幽香おじいさんは山へ妖怪をしばきまわしに、映姫おばあさんは周辺の人間の罪を洗い流させに行きました。
すると、おじいさんが何となくたたき割った木の中から、大きな賽銭箱があらわれました。
「あら、これは良い鈍器になりそうね」
むかしむかし、あるとことに、幽香おじいさんと映姫おばあさんが住んでいました。
幽香おじいさんは山へ妖怪をしばきまわしに、映姫おばあさんは周辺の人間の罪を洗い流させに行きました。
そんなある時のこと。
幽香おじいさんが何となくたたき割った木の中から、大きな賽銭箱があらわれました。
「あら、これは良い鈍器になりそうね」
そう言うと、幽香おじいさんは大きな賽銭箱を片手でひょいっと持ち上げ、家に持ち帰りました。
夕食の後、家の外で強度を確かめようと近くの木にぶん投げると思いのほか簡単に割れてしまいしました。
ですが、なんと中からお椀くらいの大きさの巫女が出てきたのです。
「なんかちっこい人間が出てきた」
おじいさ――、幽香は映姫おばあさんにそう報告しました。
映姫おばあさんは眉をひそめ、言いました。
「嘘はいけませんよ。そもそも嘘をつくという行為は――」
うんぬんかんぬん。
長くなりそうなので幽香は実物を見せることにしました。
賽銭箱から出てきたちっこい人間は、おじいさんとおばあさんの家を見回すやいなや、
「しけたところね。なに? お茶の一つも出ないの?」
と、言いました。
映姫おばあさんが静かに微笑み、ゆっくりと口が開き説教が顔を覗かせたしたとき、幽香おじ――、がさえぎるように言いました。
「なかなか見どころがあるじゃない。気に入ったわ、ちっこいの。弟子にしてあげる」
それはもうなかなかないことでした。
ですが、ちっこい人間には関係ありません。
というか気がかりがありました。
「ちっこいちっこいうるさいわね。大きくなろうと思えば大きくなれるのよ」
「じゃあやってみたらいいじゃない、ちっこいの」
ちっこいのは「だったら見せてやるわごら」、と何やら力を使いました。
ちっこいのから光が溢れ、全身をつつみました。
やがてその光が大きくなり、光が消えた時には人間でいうところの十代前半の脇を晒した巫女が立っていました。
特に驚いたのは映姫おばあさんです。
「なんてこと――、この子の名前は霊夢と名付けましょう」
いんすぴれいしょんでした。
霊夢と名付けられた人間、いえ、巫女は腕組みをして得意気な顔をしました。
名前が気に入ったようです。
ですが水を差されました。
「どのみちちっこいじゃない」
幽香おじ――、です。
人が嬉しそうにしてると、ついちょっかいを出したくなるのを我慢出来ないのです。卑劣です。アルティメットです。
「ちょっと力を使い過ぎただけよ。一年くらいすれば一年分くらい成長するわ」
◇◆◇
二年後。
二年分成長した霊夢は、すっかりなじんでいました。
ある日は、幽香おじ――と妖怪をしばきまわしに、ある日には映姫おばあさんが周辺の人間に説教しに行くのに付いていき、となりで怪しい宗教活動を始めたりしていました。
二人とも霊夢をよく可愛がり、近接格闘や白黒の付け方を教えたりもしました。
それにより霊夢は、相手の急所を的確に突くコツや、犯人捜しの際はかたっぱしから黒として始末していく方法などさまざまなことを学びました。
そんなある日です、周辺の村で鬼のうわさがありました。
なんでもねぐらににしている島の近くの村々荒らしまわってるとかなんとか。
調子乗ってるやつをボコりたい幽香おじ――や、今から説教内容をうきうきと考え始めた映姫おばあさんを見て、霊夢は言いました。
「私が退治しにいくわ。二人はここで待ってて」
「でも――」
二人は声をそろえていいましたが、霊夢を首を横に振りました。
「一人でやってみたいの。いつまでも頼ってばっかりじゃ駄目だと思って」
二人は霊夢に甘かったのです。
霊夢の意思の強い目を見て、考えを変えました。
「分かったわ。敵を見たらすぐにやるのよ」
幽香――、からメリケンサックを。
「怪しい人がいたらこれを使うのですよ」
映姫おばあさんから、白目向いて意識のない桃色の覚り妖怪を。
「じゃあ、行ってくるわ。この世の平和は私が守ってみせるから」
頼もしい霊夢の背に、見送る二人は涙腺が緩みました。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫に決まってるじゃない。だってあの子は、私たちの子だもの」
「……そうですね」
二人に笑顔が戻りました。
◇◆◇
しばらく行くと、霊夢は「ふぅ」と息を漏らしました。
「危なかったわ。ひとまず第一の危険は取り除けたわね」
