いやだってなんか共通点多くありません?
二刀使い、剣を投げる戦法、漂流経験、日本……
その辺り考えると、ね
まぁ意外と思われるのは承知で、いざ!
譲り受けたのは一振りの剣。
人の
自分の望む領域に届いていない、そう彼は言った。
若い見た目に反し、どこか年寄りじみた言動の彼はしかし、刀匠としても、剣士としても、自分が認めるに申し分なかった男。
鍛えた剣は名刀と呼ぶにふさわしく、剣に宿る願いは強き信念。剣を振るう才能はないと称したものの、その剣は自分からしても十分に強者のものと思えるほど。
自分は見ていなかったが、あの厭離穢土城を一刀の元に斬り伏せてみせたのも彼だとか。
剣に人生を捧げ、剣によって消える。
奇しくもそれは、形は違えど、あの城で自分が迎えた結末にも近いものを感じる。
その後、自身はカルデアに召喚されることとなったが、彼の姿は未だ見ていない。
願わくばもう一度会って見たい。
会って、
その剣の果てに、剣製の果てに———
———彼はどこへ辿り着いたのだろうか。
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二刀流の剣士といえば誰を思い浮かべるだろうか。
ここカルデアでは、一人真っ先に思い浮かべられる人物がいる。
本来剣士ではない彼を思い浮かべるのはおかしな話ではあるが仕方がない。それが彼の基本戦闘スタイルなのだから。
白と黒、ふた振りの夫婦剣を自在に操り、巧みな技で防ぎ、また攻める。
決して才能があったわけではない。しかしそれでいて、彼の剣は、あらゆる時代の英雄からも認められるほど。
今日も彼はその剣を振るう———
———赤い外套をはためかせながら。
「戦闘終了だ。帰還するとしよう、マスター」
「うん。それにしてもやっぱりエミヤはすごいね」
「む?」
「この前、セイバーばかりでパーティーを組んでレイシフトした時、みんながエミヤの話をしてたんだ」
「私の?」
「ああ。エミヤの剣についてね。みんなから結構好評だったよ。特にモードレッドなんか、今度勝負してやるって張り切っててさ」
最古参組であるエミヤは、必然、能力が高いため、数多くの戦場を経験している。その際、ほぼ全てのサーヴァントとともに戦ったことがあると言っても過言ではない。
神秘の薄れた時代から来た英霊。それだけで注目するのに十分だというのに、アーチャーでありながら高い近接戦闘能力、礼儀正しい姿勢、子供に見せる優しさ、そして料理の腕。
そんなエミヤは、度々他のサーヴァントから仕合を申し込まれることもある。
「やれやれ。私は剣士ではないのだがね」
「それだけエミヤの実力を認めてるってことだよ」
「まぁ、かの円卓の騎士に認めてもらえるのは光栄ではある。が、モードレッド卿が期待するほどかは保証できんさ」
「それでもいいから、受けてあげたら?」
「その時が来たら考えるとしよう」
マスターとの何気ない会話を楽しみながら、エミヤは苦笑を浮かべる。頭の中ではどうやってモードレッドから逃げ切ろうか、今日のご飯は何にするべきなのかなんてことを考えながら……
(今の剣……似てる?うーん……)
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カルデアの食堂が繁盛していない時はない。職員はともかく、本来栄養補給が必要ないサーヴァントたちの姿でも食堂はいつも賑わっている。それは食事が彼らにとって、最早娯楽の一種となっているからだった。
毎日のように食堂には様々なメニューが並ぶ。調理組のサーヴァントたちの得意料理はもちろんのこと、季節に合わせた特別なメニュー、子供から大人まで楽しめるデザート、更には
その中にはもちろん一般の食堂で提供されている、いわゆる定番メニューももちろんあり、職員たち曰く、当初のカルデア食堂よりも圧倒的に質が良くなった、とのこと。
さて、ある日のお昼頃。
