俺は一方通行《Accelerator》   作:とあるゴリラ

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どうもーとあるゴリラでーす。
評価入れてくださった皆様、感謝感謝でーす。
今回は少しオリ主感だしていきたいと思います。それでは、どーぞ!(誤字脱字あったらごめん)


第5話 対極の存在

 死柄木弔は首筋をガリガリと掻きむしり、沸騰しかけた頭を捻らせ頭の中で目の前の男をどうしたら苦しめることが出来るか、または殺せるかを考えている。

 本来の目的である平和の象徴───オールマイトを殺す事など、頭の隅にしまい込んで、だ。

 

「どォしたよ、弔クゥン? ネタ切れでとうとう見た目だけじゃなく、頭まで変態になっちまったかァ?」

「うるさい。死ね。今すぐ死ね。なんで邪魔すんだよ、お前……本当に何なんだよ。何がしたいんだよ」

「───死柄木弔。落ち着いてください。今、現在。危機的状況なのは確か、ですが。ここで取り乱してはいけません」

 

 一方通行(アクセラレータ)の挑発に対して、冷静さを保つ様に言葉をかける黒霧。

 だが、彼は落ち着ける状況では無かった。

 それも当然だろう。あそこで、一方通行(アクセラレータ)に電話をかけず、事を進めていればこういった事にはならなかったかもしれないのだから。

 そんな会話の最中、オールマイトが一方通行(アクセラレータ)に声をかける。

 

「久しぶりだね、少年。随分と逞しく成長して……今回の件。本当に助かった。()()()()()

 

 平和の象徴から思わぬ言葉をかけられた一方通行(アクセラレータ)は、は? と怪訝な顔を浮かべる。

 目線をボロボロのオールマイトに向け、頭に手を当てながら答える。

 

「ありがとうだァ? ヒーローが悪党に礼なンて言ってンじゃねェよ。それに俺はオマエを助けに来た訳じゃねェ。卵共を助けに来た訳でもねェ。俺を利用しようとした馬鹿共を始末しに来ただけだ」

 

 チラリとオールマイトと会話をしている姿を眺めている、雄英の生徒達の方へ目をやり、軽く舌打ちをする一方通行(アクセラレータ)

 そして、今度は弔の方へと目をやり。

 

「さァ、選べ。俺の肌に触れたが最後。全身の血管を根こそぎ爆破ってのは知ってンな?」

 

 口を歪め、不敵に微笑み。両手を片方ずつ広げ言う。

 

「右手か?」

 

 一歩前に、

 

「左手か?」

 

 更に一歩前へ。

 

「両方かァッ!?」

 

 ダン! と地面を蹴り、足元のベクトルを操作して一直線に突っ込んでいく。スピードは脳無と戦った時ほど出てはいないが、それでもかなりのスピードが出ている。

 狙われているのは、勿論。死柄木弔である。

 

「黒霧ッ!」

「はい」

 

 弔に一方通行(アクセラレータ)の手が触れようとした───その時。

 彼の背後に黒い霧が現れ、弔は中へと吸い込まれていく。

 

「あァ!?」

 

 一方通行(アクセラレータ)は誰も居なくなった場所を通り過ぎ、直ぐに体勢を立て直す。

 そして目を向ければ、弔はオールマイトの直ぐ近くへと迫っていた。

 

(座標移動ッ!? クソッたれが)

 

 見たところ、もうオールマイトは動ける状態ではない。かつての平和の象徴なら、この程度ならいくらでも回避出来たであろう。だが、今の彼には昔の様な凄まじい力は残されていなかった。

 

「やっぱ、アイツは後回し……ラスボスを倒してから、裏ボスを攻略しなくちゃね」

 

 不気味な声が聞こえてくる。

 死柄木弔の手が、徐々にオールマイトへ近づく。だが。

 

「───オールマイトッ!」

 

 一人の少年───緑谷の声が響き渡り、安全地帯から一気に彼らが戦う戦場まで跳躍。そのスピードは凄まじく、まるでオールマイトの様な動きを見せる。

 

「ちっ!」

 

 弔が舌打ちし、オールマイトから手を伸ばす方向を緑谷へと変える。

 緑谷の拳は黒霧が発生させたと思われる霧に阻まれ、惜しくもギリギリの所で塞がれてしまった。

 弔の掌が直ぐ目の前まで迫る。その距離、僅か数センチ。

 緑谷自身も今回ばかりは死んだ。そう実感した。

 

「遅ェゾッ! 三下ァ!」

 

