その光景を見て誰もが恐怖し震え上がる。
偉大なる彼の四大魔王の血族がたった一撃で無力化された。それも魔術でも魔法でもない。何もないただの一発の拳でだ。それを成したのが魔王に連なるような覇者か強者だというのならまだ納得もいっただろう。ここまで感じたこともない未知という恐怖を感じることもなかった。だがそれらの淡い思考は否定される。目の前で起こった現象を引き起こした男は自らをこう名乗るのだから。
『ラーメン屋』だと。
ラーメン屋…………ラーメン(中華麺とスープを主とし、様々な具(チャーシュー・メンマ・味付け玉子・刻み葱・海苔など)を組み合わせた麺料理)を提供する飲食店のこと。
それは日本に住む者ならば誰もが知っている常識。近年では海外でも幅広く広まっているまさに世界規模の有名な存在。
別にそれはいい。この場にいる悪魔も天使も堕天使も、それに今回の騒動の大本である魔法使い達も知っている。だが問題はそこではない。
そんな日本ではありふれた存在であるラーメン屋がどうして彼の魔王の血族を倒せたのか?それも一撃で沈めるという圧倒的な力の差を見せつけてだ。もしヴァーリの出自を知れば皆がその出自の所為だというだろう。
だが…………ヴァーリはそれを絶対に否定する。それは自分の出自が恨めしいからでも最強とされる神をも殺せる神滅具を持っているからでもない。
彼がこんなにも強い理由。それはたった。それは………………。
『愛』だ。
ラーメン屋とはすべからく皆ラーメンを愛している。その愛はまさに無限大であり限りなどない。故に彼等はラーメンを侮辱するものを許さない。だが排斥しようとするのではない。侮辱されたのならば分かってもらおうと努力するのである。それは敵対する存在であろうとだ。その精神はまさに神がかっているとしか言い様がない。その精神はいかな聖職者であっても適わないほどに純粋であり真っ直ぐだ。
だからこそ、ラーメン屋は『強い』のである。世にラーメンを広めるために、ラーメンの高見を目指し、自らが最高のラーメンを作るのだと魂に誓う。全てはラーメンの愛故だ。
つまり………ラーメンこそ最強である。これはラーメン屋の共通認識。そして世界の非常識である。
そんな事実を見せつけられた一同がこうして不条理の恐怖を感じさせられている中、それをもたらした張本人であるヴァーリはゆっくりとした足取りで魔法使い達の法へと歩んでいく。その姿は威風堂々であり先程まで戦闘行為を行っていたとは思えない程に颯爽としていた。
そんなヴァーリが近づいてくるのだから、例え数が多くとも魔法使い達は当然怯えを見せた。無理もない話である。今回の襲撃は大体が『真の魔王派』であり、そんな彼等が三大勢力と戦うからこそ自分達はそれに便乗して戦えるのだと。その首魁が一撃で伸した相手が笑顔を浮かべながら近づいてくるのだから怖くない訳がない。
だが、そんな恐怖を感じ取っているのかいないのかなど関係なしにヴァーリは口を開いた。
「すまないな、邪魔が入ったが……これでようやく話が聞ける」
そう言いながら優しそうな笑みを浮かべるヴァーリ。その笑みは全てを暖かく包み込む父性を感じさせる。だがその父性をもってしても先程の暴威は覆せないらしい。
「く、来るな!? いや、来ないで下さい!!」
ヴァーリを見た魔法使い達のリーダーらしき女性がそう悲鳴を上げる。彼女達の目にはヴァーリが人の形をした別のナニカに見えるらしい。まぁ、ヴァーリからしたら人の形をした『ラーメン屋」だと答えるだろうが………。
相手が怯えていると思ったのかヴァーリは無抵抗を示すために両手を上げる。
「俺は貴女達に危害は加えない。ラーメンの名にかけて絶対にだ。だからまず、俺が近づくことを許して欲しい」
ヴァーリの中でラーメンとは神のような食べ物らしい。ここで『神のような』と付けている理由は食べ物だからである。神は確かに偉大ではあるが同時に役に立たないクソでもある。故に偉大ではあり、そして美味しいラーメンはそれ以上。
各神話体系の神々<<<<<<<<<<お客さん<<<<<<<<<<<<ラーメン
これがヴァーリの常識。神は客以下であった。
まぁ、そんなことはどうでもいい。取り敢えずヴァーリが此方に危害を加える気がないと警戒しつつ感じたリーダーらしき女性は周りの者達を後ろに退かせつつ自身も前に出る。相手が暴れた際に少しでも被害を少なくしようという配慮からだ。
相手が話してくれる気配を感じ取ったヴァーリは堂々と腰に手を当て構えると、リーダーらしき女性は表情こそローブで窺えないが真剣な声で話し始めた。
ここで本来なら相手の言い分を書くべきなのだが、大体ソレまでの話で語っているので要約することに。つまりこの魔法使い達の言い分とは…………。
