こういうのもありかな?って
英霊エミヤにとって、カルデアでの生活は決して悪いものではない。正義の味方とはていの良い呼び方で、ただの掃除屋として戦場に赴く、守護者としての仕事とは違い、正しく正義の味方として、この世のあらゆる人を救うためにその力を遺憾なく発揮することができる。
また、数多の英霊と出会い、時には言葉を、時には剣を交え、交流することができる、またとない機会でもあり、彼自身、伝説に語られる英雄たちとの戦いを通じ、更に力を蓄えることが出来ている。
真っ直ぐなマスターに、真っ直ぐな
が、何事にも良い面と悪い面があるわけで、そんなカルデアライフにも勿論デメリットはある。時代も国も全く違う、古今東西の英雄が集まっているだけあって、食事の用意は簡単ではないし、当然争いごとも起こる。しかしそれはエミヤにとってはまだ小さい方の悩みで済む問題だ。
彼の頭を悩ませるもの、それは時折カルデアに召喚される顔見知りのことだった。いや、同じ聖杯戦争に参加した、というだけならまだ良い。クー・フーリンやロビンフッドとは喧嘩のようなやりとりもあるが平和だし、アルトリアやネロとは稽古をする仲な訳で、基本的に友好的に接している。
彼にとっての目下の問題は、度々増える
何の因果か知らないが、どうにもこのカルデアには彼のよく知る、或いは何かしら縁のある人間が、サーヴァントの依り代に選ばれ、召喚されることが多いのだ。
軍師な講師
赤を纏う魔術師殺し
白き聖杯の女神
白黒のシスターズ
虎でジャガーな女神
最早誰かによる陰謀めいた何かを感じるほどである。もしこれが神様のいたずらだというなら、その神を斬るべきではないだろうか。主に知人ばかりを増やす神を……などとどこぞのヒロインのような思考に逃避してしまうエミヤ。
とはいえ、彼を責めるのも酷であろう。なんせ今彼の目の前では……
「何よ、黙りこくっちゃって?私を無視しようとするなんて、良い度胸ね?」
「べ、別に大して気にしてないのだわ。召喚される前だって、基本的には独り言ばかりだったのだし……か、構って欲しくなんか……」
そっくりな顔立ち、そっくりな声。パッと見で違いといえば髪の色くらいだろうか。そんな二人の少女が、もとい女神が、彼の顔を覗き込んできている。
「ちょっと、聞いてるのかしら?」
「ああ、聞いているとも。だから、いい加減私の腕を放してもらいたいのだが、女神イシュタル、そして女神エレシュキガル」
かつての憧れであり、戦友であり、師であり、そして主人である
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7つ目の聖杯、それを手に入れるためのレイシフトにエミヤが連れて行かれたのは、マスターからの強い要望が大きかった。第1の特異点の頃からずっと自分を支えてくれたエミヤがいてくれた方が心強いから、なんて言われてしまっては、エミヤとしても断るわけにはいかなかった。
今思えばあの時断っておくべきだったのかもしれない。そもそも特異点が古代ウルクにあるという時点で自分にとっては大きな地雷があることくらい予想できたはずなのに……
レイシフトした彼らを出迎えたのは慢心王……ではなく、賢王ギルガメッシュだった。アーチャーとして現界していた時と比べ、思慮深く、慢心もせず、優れた王として民のために力を尽くすギルガメッシュの姿は、正直エミヤをして非の打ち所がないほどだった。そのギルガメッシュの元、立香たちは3人の女神、そして人類悪たる存在との激闘を繰り広げることとなった。
しかし道中エミヤに最もダメージを与えたのは敵の攻撃ではなかった。花の魔術師といい、三姉妹の末っ子といい、野生の虎といい、どういうわけかやたらと自分が知っているような相手ばかりに、何度も頭を抱えたくなったのが思い出される。
中でも特にエミヤに衝撃を与えたのは、ウルクに現れていた二人の女神だった。今思い起こしても、なんとも奇妙で、それでいて既視感溢れる邂逅だったと思える。
『ちょっと!そこどいて〜!!』
ウルクに到着して間もない頃、突然空から聞こえた声に、立香たちは驚き、戸惑い、その場から避難することを忘れてしまった。
ただ一人だけは、その声が聞こえた瞬間に、反射的に動き出していた。声の方向へ急いで飛び上がったエミヤは、弓のように見える乗り物で地面目掛けて直下降していた少女を抱きかかえ、彼女を衝撃から守ることに成功した。乗り物の方も、マシュが盾で迎撃し、立香たちもことなきを得た。
そのことにホッとしながら、腕の中にいる少女の顔を見た瞬間、エミヤの体がピシリと固まった。
『ちょっと、降ろしなさいよ。私女神なんだから、軽々しく抱えるなんて、普通なら万死に値するわよ』
『あ、ああ……すまない』
『まっ、一応助けてくれたわけだから、感謝しておくわ。ありがとう、アーチャー……どうしたの?』
『いや……私は自分のクラス名を伝えた覚えはないのだが……』
『そう言えばそうね……なんでかしら。あなたを見た時、すぐにアーチャーだと思ったのだけれど……まっ、なんでもいいわ』
エミヤに降ろされ、自分の足で大地を踏みしめながら、少女がエミヤを見上げ、笑みを浮かべる。と、エミヤの方はぼーっと彼女を見ているだけだった。
『エミヤ?どうしたの?』
『っ、いや、なんでもない、マスター』
『マスター?この子が?ふーん……』
こちらを探るように見てくる少女のことももちろん気掛かりではあったが、エミヤの様子がおかしいことの方が立香は気になっていた。
彼がそんな風になったのは、他には一度だけ。
騎士王、アルトリア・ペンドラゴンと対面した時だった。
かつての聖杯戦争で強い縁のある相手、とエミヤは話してくれた。ということは、彼女もそうなのだろうか?