霊夢は知っていたのです。
鬼なんかより危ないのが身近にいたことを。
あの二人が一緒に行動すれば地形が変わってしまう。
霊夢はすでに一つ、危険を取り除けたのでした。
ひとまずの第一目標は達成と、霊夢は鼻歌混じりに緑に囲まれた大地を行きました。
右手には覚り妖怪から伸びるコードをぎゅむっと掴んで、そのままその本体を引きづりながら。
天気は快晴です。
これは良い鬼退治日和だといえます。
その道中でした。
「やあやあやあ!」
なんだか元気に話しかけられました。
その者は、西洋風の黒白魔法使いのような恰好していました。
「お前、あれだろ? 鬼退治に行くんだろ? 私も連れてけよ」
どういった理由かは分かりませんが、その者は霊夢の目的を知っていました。
「分け前は――、そうだな、鬼の財宝の一部でいいぜ。どうだ?」
霊夢の歩みはこの間、止まっていません。
「お、おい。聞こえてるだろ?」
霊夢の歩みは――。
「ちょ、待てよ。私も混ぜ――」
霊夢の歩みは――。
天気は快晴です。
これは良い鬼退治日和だといえます。
その道のりは短くはありません。
「あら、いい脇」
霊夢の前方から急に隙間があらわれ、そこから逆さに人のような胡散臭いのが具現化したようなものが生えてきました。
「貴女あれでしょ? お姫様を助けに針の刀とお椀の船で月まで行くんでしょ?」
もう色々というか全て間違っていました。
「私も連れて行きなさい。その代わりに色々な事を手取り足取り教えてあげるわ」
手がわきわきと動いています。
「報酬はそうね。貴女自身でいいわ。もちろん性的に――」
「夢想封印!」
悪は去りました。
めでたしめでたし。
阿求先生の次回作にご期待ください。
天気は快晴です。
これは良い鬼退治日和だといえます。
その道のりはまだまだです。
「あらなに? 貧相な身なりの巫女ねぇ」
木陰で偉そうにくつろいでいた吸血鬼が話しかけてきました。
「なんか鬼でも退治に行きそうな感じだけど、貴女ではたどり着くことさえ――」
と、得意気に話す吸血鬼でした。
羽がぴょこぴょこ動いています。
その羽を見て、霊夢はひらきました。
「というか私の話聞いてる?」
こっちを見ているようで見ていない霊夢の視線に吸血鬼はそう聞きました。
「聞いていないけど」
「なんで聞いてないのよ。この私が話しているのよ? 聞かないなんて失礼だと、――うぎゅっ」
カリスマは去りました。
ぶれいくぶれいく。
レミリア先生の成長にご期待ください。
天気は快晴です。
これは良い鬼退治日和だといえます。
その道のりは大幅に短縮されました。
霊夢は今空にいます。
詳しくいうと、吸血鬼の背に乗っています。
「もうちょっと早く飛べないの?」
と、霊夢は吸血鬼に聞きました。
「私は吸血鬼よ? こんな昼間に元気に飛べるわけないじゃない」
吸血鬼は頭に出来た大きなたんこぶをさすりながら抗議します。
背に乗る霊夢は日傘をさしているだけの簡単なお仕事です。
吸血鬼の抗議は続きます。
「だいたい二人分は重いのよ。それ置いてくればよかったじゃない」
吸血鬼は"それ"に視線をやりました。
「嫌よ。なんかに使えるかもしれないじゃない」
霊夢も"それ"に視線をやりました。
"それ"は空中でぷらんぷらん揺れてました。
ゆうゆうと吸血鬼の背に乗っている霊夢にコードを掴まれています。
「なんの役に立つのよ。使い道を教えなさいよ」
「そんなの知らないわよ。このまま渡されただけなんだから。なんなら本人に聞いてみる?そっち方が早いし」
「じゃあそうしなさいよ」
霊夢は言われた通り、そうすることにしました。
妖怪にはちょっと刺激がある霊力を腕に流し、コードに伝わせました。
すると、びくびくと、水揚げされた魚のように――。
「あべばばばばばば」
お目覚めです。
「あぇ? ここ、どこ……? え? 空? え? え? ぁぇぇぇぇぇ!?」
びっくり仰天。
無理もありません。
ですが場所が悪かったのです。
空中ということではなく、横に霊夢がいたということです
「うるさい」
へっどばっと。
ご就寝です。
短い一日でした。
あーめん。
天気は快晴です。
これは良い鬼退治日和だといえます。
目的地の鬼ヶ島に着きました。
「ここが鬼ヶ島ね」
荒んだ雰囲気の岩ばかりの島でした。
「よし、あんた、ちょっくら行ってきてとりなしてきなさいよ」
昼間に霊夢たちを運んできてお疲れ気味の吸血鬼を、霊夢は肘でつつきました。
「え? 退治に来たんじゃないの?」
もっともな疑問でした。
ですが、
「友好的なふりして後ろからグサっといくのよ」
「鬼はどっちよ」
鬼ヶ島の鬼と吸血鬼と鬼巫女。
ここにいるのは鬼ばかりでした。