『セラフォルー・レヴィアタンの所為で迷惑している』
というものであった。
彼女達曰く、魔法使いとは本来歴史ある由緒正しきものであり、礼節を尊び先代達の術を受け継いでいくものらしい。そこには当然目指すべき先があり、そこへと至るべく魔法使い達は日夜勉強し工夫し研究していく。それが表だって行うわけにはいかないものであり、それ故に魔法使いは闇に紛れて静かに活動する。つまり魔法使い達もまた求道者なのである。
その話を聞いたヴァーリは通ずる事もあって然りに頷いていた。
そして何故セラフォルー・レヴィアタンを敵視しているのかと言えば、彼女の活動の所為で自分達の存在が間違って認識されてしまうからなんだとか。ここでいうセラフォルー・レヴィアタンの活動というのは『魔法少女レヴィアタン』のこと。これは彼女が煌びやかで露出の激しい衣装を着て魔法少女として冥界のテレビで出演している番組らしい。所謂『間違った魔法使い』という認識がこの番組の所為で広まり風評被害が激しいんだとか。本来の魔法使いとはまさに正反対の存在が世間に認識されてしまい、その所為で本来の魔法使い達は自分達の活動がし辛くなってしまったらしい。
だからこんな事になってしまった原因であるセラフォルー・レヴィアタンを粛正し、ここに正しい魔法使いの在り方を示すのだと。
そんな話を聞いたヴァーリは考える。まぁ、この男のことだ。全てがラーメン基準で判断される。だからこそ、ヴァーリはリーダーらしき魔法使いにこう問いかけた。
「貴女は味噌ラーメンや塩ラーメン、つけ麺に焼きラーメンはラーメンだと思うか?」
その問いかけの意味が分からないのかポカンとした顔をしてしまう魔法使い。その際にローブの頭の部分が外れてしまい見目麗しい女性の顔が現れた。その表情がヴァーリの質問の意味が分からないと語っている。
その問いかけの答えを待つヴァーリに彼女は何とか答えた。
「私は日本に住んでいないからそのジャパニーズヌードルに関して詳しいことは知らないけど………そのミソやソルト味はヴァリエーションの違いだと思うから範囲内だと思う」
そこで魔法使い達の中から日本在住の者がいるらしくその者がリーダー役の女性に後の二つについて教える。
「だけど後の二つは違う……と思う。だってジャパニーズヌードルはスープとパスタで構成されているものだから」
その意見にヴァーリは静かに聞く。このリーダーの意見は所謂一般的な意見である。それに対し、この『ラーメン馬鹿』の答えは決まっていた。
「そうか。だが俺達ラーメン屋はそうは思わない。味噌に塩は勿論、つけ麺も焼きラーメンもまたラーメンだ!」
ラーメン屋はそう認識してるらしい。だがこの質問がこの問題にどう絡むというのか? それが分からない彼女はだからそれが何なんだと言いたそうな顔をする。その顔への答えをヴァーリは答えた。
「だからこそ、俺はこう思う…………『魔法少女セラフォルー・レヴィアタン』もありじゃないかと」
その言葉に当然魔法使い達から怒りのオーラが吹き上がった。当たり前だろう、話を聞くと言いながら相手の願いを否定しているのだから。
だがヴァーリの話には続きがある。
「まだ早まらないで欲しい。別に貴女達の願いを否定するわけではない。俺はラーメン屋だからな。ラーメンでしかものを語れない。だからここからはラーメン屋なりに話をさせてもらおう」
ラーメンでしかものを語れないとはどういう精神だと突っ込みをいれたくなる所だがそれを堪えて話を聞く姿勢をする一同。
ここから始まるのはヴァーリの『ラーメン観』である。
「まず最初に……ラーメンに貴賤はない。ラーメンはもとをただせば中国の麺料理が原型だ。だがその料理は日本に渡り独自の進化を得て今のラーメンの元となった。そしてそこからラーメンは進化をしていく。元からラーメンというものは存在が曖昧だ。元の麺料理が汁麺だったからということでその形が今も受け継がれ主流となっているが、そもそも………『これがラーメンだ』、『これでなければラーメンではない』という概念がそもそもこの料理にはなかったんだ。何せ歴史が浅い。所謂伝統というものがはっきりとあるわけじゃなかったんだ。だからこそ、ラーメンは他の料理よりも劇的な進化を可能とした。縛りがなかったんだ。だからこそ、自由な発想が生まれそれにより様々なラーメンが枝分かれし誕生した。中に確かに驚かされるようなものもあったし、正統醤油派に真っ向から喧嘩を売るようなものもあったさ。だが皆絶対にこう言うんだ………『すべてラーメンである』と。ラーメンを志すものは可能性を否定しない、そして概念に囚われることを良しとしない。確かに伝統の系統を守るのも大切だ。だがそれと同じくらい高見を目指し精進することも大切なんだ。その為には悪食だと罵られようと構わない度量が必要だ。ラーメンに概念がない。時に中華に還り、またはイタリアンと混ざり、和食の繊細さを取り込み、フレンチの技巧を取り入れ、インドやタイなどの様々な国の料理も参考にする。故にラーメンは無限に進化する。だからこそ、俺はそのラーメンを極めたいんだ! この無限大のラーメンの行き着く先を、そして俺が持ちうる全てを持って作り出す最高の一杯をこの手に……………。だから俺は………ラーメンの全てを肯定する」
