ラーメン大好きヴァーリさん   作:nasigorenn

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これで最終回です


その12 ラーメン大好きヴァーリさん

 ここ最近何かしら裏事情が騒がしいが、それでも彼等の日々は変わらない。

朝起きてスープを仕込み、そこから始まり店の営業の為に仕込みを開始する。麺を打ちトッピングの具材を調理し、そしてそれ以外の材料を業者から受け取り判子を押して代金を渡す。それらが終われば店内清掃だ。汚い店や厨房ではお客さんは来ないし美味いラーメンなど作れるわけがない。精神論な部分があるが、そもそもやる気の表れの問題である。やる気なくして美味いものなど作れないのだから。

 それらを終えてやっと彼等の朝は始まりを迎える。

出来上がったスープに研究し作り出した至高のタレ。それらを合わせ試行錯誤した麺を茹で合わせる。そこに刻みネギをパラリと散らした一品こそが彼等の朝食。

 

「ししょー、どう?」

 

 目の前の割烹着を着た幼女こと、無限の龍神オーフィスは師と仰ぐ男に朝一で作った自分ラーメンを食べてもらっていた。

 弟子であるオーフィスのラーメンを食べるのはこの世界において異端中の異端、何者をも彼を止めること適わず、自身のラーメン道を突き進む馬鹿………ヴァーリ・ルシファーだ。

 

「…………悪くはないが、まだまだだ。湯切りが甘い、そして麺を茹でるのに臆したな。若干だが茹でが甘い。バリカタで通る程度だが、この『醤油ラーメン』には合わない」

 

ヴァーリにそう言われオーフィスは若干だがシュンとする。見た目を変えられる彼女であるが、その中身は穢れを知らない純粋無垢な存在だ。幼子といっても良い。駄目だと言われれば気落ちするのも仕方ない。

 だが、そんなオーフィスにヴァーリはどんぶりを進める。

 

「これを食ってみろ」

 

 そう言われたどたどしくも箸を使ってオーフィスはヴァーリが作った一杯を一口食べた。

 

「!?」

 

 いつも無表情だというのにこのときの彼女には確かな感情が表れていた。それは二つ。

『驚き』と『歓喜』だ。頬を赤らめて嬉しそうに緩んだ表情で笑みを浮かべるという幼女らしい表情を浮かべるオーフィス。見た目からすれば微笑ましいものだが、彼女がどういう存在なのかを知っている者達からすれば驚愕する大問題である。

 だが、この男はそんな『美味いものを食べれば当たり前』のことに驚きなどはしない。

 

「ししょー、これ、我と全然違う!? 美味しい、凄く美味しい!!」

 

若干興奮気味に感想を言うオーフィス。そんなオーフィスにヴァーリはポンと彼女の頭に手を乗せた。

 

「これはお前と全く同じスープ。同じタレ、同じ麺を使ったものだ。その味の違いは技量と目だ。何、そんな悲観することなんてない。お前はまだこの道を歩き始めたばかりだ。その先にこの味があり、俺はお前の先にいる。だからこそ、お前がこの味に至れると確信している。焦る必要は無い。堅実に確実にその腕をその目を、その魂を磨け。そして絶対に慢心し満足するな。俺だってまだ満足していない。まだまだ先があるんだからな」

「わかった、ししょー」

 

 ヴァーリにそう励まされ、オーフィスはふんすとやる気に満ちた様子を見せる。

こんな様子が彼等の毎朝の日常。そしてこれこそが『ラーメン屋』の朝である。

 

 

 

 そんな感じで開店準備が済み、そこから営業が開始する。

朝ご飯で食べに来る強者もいるが、大体はお昼に食べに来る客が多い。なので昼頃のラーメン屋『白龍皇』は乱戦状態になるのだが、そこはラーメン屋、ヴァーリ・ルシファー。既に手慣れているので細かく手早く的確に注文を熟していく。

 彼からすれば三大勢力や他の神話体系などの異端の争い事なんかよりも此方の方が余程大変だ。何せ問題があれば此方の全ての信頼を失いかねない。更に言えばラーメンに申し訳が立たないのだ。ヴァーリからすればラーメンは極めるものであり探求するものであり、そして崇拝するものだ。神々なんかよりも余程尊いのである。

 そんな大切な激戦の時間を過ごし、ピークを過ぎれば次の戦までのハーフタイムを迎えることになる。仰々しく言うものだが、飲食業ならばどこでもある普通の風景だろう。その間に足りない材料の買い出しやトッピングの追加の仕込み、スープや麺の補充等々、やることはいっぱいある。だがそれをしている間にもお客は来るのである。営業しているのだから当たり前であり、故に同時に熟さなければならない。

 だがここは一城(店)の主、既に慣れているので慌てる必要は無い。弟子のまかないを作りながらもちゃんと仕事をしているヴァーリであった。

 そこにあるのはまさに普通のラーメン屋。この駒王というラーメン激戦区の中でも名高い『白龍皇』の日常。

 しかし…………残念かな、この店は経営者の所為なのか出資者の所為なのか、もしくは悪魔が管理している喧伝している土地だからなのか…………どうにも『裏』の厄介なものに巻き込まれやすい。