 一方通行(アクセラレータ)が蹴り上げた石が見事に弔の腕を直撃。

 バキッと骨が砕ける音が鳴り響き、弔は腕を押さえ込んでその場に倒れ伏す。

 そのまま追撃。近くにあった鉄骨を軽く蹴ると、それを押さえつけていたネジが綺麗に外れ、空中へと投げだされる。

 宙に浮かんだ鉄骨は、まるでサイコキネシスで操られているかの様に、矛先を弔へと向け、一気に降り注ぐ。

 辺りはザンザンザンと地面に鉄骨が突き刺さる音が鳴り響き、辺り一面に砂煙が立ち込める。

 あんな攻撃をまともに受ければ、五体満足、いや、命そのものが狩り取られてしまうだろう。あくまで当たれば、の話だが。

 砂煙が徐々に晴れて開くと、そこには腕を痛そうに押さえる弔の姿。

 他に外傷は見られない。それも当然だろう、黒霧が"個性"を使って死柄木弔を守ったのだから。

 

「大丈夫ですか!? 死柄木弔?」

「くっ、クソッ! 今度は殺すぞ……平和の象徴───オールマイト。そして、くそガキ───一方通行(アクセラレータ)

 

 黒い霧の中へ弔は吸い込まれていく。

 その様子を見た一方通行(アクセラレータ)は、その霧へと一気に突っ込んでいく。

 

「なら今ここで殺してやンよ……クソ野郎ォが!」

 

 だが彼の最後の追撃も残念な事にギリギリの所で届かなかった。

 彼とヴィランだけなら何の問題もなく倒せただろう。だが、周りを気にしながら戦っていた彼にとって、これが限界であった。

 勝負にも戦いにも勝っていても、奴を仕留め損ねたと言う事実は変わらず、彼の胸に突き刺さる。

 ハンデがあったとは言え、情けない。そう思うしかなかったのだ。

 "最強"の能力を持ち、学園都市一番の頭脳を持っているにもかかわらず、奴を仕留め損ねた。だから彼は自分を責める。

 こんな事だから、いつまでたっても"最強"止まりなンだよ、と。

 

「こンなンじゃ足りねェ……もっと力がいる……何もかもを黙らせる───絶対的な力……」

 

 ボソリと呟いた。他の者の耳に入らないであろう声で。

 

「ダメだ。やっぱり Level6(無敵)がいる……クソッたれが」

 

 ヴィランは消え、彼もまたこの場から消えようと、足を運ぼうとしたその時、反射膜に弾丸並みの速度で何かが触れ、オートで反射する。

 

「あ?」

 

 弾丸が飛んできた方向に目を向け、少しばかり目を細める。そこにいたのは、

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉(いいだてんや)! ───ただ今戻りました!」

 

 そこには眼鏡を掛けた黒髪の少年と、大勢のヒーロー達。きっと雄英に勤めている教師達だろうが。

 

「ハァ……面倒くせェ」

 

 ただただ、一方通行(アクセラレータ)としては、面倒くさいだけであった。

 当然の事ながら、一方通行(アクセラレータ)の存在を知る者は少なく、一目見ただけでは、現状ヴィランと判断されておかしく無いだろう。

 それにデフォで設定されている反射が更に敵意があると、ヒーロー達に錯覚させる。

 何せ、攻撃された弾は飛んできた方向へ戻っていき、銃を粉々に粉砕したのだから、そう思われてもしょうがない事なのだが。

 

「お、落ち着くんだ! 彼はヴィランじゃ───」

「面倒くせェが相手をしてやる。死にてェ奴からかかってきなァ?」

 

 一方通行(アクセラレータ)はオールマイトの言葉を遮る様に、言い切った。

 彼は逃げない、逃げてはいけない。ここでヒーロー相手に逃げてしまえば、"最強"の名が廃る。その地位から今降りる訳にはいかない。

 

『おい、アレ……一方通行(アクセラレータ)じゃねぇか?』

『ええ、こんな大物がウチに襲撃しにくるなんてね』

『そうだね。ここは生徒の安全が第一優先。オールマイトがあれ程の傷を負うほどの相手……皆気を引き締めて』

 

 すぐさまヒーロー達は取り囲む様に一方通行(アクセラレータ)を包囲する。

 だが、彼は動く様子などは全く見せず、ズボンに手を突っ込み。不敵な笑みを浮かべ、攻撃か来るのを今か今かと待っている様に見えた。ある、一人を除いて………。

 

