俺は一方通行《Accelerator》   作:とあるゴリラ

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先週投稿しなくてすいません。
では、どーぞ。


〜呪われた少女 救済編〜
第9話 純白紅眼の少女


 保須市の高級マンション最上階。一方通行(アクセラレータ)は手で空き缶を潰しながら袋に詰め、テレビを眺めている。

 ヒーロー殺しステイン。奴と会った後はすぐに自室へ戻り、ゆっくりとくつろいでいるのだ。

 

「結局一位は爆豪ねェ……もしかしたら、とは思ったがやっぱ番狂わせ(ジャイアントキリング)は起きなかったか」

 

 もしかしたらあの少年が一番になるのでは、と思っていた一方通行(アクセラレータ)であったが、結果は見ての通りである。

 そしてテレビを見ていてもう一つ、とあるニュースが彼の目に飛び込んできた。

 

「大先輩はあの後随分と派手にやったみてェじゃねェかよ。何でわざわざ俺のいる街を注目の的にしやがンだ。出来ればやめて欲しいもンだが……」

 

 ヒーロー殺しステインは一方通行(アクセラレータ)と別れた後、ターボヒーローインゲニウムを襲ったらしく、保須市が大々的にニュースで取り上げられていた。

 何故厄介ごとばかりが自分のいる街では起こるのか、と一方通行(アクセラレータ)としては鬱陶しくて仕方がない。

 

(また引っ越し考えるか……)

 

 自分の運気を呪いたくなる程、厄介ごとに巻き込まれそうなフラグが何本も立っている。

 最強のその先を目指している、と宣言しているものの、本人としては特に何もなく、平和に過ごせるのが一番である。

 そんな考えが頭によぎったのも束の間。目の前に黒い泥の様な亀裂が入り、そこから一枚の手紙がでてくる。

 とっさに一方通行(アクセラレータ)は後ろに回避する。

 

(コイツは座標移動!?……結局ここもアイツにバレてンのか、クソッタレが)

 

 恐らくオール・フォー・ワンの数ある"個性"の一つで手紙を送りつけてきたのだろう。一方通行(アクセラレータ)の引越しもリフォームも全て無駄になってしまった。しかし、携帯電話に連絡を入れず、手紙を寄越してきたという事は携帯の番号は割れていないということだ。

 一方通行(アクセラレータ)は恐る恐る手紙を取り、封を開ける。

 ピリリ、と静かな部屋に紙の切れた音が響き渡り中身を取り出す。そこに書かれていた内容は、

 

 

 親愛なる生徒へ。

 

 全く。何で君は予想と違う行動をとるのかな? 僕としては、妹をすぐに探しに行くと思ったんだけどね?

 まあ、結果はどうであれ、僕からの贈り物だ。感謝してくれたまえ。

 窓の外を見てごらん。

 

 

 そこまで読んだ所で、一方通行(アクセラレータ)はふと、ベランダの外を眺めた。

 もう夕日は沈みかけており、空は夜の帳に包まれようとしていた───その時、

 

「きゃあああっ!」

 

 外から少女らしき声。

 あ? とベランダへの入り口のガラスへ右手を伸ばした瞬間。目の前を一瞬だが一人の少女が上から下へと落下していった。

 

「あァ!?」

 

 その光景に一瞬だが呆気にとられる。

 一方通行(アクセラレータ)が住んでいるマンションは30階建ての高層マンション最上階。そこより上から落下などしたら命などゴミ屑の様に消え失せる。

 ベランダの扉を開ける余裕などなく、一方通行(アクセラレータ)はガラスで出来た入り口を容赦なく粉砕してベランダから飛び降りる。能力をフル活用する。いまの彼はありとあらゆるベクトルを自身の味方につけているので、マンションから落ちた所でどうとでもなる。だが、問題は一方通行(アクセラレータ)よりも先に落下している少女だ。

 落下している少女を助けるべく更に辺り一面の大気のベクトルを操作。落下している少女に対して地面から吹き出るように風が起こり空中で少女は静止した。その後はすぐ様、一方通行(アクセラレータ)は自身の体に4本の竜巻を生成し、少女へと近づいていく。

 そんな状況に置かれた少女はビクビクと震えていた。それも当然だろう。自分が死ぬかもしれなかったのだから。

 そんな少女へ軽く手を伸ばし、右腕を掴む。重力、大気のベクトル操り、体へと負担が無いように地面へとゆっくり降下。

 

「……てんしさま?」

「ハァ?」

 

 助けた少女からの思わぬ一言に一方通行(アクセラレータ)は口を大きく開け、顔を歪ませる。

 

「……てか、オマエ」

 

 ここで漸く一方通行(アクセラレータ)は気が付いた。目の前の少女が何故空中へ放り出されたのか。

 真っ白い純白の髪。目は紅く、怪しげにも美しさを感じさせる紅眼(ルベライト)の瞳。

 肌は真っ白という訳ではないが、それなりに白く髪は腰元まで伸びている。

 