午前中のレイシフトメンバーが帰って来る時間が迫る中、料理長ことエミヤは忙しなく手を動かしている。
「エミヤ、こちらは終わりましたよ」
「あぁ。助かる、マルタ」
本日のパートナー(やましいことは何もないよ、ホントだよ)であるマルタに礼を述べる。丁度自分の下ごしらえも終わったところで、時計をちらりと見る。
「丁度いい時間、といったところか。みんなが来る前に、一息入れよう」
「ええ」
「それから、私の前でも気を張る必要はないと前にも言ったと思うのだが」
「そうね。でも、いつ誰が来るともわからないのですから、気を抜くわけにはいかないのです」
「君も律儀だな。では、今日の仕事が終わったら、お茶でもどうかね?私の部屋でなら、少しくらいは気を休めても、問題はないだろう」
あまりにもさらりと行なっているためツッコミにくいが、どう聞いても部屋デートへのお誘いである。これには思わずマルタも内心、どぎまぎしてしまう。本人に全くやましい気持ちがないのはわかっている。何度か彼の部屋で二人きりというのは経験したことがあるものの、彼が何かする様子など全くなかったのだから。が、こうも当たり前のように誘うあたりが恐ろしい。
「ええ。それはとても楽しそうです。お邪魔でないのでしたら、お呼ばれされても良いかしら?」
「勿論だ。私から誘ったのだからな。精一杯もてなすとしよう」
内心の動揺を気取られないようにし、聖女の姿のままマルタは答える。笑みを浮かべるエミヤから視線を逸らし、食堂を眺めると、丁度扉が開く。
「ただいま」
「おかえり、マスター」
「おかえりなさい」
レイシフトを終えた立香が、マシュとパーティメンバーを引き連れながら食堂に入って来る。
今日はランサーの素材集めのために、セイバーのサーヴァントたちが駆り出されていたらしい。立香より早くカウンターにたどり着く影が2つ。
「「エミヤ、メシだ」!」
見事に声をハモらせるそっくりな顔をした二人。とはいえ片方は白い肌に黒いドレス、もう片方は上半身はさらしに近いものを纏っているだけ。
「やれやれ、帰りの挨拶よりも先にそれか。で、オルタとモードレッドは、何を所望だ?」
「聞くまでもない。ハンバーガーに決まってるだろう」
「俺もだ。べ、別に父上がそれにしたからってわけじゃなくて、単純にそんな気分だっただけだからな」
「了解した。少し待ってろ。他の者は何がいい?」
「あ、私もお手伝いします」
手早く準備を進めながらも、他のメンバーの注文も受けるエミヤ。聖徳太子かお前は、とかマスターがツッコミを入れたくなるほどに、エミヤの仕事処理能力は高い。多数の注文を同時に受けてなお、彼がミスしたことは一度も見たことがない。
「マルタ、ガウェインとマスターに生姜焼きを頼む。サラダは、」
「ええ、いつものところね」
「助かる」
「マシュ、特製スイーツがある。鈴鹿御前とデオンに持っていってくれ。ついでに君もひとつ食べるといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
調理組だけではなく、お手伝い組の指導も全てエミヤがしている。(メンバーは今のところマシュ、セイバー・リリィ、ジャンヌ。別枠でジャックたち子供達も手伝いに来ることがある)素早く手を動かしながら指示を出し、お手伝い組への気遣いも忘れない。まさに料理長の名の通り、カルデアのキッチンの主人である。
そんな彼が最後に用意しているのはとてもシンプルな一品。麺を茹で、器に盛り、温かいつゆをかけたらあとはネギを少々飾るだけ。
「ほら、かけうどんだ」
「待ってました!」
見た目的には他と比べて簡単で質素なものではあるが、それを注文した本人は、その場の誰よりも目を輝かせる。アルトリアの一人が一緒に並んでいる中で一番と言うのだから、その嬉しがりっぷりは想像に難くないだろう。
思わず見ているこっちまで嬉しくなる程の様子に、エミヤがクスリと笑みをもらす。そんなエミヤや微笑ましげなマスターの様子など御構い無しに、彼女はうどんをすする。
