ラーメン屋の朝は早い。
まだ陽が昇る前の暗闇が支配する時間から彼等は行動を開始する。
独自のルートで仕入れただし材達に丹念に処理を施しスープ用の寸胴に入れて水を注ぎ火にかける。そしてソレが沸騰するまでの間にラーメンにのせるトッピングの調理に手を付け始め、沸き始めたスープの火加減を調整し灰汁を妥協することなく真剣に取り除きつつも同時に並行し作業を行っていく。
それらが済んだところでまず最初に一杯のラーメンを作る。
グラグラと沸き立った湯の中に自らの味覚嗅覚を使って厳選した小麦を使った麺を入れて茹で、茹で上がるまでに現在最高作であるタレ、そして出来上がったばかりの澄んだスープをどんぶりに注ぐ。そして茹で上がった麺をどんぶりに入れ、仕上げに刻んだネギを少量のせる。出来上がったのはトッピングなどほぼない素ラーメン。見た感じからしても質素なソレ。だが………コレが良いのだ。コレこそが原本、ラーメンの本体。トッピングだって確かに重要な要素だ。だが、それは本体あってのもの。だからこそ必要なのだ、このラーメンが。
ヴァーリはそれを見て薫る香りを嗅ぎ、そして箸を付ける。
琥珀色に輝くスープに金糸のような麺が泳ぐ。それを箸で持ち上げ、そして大胆に剛胆に口まで持っていき思いっきり啜る。端から見たら行儀が悪いのだが、それこそがラーメンの流儀だ。そしてヴァーリがそれをする様は寧ろそんなことなどまったく感じさせない。まるでフレンチのコース料理を食べているかのように優雅にさえ見えるのだから不思議だ。
当の本人はそんなことなど全く考えていない。彼はただ、今作ったラーメンの出来をみているのである。
満足する気などない。だが、自分が出せる味の中で最高のものかどうかを全本能で感じ取り、そして汁の一滴まで全てを胃の中に納めホッと息を吐き残心し余韻を感じ取る。
「よし」
短いその言葉。なれどそこにある意味は重要なものであった。
自身に納得がいくものが出来上がったことを確認し、ヴァーリは顔に笑みを浮かべる。
これで今日も一日が始まると。お客に胸を張って出せるものが出来上がったと分かるから。
そして開店までに店内を掃除し消耗品を補充して様々確認、または業者とのやり取りなどを終えてやっと暖簾を外に出した。
「さぁ、始めようか。今日もまた良きラーメン日よりだ」
朝日が昇り辺りを辺りを暖かく照らす中、雲一つない快晴の空を見上げ彼は晴れ晴れとした顔でそう告げた。
さぁ、今日もまた無限の可能性に少しでも近づくべく邁進しよう。この果てなどないラーメン道を……………。
ぱっと見はとても立派なラーメン屋。だが、彼はただの人間ではないのだ。
悪魔の王、ルシファーの血を受け継ぐハーフにして神をも滅ぼせる神滅具『白龍皇の光翼』の持ち主。歴代最強の白龍皇その人なのである。
そんな途轍もない人物だというのに、当の本人はそんなことなど気にもかけない。悪魔の矜持も白龍皇としての強者への戦闘欲も、それまでの不幸な身であった自身への力への渇望も何もないのだ。
彼は言う、『そんなものなど不要! ラーメンの前には灰汁以下の存在だ!!』と。
そんなことを言うものだから、彼の周りはそれはもうドン引きするしかない。
そのためか、本来彼が所属しているはずの組織からも半ば脱退状態である。堕天使達の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』が彼が所属している組織なのだが、その制御下に彼は置かれていない。
何故か? 簡単だ。
『ヴァーリ・ルシファーはラーメンの事になると暴走する』
からだ。
本人にその気がないとはいえ、最高の白龍皇である。ただでさえ強い存在だというのに、事それにラーメンが絡んだ際の彼の強さはそれこそ彼の無限に匹敵するかもしれない。それぐらい彼のラーメンへの愛は重いのだ。
そしてラーメンの道を歩むに当たってそのような柵など邪魔でしかない。
だから彼は所属していながらも脱退に近い状態なのである。
まぁ、簡単に言えば『厄介な奴なので触れないほうがいい』というわけだ。
なので彼は所属を気にすることなくこうしてラーメン屋をしていられる。それが例え…………『敵対している悪魔が管理している地』だとしても。
そう、このラーメン屋『白龍皇』が建っているのは駒王町。この地は現在の悪魔社会のトップである四大魔王『サーゼクス・ルシファー』の身内『リアス・グレモリー』が管理しているのである。まぁ、それも正確には勝手に管理しているのであってその事を知っている者はそう多くない。
そしてヴァーリ自身もそのことをまったく気にしていない。
彼にとってこの町は悪魔が管理しているなどまったくもって関係ないのだ。なら何故そんな厄介な地にバレないように店を建てたのか? それはこの町が日本の首都、東京と同じくらい有名な『ラーメン激戦区』だからだ。
ラーメン激戦区とは、字の如くラーメンの激戦区。美味いラーメン屋が鎬を削り合い切磋琢磨する戦場である。ラーメンを探求する者として是非ともその戦場に参加したく、こうして参加しているのだ。東京と悩みはしたのだが、養父であるアザゼルからこの町にしてくれと根気強くしつこく頼まれたため、仕方なく折れた。
そういう経緯で彼はこの地で店を始めたのだ。ちなみに未だに悪魔達にはまったくバレていない。また、この付近にある駒王学園の生徒は結構来てくれている。ヴァーリのビジュアルもそうだが、この店のラーメンを気に入ってくれたらしい。その言葉が何よりも励みになると笑うヴァーリに胸をときめかせた彼女達なのは言うまでもない。
そして男性客からも味を認められていることもあって、この激戦区でもこの店は上位10位以内に入っている。とはいえまだ入っているだけ。ヴァーリとしてはもっと上に行き、更にその上に、つまり究極にして無限のラーメンを作りたい、食べたい………そう思っている。
そんなヴァーリは今日もラーメン屋でラーメンを作っていくのである。
『ヴァーリ、俺は何やらやるせない気持ちで一杯だよ。何で白龍皇がラーメンなど………』
「ラーメンを馬鹿にするのは例えアルビオン、お前であっても許さん。そんな事を抱いている暇があるのなら歴代所有者達から使える食材でも聞き出してこい。当時を知っているのなら今の俺達(ラーメン屋)では知らない何かがあるかもしれないからな」
『歴代最強の無茶ぶりだ…………』
そんな会話をしながらも手を休めないヴァーリ。
そしてお客も一通り落ち着いてきたところで店の電話が鳴り、ヴァーリは急いでそれに出た。ちなみに出前はしていない。
「もしもし、ルシファーですが」
店兼自宅なので応対に間違いは無い。
そう言われた電話先の相手は笑いながら答えた。
『何かそうやって聞くと厨二病みたいだな』
その声にヴァーリが顔を顰める。知っている相手だからだ。
「アザゼル何のようだ? 今俺は店で忙しい。暇なら他所を当たれ」
『そう言うなよ。実はちょっと厄介なことがあって手伝って欲しいんだ』
「厄介?」
『実は未確認の情報なんだが、どうもその町にウチの下級堕天使共が勝手に潜入して何かしでかそうとしてるみたいなんだ。だからそれを……』
「断る」
ヴァーリはそう言って電話を切った。
下級堕天使が何かしでかそうとしてるらしい。それをどうにかして欲しいらしい。
「そんな暇などない! そんな事より出汁材の研究だ!」
彼はぶれない。だってラーメン屋だから。
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