「待ってくださいッ!」

「「「!?」」」

 

 ボロボロに倒れ伏しながら、叫び声をあげる一人の少年の声が、ピリピリとした雰囲気の中を駆け巡った。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

 緑谷出久(みどりやいずく)はオールマイトを助けようとし、まだ調節の利かない自分の"個性"───ワン・フォー・オールを使い、両足がズタズタになってしまっていた。

 きっと、折れてしまっているだろう。軽く体を動かすだけで、足に電気を流した様な痛みが襲う。

 そんな中、緑谷は思う。あの一方通行(アクセラレータ)という人物について。

 やっている事は、ヒーローとなんら変わらない。むしろ、生徒達を守りながら戦うなんて、オールマイトでも中々難しい事だ。

 しかし、彼は難なくそれを実現し、敵を撃破。にも関わらず、自分を『悪党』と評する。

 彼にとっての『ヒーロー』とは何なのか。こんな事で、自分はヒーローになれるのか。あれが『悪党』なら、目指すのはやはりオールマイト……。などと考えているが、答えが出ない。

 そんな時だ、一方通行(アクセラレータ)───彼が、ヒーロー達に囲まれたのは。

 

「お、落ち着くんだ! 彼はヴィランじゃ───」

「面倒くせェが相手をしてやる。死にてェ奴からかかってきなァ」

 

 口を歪ませて笑う一方通行(アクセラレータ)。その目立つ白い髪の隙間から覗かせる赤い瞳は、殺気を帯びており、誰が見ても犯罪者───いやヴィラン以上の悪意を感じさせる。殺気をビンビンに放ち、誰も近づかせない様に。見ただけで、恐怖を感じさせ、怖気付かせる。

 だが、緑谷出久だけは、その表情をみて感じたものは恐怖でも何でもない。ただ、寂しそうに見えた。誰もが強い力を恐れる。まるでオールマイトとは対極。

 強かったから人々から平和の象徴と崇められたオールマイトと、強かったから人々に恐れられる一方通行(アクセラレータ)

 その違いは、何なのであろうか。

 緑谷は知っている。その表情を───かつて、見たことがある。場面は違えど、知っていた。

 

 ───あの時のかっちゃんと同じ……。

 

 そう思った時、口が動いていた。気付けば叫んでいた。

 守られる様な人ではない事を知っていながら、救いの手を伸ばしていた。

 お節介と思われるかも知れない。だが、彼にとってお節介とはヒーローの本質。お節介だからこそ、ヒーローになれる。

 自分より強いから守らなくていい、そんなの違うだろ。大体、ヒーローが自分と同い年くらいの子に牙を剥く事なんておかしいだろ。そう、心の中で思いながら。

 

「ハッ───ヒャハハハハッ! 何だ? 何だよ? 何ですかァ!? オマエ、どういうつもりだ? アァ?」

 

 当然の様に彼は笑う。他のヒーロー達───雄英の教師達も、緑谷の方をみて唖然としている。

 しかし、オールマイトだけは、緑谷に対して優しい眼差しをおくっていた。よくやった、と言わんばかりの。

 

「オールマイト…が、言ってました。彼はヴィランじゃないって。自分達から手を出さなければ、無害だって……それに僕達を、生徒を守りながら戦ってくれてたんですよ」

 

 自分でも何故口にしたのかわからない。だが、緑谷の口はそのまま喋り続ける。

 

「それに、おかしいです。彼だって、僕達と変わらないくらいなのに……それに大人数で、ヒーロー達が寄って集って……」

「オイオイ、そりゃアレか? 心配してンのか? この俺───一方通行(アクセラレータ)だって、知ってていってンのかァ? 」

「知ってる。けど、君が救けを求める顔をしてたから!」

「!?」

 

 一方通行(アクセラレータ)は何を言っているんだコイツと、少し驚いた様子を見せ、更に一層、顔が強張る。

 大体、緑谷の言ってる事は間違っていないかも知れないが、"個性'を資格無しに使い、人を傷つける事自体が法律で禁じられている。

 ヒーロー達としては、ヴィランとして対応せざるを得ないのだが。

 

「コイツ、頭大丈夫か? まァイイ。ほら、どォした? 来るなら来いよ。まとめてぶち殺してやッからよォ……」

 

 しかし、他のヒーロー達は何故か動こうとしなかった。

 先程まで攻撃をしようとしていたにも関わらず、だ。

 

「チッ、興が冷めた。不本意だが、今日の所は退いてやる」

 