「いいからさっさと行ってきなさい」
「でも私こういうのあんまり得意じゃ――」
「いいからさっさと行きなさい」
「で、でも……」
「おらぁ!」
吸血鬼はヤクザキックで蹴りだされました。
もう行くしかありませんでした。
「駄目だった」
行ったかと思えばすぐに帰ってきた吸血鬼の第一声に、霊夢は「っけ」と、とても主人公が出さないような言葉を吐き、
「やっぱり私が行くしかないか」
と、覚り妖怪のコードをむんずと掴み、前に進み出ました。
奥の岩陰の向こうに鬼はいました。
「ん? なんだ? さっきのやつの仲間か?」
「鬼退治なら歓迎するよ、ってね~」
鬼は二人で、酒盛りをしていました。
「なんだっけ? 高貴な私の従者に――だっけか? 悪いけどそんな気はさらさらないんだよなぁ」
霊夢は吸血鬼に視線をゆっくりやりました。
見られた吸血鬼は何のことだろうと首を傾げながら霊夢を見返しました。
「うぎゅっ!――」
吸血鬼の頭に大きなたんこぶがまた出来ました。
「もういいわ。回りくどいのは趣味じゃないし」
霊夢は御幣(凶器)を鬼につき付けました。
「おとなしく退治されなさい」
霊夢のその言葉に鬼二人は楽し気な顔で立ち上がりました。
「聞いたかい萃香」
「聞いたよ勇儀」
瞬間。
ものすごい圧が周りを襲いました。
「……これはちょっとしんどいかもね」
さすがの霊夢も苦戦を予感しました。
手に力がこもります。
御幣を持つ手とその逆の手に持つコードにぎゅむっと力がこもります。
霊夢は気づきました。
「あ。ちょっと、あんたも手伝いなさい」
霊夢はまた霊力を流しました。
「ぁべべべべべ。――はっ!」
覚り妖怪が目を覚ましました。
「ココはドコ? ワタシはダレ?」
「ここは鬼ヶ島。あんたは知らない」
「失礼ですね! 私はさとりです!」
ぷんぷんと抗議するさとりでした。
「さ、さとりっ!?」
「なんでここに!?」
鬼の二人が急に狼狽しました。
ただの大きなアクセサリーかなんかだと思ってたものが実は覚り妖怪だと知ってびっくりしたのです。
それも……。
「しかもあの桃色頭! あのさとりか!」
「あの思ったことはすぐ口に出すとかいうあのさとりかよ!」
あわあわする鬼。
霊夢はこれ使えるかも、と思いました。
「何だかよく分からないけど、あんた、あいつらをなんとかしなさい」
「え? えぇ? なんですか急に。だいたい頼み事する時は礼儀という、もの、が、……え? 言うこと聞かないと退治する? さっきの倍の霊力を流す? は、はい! 分かりました分かりました。言うこと聞きます聞きます」
さとりは鬼の方を向きました。
思わず後退りする鬼。
「えぇっと貴女の名前は……、そう勇儀さんですか。なるほど、……あれ? 貴女、鬼のくせに嘘をついているんですね?」
「は!? 私がい――」
嘘。それは鬼にとって一番嫌いなことでした。
それも自分が、とあれば。
「あぁ~なるほどなるほど。貴女には隠したいことがあったんですね。知られては恥ずかしいこと」
「いったい何言ってんだ!」
「え? そんなことが!? あ~それは、……そうですねぇ。いくら私でも口に出すのは……、あぁ、でもそういう命令ですし? ここはいさしかたありませんよね?」
え? もしやあのこと?
鬼、勇儀は思い浮かべてしまいました。
「……へぇ」
さとりはものすっごい悪い笑みを見せます。
「っな!?」
勇儀ははめられたことに気づきました。
知ってる風を装ってカマをかけた。
心を読めるなら、心の表層にまで出させてしまえばいい。
そしてそれに引っかかった。
さとりの口がすぅっとゆっくり開かれ――。
「――まっ、待った! 私は降参する!」
堕ちた。
「お、おい勇儀? いったいどうしたってんだ?」
とても冷静ではない勇儀の様子に、萃香は警戒心をあらわにして、さとりを見ます。
悪魔のような眼。
何もかもを見透かすような、――いや、実際あの眼は見透かす。
別に秘密なんてない。
隠すようなことなんて。
……あのこと以外は。
「っは!?」
さとりの口がいびつに歪む。
もしかして?
いや違う。
そんな思い浮かべてなんて。
ちょっと、ちょっと触りだけ。
い、いやでも……。
「……ふぅん?」
さとりの声が脳に響いた。
「ぁ、ぁぁっ――」
萃香は地面に手を着いた。
「そうなんですねぇ……?」
瞳が熱を持ち、地面を濡らす。
「ま、まいりました――」
鬼はいま、ここに、退治されました。
めでたしめでたし。
ということで、霊夢一行は無事帰路に着くことが出来ました。
「ところであんた、悪い妖怪よね?」
「……え?」
さとりは――。
映姫おば――
映姫さま「ならん。地獄行き」