(あァ……そうか、そういう事か……)

 

 写真で見た少女と完璧に同じ見た目。

 そして何より許せなかった事は、また自分のせいで関係ない者を危険に巻き込んだ、ということ。

 

 プルルルル、と着信音が鳴り響く。

 腰から携帯を取り出し、画面を開くとそこには非通知、と表示されている。

 ゆっくり耳元へ携帯を持っていき、電話にでると、

 

 《やあやあ、一方通行(アクセラレータ)。番号はバレて無いと思ったかな? 残念。このくらいは簡単に調べられるんだよね》

「……、」

 《それよりも僕の贈り物は気に入ってくれたかな?》

「オマエ、どォいうつもりだ? 何が目的だ?」

 《目的? 目的ねぇ……気に入った生徒にご褒美をあげるのは理由が必要かな?》

「相変わらずムカつく野郎だな。オマエは」

 《いやー、残念だよ。君は今、さぞ不快な表情を浮かべているんだろうね。それが見れなくて残念で残念で仕方ないよ》

 

 一方通行(アクセラレータ)は今現在、頭が沸騰しかけている。表情などはかなり歪んでおり、何でもいいから八つ当たりしたい、と衝動的に辺りの地面をひっくり返したい程だ。

 

 《あー、そうそう。その娘、ある組織から盗んできたんだ。結構面倒くさい組織でね、今は彼女そっくりのクローン的な人形を置いてきてあるからバレて無いけど……もしかしたら危険かもね?》

「……ハッ、その組織を潰せってか? 見え見えの陽動じゃねェかよ。そンなオマエが喜びそうな事すると思ってンのか?」

 《何か勘違いしているね?》

 

 あン? と、一方通行(アクセラレータ)は横でビクビクと怯えている少女を軽く見ながら返信をすると、

 

 《そんな組織くらい、いざとなれば僕一人でもどうにかできるさ》

 

 ただ、と付け加えながらオール・フォー・ワンは不気味な声をより一層悪意を込めた口調で言う。

 

 《君が彼女を守りながら何処まで僕と戦えるかなと思ってね》

「守る……ねェ。ヒャハハ! 俺がそンなお人好しに見えンのかよ? アァ? 俺がこのクソガキを守る義理なンざァねェンだよ。いつからオマエの頭の中で俺はヒーローにジョブチェンジしたンですかァ? 長く生き過ぎちまってとうとうボケちまったか?」

 《じゃあ何で落ちてく彼女を助けたんだい?》

 

 その一言で一方通行(アクセラレータ)はおし黙る。

 

 《守るよ、君は必ず守る。ヒーローになれなかった哀れな男。自ら犯した罪に押しつぶされそうになりながら、悪党を演じ、それでもなお正しく生きようとする。口では無敵を目指してる、とかまだ言ってるみたいだけど。そろそろ安っぽい金メッキが剥がれてきたかな? あははは! 本当に哀れだな君は。せいぜい足掻いて足掻いて足掻き続けろ。もっとも、僕は罪の意識なんてこれっぽっちも無いから、そんな風になる奴の気持ちなんてわからないけどね》

 

 そこで一方通行(アクセラレータ)はバキリ、と携帯を握り潰し、額に青筋を浮かべていた。そんな様子を見かねた少女は恐る恐る話しかける。

 

「あの、助けてくれてありがとう……」

「……、」

 

 そんな少女を一方通行(アクセラレータ)は横目でチラリと見た後、大きくため息をこぼした。

 

「ここどこ? わたし、急に空に投げ出されたから……」

「保須市、メルヘン保須マンション」

「ほすしめるへんほすマンション?」

 

 少女は何処? といった様子で首を傾げる。

 一方通行(アクセラレータ)は頭をガシガシと何回か擦ってから、送ってやるから組織の名前教えろ、と言った瞬間。

 先ほどの震えとは段違いにブルブルと縮こまるように震え、目から涙がポロポロと溢れ始めた。

 

「かえ……り、たく……ない。……たずげで」

(組織って、そンなクソみてェな実験してンのか?)

 

 一方通行(アクセラレータ)はある事に気がつく、先ほどから腕の包帯が巻かれている場所を隠すように縮こまっているのだ。

 

「オイ、その手見せろ」

「へっ? えっ、やめて!」

 

 無理やり手を掴み、ベクトルを操作して一瞬で少女の腕の包帯が剥がれていく。そして目に映ったモノは。

 

「なン、だ、コリャ……」

 

 夥しい量の切り刻まれた痕。この先、この数が消える事は無いのでは無いかと思わせる程、酷いモノであった。

 それを見られた少女はより一層、ビービーと泣き始める。

 すぐさま包帯のベクトルを操作し、綺麗に腕に巻きつけ直す。

 そして少女に背を向けながら一方通行(アクセラレータ)は少し小さめな声で言った。

 