『そういえば、貴方は誰?その子のサーヴァントなのよね?』
『ああ。君の言った通り、アーチャーのサーヴァントだ』
『ふーん。それで?女神たるこの私が名前を聞いてあげてるのだから、名乗るのが礼儀じゃないの?』
『これは失礼を。英霊エミヤ。名前もなく、伝承もない、ただの掃除屋にすぎない。英霊としては末端もいいところだ。私如きが女神に名乗るのもおこがましいと思っていたのでね』
『エミヤ……ね。そう……』
名を聞いた瞬間、少女の表情に小さな変化があったように、立香には見えた。僅かに見せた反応は、二人に何かしらのつながりがあることを示唆しているかのようで……
『女神イシュタルよ。この私が覚えておいてあげるのだから、光栄に思いなさい』
彼女の名前を聞いたエミヤの見せる寂しげで、嬉しそうで、悲しそうな笑みが、それを裏付けていた。
結局何か探し物をしていたらしいイシュタルはすぐにどこかへ行き、その後に起こった様々な出来事のせいで二人の関係性を確かめる暇もなかった。
空を飛びながら、『彼女』は先ほどであった彼を思い出す。
抱えられた時、驚きはあったものの、不快感はなかった。むしろ何があっても大丈夫、そんな安心感さえ覚えた。
初めてあったはずの相手だというのに……
『エミヤ……ね。
心の奥深いところから、何故か湧いてくる懐かしさと嬉しさ。きっとこの喜びは、彼女のものであって、自分のものではないのだけれど……
『私にこんな想いを抱かせるなんて……面白いじゃない』
それを今の自分の一部として、彼女は心底楽しげな笑みを浮かべた。
『じゃあ、依り代になった人と?』
『そうだ。女神イシュタルとは面識はないが、彼女が現界するにあたって依り代とした少女は、生前の知り合いでね』
『じゃあ、ロード・エルメロイII世と諸葛孔明みたいな感じ?』
『そうだな。似たようなものだろう。ただ、諸葛孔明が依り代に力を譲渡したのに対し、イシュタルの方は完全に依り代と人格が一つに交わっているらしい』
ウルクで活動する途中、エミヤとペアを組む機会があった立香が話を聞いてみたところ、どこか懐かしそうな表情を浮かべながら、エミヤが語る。
『それにしても信じられんよ。災難体質だとは思っていたが、まさか女神になるとは……余程波長が合っていたのだろう』
『そうなのか?』
『イシュタルが素直じゃない系女子の原点と言うなら、まぁ確かに合いそうだとは思えるな』
『ツンデレってやつだね』
『そういうことだな。彼女にフラグを立てるなら気をつけたほうがいい、マスター。照れ隠しにとんでもない一撃をくらわせられるかもしれないぞ』
いや、それはむしろエミヤの方なんじゃ……という言葉をなんとか飲み込んだ立香だった。
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さて、ここで終わればそれだけの話だったのだが、残念ながらそうは問屋が卸さない。生前の行いのせいなのだろうかと、思わず自分自身を呪いたくなったエミヤを、誰が責めることができるだろうか……
『冥界の女神、エレシュキガルなのだわ』
『……』
『先輩、大変です!エミヤ先輩が息をしていません!』
『おーいエミヤ、戻ってこーい』
『ちょ、ちょっと……聞いてるのかしら?』
可能性を考慮すべきだったのかもしれない。
『本当になんというか……災難だな、彼女も』
『あ、生き返った』
『ちょっと!私を無視しないで欲しいのだわ!』
特異点のウルクに君臨した3人の女神の1人、冥界の神、エレシュキガルが、賢王を助けるべくやって来た立香たちをやや涙目で見つめていた。
『いや〜それにしても……この特異点エミヤと縁深すぎない?』
『言ってくれるな、マスター……私とて驚いている』
『ギルガメッシュ王とは面識があって、アナのことも訳知りみたいだし。あと、マーリンやジャガーマンもエミヤによくちょっかいかけてるよね。極め付けがイシュタルとエレシュキガル……エミヤこの時代と何か関係ない?』
『あるわけないだろう、たわけ。私は君よりも未来の存在だぞ』
『だよね〜』
マスターとの会話を終え、夜の見回りをしに行くエミヤ。と、誰かがついてきている。
『何か用かね?』
『用というほどではないのだけれど……』
