彼の中に宿る白き龍の皇帝は語る。
『いや、どうしてこうなったのかまったくわからない。別に宿主の趣味嗜好に口を出す気などないのだが、どうにもこうにもな。見ていて面白くはあるんだが、あの熱意は一種の狂信にしか思えない。俺ですら怖気を覚える程にアレだ……………今世の白龍皇は狂いすぎてる』
彼を拾い養父のように接してきた堕天使の総督は語った。
『俺も人の事を言えたようなもんじゃないが、それでもなぁ………。いや、息子のように接してきたアイツがそれこそ自分の道を見つけて歩んでいくんだから、養父としては喜ばしい限りなんだよ。でもなぁ~、アイツは神をも滅する神滅具の持ち主でドラゴンなわけだろ。普通そう言う奴は戦いが好きな好戦的な奴になるんだが………好きなことを見つけるとああまでなるとは思わなかったぜ。いや、本当………食い物の恨みは恐ろしいというが、なんというか………』
そんな二人が語るのは、こん世の白龍皇にして歴代最強と名高い悪魔『ルシファー』の血を半分引くハーフ『ヴァーリ・ルシファー』。
本来のあるべき世界なら力にこそ意味を見いだした戦闘狂。だが、この世界の彼はおかしすぎることにその手のことに『興味がない』。
彼はたった一つのものに夢中だった。
出会いは総督に拾われて少し経った頃………その時の彼は人見知りが激しかった。いや、激しいというよりも自分も含めて全ての存在に対し不信になっていたのだ。何せそれまでずっと実の父親から虐待されていたのだから、彼にとって自分以外の全てが自分に悪意を向けてくるように感じたのだろう。逃げ出した所を総督に拾われ何とか助かりはしたが、それでも心に負った傷は癒えない。
そんな彼に総督は慣れない子育てに必死になりながら何とか彼との距離を縮めようと頑張るのだが、中々上手くいかない。そして彼自身、与えられた食事に口を付けはするがそれでもその量は少量であり、育ち盛りの子供にしては食べなさすぎであった。それを当然総督は心配し、色々と工夫を凝らしていく。高級なものや珍味、栄養価が高いものや挙げ句は慣れない手作りの料理など。その悉くが失敗し、内心かなりヘコむ総督。そんな総督は気分転換もかねて彼を連れて人間界へと連れて行った。
彼にとっては母親の故郷であり、そのことを知っていた彼は若干の興味を示し周りをキョロキョロと見回しながら歩いて行く。
そんな時、彼に鼻腔に薫った香り。それはどこか懐かしさを感じつつも暖かみを感じさせる香りだった。
その香りに誘われるように彼はふらふらと歩いて行く。その姿に保護者である総督は心配しつつも見守ることに。
そして彼が行き着いたのは一台の屋台。それは今では結構珍しい木製の古い屋台であった。そこから薫る香り、そして湯気から察した総督はその名を口にした。
「あぁ、なんだ…………『ラーメン』か」
「いらっしゃいませ!」
威勢の良い声と共にご来店したお客様に向ける笑顔。その笑顔を見た女性はその声の持ち主に熱い視線を向けながら赤面し黄色い声をあげる。
その声の持ち主は男であり、タオルを捻り頭に縛り付けていた。それは如何にも野暮ったいのだが、美しい銀色の髪に精巧で精悍な顔がそれをまったく感じさせない。所謂イケメンであった。
見た目から分かる通り彼は日本人ではない。だが、その見た目に反し日本語は達者でありお客さん相手に日本人と変わりなく世間話を出来るくらい話上手であった。
彼の見た目は格好いい外国人の男だが、その年齢は未だに20に成っていない。だというのに彼はたった一人で『この店』をまわしていた。
あまり大きくはない店だが、それでも一人で回すには難しい。それを彼はたった一人でやっていた。その顔に苦しみは一切なく、ただひたすら情熱を燃やし充実感のある笑みを浮かべている。
「よぉ、大将! いつものお願いするよ」
常連客からの注文に彼は元気よく応じ、自分の戦場にて自慢の腕を振るう。
グラグラと沸き立つ湯の中に一玉の麺を入れ解し、その麺が茹で上がる前に暖めておいたどんぶりに彼が今までの経験をもって作り出したタレを入れる。そしてそのどんぶりに注ぐのは鶏から取ったスープと魚介から取ったスープ、そして野菜から取ったスープの3種類。それらを独自の量でバランスをとりながら注ぐことで彼の研究成果の一つであるスープが完成する。
ソレと共に茹で上がる麺。それを小気味良く、それでいて麺を傷付かぬよう丁寧に湯切りをしてどんぶりに入れる。
そして手際よくそこに刻みネギ、なると、チャーシュー、メンマ、味付き玉子、香味油を入れて一杯のどんぶりが完成する。
その出来栄えをまさに神をも殺す程の視線を向けながら見て、そして満足がいくものかどうかを瞬時に判断し、そして笑顔になった。
それを溢れぬように気をつけながら彼は常連客の前に持って行く。
そして笑顔で自身が持てる最高の一杯を差し出した。
「当店自慢、醤油ラーメン一丁お待ち!」
その啖呵に常連客達が一斉に声をかける。
「「「「「よ、ヴァーリさん!!」」」」」
これは違った世界の話。
戦闘狂にならなかったヴァーリ・ルシファーは大好きになった『ラーメン』一筋に修行し研磨し世界を旅し、そして彼は至ったのだ。
『ラーメン屋』に。
その店の名は『白龍皇』。
この世界………ラーメン界にその名を轟かせるべく、彼は今日もラーメンを磨いていく。
『無限の龍神』? 『真なる赤龍神帝』? 強者との戦い? 復讐?
そんなものなど知ったことか!!!!
「俺がしたいことはただ一つ…………無限の可能性を持つラーメンを極めたい、それだけだ!』
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪
頭が狂っていたんです、きっと…………。