第六話 どうぞ(誤字脱字あると思うけどごめんね)
第6話 彼が悪党の理由。
USJにヴィラン───死柄木弔が襲撃をかけてから一日が経過していた。
あの少年───
「何なンですかァ、あの野郎は……」
緑谷が
そんな目を向けられたのは、3度目。一人は彼の能力───
『君が助けを求める様な顔をしてたから』
その言葉は
ムカムカした、あの二人は例外として大した力を持っていない奴に心配された事が。
イラつきながら近くに置いてある缶コーヒーに手を伸ばし、蓋をあける。そのまま黒く苦い液体を口の中へ流し込み、ため息を吐く。
「あン?」
マナーモードにしてある携帯が机の上で振動している。
何故今まで気が付かなかったのか、それ程までにあの言葉に対して動揺していたのか、など色々考える。
しかし、よくよく考えてみれば携帯に登録している奴など居ないし、自分に連絡を入れてくる奴など今まで死柄木弔くらいであった。
間違い電話か?と、ボソリと呟きつつ携帯電話へと手を伸ばす。
携帯を開き、電話が誰からか確認をするとそこには───
「非通知? あの野郎ォ……懲りずにまた連絡入れてきやがった」
非通知からの着信は大概が死柄木弔である。
昨日の一件でもう関わってこないかと思ったが、考えが浅はかであった様だ。
すぐに携帯を耳元に当て、怪訝な表情を浮かべながら電話にでる。
「なンの───」
《久しぶりだね、
「───ッな!?」
その声は死柄木弔の声では無く、妙に透き通った聞き慣れた声。
自分の能力───この世界の超常の力の逆算を散々手伝い、現在の
───オール・フォー・ワン。
「だからなンで俺の電話番号知ってンだよ。ストーカーですかァ?」
《フフッ、まあそれに近いかもね》
「で、だ。随分と元気そうじゃねェか」
《まさか君があそこで寝返るとは思わなかったよ。本当、君のおかげで随分生きづらくなったのは確かだけどね》
「あ?
6年前、かなりの重傷を負ったオール・フォー・ワン。何故だか知らないが、
《やっぱり、覚えてないみたいだね。まあいい───本来なら戻って来てくれ、と言いたいんだけど無理そうだからね》
「よくわかってンじゃねェかよ、先生」
《まあね、弔に連絡入れさせたけど無理だったしね───だから、君に聞きたい事があるんだよ。
「はァ? 教えると思ってンのか?」
《そう言うだろうと思って君にもある情報を提供しよう》
「情報? 何のだ?」
それが何の情報か、などは分からないが。きっと何かいい情報なのは確かだ。
《教えて欲しければ先に質問に答えてもらうよ?》
「チッ。答えて何にもありませンでしたァ、とか言いやがったら殺すからな」
《ハハハッ。殺す、ね。下らない事じゃなくても殺す気だろ?》
先生の言葉で一瞬沈黙が起きる。
「ハッ、よくわかってンじゃねェかよ」
《そんな事しても、君のやってきた事は消えないし、
電話の向こう側からは、不敵な笑い声が聞こえる。仕返しのつもりか知らないが、人の嫌がる事などの感情を揺さぶる行為は先生の十八番である。
《どうしたんだい? 黙り込んで?》
「うるせェ、とっととしやがれ。何もねェなら切るぞ」
《おっと、本来の目的を忘れてたよ。僕も歳かな? ボケてきたみたいだ》
「勝手にボケてろ」
電話越しとはいえ、先生の口調は余裕がある。
大抵の相手は
流石は裏社会に君臨しているだけの事はある。
《えーと、メモメモ……まだ点字に慣れてないから大変だよ》
「マジで切るぞクソ野郎」
先ほどまでの余裕とは裏腹に点字に慣れていないと、情けない発言をしてくる。
少しばかり
《じゃあまず一つ目。AIM拡散力場と言うものについて》
「AIM拡散力場だァ? 何でそンな事しりてェンだ?」
《君には関係ないよ。別に話さなくてもいいさ、その場合はこちらも情報を提供しないだけだしね》
「あン? そォかよ。なら話さねェ……」
《そうかい、ならちょっとお話をしよう》
《ある所に孤独な少年がおりました。その少年は人々から、そして親からも『化け物』と言われ、ずっとずっと寂しい思いをしていました》
「くっだらねェ…」
《まあ、切らないでそのまま聞いていてよ。その少年は一人何処かへと消えていきました。当然、親はその事を喜び、数年後新たに子供を産んだのです。今度はマトモな子が生まれてくる、そう信じて……しかし、生まれきた子供は『化け物』では無かったものの、呪われていたのです───》
「───ッ!! オイ、そりゃどういう事だ?」
《続き聞きたいのかい? それじゃ答えてよ》
「チッ」
その情報は転生する前に知っていた知識で、この世界でその常識が通用するかなどは分からない。似通った部分は彼としても確認しているが、その知識は元々いた世界では架空のもの。
「これでイイだろ。さっさと続き───」
《いや、他にも聞きたい事がある》