「ん〜、うまい!やっぱりここのうどんは最高ね」
「かの大剣豪にそう言ってもらえるなら、作りがいもあるな」
「ぷは〜。麺もつゆも美味しい〜」
幸せそうにうどんをすする美少女剣士、新免武蔵守藤原玄信。
マスターからの愛称は武蔵ちゃん。
日本人ならば誰もが名前を聞いたであろう、二天一流の大剣豪。
宮本武蔵がうどんを完食するのに、さほど時間はかからなかった。
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昼の担当を終え、片付けまで済ませ、マルタとのお茶を楽しんだエミヤ。今日の夕飯は他のサーヴァント達が担当することになっているため、少しばかり手持ち無沙汰になった彼は、一先ず鍛錬を積むことにし、トレーニングルームを目指していた。
と、途中で立ち止まる。溜息を1つ付き、片手で額を抑える動作をしながら話しかける。
「やれやれ全く。君のその悪い癖はどうにかしたほうがいいと思うぞ。確かそれが原因で厄介な目にあったのではなかったかね?」
「む、それはそうだけど……というか、やっぱりやるわね。生半可な相手じゃ、この誘いに気づけないんだけど」
感心したように物陰から姿を現わす武蔵。先程までエミヤの感じていた鋭い気迫は既にない。
まるで抜き身の刀を突きつけられたかのよう、そうエミヤは感じた。刀に手を置くことすらせずにこれほどまで強い気迫は、なるほど、まさに剣豪と呼ぶべき者の素質だろう。
「それで、何の用かな?まさか本気で勝負がご所望というわけでもないだろう?」
「いやぁ、それが本気も本気なのよ、これが」
たはは〜と笑いながらさらりと言ってのける武蔵に、エミヤの眉間にシワがよる。
新免武蔵が召喚された直後くらいから、様々なサーヴァントに勝負を挑んでいるところは見てきた。しかしそれはあくまで彼女が認めるに足る実力を誇る猛者たちばかりだった。
彼らに比べ自分は彼女のお眼鏡に適うかといえば、間違いなくないと言える。そもそも自分の剣は三流も良いところだ。才のない者がそれでも諦め悪く振るい続けた結果の産物。
「私では君の相手など務まらないさ。君も分かっているだろう?私に剣の才能など、これっぽっちもないということが」
「そうね。確かにそう。あなたは剣士などではなく、ましてや剣豪でもない。それでも、あなたと戦いたいと、本能的に思ったの。その戦いで、きっとわかることがあるって」
いつものおちゃらけた様子は鳴りを潜め、武蔵の剣士としての視線がエミヤを射抜く。その眼はこれまで数多の強者、剣豪、豪傑……英雄に向けられてきたもの。それを向けられることは、剣を振るうものとして、何より彼女と同じ
そんな誘いを断ることなど、彼にはできなかった。英霊の中でも末端と言える自分、その自分を試したいという剣豪。
「分かった。ならば、こちらも全身全霊をかけて、お相手しよう」
「よっしゃ!それじゃあ、トレーニングルームに行きますか!」
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カルデアでは時折争いが勃発することがある。
もちろん、全面的な交戦を許可するはずもなく、そういう時は比較的穏便な手段で収めてもらうようにしている。
ゲームで競う、運を競う、第三者に決めてもらうなど、その方法だけでも様々だ。
その中の1つとして、大衆の前で行う決闘がある。この時必ず歯止め役に複数のサーヴァント、及びマスターがいなければならないという他と比べてかなり厳しい条件ではあるものの、元々好戦的なサーヴァントが多いこともあって、割とポピュラーなものだった。
マスター自身も、
「みんなの実力が間近で見られて参考になる」
と肯定的だったこともあって、時折トレーニングルームでは決闘が行われている。
「それでは両者、前へ」
そんな時に審判役を任されるのは、裁定者の役割を持つルーラー組。今回の審判はジャンヌ・ダルク。普段の優しい雰囲気と違い、ルーラーとしての凛とした空気を纏っている。