瞳に燃えさかる炎を宿しながら熱弁するヴァーリ。その姿に魔法使い達の女性達は頬を赤らめて見入ってしまっていた。夢に向かって邁進する男はいつの次代も格好良いものなのである。
「流石師匠………我、もっと憧れた。無限のラーメン………」
「駄目だ、こいつ………もう救えねぇ………」
そんなヴァーリを見て無表情でやる気を漲らせるオーフィス。そんなオーフィスを見て完璧に汚染されちまったとアザゼルは虚空を見つめた。
「だからこそ、俺は貴女達にこう言いたい。『魔法少女レヴィアタン』もまたアリだと。だが……だからこそ、貴女達もまた頑張ってもらいたい。貴女達の言う正統な魔法使いというものが誤解を受けるというのなら、その誤解を解き自分達という魔法使いもいるのだと知ってもらいたいと。その為に抗議し宣伝し広めるように頑張てほしい。貴女達の方向性だと人に知られたくないと思うかも知れないが、それではその誤解は解けない。ラーメンも時には正反対の事を行う時もある。常識に囚われては進化できないからな。それと同じだ。自分達の主張を通したいのなら、それは表だって声高々に主張するしかない。例え秘密裏に動くことを基本としていてもだ」
小難しい事を言うが、簡単に言えば間違った誤解を解きたいのなら表だって抗議し誤解を解きなさいという話。自分達の在り方に真逆であり得ないが、それでもそうしなければ相手には伝わらないのだと。
きっと心のどこかで彼女達魔法使いも分かっていたのだろう。その言葉に皆しんみりとしつつもあぁ、やっぱりという雰囲気を出していた。仮にもセラフォルー・レヴィアタンを殺したところで広まった誤解は解けない。既に広まってしまっているし、殺したのが自分達だとバレれば自分達は『悪役』にされてしまう。今更だし魔法使いなんて基本外道が多いので否定しないが、それでもこの誤解は解けないだろう。魔法少女は煌びやかなもの、それが正しくて地味な自分達は悪役の正しくない魔法使いだと。だからこそ、本当に正しい行動は表切った抗議だと。
それが分かってしまっているからこそ、無力感にさいなまれる彼女達。既に殺気はなくなり抵抗する気もない様子だ。
そんな彼女達にヴァーリはラーメン屋として決まった事を言う。
「俺はラーメン屋だからな。ただラーメンを作ることしか出来ない。だが、貴女達を応援することは出来る。だからこそ、その思いを間違えることなく頑張って欲しい。もしくじけそうになったり疲れたりしたら店に来い。その時は美味いラーメンを出してやる。そして話を聞いてやろう。愚痴は吐いた方が良い。そこからまた頑張る気力が漲ってくるからさ」
その言葉に泣き出す魔法使い達。彼女達の心は完全に改心していた。皆口々に頑張ろうとか抗議の為の文章を考えようとか言い合っていた。
そしてリーダー役の女性はヴァーリに微笑んだ。
「まさかジャパニーズヌードルの店主に改心させられるとは思わなかったわ。確かに貴方の言う通りかもしれません。だから………もう少し頑張ってみようと思う。もしくじけそうになったりしたときは私達を改心した責任、取ってもらいますからね」
その台詞にヴァーリはドヤ顔で返す。
「あぁ、良いだろう。だって俺はラーメン屋だからな」
こうして三大勢力の和平会談は一方的な終わりを迎えた。クルゼレイ・アスモデウスはまぁ…………コカビエルといえば分かるだろう。二日で壊れることになった。首魁を失った悪魔達は逃げ帰り、魔法使い達はあの場から転移で去った後に冥界や裏の事情を知る町などで『正統なる魔法使い』の抗議と講義を行いその詳細を明らかにすることで知名度と認知度を正していくことに。ヴァーリは大急ぎで天城屋にオーフィスを連れて向かい、実に有意義な時間を過ごした。
そして三大勢力は……………。
『ラーメン屋ってやべぇ……………!?!?』
ラーメン屋に恐怖を抱いた。
まぁ、こんなわけで世界がどうだとか神話がなんだとか、そんなことは関係なしにヴァーリは今日もラーメンを作る。
だって当たり前だろう。彼は『ラーメン屋』なのだから。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