「は? オマエ、ふざけてンのか?」
《いやいや、ふざけてないさ。大真面目。だから答えてよ、君の知っている限り、
「無視すンじゃねェ……まァイイ。それは能力の使用に『演算』する頭脳が必要だからだ。知ってンだろ? "個性"と"能力"の違いくらい。多重能力だと脳に負担がかかり過ぎて不可能なンだよ」
その言葉を聞き、先生は、なるほどね、とポツリと呟き質問が他にない事を伝えてくる。
「オイ、約束わかってンだろォな?」
《もちろん、まあ簡単に言うとね。君には妹がいるかも知れない訳だ。それも君と一緒の扱いをされ、捨てられた。『呪われた』少女》
「それで?」
《君が嫌がる事をしようとしたんだけどね、これはこのまま伝えた方が楽しいかなって》
「……、」
《写真だけは送ってあげるよ、居場所は自分で見つけなよ。きっと
ツーツーツーツー
電話が切れた音だけが鳴り響く。
そして目の前には座標移動で転送されて来たと思われる、一枚の写真。
別に写真が来たことには驚かない。だが、自分の居場所がこうも容易く突き止められている事に彼は少しばかり頭にきていた。
そっと地面に落ちている写真を拾い上げ、その姿を確認する。
「ハァ……」
そこには
髪の毛は腰まであり、真っ白い髪。瞳は
肌の色はそこまで白くなく、標準といったところか。
何故、
最初は黒髪で黒い瞳だったなら、否定も出来るだろう。だが、元々なのだから否定のしようがなかった。
「どォでもいいか」
せっかく自分がいやいや先生に情報を渡しておいてだ。
ビリビリに破けた写真をひと塊りにまとめ、テレビの横にあるゴミ箱へと放り投げる。
テレビのリモコンを操作し、電源を落とす。そのまま黙って玄関の方へと向かい。
外へと散歩に出かけるのであった。
◇
◇
◇
"平和の象徴"オールマイト、
そこには立派なソファが二つあり、その間に机が置かれている。
二人は机越しに向かい合うように座っていた。
「この雄英体育祭で『君が来たッ!』って事をこの世に知らしめてほしい」
その告げられた言葉には魂がこもっており、緑谷出久にこの自分を継いでほしい、と、本気で思っているからこそ出た言葉だろう。
あと二週間で開催される雄英体育祭。
それは現在、オリンピック並みの人気を誇っており、世界中でその存在を知らない者はいない、というほどだ。
「僕が……来たって……でもどうやって……」
「雄英体育祭のシステムは知っているよね?」
「は、ハイ! もちろんです」
雄英体育祭のシステム。
それはサポート科、経営科、普通科、ヒーロー科がごった煮になり、1年生、2年生、3年生と各学年ごとに各種競技の予選を行う。その中で勝ち抜いた生徒が本選で競い合う。所謂、学年別の総当たり。
オールマイトは両手の人差し指を緑谷の方へと突き出し言う。
「つまり、全力で自己アピール出来る!」
「……はあ」
「はあって!?」
オールマイトはソファと共に勢いよく後ろに倒れる。
そんな様子を気にせず、緑谷は顎に手を当てながら、自分の考えを述べていく。
「いや…あの……仰ることはごもっともです。でも正直、あんな事の後でイマイチノリ切れないって言うか……そもそも、もうオールマイトに見てもらえてるし、体育祭で目立つモチベって言うか……そもそも現状こんなで目立てるとは思えないし、体力テスト全然だったし……」
「ナンセンス界じゃ他の追随を許さないな、君はッ!」
「な、ナンセンス界……」
ナンセンス界といわれ、少し挙動不審な態度になる緑谷。
しかし、オールマイトがそう言わなければ彼はあのままずっとブツブツとマイナス要素を口から吐き続けていただろう。
オールマイトは思っていた、自分の後を継がせる為、なにより自身の"個性"を受け継いだものだからこそ、トップを目指す気持ちを忘れないで欲しかった。
「常にトップを目指す者とそうでない者……その僅かな差は社会に出たら大きく響くぞ。気持ちは分かるし、私の都合だ。強制はしない、ただ───海浜公園での気持ちは忘れないでくれよ」
緑谷はオールマイトのその言葉にそっと頷く。
気持ちは十分に伝わっていた。だが、そんな事よりも気になる事が彼にはあった。それは───
「あの、こないだの
このあいだは何だかんだで、話してもらえていない。
なら、ここで聞いておかないといけない。そう思ったのだ。
オールマイトはゆっくりと起き上がり、やはり聞いてきたか、と、そっと呟いてソファにきちんと座り直す。
「彼と初めて会ったのはこの傷を負う、少し前。私のランニングコースでいつも通る公園にいつも一人で、朝早くに座って缶コーヒーを飲んでいたんだよ。小さな少年が───」
〜6年前〜
(いつもあの少年一人だな。毎日こんな朝早くに……か、缶コーヒー!? ブラックってオイオイ、年的に早すぎないか?)