ジャンヌの声に応えるように、武蔵とエミヤが前に進み出る。
「しかし、今回は武蔵が相手か……アーチャーの野郎にゃちときついんじゃねぇか?」
「それはどうだろうなぁ。そう長く打ち合った訳ではなかったが、奴の首を落とすことは拙者にもできなかった。案外、良い勝負になるかも知れん」
「彼の努力は一朝一夕のものではありません。それだけ彼が剣に誠実であったということです。それに、セイバーとも渡り合えるのでしょう?ならば、例え相手が大剣豪であっても、遅れはとらないかと」
「それ、少し贔屓目が入ってないかしら?まぁでも、確かに坊やの積み重ねた剣の年月も相当なものでしょうから、瞬殺は避けられるかもしれないわね」
「武蔵殿とエミヤ殿ですか……日本出身の私としては武蔵殿を応援したいような……」
「まぁまぁ。拙僧は両者ともに強者故、黙して見守るのが徳かと」
「あらあらまぁまぁ。金時、貴方はどちらが勝つと思いますか?」
「俺っちに聞くなよ。ただまぁ、ゴールデンな戦いにはなりそうだがな」
「ちぇっ、なんだよエミヤのやつ。俺が誘っても全然乗ってくれないのによ」
「貴方はあからさまにエミヤに対して敵対心を出し過ぎですよ、モードレッド」
「彼の実力は王も認めるところ。この戦い、中々に興味深いですね」
「アーチャー、頑張ってください!」
「無様な真似だけはするなよ」
「エミヤさん、応援してますよ〜!」
広いはずのトレーニングルームでも狭いと感じてしまう。それほどの数の観客が集まっている。あまりにも狭く感じてしまっため、特別にレイシフトを行い、広い闘技場で決闘が行われることになった。
「いやぁ、まさかここまでたくさん人が集まるなんてね」
「君の剣もまた、特異なものだからな。きっと彼らも興味が尽きないのだろう。空位に辿り着いたその剣には、私としても興味があったしな」
「うーん、そう言ってもらえるのは嬉しいけど……」
(多分、どっちかというとそっちの戦いを見に来ていると思うんだよね〜)
と、最後の言葉を飲み込み、表情を引き締める武蔵。エミヤも同じように瞳を鋭くする。
「試合の形式は一対一。ルールは相手に一撃を入れる、武装解除させる、或いは負けを認めさせること。これ以外は持ち得る全ての力を行使することが許可されます。英霊としての誇りにかけて、このルールを守ってもらいます」
「おっけー」
「了解した」
「両者、用意!」
武蔵が二刀を鞘から抜き、エミヤが夫婦剣を手に取る。互いに構え、相手を見据える。
途端に訪れる静寂。誰もが二人の様子を見逃すまいと息を殺して見入っている。
「いざ、尋常に勝負……はじめ!」
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ジャンヌの旗が振り下ろされると同時に、エミヤと武蔵が駆け出す。日本刀と中華刀が振るわれ、闘技場の中央で激突する。鍔迫り合いの状態になる二人。互いの顔が近くまで迫り、その表情の細部まで見て取れる。
「じゃ、お手並み拝見といきますか!」
「こちらの手並みを見せるのはいいが、別に勝ってしまっても構わないのだろう?」
「おっ、言ってくれるわね!それじゃあ、遠慮なく行くよ!」
攻勢に出たのは武蔵。二刀を巧みに操り、時にフェイントを交えながら攻め立てる。鮮やかな天元の花とまで謳われた彼女の剣は、荒々しくも美しさを持つ。
劣勢や相性、実力差など、あらゆる状況に対応できる柔軟さ。
彼女の使う二天一流は、どんな相手に対しても、勝ちを奪いに行くための戦法である。
が、対するエミヤはひたすら防御に徹している。二刀を使うことによって固められた守りは、後退しながらではあるものの、確実に武蔵の攻撃を防いでいる。
鷹の如き眼によって、彼は武蔵の動きをしっかりと
「やっぱりやるわね。そこいらの剣士なら、もう既に何度かは斬り倒しているところだもの」
「お褒めの言葉、光栄だな。しかし君はまだまだ余裕があるように見えるが?」