 それはオーフィスがまかないのラーメンを自分なりに一生懸命考察しながら食べていたときに来た。

 

「ここに悪魔と人間のハーフで神器持ちの奴がいると聞いて来た」

 

そんな事を言いながら扉を開いたのは一人の男だった。

 年齢はヴァーリとそう変わらない感じであり、肌色や黒い髪からして黄色人種であることが窺える。その服装は真っ黒な学生服に漢服という結構珍妙な取り合わせ。身に纏う覇気といい服装といい先程の発言といい………どう考えても明らかに『裏』側の人間。それも絶対に厄介な厄種である。

ヴァーリは相手が人外だろうがドラゴンだろうが神であろうがお客なら喜んでラーメンを提供する。だが、そうでないのならその対応は少しばかりキツイもの変わる。

 

「注文は?」

 

普通にそう問いかけるヴァーリに対し、男はニヤリと笑いながら答える。

 

「君がそうか。俺の名は『曹操』、『禍の団』の『英雄派』を率いている」

「自己紹介は結構だがここはラーメン屋だ。注文は?」

 

ドヤ顔をかましながら自己紹介を始める曹操にヴァーリはジト目を向けつつもう一度同じ台詞を唱えた。既に厄介事に巻き込まれているのは理解しているが、それでもお客なら無下には出来ない。ある意味『最終勧告』であった。

そんなヴァーリの心情を察することなく曹操は胸を張りながら自慢気に言う。

 

「俺は人間が人間のままでどこまで行けるのかを知りたいんだ。人外よりも更に上に行きたい。太古の昔から化け物を退治するのは人間と決まってる。そういう人間に……すなわち『英雄』に俺達はなりたいんだ。その為にこうして『英雄派』を立ち上げた。今でも十分な戦力があるが、それでももっと戦力が欲しい。そこで君に目が行ったわけだ。確かに君は純粋な人間とは言い難い。だが、その中の神話に於いて英雄と呼ばれる存在の中には神の血を引く者も多くいた。なら悪魔の血を半分引いていても半分人間である君もまた英雄としての資格があると見た。故にこう言おう………俺達と一緒に英雄にならないか?」

 

 普通に聞いたら実に痛々しい誘い。裏の者ならその誘いに乗るかどうかを考えるだろうが、彼はどちらかと言えば表側、そしてラーメン屋なら考えるまでもない。

 

「勧誘お断りだ、俺はラーメン屋だからな。そんな下らん企み事なぞに関わる気は毛頭無い。そんなことをしているくらいならラーメンの探求により力を入れる方が余程充実してると確約しよう。お客じゃないならとっとと帰れ。営業妨害で訴えるぞ」

 

しれっとそう返すヴァーリ。ラーメン屋なら当たり前のことであった。彼等にとってラーメンと触れ合う時間こそが至高にして至福、それを邪魔する者は神だろうが悪魔だろうが堕天使だろうが英雄だろうが関係ない。皆邪魔者でしかない。

 ヴァーリのそんな言葉に馬鹿にされたと思ったのか曹操は頬をひくつかせながら何とか堪える。ヴァーリについて事前に調べていたのだろう。

 

「癖が強いとは聞いていたがここまでとはな…………。だが此方も諦めるわけにはいかない。何せ君が持っているのは俺と同じ神滅具。是非とも仲間に引き入れたい」

『おぉ、もしかしてこのままいけば白龍皇らしいバトル展開に………!』

「知ってるなら分かるだろう。例えお前が神滅具持ちだろうが何だろうがかわらん。俺はラーメン屋だ。辞めるというならその時はこの首を自らかっ切ろう。お前等はお前等で好きにすればいい。邪魔する気はないが…………もし俺に立ちふさがるというのなら………そのときは『ラーメンの素晴らしさ』を教えてやろう」

『どうせ無理だと思ってたよ、畜生めッ! もう俺には活躍の場など無く便利なタクシー役しかないのか、はぁ………』

 

アルビオンの嘆きが聞こえてきたがヴァーリは気にする様子はない。彼の中で神滅具なんていうのは少し便利な道具程度であり、それこそラーメンを作るために必要な機具に比べれば百均の品物程度の価値しかないのである。

 ヴァーリにそう言われ曹操は正気かと目を剥いていた。

この男、これでも自ら立ち上げた派閥を纏める者である。幾人も人を見てきただけに相手がどう考えているのかということはある程度わかっているのだ。その結果がまさに予想通りというべきか正気の沙汰ではないと言うべきか………分かってしまった。

 

『この男は本当にラーメンのことしか考えていない』

 

その魂に揺らぎ無し、その神髄のみ追い求める孤高の精神は誰にも穢すこと適わず。絶対にぶれない。

曹操は気付いてしまった。ヴァーリの目、それはすなわち『ラーメン馬鹿(英雄)』の目であると。

既に英雄であったという驚き、そしてそれに比べ自分の矮小さを思い知らされてしまう。

だが、認めることは断じて出来ない。

自分は英雄になるべくして英雄を目指す者だ。ならばこれは試練なのだと、そう自身に言い聞かせて…………そして変な方向にいってしまった。

 

