ラーメン大好きヴァーリさん   作:nasigorenn

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何故か続いた第3話


その3 人情が大切なんですヴァーリさん

 ラーメン屋とは人情に厚く熱いものである。自身の最高の一杯が出来たとしても自分だけ良ければ良いというのはただの独りよがり。そこに他の人、すなわちお客さんに食べてもらい感想をもらいことで初めて『最高の一杯』と化すのである。だからこそ、ラーメン屋はお客を大切にする。媚びへつらうのでもなく下手にでるまでもなく自分のラーメンを食べて喜んでくれる彼等に深い感謝をするのである。そんな彼等だからこそ、ラーメン屋は大切にするのだ。彼等との繋がりを、その出会いと今後の繋がりをより豊かなものとして自身を高めるために。だからラーメン屋は人情を大切にする。ただ美味いラーメン屋を作るだけならただの二流、人情に厚く熱く美味いラーメンを作れる志高く理想を追い求める者こそ一流なのである。

つまり今回何が言いたいのかというと……………。

 

 

 

「急ぐぞ、アルビオン!」

 

ヴァーリは闇夜の空を途轍もない速度で飛んでいた。

彼の顔にあるのは切羽詰まった焦り。その理由を知っている相棒は呆れる他なかった。

事の発端というべきか、断った話だというべきか。あの後もアザゼルのお願いは何度も続き、最初から断り続けていたヴァーリであったが結局承諾したのだ。勿論嫌々であったのだが、ヴァーリからすればアザゼルはかなり恩義がある相手なのである。この店の出店に出資してもらったし、それまで育ててもらったこともある。何よりもラーメンと出会わせてくれたのだ。これ以上の恩などあるはずがない。

それにだ………ラーメン屋は人情を大切にしなければならない。そうでなければラーメン屋を名乗る資格などない。つまり、困っている相手を助けないというのはラーメン屋ではないのである。結局ただのお人良しなのだが、それこそがよりラーメンに磨きをかけるのだ。

そしてお願いを受諾したと同時に状況を聞けば急がざる得なかった。

 

『いや、何でもそいつら今日中に行動起こすらしくて、何でも神器使いの女騙してぶんどるつもりらしい。事が発覚すると悪魔連中が五月蠅そうだから、早めに頼む』

 

とのことらしい。

話を聞いたのが店の営業を終えてラーメンの研究をしている最中であった。今日中というのに残りの時間は5時間もなく、悪魔達が感づけば間違いなく問題事になる。

しかし、ヴァーリは急いでいるのだが理由はそんなことではない。

勝手に暴れている下級堕天使が神器使いから神器を抜き取り殺すことに怒りなど抱かないし興味もない。悪魔達が事に感づき騒ぎを大きくしようがそれを足がけに堕天使勢と戦争を引き起こそうがどうでも良い。

アザゼルに頼みを引き受けたからこうしているだけだが、それでも急がねばならない。何せ彼は今…………人質を取られているようなものだから。

 

『いや、別にそんな急ぐことでもないんじゃぁ………』

「馬鹿なことを言うな、事は一刻一秒を争う事態だぞ! 恩義故に仕方なく受けたがそれそれ、コレはコレだ。時間が惜しい、急いで『帰らねば』」

『やれやれ』

 

呆れ返る相棒の声にそれこそ怒りながらヴァーリは闇夜に閃光の尾を引きながら流星の如く飛行を続ける。彼は急ぐのだ…………自分の大切な物のために。

 

 

 

 目的地は町外れにある廃教会。そこで今回悲劇が始まる…………はずだった。

その教会の地下、そこにある秘密の祭壇にて十字架に縛り付けられているのは綺麗な金髪をした可愛らしいシスターの少女。彼女の名はアーシア・アルジェント……教会を追放された『魔女』と呼ばれる元聖女である。自分が騙されていることに薄々感づいている彼女は悲しみつつ諦観に駆られていた。

もう最後だということにどこか安堵すら感じていたのだ。もうこれで苦しまなくて済むとも。

そんな彼女に悪意と嘲笑を向けるのは四人の堕天使。男が一人と女が三人。その中のリーダー格である女『レイナーレ』は不敵に高笑いを上げる。

 

