった。
営業時間とはいえまだお昼時ではないためか、他の客はまだ来ない。料理を待ちながら首を伸ばしキッチンを覗き込むクー・フーリン。やはり肝心の赤を纏った弓兵は見当たらなかった。
「ここにもいねぇのかよ。野郎がいないなんざ、事件でもあったのかよ」
「あ、それはですね「頼光さん。注文のやつ出来たぞ」」
「なっ!?」
と、丁度そのタイミングで2人のそばにくる1人の少年。その姿を見た瞬間、クー・フーリンは思わず椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。
「?なんだ?」
「な、お前っ!坊主!?何で!?小さっ!?子どもっ!?何で!?」
「?」
「あらあらまぁまぁ」
士郎を指差しながら、驚きのあまりに言葉がまともに出て来ないクー・フーリン。首をかしげる士郎。何やら訳知りらしいクー・フーリン、その様子に頼光は疑問を抱いた。
というわけで、折角なので兄貴に最初に知ってもらおう!
というお話でした〜
えっ?槍弓押しなのかって?
いや、弓剣押しです。
お楽しみはとっておこうかと