オールマイトは自分のランニングコースにいつもいる、白い髪の少年が気になっていた。
いつも一人で何をしているのか、なんでこんな時間帯に一人でいるのか?と。
自分から声をかける事など普段は絶対にないが、オールマイトはその日、珍しく少年に声をかけた。
「やあ! 少年! 私が来た!」
「……うるせェ。鬱陶しいから消えろ」
「なっ、辛辣ってレベルじゃない返答だぞ!?」
「……、」
そのまま少年はオールマイトの事を気にせず、黙ったまま缶コーヒーに口をつけ、黒く苦い液体を口に含む。
「こんな朝早くに一人で何をしているんだい? 親御さんが心配するだろ?」
「……、」
「心配かけないように早めに帰るんだぞ? HAHAHAHA!」
「……、」
「って、アレ? 聞こえてないのか?」
それからというもの、ランニングのたびにオールマイトは少年に声をかけるようになった。
毎日毎日。無視されようが話しかける。
そんなある日。
「おはよう少年ッ! 今日も私が来た! いい朝だな!」
「あァ? オマエまた来たのか」
「おっ!? 今日は反応してくれるのか少年!」
「うるせェ……」
「こう見えても私はヒーローだからね! こうしてパトロールがてら、ランニングを───」
「オールマイトだろ? 知ってンだよ」
「気付いていたのかっ!?」
「有名だろ、オマエ。知らねェほうが珍しい」
それから少しずつ、少年と会話が出来るようになった。だが、ある日を境に少年はその場所に来なくなった。
「今日もいないか……」
少し残念な表情を浮かべつつ、オールマイトはランニングを再開する。
次の出会いが、あんな形になるとも知らずに……。
表向きは毒々チェーンソーとの戦いだった。
だが、その裏で起きていた事件。
ヒーロー達は地面にひれ伏し、辺りには血痕が飛び散っている。
そのヒーロー達の倒れた山の上に立っているのは、一人の見覚えのある少年。
背丈はオールマイトの腰ほどしかなく、真っ白い髪にその前髪からチラリと見える赤い瞳。
「大丈夫ッ! 私…が、き……た!?」
「アァ? ククッヒャハハハハッ! 遅ェ遅ェ! ヒーローってのはピンチギリギリに登場すンのがお決まりだろォ? 全然間に合ってねェじゃねェかよ?」
返り血一つ付いていない。
しかし、彼がやったのか、と納得してしまう。
「少年……何で、君が?」
「あ? そりゃ決まってンだろ?」
片腕を空へと掲げ、全てを我が手に掴むかのように、拳を握りながら少年は言った。
「誰も彼もが辿り着こうと思う事がバカバカしくなる境地へたどり着く為……絶対的な力……
「なっ、そんな馬鹿な事は───」
「無駄だよ、オールマイト。彼が決めた事だからね」
少年の背後にスーツを来た男が現れる。
オール・フォー・ワン。裏社会に君臨する、モグラ達の王。
「貴様ッ! 少年を誑かして……許さんぞ!」
「誑かす? 笑わせないでくれよ。僕は彼が無敵になる為のお手伝いをしているだけだよ。彼───
「彼は……ヴィランじゃない! 私は知ってる! いつも寂しそうに公園にいた彼を! だんだんと心を開いてくれた、彼を!」
「何だい? 僕がヴィランだから全部、僕のせいかい?」
オール・フォー・ワンはニヤリと笑みを浮かべ、言う。
「笑顔はどうしたんだい? いつもみたいに笑えよ、オールマイト」
「き、貴様ァァァァアアア!!」
凄まじ勢いでオールマイトが突撃する。だが、
「
オール・フォー・ワンの一言で、
突撃してくるオールマイトに対して、地面が歪み、大量の土のドリルとなって進路を妨害。それをオールマイトは力技でねじ伏せる。
ドゴォンと大きな地鳴りとともに、激しい戦いの幕が上がる。筈だった。
「オマエ……どォいうつもりだ?」
「くっ……」
オールマイトは土のドリルを力でねじ伏せた後、