 彼はそう言い、両手を軽く広げると、物凄い暴風が発生し、体が宙に浮いていく。

 その能力は、まるで大気の操作に見える。だが、先程の戦いぶりを見ているからこそわかる事だが、本質はもっと別の何かだ。

 風が止む頃には、彼の姿は無く。緑谷達はその場に取り残されていた。

 

「HAHAHA!」

 

 今にも力を抜けば、倒れてしまいそうなオールマイトが高らかに笑った。

 

「また、助けられてしまったな。君に───そして彼にも」

「オールマイトは、彼を知っているんですよね?」

 

 緑谷は地面に寝そべりながら、上を見上げる様に問う。

 すると、オールマイトは少し上、一方通行(アクセラレータ)が突き破った天井を見上げ、言った。

 

「うん。初めて会ったのは、この傷を負う、少し前なんだけどね……」

 

 その表情は少し暗めで、あのオールマイトから笑みが消えた。

 

「緑谷少年には、話しておこう。彼の事を───」

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

 一方通行(アクセラレータ)はUSJを抜け出し、近くのビルの上へと降りたった。

 空はよく晴れており、雲一つ見当たらない青空。

 

『君が助けを求める顔をしてたから』

 

 その言葉が、彼の頭をよぎる。

 胸糞が悪かった。大した力も持っておらず、"最強"である筈の自分を守ろうとした、あの少年に無性に腹がたった。

 それは、まるで空から見下ろして来る太陽の様に輝いており、この青空の様に曇りのない瞳。

 彼を見てれば、見てる程、自分の居場所がどれ程汚れており、血みどろの世界に浸っているか、そして抜け出せない底なし沼にいるか実感させられた。

 

「気にくわねェな」

 

 そして思う。何故、自分はこんなにも苛立っているのか。

 何かが違うのだ。自分の知っている一方通行(アクセラレータ)自分自身(アクセラレータ)とでは、何かが。

 

(俺が()()だからか……いや違ェ)

 

 一方通行(アクセラレータ)は演算を開始する。

 それは、先程行った大気の操作。だが、その演算量は先程とは比べ物にならない、膨大な情報量。

 

「くかきけこかかきくけききこくけきこきかかァ─────ッッッ!」

 

 暴風、空は一瞬にして闇に覆われる。大量の黒い積乱雲。空の光を食い潰すかのように。

 一瞬にして、その天候を変えた。

 降り注ぐ雨の中、彼は呟く。

 

「ギャハ、俺は一方通行(本物)だ。他の誰でもねェ…俺は一方通行()だ」

 

 フッと、笑いをこぼし、ビルの上から飛び降りる。

 力の向きを調節し、綺麗に地面へと着地。雨の中であるにも関わらず、一滴も雨に濡れていない男は裏路地へと姿を消していく。

 

(俺は一方通行(アクセラレータ)だ。他の誰でもねェ)

 

 自分の心を押し殺し、後戻りはもうしない。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

 緑谷出久とオールマイトは現在、リカバリーガールの治療を受け、二人共保健室のベッドで寝そべっていた。つまり、安静な状態で寝かされている、というわけだ。

 オールマイトは全身満遍なくダメージを受けており、緑谷は両足の骨折、重傷に近い。

 

「私、また活動限界が早まったかな……まだ一時間くらいは欲しかったが……」

「オールマイト……」

「まっ、仕方ないさ! こういう事もある!」

 

 オールマイトは軽く起き上がり、笑いながら言った。

 そんな時、コンコンとスライド式のドアがノックされる。ガラガラと、音を立てて入って来るのは、茶色いスーツジャケットを着ており、髪型も短髪で特に目立った特徴の無い男性。名前を塚内直正(つかうちなおまさ)、警察である。

 

「失礼するよ!」

「ちょっ、いいんですか!? その姿を見せちゃって……」

 

 緑谷は慌てる。それもそうだろう、普段のオールマイトはムキムキの脳筋男だが、現在は骸骨のように痩せ細っており、ガリガリだ。この姿を彼は普段隠している。

 しかし、オールマイトはケラケラと笑い、気軽に緑谷に言う。

 

「大丈夫さ! 彼は私が一番仲のいい警察。塚内直正くんだからね!」

「ハハッ! なんだい、その紹介は……」

 

 気楽に挨拶を終わらせると、塚内がオールマイトに(ヴィラン)に関しての事を問うが。

 