「お?それは余裕の宣言のつもりかな?ならばお見せしましょう、二天一流の本気を!」
ぶつかり合う刀を同時に押し、互いに距離を取る両者。と、突然武蔵が左手に持った刀を投げつける。その奇襲に対し、冷静に刀を弾くエミヤ。
と、一瞬刀に気を取られた隙に、武蔵が別の刀を手に、二刀をエミヤに振り下ろす。
「甘い!」
しかしその攻撃をエミヤは見事に凌いでみせる。初見で自分のこの奇襲に冷静に対応してみせたエミヤに、思わず武蔵の口が開く。
「えっ、ちょっ!」
カウンター気味に振り上げられた白と黒の剣をなんとかかわす。かわしながら先ほど投げた刀を回収し、その場から少し離れる。
「まさか初見で今のを見切られるなんて……実は相当強い?」
「いや何、君の戦い方については予備知識があったから警戒できていただけだよ。それに、その戦い方をするのは、何も君の専売特許というわけでもないから、な!」
言い終わるより早く、今度はエミヤが手に持つ二刀を投げつける。同時に自分に向かって走り出したエミヤに、武蔵は驚きながらも対策を考える。
(デタラメに投げただけ……じゃなさそうね。この軌道なら私の方に来るか……二刀と彼を同時に止めるには……)
「タイミング……ここ!」
迫り来る二刀を自身の剣を投げつけ防ぎ、鞘から二刀を抜き、目の前まで迫ったエミヤの攻撃を防ぐ。
「なるほどね〜。確かにこれじゃあ対応できるわけだ。もしかして、奇襲は私よりうまい?」
「単純な剣術では敵わないだろうさ。ならば策を練るのは当然だろう?」
「確かに。これは面白くなってきた!」
笑みを深くして剣を弾く武蔵。再び斬り結びながらも、とある疑念が確信に変わる。
(やっぱり似ている……あの剣に……)
燃えるような赤銅色の髪に、琥珀のような瞳。
剣を用いるも剣士にあらず。
あの時力を貸してくれた、
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幾度となく響いた剣戟にも、終わりの時は必ず来る。
弾き飛ばされた四刀が、回転しながら闘技場を舞い、地面へと突き刺さる。
咄嗟に二刀を防御の構えにするが、それでは意味がない。
「南無。天満大、自在天神。剣気にて、その気勢を断つ!」
彼女の背後に見えた不動明王は、幻などではなく、彼の必殺の絶技を容易く弾く。そして彼女に集うは4つの属性。地、火、水、風。
残るは一撃、最後の1つ。
「この一刀こそ我が空道、我が生涯! 伊舎那大天象!!」
空位に至り、絶技を超えたその空の一撃が振り下ろされる。その一刀を受けた夫婦剣は、彼の手の中で砕け散る。
光が収まり、視界が晴れると、観客の目に映ったのは、膝をつき、肩を抑えているエミヤと、その正面に立ち、剣を突きつけている武蔵だった。
「今の一撃、入ったものとします。よって勝者、宮本武蔵!」
ジャンヌが審判としてのコールをあげながら、旗を武蔵の方に向ける。
試合の終了が告げられ、観客から歓声が上がる。剣を納め、武蔵がエミヤに手を差し出す。一瞬キョトンとしてから、エミヤがその手を取り立ち上がる。
「参った。完敗だ。まさか私の絶技を完全に防がれてしまうとはな。流石は日本が誇る大剣豪だ」
「いやいや、そういう君も凄かったよ。未来の英霊とは聞いていたけど、ここまで剣を極められる人が現れるなんてね」
試合後の握手を交わす二人。と、武蔵がエミヤの手を引き体を近づける。
「っと、急に何を?」
「話があるの。今日の夜、いいかな?」
なぜかひそひそ声になった武蔵に訝しげな顔をしながらも頷くエミヤ。
「じゃあ、夕飯が終わったら部屋で待ってて」
それだけ言って手を離す武蔵。ニカッと笑ってから手を振りながら闘技場の外へと向かう。
「あ!勝ったから、今日のうどんは豪華な感じでよろしく!」
と最後に言ってから、彼女は一足先に戻っていった。結局、夕飯にも参加することにいつの間にかなっていたエミヤだった。