「私は……ヒーローだ」
「!?」
「君はヴィランじゃないんだ少年。私は子供に拳を絶対に向けない……君を奴から救ってやる!!」
「はァ? オイオイ、俺はそこに転がってるヒーロー共をぶっ潰した奴だ。ヴィランだ! 悪党だ! それを救う、だと?」
「何を言ってるんだ。死んでなんかないだろ、殺してなんかないだろ」
「───ッ!?」
オールマイトはワン・フォー・オールへ向かって走り出す。
「無視してンじゃねェぞッ! 三下ァ!」
地面に転がっている石を蹴り上げる。すると足にぶつかった石はもの凄い勢いで、オールマイトへと向かっていく。
それに気が付いたオールマイトは全ての石を拳で叩き落とし、再び足を止める。
「頼む、少年。もうやめてくれ。奴の言う事を聞くな!」
「別にアイツの言う事を聞いてる訳じゃねェ……コレは俺の意思だ! 俺が
「別のやり方を探そう。今ならまだ間に合う! 強くなりたいなら幾らでも道はある。みんな精一杯努力して、頑張って生きているんだ! それを潰して強くなるなんて間違ってるよ、必ず───」
オールマイトがそこまで言ったその時、
パシリと空間に亀裂が入ったような、そんな感覚がオールマイトを襲った。
「……精一杯努力して生きてきたァ……必死に頑張って生きてきたァ……ハッ、ヒャハハハハハッ! 何だァそりゃ!」
「なっ!?」
「確かに強ェ力には憧れンよなァだれでも! 俺も憧れ願った、この力を───考えた事あンのか? 気付いた時には『化け物』だった俺の気持ちを!」
「……少年」
「俺の周りには誰もいねェ。向けられンのは恐怖だけ。アイツだって俺を利用しよォとしてンのは分かってンだ。そンな事知ってンだよ! オマエならわかんじゃねェか? そンだけ強ェ力持ってンならよォ!」
歳の割には人格が完成されており、その感情はとても黒く、深い深い闇。
誰かに認められたい。だが、向けられるのは恐怖だけ。そんな環境だった彼の心に付け入るように、闇の王は彼を悪の道へと誘い込んだ。
「なァ、わかんだろ? チカラで頂点に立っても何一つイイ事なンざねェ。ムカつくンだよ、ヒーローに憧れて力を求めようとするクソ共も地位と名誉欲しさに力を求めるクソ共も!───必死に努力してきて、あろう事か目指す頂点が俺と同じ位置? オマエと同じ位置?」
その眼光は強烈な殺気を帯びていた。
「オマエのいる方で一番になればヴィランから狙われる。かといって別の場所で一番になればヒーロー達から狙われる。ふざけてンじゃねェぞ! こンな所に立って独りになンのは最初から"最強"の俺だけでイイじゃねェか! どいつもコイツも好き好ンで俺の居場所に来ようとすンじゃねェ!」
「すまない。君の気持ちは私には理解できない」
オールマイトは少し俯きつつ、彼の言葉を否定した。
そうかよ、と
オールマイトは頭を下げ、言い放つ。
「すまない。私は無個性だったんだ!」
「は?」
思わず
「だから、謝らなくてはいけない。そんな君が辛い思いをしているなんて思わなかったんだ。私は無個性で、何の力もない一般ピープルだった。あるお方から"個性"を受け継ぎ、ここまでの強さを手に入れた。だから、君の気持ちはわからない。だからッ!」
オールマイトは深く息を吸い、
「これから知っていこうと思う! 私が君を"最強"から引きずり下ろしてやる! 今が悪党、ヴィラン? だったら償ってくればいい。決して消えない罪でも、一生を人助けに使えばいいじゃないか。だから、私はまず、君を救う!───もう安心しろ、何故かって?」
オールマイトは手を
「私が来たッ!」
今まで、無敵を目指して何人の命が犠牲になったのか、と。しかも、本物とは違い、彼は人と知っていて殺してきた。殺人鬼だ。