「あぁ、これでやっと私は至高の堕天使になれる! そしてアザゼル様の寵愛をこの身に…………」

 

恍惚の表情を浮かべる彼女に周りの者達は賛美の声を送る。

もう目的である至高の堕天使に至るのも秒前といった様子である。

 

そんな如何にも頭が幸せな連中に……………衝撃が襲いかかった。

 

彼女達を襲ったのはまるで砲弾が激突したかのような衝撃、それによって教会が大地震に見舞われたかのように揺れまくる。

あまりの揺れに十字架は倒れ堕天使達は体勢を保てずしゃがみ込む。

 

「一体何事なの!?」

 

驚きながら周りを警戒するレイナーレ。悪魔達を警戒して結界こそ張らなかったがここには『はぐれ悪魔祓い』100人が集結しており戦力は十分、警備も厳重にしていたはずだ。だというのに敵が現れたといった報告など一切なくこのように教会に衝撃が走ったのだ。どう考えても敵襲でしかない。

そして誰が襲撃者なのか、その答えも当然すぐに判明した。何せレイナーレ達の目の前に瓦礫と共に降りてきたのだから。

 

「き、貴様は誰だ!?」

 

レイナーレの配下の一人が恐怖を感じながら現れた存在にそう問いかける。

その答えを言う前に、彼女達はもっと恐怖に襲われた。

瓦礫が巻き上げた塵埃が落ち着くとともに現れたのは、美しい銀髪。そして背にあるのは真っ白であり雄々しい翡翠色に輝く光翼。

ここまでならまさに格好いいで済まされた。だが………この後はそのイメージをぶち壊すに値する。

精悍な顔つきに意思の強き瞳、そしてそれをより強調する『捻りタオルのはちまき』。その身は鍛え抜かれつつ美しさを感じさせる見事な肉体、その肉体美な身体に纏うのは真っ白だがあちこちに色々な汚れがついた『調理服』。

背中から現れているのは神器であろう。その姿はまさに神々しいのに、それを台無しにする格好。それはどう見たってこの場には場違いでしかなかった。

そしてその当の本人である彼、ヴァーリは周りを軽く見回しレイナーレ達を見つける。そして彼は面倒臭そうに話し始めた。

 

「アザゼルが言っていたのはお前達か。悪いがアイツからお前達を止めるように頼まれた。時間がないから無理矢理にでも連れて行くぞ」

 

その言葉にはかなりアザゼルと親しい様子が感じられる。だが、それでも彼女達からしたら偉大なトップを馬鹿にしているように感じられたのだろう。その物言いに彼女達は怒りを露わにした。

 

「貴様、偉大なるお方に何て口を! 絶対に生かしておけッ!?」

 

だが、その後の言葉は出ない。なぜならば、ヴァーリがある物を投げつけてきたから。

それは黄色い色が目に眩しい紐の様なものだった。それは勢いよくレイナーレ達に飛んでいくと一瞬にして彼女達の身体に巻き付き拘束した。

 

「な、何すか、これ!? 切れない」

「何だ、この紐は!? 何かの神器か!」

「クソ、まったく取れない!」

「何なのよ、これ!?」

 

拘束され身動き一つとれなくなったレイナーレ達。彼女達は絡みついた黄色い紐のような物を解こうと藻掻くが、それはまったく切れる気配を見せなかった。

そしてレイナーレの悲鳴に答えたのは勿論投げつけたヴァーリである。ただし、その顔はどうにも情けない顔をしていた。

 

「これは麺だ」

 

「「「「はぁ?」」」」

 

「最近作った試作の麺の一つなのだが、どうにもかん水を入れすぎたようでな。うどん以上のコシを持ちつつもラーメンの麺としてのシャープさを求めた物だが…………コシが強すぎな上にかん水臭さが鼻につく。捨てようと思ったのだが事が急だったので持ってきてしまっていたので使ってみたのだが、ここまでとは…………大失敗も良いところだ」

 

まさか自分達を縛り付けているのがラーメンの麺だと思わなかったレイナーレ達は当然おかしいと突っ込む。

 

「いや、どう考えたっておかしいっすよ。何で小麦で作られた麺如きがこんなに硬いんすか!?」

 

ゴスロリ衣装の堕天使の突っ込みにヴァーリは当然のように答えた。

 