因みに、武蔵と顔が近づいた時に、角度の問題でオルターズからはキスしているように見えたとか見えなかったとか……
このため後にエミヤが大変なことになるわけだが……それについては、またいつか話すとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜。
夕食時には様々なサーヴァントから勝負の話をされ、時に褒められ、時にアドバイスをもらいながらも、エミヤはなんとかいつも通りの時間に仕事を終わらせることが出来た。
「それでは今日はここまでだな。お疲れ様」
「いえいえ。エミヤさんこそ、本来ならば休みでしたのに、お疲れ様です。私も金時も、手に汗握る試合でした」
「うむ。余もしっかりと見させてもらったぞ。流石は余の副官を務めただけのことはある」
「はい!エミヤさんの戦い、とても勉強になりました」
「お褒めの言葉、感謝する。ではおやすみ、頼光殿、ネロ、リリィ」
「ええ。おやすみなさい」
「うむ」
「おやすみなさい、エミヤさん」
夕食の当番だった3人に挨拶をし、エミヤは素早く自室へと向かった。もしかしたら既に来ているかもしれない、そんな気がしていたからだ。
部屋にたどり着き、扉を開くと、
「おっ、来た来た!これ、一応差し入れね」
椅子に腰掛けている武蔵が、団子をテーブルに並べながら出迎える。
もっとも、団子を作ったのはエミヤなので帰ってきただけとも言えるのだが、そんなことをいちいち指摘することなど、エミヤはしなかった。
「すまない、待たせてしまったようだね。お茶を入れよう」
手早くお茶の用意をする。団子なので紅茶ではなく日本の緑茶である。湯呑みにお茶を注ぎ、テーブルに2つ置く。エミヤが武蔵の前の席に座る。
「それで、話とはなんだ?」
「あーうん、ちょっと聞きたいことがあったのよね〜」
団子の皿をエミヤに差し出しながら、串を1つ手に取り団子を頬張る武蔵。わざわざ持ってきたものを食べないのも失礼だろうと、エミヤも1つ口に入れる。
(ふむ。我ながらいい出来だ)
なんてことを考えていると、
「あなた、千子村正とはどういう関係?」
なんて質問が武蔵から投げかけられた。
「村正と?どういうことだ?」
「うーん……村正が擬似サーヴァントとして召喚されていた、って話は聞いてるでしょ?」
「ああ。このカルデアでは、さして珍しいことでもないがな」
実際にどんな姿をしていたのかは知らないが、かの有名な鍛冶屋をセイバーとして召喚することができるまでに霊基を向上させるその依り代に、エミヤは多少なりとも関心があった。
「その村正がどうかしたのかね?」
「それがね、なんだか君に似ている気がしたから」
「私に?」
「うん」
「それは剣を作るという点だけではなくてか?」
「ううん。なんかこう、剣の振るい方というか、料理の腕というか……思い返すと色々と似ているところがあったのよね〜」
その言葉にはエミヤも驚かざるを得なかった。千子村正と自分が似ている?いや、同じ錬鉄の英霊であると考えればそうかもしれないが、剣の振り方や料理の腕まで来ると何かがおかしい。それはむしろ村正本人のではなく、その依り代の……
「ち、因みにその千子村正の外見的な特徴を聞いてもいいかね?」
物凄く嫌な予感がしながらも、聞かずにはいられなかった。
「外見?んーやや童顔だけどそこそこ整った顔立ちで……背丈は君くらいで……赤っぽい髪で……後は琥珀色っぽい瞳だったかな」
確定である。
まさかとは思ったが、そんなことがあるのか、としかエミヤには思えなかった。
確かに可能性は考慮していた。何せ
「……」
「その感じだとやっぱり何かあるの?」
「ああ、そうだな……君には話しておいてもいいかもしれないな。ただ、諸事情あってまだマスターには話していない。そのことを理解してもらいたい」
「ふーん。何か深い事情があるわけね。おっけー、話さないと約束するわ。私の剣にかけてね」
「助かる」
