新たに弟子を迎えたヴァーリ。その弟子が世界最強と言われている程の猛者である無限龍『ウロボロスドラゴン』であろうとも、そんなものはラーメンの前に意味は無い。ラーメンは等しく平等である。故にヴァーリは相手が最強であろうとも関係なしに臆することなく『逃げ出した軟弱者』と同じようにオーフィスに教え込んだ。
その結果、オーフィスは壊れることなく…………。
「ヴァーリ、出汁出来た。味見、お願い」
「あぁ、いいだろう。どれ…………まだまだだな。もう少し火にかける時間を短めに、それでいて火力を強めにすべきだ。少しばかり失敗に対する恐れが見える。もっと胸を張って大胆にいけ! ラーメンは失敗を許す。その失敗を糧により精進しもっとラーメンの高みを登れ!!」
「分かった師匠。我、もっと頑張る」
しっかりと適応していた。
端から見たら微笑ましい師弟のやりとりなのだが、その中身が最強の龍神と歴代最強の白龍皇というのだから関係者なら笑えない状態である。
そんなわけで現在立派なラーメン屋『見習い』となったオーフィス。その身体はサイズからなのかどう見ても小学生の給食の時に着る割烹着姿であり、どこか微笑ましく感じさせる。そんなオーフィスが師事するのは我らがラーメン馬鹿であるヴァーリ・ルシファー。
彼は弟子に指示しつつも自らのラーメンをより精進すべく邁進していく。
そんな彼等に本日、珍しい客がやってきた。本日はそんなお話。
この日、ラーメン屋『白龍皇』はいつもと変わらずに繁盛していた。
お昼のランチ時、常連客は勿論ご新規の客からも喜びの声を頂き実に忙しなく働くヴァーリとオーフィスの二人。最初オーフィスを見た客は少しばかり違和感に驚きを見せるが直ぐに馴染み、また懸命に働く姿に親しみを覚えて応援したりしている。そのためか今ではすっかり店のマスコットキャラとして皆から可愛がられていた。
オーフィスのお陰と言うべきか、更にお客さんが来るようになった白龍皇はまさに大繁盛と言えよう。勿論、ヴァーリのラーメンの美味さに食べに来るのが殆どなのだが。
そして急がしい時間も過ぎ客足も落ち着き始めた頃、それは来た。まぁ、わざわざ人払いの結界なぞ張っている時点で『そっち』関連の者だということは分かりきっているのだが。
故に扉を開けたその者にヴァーリはジト目を向けつつ声をかけた。
「営業妨害だぞ」
如何にもな視線を向けた先にいたのは、一人の悪魔だった。
褐色の肌に眼鏡をかけた知的な女性。その身に纏うのはこの場には似合わないドレスであり、男なら誰しもが見入ってしまう魅惑的な肢体をしたまさに美女であった。
そんな彼女はヴァーリの視線に少しばかり戸惑いつつも何とか気を取り直しながらヴァーリに話しかける。
「人間の商売になんぞ現を抜かすなんて、貴方には悪魔としての誇りはないのかしら?」
如何にも上から目線な台詞。普通の人物ならそれだけで怒りを抱くだろう。だがそれも仕方ない話、何故なら彼女は悪魔の世界で言うのなら間違いなく『最上級階級』のもの『だった』のだから。
彼女の正体、それは悪魔ならば誰もが知っている『四大魔王』の一角、レヴィアタンの血を受け継ぐ者である。ここで勘違いしそうになるので説明するが、今現在の悪魔政権における四大魔王は全て戦争の後の功績によって後から決められている者達であり、その前にいた四大魔王は皆ちゃんとした血族なのである。つまり彼女こそ、血筋的に言えば正当な『レヴィアタン』なのである。
そんな彼女はヴァーリの出生を知っている上で敢えて自ら名乗りを上げた。
「私の名はカテレア・レヴィアタン。真なるレヴィアタンです」
その名を聞けばヴァーリも大体分かってくる。何故自分にこうして関わってきたのかも。
だからこそ、ヴァーリは続きを促す。
「それで真のレヴィアタンが何の用だ。わざわざ営業妨害までして」
その言葉にカテレアはフフンと不敵な笑みを浮かべ両手を胸の下で組む。その際おおきな胸が強調されるのだが、残念ながらこのラーメン狂いに『色欲』は存在しない。