「麺のコシを生むのに重要なのはグルテンだ。これがより多く出ればより歯ごたえの良いコシが生まれる。そしてかん水はそれを更に助長し、麺に艶とコシを生み出す。当然のことだろう」

 

常識ですと言わんばかりのヴァーリだが、その理屈でもこの現状はおかしいとしか言えない。いくらコシが強いと言ってもそれが堕天使のような人外達の力でも引き千切れないのはおかしいだろう。結局は小麦粉なのだから。

だからヴァーリは言ったのだ、失敗だと。こんな麺では食べられたものではないのだから。

そんな失敗作によって拘束されたレイナーレ達はうなり声を上げつつも蓑虫のように転がる。そんな彼女達をヴァーリは拘束した麺の端を掴んで引きずることにした。彼女達にあるのはこの後お空を豪速急での飛行だ。

そして用はないと飛び上がろうとしたヴァーリにそれまで十字架に括り付けられていたアーシアは何とかそれを外してヴァーリの元まで歩いてきた。

 

「あ、あの、貴方は……………」

 

その問いかけの意味にヴァーリはドヤ顔で語った。

 

「俺か? 俺はただの…………ラーメン屋さ」

 

その言葉を最後にヴァーリは白龍皇の光翼を広げて一気に空へと飛び出した。

その後ろ姿を呆然と見ているアーシア。そして消えるかのように聞こえたレイナーレ達の悲鳴。

そんな彼女はしばらく呆然としていたが、再び慌ただしい音が聞こえ始めた。

 

「大丈夫か、アーシアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

茶髪の男がアーシアがいた部屋凄い勢いで入ってきたのだ。その姿を見てアーシアは顔を綻ばせる。

 

「あ、イッセーさん!」

 

アーシアの笑顔を見てイッセーと呼ばれた彼、この物語の本来の主人公である『兵藤 一誠』は安堵の表情を浮かべながらアーシアに話しかける。

 

「アーシア、無事で良かった! でも、レイナーレ達は……見た感じ何かあったみたいだけど」

 

一誠の言葉にアーシアはたどたどしくも笑顔でこう言った。

 

「そ、その…………助けてもらったんです………ラーメン屋さんに」

 

その言葉に一誠が理解不能だったのは言うまでもない。

 

 

 

 廃教会から豪速急で飛行したヴァーリはレイナーレ達の悲鳴など気にせず自分の店へと帰ってきた。

そして彼はまさに大急ぎでレイナーレ達を引きづりながら店へと駆け込む。当然引きづられたレイナーレ達は地味に痛い目に。

そんなヴァーリ達は厨房に入ると、そこでレイナーレ達は目を剥いた。

 

「「「「あ、アザゼル様!?」」」」

 

何せ彼女達にとって近づくことすら適わないトップがそこにいたのだから。

アザゼルは着流し姿でぐつぐつと湯気を立てる寸胴の前に立ち何かをしていた。そしてヴァーリの姿を見るとホッとしたような顔をして……………。

 

「ア・ザ・ゼ・ルゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」

 

神すら裸足で逃げ出す憤怒の形相を浮かべたヴァーリによってその顔を煮だっている寸胴に叩き込まれた。

 

「アチィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッッッッッッッ!?!? 何しやがる!!」

 

じゅ~とした音を上げながら顔を火傷で真っ赤にしたアザゼルが叫ぶ。

レイナーレ達は目の前で起こったことに言葉を失い驚愕し、そして犯人であるヴァーリは怒りを言葉の端々から滲ませながら答える。

 

「貴様、さっき何を捨てた…………」

「何をって、お前が頼んだ通りに灰汁取りをだな」

 

その言葉にヴァーリは握り拳を握りしめながら吠えた。

 

「貴様は灰汁と旨味の籠もった良質な油の区別もつかない愚か者かぁッ! いや、愚か者だからわからないのだな! ならば今すぐその身に叩き込んでやる! 今日から寝れる等と思うなよ」

「いや、俺は総督としての仕事が…………」

「そんなものよりラーメンだ!!」

 

そしてラーメン屋『白龍皇』に悲鳴が響き渡り、レイナーレ達は恐怖に震え二度と馬鹿な真似はしまいと誓った。

 

 

らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪

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