「ハァ……付いてこい」

「───え?」

 

 その一言に思わず少女は一方通行(アクセラレータ)の後ろ姿を見つめてしまった。

 元いた場所に返されるかと思った。だが、彼が向かっているのはマンションの入り口。

 

「帰りたくなるまで泊めてやる。まァ、今日はここが家だが、明日には引越しはするがな」

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

(───どォしてこォなった……)

 

 一方通行(アクセラレータ)の心情としてはこの一言に尽きる。

 自身が突き破ったベランダのスライド式の扉を外に出し、ガラスの破片を集めながら考える。ガラスの破片は一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作によって地面を軽くつつくと一箇所に集まっていき、見事にゴミの小さな山が部屋の端っこへ出来上がった。

 身寄りのない子供───少女を何故自分が保護しなくてはいけないのか。巻き込んだのは自分であり、責任も自分にあるのは確かだ。しかし、この少女がいては身勝手な行動はできない。一人でふらふらと街へ散歩に行く事も、ましてや連れて行くのも危険だ。

 

「綺麗な部屋……なんで明日には引っ越すの?」

「胸糞悪ィからだよ」

 

 何故引っ越しても直ぐに居場所がバレるのか、考えれば簡単な事である。誰かが常に一方通行(アクセラレータ)を監視しているか、又は引越し業者にオール・フォー・ワンと内通している者がいる。

 しかし、監視されているならば一方通行(アクセラレータ)はその視線に直ぐに気付くはず。なら、答えは引越し業者、又は不動産に限られる。

 

「オイ、クソガキ。オマエの居た組織教えろ。───なに、別にオマエを返すって訳じゃねェ。ただ目障りになるかもしれねェ奴らってのは消して置かなくちゃならねェからな」

「……いや。アナタ殺されちゃう」

 

 その言葉を聞き、一方通行(アクセラレータ)は笑う。

 

「ククッ……誰にもの言ってんだ?」

 

 ドアが壊れ、開きっぱなしのベランダの方へ一方通行(アクセラレータ)が手をかざすと、突如謎の暴風が発生する。その風に耐える様に少女は一瞬縮こまり、目を瞑った。

 そのまま数秒……風はおさまり、少女は目をベランダの外へ向けると先ほどまで曇りかかっていた空は雲一つ無く、三日月と星々がキラめいていた。

 

「俺は"最強"だ。誰も敵わねェ。だから、組織の奴らなンざ敵じゃねェンだよ」

「……だめ」

「あァ? だがら、別にオマエを───」

 

 一方通行(アクセラレータ)がそこまで言いかけた所で少女は少し大きめの声で言った。

 

「お兄ちゃんが強いのはわかった……でも、消すって……殺すって事でしょ?」

「……そうだ」

「殺すの、駄目ぜったい」

「オイオイ、状況分かってンのか? オマエを散々弄り回した連中に復讐してやろうってンだぜ?」

「私は復讐なんて……ううん、駄目なの。アナタに人を殺させるのも、アナタが殺されるのも、人が殺されるなら……私は帰る。迷惑かけてごめんなさい、私といるとアナタが不幸になるから」

 

 何でだ、と一方通行(アクセラレータ)は言葉を詰まらせる。

 彼女は周りの人が傷つくなら自分が犠牲になる、とそう言っているのだ。それは一方通行(アクセラレータ)のとった方法とは真逆であり、自分が一番損をする生き方だ。

 

「ハッ……不幸? 不幸ねェ……ククッ」

 

 一方通行(アクセラレータ)は笑いを溢す。

 これ以上の不幸? と、自分が不幸になる? と。

 

「イイか? 俺は悪党だ」

「───え?」

「悪党ってのは、オマエみたいな奴が嫌がることをするもンだ。───つまり、オマエは俺が不幸になると困るンだな?」

「うん。助けてくれたアナタには幸せになって欲しいから」

 

 少女はあの時、右手を掴まれ助けられた事を思い返す。

 とても冷たい手だった。でも、その手から伝わってきた。この人は優しい人で、昔から知っている様な感じがした、と。

 

「そいつは聞けねェな、イイか? もう一度言うぞ」

 

 一方通行(アクセラレータ)は顔を歪ませ、笑いながら言った。

 

「俺は『悪党』だ。だから、幸せになって欲しいってのも聞けねェ。そンでもってオマエは組織に渡さねェ。オマエの意見なんてのも聞かねェ。だがら組織は潰す。───だが、もし、もしだ。オマエが組織の連中を殺して欲しいってンなら、()()はしねェかもな」

 

「!!」

 

 少女は驚いた様子で軽くコクリ、と頷いた。

 

「ククッ、そンじゃまァ……屑共潰し(タノシイオシゴト)に行きますか」

 

 どうやらこの世界は、一方通行(アクセラレータ)に平凡な生活をさせる気は全くもってないようだ。

 

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