「貴方を誘いに来たのですよ。『真なる魔王の血族』である貴方を。そして我々で取り戻すのです、その忌まわしき偽りの魔王達を討ち滅ぼし正しき魔王による正しき悪魔の世界を!」
まるで政治家が講演会をしているかのように熱烈に語るカテレア。彼女の言い分も分からなくはない。何故なら彼女達は今まであった身分を取り上げられたようなものだから。
だが……………この男はそんなことなど考えない。
「はぁ…………下らない」
実に呆れ返った様子でそう返した。その様子にカテレアは怒りを露わにして顔を真っ赤にする。
「下らないですって! それでも貴方はルシファーなのですか!! 偽りの魔王達が我が物顔で跋扈していることが耐えられるというのですか! 貴方以外の真なる魔王の血族はみなこの事態に憎悪し憤怒しているというのに」
彼女は正当な『復讐者』だ。そういう権利はあるのだろう。そしてヴァーリもまた、そう言う意味でならそうなのかも知れない。
だが………この男にはそのような『些事以上に細かいどうでも良い事』など意味を成さない。
故にヴァーリは呆れ顔でこう言うのであった。
「勝手にやっていれば良い。そんな下らないことなぞ俺には関係ない。そんなものよりラーメンだ」
この男にとって己の血筋や悪魔の世界なぞ正直どうでも良い。重要なのはいつだってラーメンなのである。
そう言われれば当然彼女は反感を抱き喚き散らす。
「何がラーメンですか! そんな人間の下らない料理なんかより私達の方が余程………ッ!?」
それ以上はこの男が言わせる訳がない。
ヴァーリから向けられた鋭利過ぎる殺気にカテレアは言葉を詰まらせた。
「ラーメンは下らなくない。そこまで言うのなら、貴様に認めさせてやろう………ラーメンが素晴らしいと言うことを」
ヴァーリはそう言うとしれっと厨房に入っていく。
その後ろ姿に声をかけることが出来なかったカテレアは仕方なくカウンターの席に着く。
すると彼女の隣に水の入ったコップが置かれた。
「お冷や…です」
そう言われ渡してきた人物を見て彼女は今度驚きで固まった。
「な、ななな……何故オーフィスがここに!?」
お飾りとは言え自分達の組織の首領であるオーフィスがこの場にいることに驚いたのだ。フラッと行方をくらませることがあるので特に気にしていなかったのだが、まさかこんな場所で会うとは思わなかった。だからこそ、驚いているカテレアにオーフィスはいつもの無表情でこう答える。
「カテレア、どうかした?」
「いや、どうかしたではないでしょう! 何故貴方がここに!」
固まっていたのから一転して驚きながら大声を出すカテレア。そんな彼女にオーフィスはどこか自慢げにドヤ顔をかましながら答えた。
「我、ラーメン屋になる」
「はぁ?」
当然意味など分からないカテレアは呆けてしまう。
「我、決めた。グレートレッド、倒すこと、意味ない。そんなことよりラーメン」
言葉から伝わる『もう手遅れ』感。彼女はもうラーメン屋だった。
「だから我、もう組織いらない。我、ここでラーメン屋になる。目指せ、無限大の可能性のラーメン」
実にドヤ顔で語るオーフィス。そんな彼女に当然言いたいことが山ほどあるカテレアだが、何か言う前に目の前にどんぶりが置かれた。
「ラーメンを語るのに言葉は不要。食べればわかる」
戻って来たヴァーリはそう言ってきた。
勿論巫山戯るなとカテレアは思った。今すぐこんな物など叩き落として怒るべきだと。
だが………何故かそう出来ない。
彼女は見入ってしまっていたのだ…………そのラーメンに。
芳しい香りに金色の麺、そして澄んだスープ。ただのラーメンなのにどこか美しく、それでいて食欲を否応なしに刺激する。
カテレアは無意識に唾を飲み込んだ。そして身体は自然と箸とレンゲを掴み麺を口に運んでしまう。お上品な食べ方で啜らないのは上流階級故か。
そして彼女はその味を感じた瞬間目を見開く。
脳裏では何故か自分の服が全部弾け飛び全裸になってしまう映像が流れ、快楽による喘ぎ声が上がってしまっていた。
(な、何、これ………今まで食べたことのない味だけど…………美味しい!?)