武蔵の真剣な眼差しに対して、エミヤは軽く一礼する。今はまだ話せなくとも、全てが終わって、未来が完全に取り戻された後、もしもその頃に彼が自分と同じようになった時、その時には話せるようになるだろう。
「私が未来の英霊というのは聞いているね?」
「マスターからね。マスターは君から聞いたって言ってたけど」
「そうだ。私はなんの伝承も残していない、近い将来に現れるであろう
「うん。彼女たちは比較的現代に近い人が依り代になっているんでしょ?」
「村正もそうだ。いや、もっと言えば、村正が依り代にしたのは、まさに今を生きるとある男、と言える。並行世界の、ではあるが」
あの聖杯戦争後も、その男は進み続けたのだろう。その在り方も、その力も、その思想も。きっと村正と共感するものだったのだろう。それゆえに彼は選ばれた。
「そしてその男はその後も戦い続けるだろう。代償として皮膚は焼けたような色に、髪は色素も抜け、そして瞳は鋼のように変わり、ね」
「ちょっと待った……それって……」
「そうだ。君のであった村正の依り代となった男は、生前の私、その一人というわけだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あまりに突然のカミングアウトに、武蔵の手から団子が刺さった串が落ちる。
どこか懐かしそうな、それでいて寂しそうな表情を浮かべているエミヤは、すぐさまその団子を退ける。
「君の、生前?」
「ああ。あれは私が英霊になる前の姿だ」
「じゃあ君と似ていると思ったのは、」
「似ていて当然だ。元は同一の存在なのだからな。もっとも、私は厳密には1つの個人とは言えないがね。長くなるから、この話はまたいつかしよう」
首をすくめながら答えるエミヤ。そのやれやれ、といった感じの仕草は、村正のそれとよく似ている。
そうか……そうだったのか……
彼こそが、あの
幾千、幾万もの剣戟の果てに辿り着いた剣の境地。
その実力は自分が先ほど身を以て知ったばかり。
試合をして、死合いをして、見えたその力。
決して折れない鋼の意思に、決してブレない真摯な剣。
それを見れたことが、確かめられたことが、感じられたことが、ひどく嬉しく思えた。
「聞きたかったことはそれだけかな?」
エミヤが黙り込んでしまった武蔵に問いかける。なんとなく答えられずに、考え込んでしまう武蔵。
「どうかしたのか?」
「ううん。ただ、そうね……君の過去についてもっと知りたくなった、かな」
「……既に一番大きな秘密は話したからな。君がもし聞きたいというなら、また訪ねてくるといい」
まさかエミヤの方からその提案をされるとは思っていなかった武蔵がパッと顔を上げる。エミヤからは嫌がっている様子も特になく、むしろ優しげな笑みを浮かべている。
「いいの?」
「ああ。君が興味を持ってくれているなら、だけど」
「ある!すっごく!」
「ならまた来るといい。今日はもう遅いから、また今度からだな」
時計を見ると既にいい時間である。大慌てで残りの団子を掻き込み、お茶を飲み干す。
「ご馳走さま!それじゃあまた話を聞きに来るわね」
「ああ。その時は事前に言っておいてくれ。茶菓子を用意して待ってるとしよう」
エミヤに見送られながら、武蔵が部屋を出て自室を目指す。
(また今度、かぁ)
何故か知らないけど、次の約束を取り付けることができたことが、とても嬉しく思える。
確かに彼の過去の話にも興味はあるけど……
それに増して彼にも興味がある。
……あれ?
「いやいやまさかそんな、ね!ほら、彼美少年ってわけじゃないし、むしろ年齢的には上っぽい感じするし」
あ、でも確かに村正の姿はそれなりにイケメンだったような気もする……若干童顔で若く見えたし悪くは……って
「いやいや、違うから。そうじゃないから!」
その夜、何やら一人でブツブツ言いながら走って行く武蔵が目撃されたとか……
いやぁ、長くなりましたね
色々と考えて書いていたら、気づくとこんな感じに……
これは次の話を短めに……なるのかぁ?