では、どーぞ。
第9話 純白紅眼の少女
保須市の高級マンション最上階。
ヒーロー殺しステイン。奴と会った後はすぐに自室へ戻り、ゆっくりとくつろいでいるのだ。
「結局一位は爆豪ねェ……もしかしたら、とは思ったがやっぱ
もしかしたらあの少年が一番になるのでは、と思っていた
そしてテレビを見ていてもう一つ、とあるニュースが彼の目に飛び込んできた。
「大先輩はあの後随分と派手にやったみてェじゃねェかよ。何でわざわざ俺のいる街を注目の的にしやがンだ。出来ればやめて欲しいもンだが……」
ヒーロー殺しステインは
何故厄介ごとばかりが自分のいる街では起こるのか、と
(また引っ越し考えるか……)
自分の運気を呪いたくなる程、厄介ごとに巻き込まれそうなフラグが何本も立っている。
最強のその先を目指している、と宣言しているものの、本人としては特に何もなく、平和に過ごせるのが一番である。
そんな考えが頭によぎったのも束の間。目の前に黒い泥の様な亀裂が入り、そこから一枚の手紙がでてくる。
とっさに
(コイツは座標移動!?……結局ここもアイツにバレてンのか、クソッタレが)
恐らくオール・フォー・ワンの数ある"個性"の一つで手紙を送りつけてきたのだろう。
ピリリ、と静かな部屋に紙の切れた音が響き渡り中身を取り出す。そこに書かれていた内容は、
親愛なる生徒へ。
全く。何で君は予想と違う行動をとるのかな? 僕としては、妹をすぐに探しに行くと思ったんだけどね?
まあ、結果はどうであれ、僕からの贈り物だ。感謝してくれたまえ。
窓の外を見てごらん。
そこまで読んだ所で、
もう夕日は沈みかけており、空は夜の帳に包まれようとしていた───その時、
「きゃあああっ!」
外から少女らしき声。
あ? とベランダへの入り口のガラスへ右手を伸ばした瞬間。目の前を一瞬だが一人の少女が上から下へと落下していった。
「あァ!?」
その光景に一瞬だが呆気にとられる。
ベランダの扉を開ける余裕などなく、
落下している少女を助けるべく更に辺り一面の大気のベクトルを操作。落下している少女に対して地面から吹き出るように風が起こり空中で少女は静止した。その後はすぐ様、
そんな状況に置かれた少女はビクビクと震えていた。それも当然だろう。自分が死ぬかもしれなかったのだから。
そんな少女へ軽く手を伸ばし、右腕を掴む。重力、大気のベクトル操り、体へと負担が無いように地面へとゆっくり降下。
「……てんしさま?」
「ハァ?」
助けた少女からの思わぬ一言に
「……てか、オマエ」
ここで漸く
真っ白い純白の髪。目は紅く、怪しげにも美しさを感じさせる
肌は真っ白という訳ではないが、それなりに白く髪は腰元まで伸びている。
(あァ……そうか、そういう事か……)
写真で見た少女と完璧に同じ見た目。
そして何より許せなかった事は、また自分のせいで関係ない者を危険に巻き込んだ、ということ。
プルルルル、と着信音が鳴り響く。
腰から携帯を取り出し、画面を開くとそこには非通知、と表示されている。
ゆっくり耳元へ携帯を持っていき、電話にでると、
《やあやあ、
「……、」
《それよりも僕の贈り物は気に入ってくれたかな?》
「オマエ、どォいうつもりだ? 何が目的だ?」
《目的? 目的ねぇ……気に入った生徒にご褒美をあげるのは理由が必要かな?》
「相変わらずムカつく野郎だな。オマエは」
《いやー、残念だよ。君は今、さぞ不快な表情を浮かべているんだろうね。それが見れなくて残念で残念で仕方ないよ》
《あー、そうそう。その娘、ある組織から盗んできたんだ。結構面倒くさい組織でね、今は彼女そっくりのクローン的な人形を置いてきてあるからバレて無いけど……もしかしたら危険かもね?》
「……ハッ、その組織を潰せってか? 見え見えの陽動じゃねェかよ。そンなオマエが喜びそうな事すると思ってンのか?」
《何か勘違いしているね?》
あン? と、
《そんな組織くらい、いざとなれば僕一人でもどうにかできるさ》
ただ、と付け加えながらオール・フォー・ワンは不気味な声をより一層悪意を込めた口調で言う。
《君が彼女を守りながら何処まで僕と戦えるかなと思ってね》
「守る……ねェ。ヒャハハ! 俺がそンなお人好しに見えンのかよ? アァ? 俺がこのクソガキを守る義理なンざァねェンだよ。いつからオマエの頭の中で俺はヒーローにジョブチェンジしたンですかァ? 長く生き過ぎちまってとうとうボケちまったか?」
《じゃあ何で落ちてく彼女を助けたんだい?》
その一言で
《守るよ、君は必ず守る。ヒーローになれなかった哀れな男。自ら犯した罪に押しつぶされそうになりながら、悪党を演じ、それでもなお正しく生きようとする。口では無敵を目指してる、とかまだ言ってるみたいだけど。そろそろ安っぽい金メッキが剥がれてきたかな? あははは! 本当に哀れだな君は。せいぜい足掻いて足掻いて足掻き続けろ。もっとも、僕は罪の意識なんてこれっぽっちも無いから、そんな風になる奴の気持ちなんてわからないけどね》
そこで
「あの、助けてくれてありがとう……」
「……、」
そんな少女を
「ここどこ? わたし、急に空に投げ出されたから……」
「保須市、メルヘン保須マンション」
「ほすしめるへんほすマンション?」
少女は何処? といった様子で首を傾げる。
先ほどの震えとは段違いにブルブルと縮こまるように震え、目から涙がポロポロと溢れ始めた。
「かえ……り、たく……ない。……たずげで」
(組織って、そンなクソみてェな実験してンのか?)