その美味さに言葉を失うカテレア。正直食べ物でここまで感動したのは初めてかも知れない。
その顔は恍惚となり見ている者全てを魅了するくらい魅惑的であった。
そんな彼女にヴァーリはドヤ顔で問いかける。
「どうだ、これがラーメンだ。美味いだろ」
その言葉に同意しそうになるが認めてしまったらそれはつまり『真なる魔王<ラーメン』ということになってしまう。魔王と血筋の者としてそれは絶対に認めてはならない。だからこそ、彼女はハッと気を取り直して緩んでいた顔を顰めつつ大きな声で言う。
「べ、別にこんなもの、どうでも………」
そう言っている途中でヴァーリは少し残念そうな顔でどんぶりを掴んだ。
「そうか、気に召さなかったか………俺の力不足だな」
そう言ってどんぶりを下げようとするわけだが、その手は動かなくなる。
「カテレア、この手は何なんだ?」
その言葉にカテレア自身も自分の行動に驚いてしまった。何せその手はどんぶりを掴むヴァーリの腕を掴んで止めていたからだ。
ソレを見て放そうとするのだが、どういうわけか手はまったく動かない。
ヴァーリはそんなカテレアに不敵な笑みを浮かべながら話しかける。
「ラーメンが素晴らしいと素直に認めるのなら、この手を下げよう。どうする?」
その問いかけにカテレアの心は揺れに揺れる。
真の魔王としての教示と、そして初めて知ってしまったラーメンという名の『快楽』に。激動し鳴動しめまいに襲われるかのような感覚に陥る。
そして彼女は……………。
「わ………わかりました……………分かりましたよ! ラーメンは美味しいです! だからもっと、その………食べさせて下さい!!」
堕ちた。
それは見事なまでの堕ちっぷりであった。涙目で半泣きしつつ頬を赤らめ恥じらいながらも本音を口にし懇願する様はまさに可愛いの一言に尽きるだろう。この男は反応しないが。
その言葉にヴァーリは良し、とカテレアの間にどんぶりを戻した。
「その言葉こそ、俺達(ラーメン屋)にとって最高の誉れだ」
その言葉にカテレアはお上品に、でもそれでいて夢中になってラーメンを食べる。その様子は少し前のオーフィスにそっくりであったという。
そして彼女は全部食べきりお代を支払ってヴァーリにこう告げる。
「その……確かに貴方が言うように、美味しかったです。だから貴方はそのままで良いと思います。それに私も………正直馬鹿馬鹿しくなってきたので辞めます『「真なる魔王の血族派』。御家の為にそう言ってましたけど正直に言えば面倒でしたし、それにまだ歳若いのにそんなドロドロなの御免だし。貴方のラーメンのお陰で踏ん切りがつきました。これからは……そうですね、もっと明るくやりたいことをやろうと思います。私、お花屋さんになりたかったんですよね。今からでも大丈夫でしょうか?」
憑き物がスッキリと落ちたようなカテレアにヴァーリは真面目にこう答える。
「好きなようにすればいい。ラーメン以外のことは分からないが、やりたいことはやるべきだ。それでこそ、生きがいがあるという」
その言葉に彼女は納得して店の扉を開けて外に出る。
「また食べに来ます。貴方のラーメンは美味しいですから」
こうしてカテレア・レヴィアタンは去って行った。この後、彼女は後に行われる予定の駒王町で行われる三大勢力の和平講和への襲撃を辞退。それどころか禍の団も脱退し人間界へと溶け込んでいった。
『カテレア生還』
らーめん、大好き、ヴァ~リさん♪