ラーメン大好きヴァーリさん   作:nasigorenn

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今回もやらかすヴァーリさん(嗤)


その10 クレーマーはお断りですよ、ヴァーリさん

 結界により真っ赤に染まった世界。その中で殺気立った黒いローブを纏う集団………魔術師。そしてそれらを率いるは真の魔王の血族である四大魔王の一角、クルゼレイ・アスモデウス。彼等は『禍の団(カオス・ブリゲード)』、今の世界に異を唱える者達である。

そんな者達によって引き起こされた今回のテロ。彼等にとって幸いなことは計画通りにグレモリー眷属の僧侶の一人の神器を暴走させられたことだろう。お陰でこちらの戦力は十分に出せ、向こうは大概の者が停止してしまっている。戦力差を考えれば十分に勝機はある。

だが………たった一つだけ読み違えてしまった。

それは相手の戦力を読み違えたことでもこちら側の戦力がそれでも足りないということでもない。ましてや本来指揮をとるはずであった『カテレア・レヴィアタン』が『禍の団』を離脱し行方をくらませてしまったことでもない。

 

それは……………この中に『ラーメン屋』がいたことだろう。

 

知れば誰もが頭を傾げ愚かだと嗤うだろう。だが、それは知らないからだ。

知っているものならば誰もが頭を抱えながら項垂れる。何せ知っている者達は分かっているからだ。

 

『ラーメン屋ほど理不尽な存在はいない』のだと。

 

だから知っているアザゼルはこの場面になってウンザリしながらこう漏らすのだった。

 

「あぁ、またラーメン屋のせいで破壊される…………」

 

その結果をきっと皆が見ることになるだろう。皆が知るだろう。

これが………これこそが…………。

 

『真のラーメン屋』なのだと。

 

 

 

 テロが起きた。

まぁ、見れば分かるだろう。そのことにヴァーリが取り乱すなんてことはなく、彼は時間を気にしつつも外へと出て行く。その姿は勿論いつもの調理服。そんな服装をした者がこの殺伐とした空間に現れたのだ。当然周りの者達は警戒心を露わにして問いかける。

 

「貴様は何者だ!!」

 

その問いかけにヴァーリはドヤ顔で返す。なんだか最近やけにそう聞かれることが多かったからなのか、その姿は堂に入っている。

 

「俺の名はヴァーリ………ラーメン屋だ!」

 

その名乗りに当然周りはポカンとして間の抜けた顔をしてしまった。いや、誰だってこの場でいきなりそう言われればそうもなるだろう。シリアスな場面に爆弾を放り込まれたような気分だ。周りの者達でとくに人間である魔術師達。基本外国の者達が多いが、それでも日本のラーメンは有名である。『ジャパニーズヌードル』の名は伊達では無い。ラーメンはある意味既に世界規模に発展しているのだ。だからこそ彼女等(どうも魔女の在り方に反対しているのは女性だけらしい)はヴァーリの登場に動揺を隠せない。悪魔か天使か堕天使か、または魔王かと思っていたら誰が予想していたのか『ラーメン屋』である。どうしてこうなったと誰もが叫びたい気持ちになった。

そんな魔術師達にくらべメンタルがまだマシな悪魔、特にその首魁であるクルゼレイ・アスモデウスがヴァーリに向かって静かな怒りを燃やしながら話しかけてきた。

 

「貴様が恥知らずのルシファーか。貴様を説得しにいったカテレアはそれからおかしくなった。貴様が何かしたのだろう………何をした」

 

カテレアが離脱した原因がヴァーリだと睨んでいるクルゼレイ。どうやら彼女に何かしら思うところがあるのだろう。もしかしたら片思いだったのかも知れない。

だが残念なことにこの男にそんな感情を察することなど不可能。恋愛感情よりもラーメンである。故にヴァーリは当然のように答える。

 

「俺はただ彼女にラーメンを出しただけだ。ラーメン屋がお客にラーメンを出すのは当たり前だろう。それ以上もそれ以下もない」

 

その答えに納得など行かないクルゼレイはヴァーリに向かって怒りを爆発させた。

 

「巫山戯るなよ、ヴァーリ・ルシファー!! この悪魔の面汚しめが! 何がラーメンだ! 悪魔の未来を決める重要な時に、よりにも寄って人間の料理になんぞうつつを抜かす愚か者め! そんな下らぬものであのカテレアがおかしくなるはずがない。巫山戯ているというのならこの場から消えろ、永遠に!」

 

叫びと共にヴァーリに向かって放たれるのは魔王クラスの超絶的な威力を持つ魔力弾。砲弾もかくやという代物は例え赤龍帝が禁じ手の姿を取っていてもタダではすまない。そんな魔力弾をヴァーリはというと……………真っ向からぶち当たった。

直撃と同時に大規模な爆発が起き、爆炎と衝撃がこの空間を振るわせる。

 

「そ、そんな………」

 