『そうか。いや何、君がわざわざ来ているからには、何かわけがあるのかと思ったまでだよ』
夜の闇から現れたのは、よく見知った顔の少女……の身体を借りている女神……のうちの一人。
『それで、君はどうして私の後をついて来たのかね、女神エレシュキガル?』
『……何から話せばいいのか、わからないのだけれど……なんだかあなたを見ていると、ほっておけないのだわ……初対面に近いはずなのに……』
依り代の記憶や想いに引っ張られているのだろうか。イシュタルよりも強く影響を受けているらしいエレシュキガルの様子に、懐かしささえ覚える。忘れたはずの記憶……しかしその想いは死してなお体に染み付いているのだろうか。
『女神である君から目をかけてもらえるのは光栄だが、私のことは気にしないでくれ。何より今は為すべきことがある。君はマスターを見守ってやってくれ』
『わかってるのだわ……でも、その背中を見てたら、
『っ』
また……自分は彼女の前で消えたことなんてないはずだというのに……ああ、全く……
『参ったな……』
思わず小さな笑みがこぼれる。
『安心したまえ、女神エレシュキガル。今の私には戦う目的がある。こんなところで、勝手に戦いを終わらせるつもりはないよ。彼とともに、私は人類の未来を取り戻す。そのためにここにいるのだから』
あの時と違い、自分はまだ消えられない。そして、消えるつもりもない。だってこれは、自分が選んだ戦いでもあるのだから。
感謝されなくてもいい。覚えられなくてもいい。
ただマスターの声に応え、みんなを救いたい。
その想いを込め、エミヤは『彼女』に語る。
そんなエミヤの姿に、『彼女』は安心した。
彼はまだ、頑張っているのだと……
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「……で、いい加減離してもらえないだろうか」
両腕をしっかりと抑えられてしまい、どこかに行こうにも行けない状態になってしまったエミヤが、小さく溜息をつく。
既にかれこれ1時間近く、彼はこの場から移動できずにいた。
「何よ不満そうにしちゃって。いいわ、なら一緒に来なさい。今日は気分がいいから、マアンナで空の旅に連れて行ってあげる」
「な、わ、私だって」
「私だって、何?あんた、満足できる娯楽を提供できるの?冥界でずっと引きこもってたのに?」
「ひ、引きこもってたわけではないのだわ。冥界の女神として、務めを果たしていただけで……そっちは女神としての自覚が足りないんじゃない?肝心な時に役に立たなかったのだし」
「ううう、うるさいわね。あれはあれよ……そう、私の責任じゃなくて、召喚の際に色々と」
この姉妹ゲンカは果たしていつ終わるのだろうか……もはやどこか遠くを見る目になり始めているエミヤ。
これはまだまだかかりそうだと、諦め掛けていたところ、
「まったくもう……二人とも頭を冷やしてください」
ズドン、と電気が走り、女神二人を痺れさせる。不意打ちだったこともあり、あっさりと二人はその衝撃で倒れてしまう。咄嗟に二人をエミヤが受け止めながら、辺りを見渡すと、
「ごめんなさい、エミヤさん。少しやりすぎちゃったでしょうか」
「いや、気を失っただけだろう。少し寝かせていれば大丈夫なはずだ」
「そうですか。なら良かったのですけど。エミヤさんは大丈夫でしたか?」
「ああ……すまない」
「いえ。確か今日の夕食当番でしたよね?ならそろそろ行かないと」
「そうだな。彼女たちを寝かせてから行くとしよう。手伝って貰えるかな?」
「はい」
優しく微笑みながら、彼女は槍をしまう。紫の髪を揺らし、自分を手伝う彼女の姿もまた、エミヤにとっては既視感のあるもの。
「じゃあ、行きましょうか。エミヤさん」
『———じゃあ、行きましょうか。先輩』
「ああ。そうだな」
なんだか賑やかになり続ける周囲に戸惑いながらも、かつての在りし日々を思い出しながら、エミヤは歩き出す。
あとでどこかの
タイトル、ダブルミーニングになってるの、気づきました?
今回は出会いのパートとかをメインにあげてみました
もっと深く絡むのは、また今度ということで……
あれ、子ギル君?その薬瓶をどうする気なのかな?
今日の宴会でエミヤに?何それ、エナジードリンク?
飲めばわかるって……あ、おーい!
……大丈夫かな……