「まってくれ、それより生徒達は無事なのかい? 13号やイレイザーヘッドは?」

「生徒はそこの彼と、2名を除いて軽傷。まあ、その二人もそこまで酷くは無いんだが、とりあえず病院へ向かわせたよ。二人の教師は命に別状なしだ」

 

 その言葉を聞いて、オールマイトはそっと胸を撫で下ろすかのように、息を吐いた。

 

「それも、三人のヒーローが身を挺していなければ、生徒達は無事では無かったかもしれないね」

「それは違うぞ、塚内くん」

 

 オールマイトは目に光を灯した様に言う。

 

「彼らもまた戦い、身を挺した。こんなに早く実践を経験し、生き残るなど、今までの一年生であっただろうか? ヴィランも馬鹿な事をした! この1-Aは強くなるぞ!───私はそう確信している」

 

 そして、そっと目を閉じてからオールマイトは再び口を開いた。

 

「───6年ぶりに、彼にあったよ。随分と背が伸びてた。あの頃よりも、深い黒では無くなっていた」

「………一方通行(アクセラレータ)だよね」

一方通行(アクセラレータ)……」

 

 オールマイトの言葉に、緑谷もポツリとその名を口にしてしまう。

 

「どうにかならないか、塚内くん。彼は、本来ならこちら側の────」

「かもしれない。でも、証拠が出たらすぐに捕まえるよ。"個性"を資格無しに乱用して人を傷つけている。ただ、その証拠が今は出ていないだけ……エンデヴァーとも交戦したと噂にはあるが、エンデヴァー本人がそれを隠しており、噂になっているだけでは、今は何も出来ないってだけさ」

「彼が、ああなってしまったのは、ヒーロー達(私達)が、そして、()()()に唆されたのが原因だ。私がもっと早く気付いていれば……」

 

 オールマイトは歯をくいしばる。あの少年の表情を頭に浮かべながら。

 

「オールマイト? 一方通行(アクセラレータ)って人。確かに強いですけど……何て言えばいいんでしょうか、無理をしてる? いや、誰かになろうとしてる?っていうか、自分を見失いそうになってる感じがしまして……」

「言われてみれば……何かを目指している、な。昔も言っていたよ。"最強"のその先へ行くって」

「オールマイトと彼の繋がりって一体……」

「そうだな。この腹の傷……いや何でもない」

 

 オールマイトは病室の急に曇った空を見上げ、少し何か考えごとをしつつ、ため息をこぼした。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

「腕をやられた、手下も瞬殺だった、脳無も通用しなかった、一方通行(アクセラレータ)は最強だった、平和の象徴も健在だった。───おい! 話が違うぞ()()

 

 ヴィラン連合のアジトに逃げ帰ってきた死柄木弔は地面に倒れ伏しながら、机の上にあるパソコンを目掛けて話す。

 

 《違わないよ。ただ、見通しが甘かったね。それに一方通行(アクセラレータ)が来るとは思わなかっただろうしね》

 《うむ……舐めすぎたな。(ヴィラン)連合なんてチープな名前でよかったわい───ところで、()()()()()()は回収しなかったのか?》

 

 パソコンから聞こえて来るのは二人の声。

 謎の人物だ。黒霧は片方の問いに答える。

 

「ええ、おそらく一方通行(アクセラレータ)の手により手の届かない場所まで吹き飛ばされたと思われます。いくらワープといえど、場所がわからなくては」

 《うむ、残念じゃのう。いつか、一方通行()を素体に作ってみたいものじゃ》

 《残念だね。やはり、彼にはあの程度では無理か。もう片方の脳無もオールマイト並みのパワーにしたのに、仲良く吹き飛ばされるなんてね》

 

 そこで弔が口を開く、そうだと。

 そのまま、何か疑問を抱いた様に語り始める。

 

「オールマイト並みのスピードを持つ奴が一人。アイツの邪魔が無ければオールマイトだけなら倒せたかもしれない。クソがっ! どいつもコイツも邪魔ばかりしやがって───クソガキが、クソガキッ」

 《悔やんでも仕方ない! 今回も決して無駄では無かった筈だ》

 《精鋭を集めよう、時間をかけてじっくり。我々は自由に動けない》

 《だから君の様な"シンボル"が必要なんだ。死柄木弔(しがらきとむら)。次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!》

 

 死柄木弔の目に再び悪意が宿る。

 

 

 

 

 一人は平和の象徴を目指し、一人は悪の象徴を目指し、一人は絶対無敵を目指している。

 この三人が交差したこの日、全ての物語が動き出す。




評価入れてくださった皆様感謝です!
これからもよろしくお願いします。

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