そんな言葉が漏れたのは会談の会場にいた誰かからだろう。彼等からしたら魔王クラスの攻撃を何の装備もしていない者が受けたのだから、その後の悲惨な光景が頭を埋め尽くしているに違いない。

だが…………アザゼルとオーフィスは違った。

アザゼルはそれこそ心の底から深い溜息を吐き、オーフィスは無表情なのだが心なしかドヤ顔をしていた。

そんなわけで二人が分かっている通り、爆炎の中からそれは現れる。

 

「相手の話も聞かずに急に攻撃を仕掛けてくるとは失礼な奴だ。まるで食べる前からこちらのラーメンの批評をするなんちゃって美食家とかわらん」

 

そんな言葉と共に表れたのは無傷のヴァーリであった。その身に纏う調理服はいつもの薄汚れ以外に汚れたり損傷したりした様子は見られない。

そんなヴァーリに今度はクルゼレイこそ驚きを隠せずにいた。

 

「な、何だと………あの攻撃を受けて防い素振りも見せずにいたというのに無傷だと………一体何をしたんだ」

 

動揺するクルゼレイ。それはそれまでの成り行きを見ていた者達も同様であった。

そんな者達の困惑など知らぬとヴァーリは当然のように不条理を口にする。

 

「調理服は常に火に晒されるし包丁などでも切れたりしても困るから丈夫なんだ。あの程度の火力で傷付いていては世の調理職の者達が料理を作れないそしてラーメン屋はスープを常に見るために常に火の前に立っているんだ。あんな弱火では豚骨スープすら満足に作れん。出直してこい」

 

ヴァーリの中の図式。

 

『普通の服<<<<<<<<<魔力などで強化された装備<<<<<<<<<<伝説の防具<<<<<<<<<<調理服』

 

である。つまり最強は調理服。調理服が丈夫なのは当たり前である。これはラーメン屋に限らず全ての調理職の常識だ。

そんな彼等の常識などこの場の者達は知るわけがない。いや、知っている者などいないんじゃないだろうか? それぐらいこの説明は理不尽であった。

 

「巫山戯るな………巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな、俺を馬鹿にしているのか、貴様はぁあぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

この理不尽にクルゼレイが真っ先に音を上げた。狂ったように叫びながら先程と同じ規模の魔力弾を連発する。

それをヴァーリは防ぐこともせずに受けるわけであり、当然その場は大爆発。

だが現実は無情であり、その爆炎から出てくるのは無傷のヴァーリであった。そしてヴァーリはちらっと時間を見てからクルゼレイに告げる。

 

「魔術師達のように何かしら抗議内容があるのなら話を聞こうと思ったが、話す気もなしに攻撃してくる相手に対して俺達(ラーメン屋)は甘くない。まずはこいつで頭を冷やせ」

 

その言葉と共にヴァーリの姿が一瞬で消える。

 

「ど、どこに!?」

 

目の前から消えたヴァーリに困惑するクルゼレイ。そんな彼の真上からその声は聞こえてきた。

 

「上だ。麺を打つために必要な要素の一つに足腰があるこの程度出来なければ美味い麺など作れない。そんなことも分からないお前では何もなせんさ。まずは頭を冷やした後にラーメンを食え。話はそこからだ」

 

別に神器など使っていない。純然たる身体能力のみでヴァーリはここまで跳んできたのだ。その速度があまりにも速くて周りの者達が見切れなかっただけの話。彼曰く、ラーメン屋ならこれぐらい当たり前らしい。数多く来るお客を捌くのにも足腰は重要らしい。

そんなわけでクルゼレイの上を取ったヴァーリはというと…………クルゼレイの頭に拳を落とした。所謂拳骨である。

 

「ぶッ!?!?!?!?」

 

その威力にクルゼレイは一瞬して意識を刈り取られ、その威力故に頭が真下になって地面に叩き込まれた。

激突による轟音と衝撃がこの世界を揺らす。当然周りは驚愕し混乱するわけだがどういうわけかその爆心地である場所から目が離せなくなる。

そして粉砕された粉塵が落ち着き始め辺りが見え始めた頃、そこにあるものを皆が見た。

 

『頭から地面に突き刺さったクルゼレイ』を。

 

それは見事な『犬神家』だった。

何ともシュールな光景であった。だが笑える者など誰もおらず、そして少し前に同じ光景を見たことがあるアザゼルは頭を抱えていた。

そんな光景を見せつけられたのだから当然周りにいた者達は言葉を失う。そして魔術師達もそれは同じ。

そんな彼女達にヴァーリはゆっくりと歩んでいく。

 

「待たせてしまって申し訳ない。まずは話を聞かせてくれないか。貴方達の言い分を聞いて俺も真剣に向き合おう。何、俺はラーメン屋だからな」

 

その言葉を聞いた者達は皆思った。

 

『『『『『『『『『ラーメン屋ってなんだっけ?????????』』』』』』』』』

 

 

らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪


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