「オイ、その手見せろ」
「へっ? えっ、やめて!」
無理やり手を掴み、ベクトルを操作して一瞬で少女の腕の包帯が剥がれていく。そして目に映ったモノは。
「なン、だ、コリャ……」
夥しい量の切り刻まれた痕。この先、この数が消える事は無いのでは無いかと思わせる程、酷いモノであった。
それを見られた少女はより一層、ビービーと泣き始める。
すぐさま包帯のベクトルを操作し、綺麗に腕に巻きつけ直す。
そして少女に背を向けながら
「ハァ……付いてこい」
「───え?」
その一言に思わず少女は
元いた場所に返されるかと思った。だが、彼が向かっているのはマンションの入り口。
「帰りたくなるまで泊めてやる。まァ、今日はここが家だが、明日には引越しはするがな」
◇
◇
◇
(───どォしてこォなった……)
自身が突き破ったベランダのスライド式の扉を外に出し、ガラスの破片を集めながら考える。ガラスの破片は
身寄りのない子供───少女を何故自分が保護しなくてはいけないのか。巻き込んだのは自分であり、責任も自分にあるのは確かだ。しかし、この少女がいては身勝手な行動はできない。一人でふらふらと街へ散歩に行く事も、ましてや連れて行くのも危険だ。
「綺麗な部屋……なんで明日には引っ越すの?」
「胸糞悪ィからだよ」
何故引っ越しても直ぐに居場所がバレるのか、考えれば簡単な事である。誰かが常に
しかし、監視されているならば
「オイ、クソガキ。オマエの居た組織教えろ。───なに、別にオマエを返すって訳じゃねェ。ただ目障りになるかもしれねェ奴らってのは消して置かなくちゃならねェからな」
「……いや。アナタ殺されちゃう」
その言葉を聞き、
「ククッ……誰にもの言ってんだ?」
ドアが壊れ、開きっぱなしのベランダの方へ
そのまま数秒……風はおさまり、少女は目をベランダの外へ向けると先ほどまで曇りかかっていた空は雲一つ無く、三日月と星々がキラめいていた。
「俺は"最強"だ。誰も敵わねェ。だから、組織の奴らなンざ敵じゃねェンだよ」
「……だめ」
「あァ? だがら、別にオマエを───」
「お兄ちゃんが強いのはわかった……でも、消すって……殺すって事でしょ?」
「……そうだ」
「殺すの、駄目ぜったい」
「オイオイ、状況分かってンのか? オマエを散々弄り回した連中に復讐してやろうってンだぜ?」
「私は復讐なんて……ううん、駄目なの。アナタに人を殺させるのも、アナタが殺されるのも、人が殺されるなら……私は帰る。迷惑かけてごめんなさい、私といるとアナタが不幸になるから」
何でだ、と
彼女は周りの人が傷つくなら自分が犠牲になる、とそう言っているのだ。それは
「ハッ……不幸? 不幸ねェ……ククッ」
これ以上の不幸? と、自分が不幸になる? と。
「イイか? 俺は悪党だ」
「───え?」
「悪党ってのは、オマエみたいな奴が嫌がることをするもンだ。───つまり、オマエは俺が不幸になると困るンだな?」
「うん。助けてくれたアナタには幸せになって欲しいから」
少女はあの時、右手を掴まれ助けられた事を思い返す。
とても冷たい手だった。でも、その手から伝わってきた。この人は優しい人で、昔から知っている様な感じがした、と。
「そいつは聞けねェな、イイか? もう一度言うぞ」
「俺は『悪党』だ。だから、幸せになって欲しいってのも聞けねェ。そンでもってオマエは組織に渡さねェ。オマエの意見なんてのも聞かねェ。だがら組織は潰す。───だが、もし、もしだ。オマエが組織の連中を殺して欲しいってンなら、
「!!」
少女は驚いた様子で軽くコクリ、と頷いた。
「ククッ、そンじゃまァ……
どうやらこの世界は、