だが、そんな彼を目の前の男は救う、と。たった公園で何度かあった程度の人間をどうしてそこまで信用できるのか。
本物のヒーローにやっと会えた。
そんな気がした。だが、悪党にハッピーエンドはありえない。
───ズンッ……
何かが突き刺さる音。
オールマイトの左の脇腹に大きな穴が開いている。
攻撃がきた方向へ目を向けると、そこには……。
「やれやれ、何をしてるんだい? 君はヴィランだろ? なんで救われようとしてるんだい? 抜け出せるわけないだろ? 君は僕と一緒なんだから、ヒーローを殺す存在───悪党なんだから」
オール・フォー・ワン。
その存在は決して
自分を救おうとした"平和の象徴"は悪党のせいで死んだ。そう、彼の心に深く刻まれる。
闇の世界で生きていく。そう決めたのに、暖かい言葉に惑わされて伸ばされた手を掴もうとしてしまった。自分のいる闇の世界から一瞬でも目を逸らし、もう届かないと思っていた光の世界へ一瞬でも触れようとした。その結果が光を希望に生きる人々から、大きな光を奪う結果になった。これから先、人々は絶望するだろう。"平和の象徴"を失ったという絶望、そしてオール・フォー・ワンが支配する世界に。
だからこそ、
たとえ何を失ってでも、この先、永遠に孤独を味わおうと。
自分が偽物でも本物以上になってやろう、と。
オール・フォー・ワンをぐちゃぐちゃに捻り潰して、自分が《絶対悪》になってみせようと。
右脳と左脳が割れた気がした。
自身の与えられた
そして、自分の脳を何かが侵食していく。まるでぶじゅっ、という果物を潰すような感覚。
両目からは涙が溢れた。いやそれは涙ではない、透明どころか濁っている、赤黒くて薄汚くて不快感をもよおす、鉄臭い液体。
そして、そこで彼の意識は途絶える。完璧に意識がシャットアウトした。
目の前の視界は暗転。
そして、全てを捨てた彼に訪れる変化は、
一つの暴走。
「ォ」
もう既に彼の意識はない。
だが、声を発した。その表情は全てを破壊する為だけに生まれてきた兵器のよう。
小さい少年は、この時、本物の『化け物』となる。
「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
それは暴走が生み出した。彼のもう一つ先の力。
彼の能力、
その能力の本質は、自身の観測した現象から逆算して、限りなく本物に近い推論を導き出すこと、である。
既存のルールを全て捨てさり、ベクトル変換から一歩前に進んだ力。
背中からはドス黒い翼が飛び出した。噴出にも近い黒の翼。彼の意識すら飛ばし、自我すらも叩き潰すほどの怒りを受けて、その翼はあっという間に数十メートルも伸び、辺り一面を薙ぎ払う。
ビルはスプーンで抉り取られるように崩れ、地面はフォークを突き刺したように穴が開く。
「なっ!? コレは一体!? 何が起きているんだ……その黒い翼はなんだ!?」
目の前の起きている現象がオール・フォー・ワンには理解が出来ない。だが、ものすごい力、その事だけは理解できた。
ならば、やる事は簡単だ。その力を自分のものにして、奪ってしまえばいい。
"個性"とは違う力、そう聞いてはいたが、本質は一緒だと。
もともとはそういった手筈で事を進めてきたのだ。いずれ、自分のものにする為に。
オール・フォー・ワンは数多の個性を繋ぎ合わせ、強力な一撃を
この際、死んでしまっても構わない。後からその力を抜き取ればいい。
そう思った、だが。
ぐしゃり、と。
気付けばオール・フォー・ワンは地面に叩き伏せられていた。
謎のベクトルが彼を襲い、地面へとジリジリ張り付ける。
コツコツ、と。
目線を向ければ、そこには人の形をしたナニカが。
「は、はははッ」
「───yjrp死pw」
「コレは流石に規格外だ……」
次の瞬間、
それではまた一週間後に投稿します。