「そこまで言うのなら…………俺と勝負しろ!」

「大方戦えとでも言うのだろう。そんな暇はない。あ、もしもし、警察…」

「ちょ、ちょっとまった!?」

 

営業妨害だと確定し速攻で警察に通報しようとするヴァーリ。最近この手の話が多い身としてはまともに相手するのが面倒らしい。ぶっちゃけぶん投げたいのであった。

 そんなヴァーリに慌ててストップをかける曹操。裏で好き勝手出来ても表ではそうではない。英雄になるべき男としては逮捕などされては経歴に傷が付く。

そしてどう方向性が変わったのかと言えば、ある意味当然で場違いな事を言った。

 

「俺はもともと中国出身だ。故に語ろう、所詮ラーメンは我ら中華四千年の歴史が気付き上げた麺料理の派生に過ぎない。そのような邪道で王道に勝てるなどと思うなよ」

「何だと…………」

 

バトルしようぜっ! なんてノリにはまず付き合わないヴァーリであるが、ラーメンを馬鹿にされるのならば例外である。他の料理を馬鹿にする気はないが、ラーメンを馬鹿にされるのは我慢ならないのがラーメン屋というものだ。ヴァーリもまたラーメン屋である。例外はない。

急に身から発し始めた怒気に曹操は冷や汗をかき始めるが、それでも退けないと言葉を続ける。正直自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。

 

「だからこそ………麺料理勝負だ! 俺が本場仕込みの刀削麺を見せてやろう! この勝負、俺が勝ったら君は英雄派に入ってもらうぞ。君が勝ったときは君の好きにするといい。勿論負けた場合はこれ以上君に関わらないことを約束しよう」

 

誰が予想したのか料理勝負。

そしてそう言われたら退かぬのもまた…………ラーメン屋だ。

 

「いいだろう、その本場仕込みの味と技、勉強させてもらうぞ。そして見せてやる、俺のラーメンを!」

 

その身からやる気全開の覇気を噴き出しながらキメ顔でそう答えるヴァーリ。馬鹿の雰囲気に飲まれかける曹操だが、その後は首を洗って待っていろと言いながら店から出て行った。

 そんなわけで一難去った白龍皇。ヴァーリは勝負の勝ち負けよりも相手の刀削麺に期待を膨らませてワクワクしていた。同じ麺料理ならラーメンに使える技も多くあるだろうと楽しみの様子である。本当、勝負する気があるのかわからないが、それを見ていたオーフィスもヴァーリと同じように目を輝かせていた。もう救いなんてないだろう。

 こいつら皆馬鹿しかいないと…………。

当然曹操も拠点に戻り仲間にその事を伝えたら皆から顰蹙を買いメタクソに罵倒される目にあったとか。本人曰く、

 

「いや、俺だってなんでそんなことを言ったのか分からないんだって。ただそう言わなければいけない気がして………」

 

だそうだ。

 尚、その後曹操は槍なぞ知らんと拠点の厨房にて刀削麺の修行に明け暮れ始めたとか………………。

 

 

 

 まぁ、そんなこともあるがラーメン屋『白龍皇』は通常営業。人外や裏の人間が余計に関わってくることもあるが、それでもヴァーリはラーメン屋。ラーメンに只管突き進む、そんな男だ。

そしてお客様に最高の一杯を提供するのが仕事で楽しみである。

 

「小泉さん小泉さん、ここのラーメンはどんなのなの?」

「ここのラーメンは基本ダブルスープの醤油がメインですが、それ以外にも創意工夫をこらした様々なラーメンが楽しめます。本日は看板メニューである醤油ラーメンですね。麺は青竹打ち佐野ラーメンを使っていますがスープはまた違った系統のものです。ですがそれらのマッチングは高レベルで成立しており美味としか言い様がありません。食べて見ればわかるでしょう」

 

黒髪短髪のボーイッシュな女子高生と綺麗な女子高生の二人組のお客がそんな風にはしゃいでいた。そんな彼女達にヴァーリは軽く微笑みながらどんぶりを差し出す。

 

「ようこそ、『白龍皇』へ。ここの看板メニューである醤油ラーメン、おまちどお!」

 

 

そのラーメンを食べて恍惚とした表情を浮かべる二人組。

そんな二人組を見ながらヴァーリは笑う。作ったラーメンを美味いといってもらえるのはまさにラーメン屋の誉れだ。

だからこそ、彼は語る。

 

「ラーメンの可能性は無限大、そして俺はそれを極めたい。だって俺は…………ラーメン屋だからな」

 

 

 

 らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪

 

 

 




これでラーメン大好きヴァーリさんは終わりです。もともとはもっと短い予定なんですけど、何故だか長くなってしまった。
これを読んで下さった皆様、今までありがとうございました。
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