翌日、私達は同じ玉兎のいる永遠亭へと足を運ぶことにした。こいしが無意識を操れるようになり、人目を全く気にせずに姿を消すことが出来るため、難なく人里を通り抜けられるようになった。
「あ、ねーねー、あの団子食べたい!」
「ダメよ。人に見つかる」
「じゃあ私が買ってくるよ」
「…………じゃあ、お願い。瑞乃」
瑞乃はこいしの無意識の領域から抜け出し、私から現金を受け取り、団子屋さんの方へと歩を進めた。そして、笑顔で店主と会話し、品物を指さしていた。
「じゃあ、これとこれ。お願い」
「あいよ!」
一つの紙袋を受け取り、鼻歌交じりにこちらへ歩いてくる。
「はい、みたらし団子と三色団子。さとりとこいしが好きなんだよね?」
「やった!みたらし団子」
さとりが珍しくテンションが高く、みたらし団子を頬張っていた。いつもこの調子なら可愛いのに………そう思ったのは内緒にしておこう。2人は瑞乃から渡された紙袋を漁り、見つけた団子からバクバク食べていく。その姿は姉ながら可愛らしく思ってしまう。にやけてしまうので敢えて顔を逸らして、瑞乃を見据える。
「永遠亭は迷いの竹林って言う本当に誰もたどり着けないほど迷う竹林があるんだ。まぁ、私は覚えてるけど…そこを抜けたら、永琳さんのところに行けるよ。鈴仙さんもね」
「え?鈴仙?!」
瑞乃の顔が穏やかから驚きに変わる。鈴仙さんと関わりがあったのだろうか?小首を傾げながら自分の中で考察する。
「鈴仙さんと何かあったの?」
「いやいや、親友だよ。唯一無二のね」
「唯一無二………………か…いいね、そう言うの」
「そう?まぁ、鈴仙とは早くに別れたからあっちは覚えてるか分からないけど……」
「瑞乃が覚えてるなら……………って、自分の名前はないのに、鈴仙にはあるのね」
「私は階級が下っ端だったから、鈴仙と関われたのはほぼ奇跡に等しいんだ」
「へぇ………お、着いたよ」
さとりと瑞乃の会話を静かに聞いていた私は目の前にそびえる木造の建築物を指さす。これが幻想郷の医学の中心。永遠亭だ。月の医学がここよりも発展しているため、特効薬などはここに任せれば治るとも言われている。病気にかかったら永遠亭に行け。幻想郷の合言葉の様なものである。
私達は永遠亭の前で団子を食べていたが、いつの間にか、瑞乃の姿が消えていた。
「あれ?瑞乃?まぁ、いっか」
私はしんり達に黙って永遠亭に入ってしまった。待ちきれなかったから、鈴仙と八意様に会いたかったから。私は恐る恐る敷地に入り、つま先歩きで内部へと入る。
「お、お邪魔しまーす………」
極力小さな声でそう言うと、奥から人影が見えた。
「ひっ?!」
「あら、患者さん……………って、ええ?あなた!」
「あ、鈴仙……久しぶり…………」
「元気してた?久しぶりじゃない!」
「鈴仙こそ、前と変わってないわね」
久しぶりに友と出会い、私は安堵と歓喜の両方がこみ上げてきた。鈴仙とは本当に長年の付き合いで大体30年程。身よりもなく、名もない私に手を差し伸べてくれた唯一の親友。鈴仙が月から逃亡したと聞いた時は本当に心が折れた。
「あ、そう。私ね。××××、×××しちゃって追放されちゃった…」
「え、え?!ちょっと待って、それは師匠しか作れないはずじゃ…」
「八意様のレポートが図書館に残ってたの、だから月の科学者達がそれを再現したってこと。それを無理やり飲まされて、追放された。まぁ、平民以下の扱いなんてこんなものよね……」
「そんな……」
「でも、古明地姉妹に「瑞乃」って名前をもらったんだ。あの子達は可愛いね…」
「瑞乃…………いい名前ね……じゃあ、師匠のところに案内するわ。こっちよ、瑞乃」
私は鈴仙に手を引かれ、少し早足で歩いていた。20メートル程歩くと、鈴仙が急に立ち止まり、私は鈴仙の後頭部が鼻に当たる。私は鼻を擦りがら鈴仙を見る。
「あ、あぁ、ごめんなさい。ここよ、師匠ー!」
「開いてるわ。入っていいわよ」
「失礼します」
「し、失礼します」
「……あら、うどんげの友人じゃないかしら?」
「……ご存知でしたか…」
「ええ……何か私と話したいようね。悪いけどうどんげ。席を外してくれる?」
「分かりました。しんりちゃん達の相手をしてきます」
そう言って、鈴仙は扉を開け、ゆっくりと閉める。それを見た後、八意様はこう紡いだ。
「………『蓬莱の薬』が、私以外にも作れるようになったなんてね……」
「ええ、八意様……………いいえ、××様……」
私が八意様の下の名で呼ぶが、それを言った瞬間、八意様の表情が引き締まり、制された。
「玉兎の間では、私の名はそれで通っているのね。でも、
「は、はい。分かりました。永琳様……」
私が即座に名を変えると、永琳様はゆっくりと息をついて、微笑んでこう言った。
「あなた、家で働かない?鈴仙とも友達だし、悪いことはないわよ?」
「はい、その事をお願いしたくてここに来た次第です」
まるで心を見透かされたかのように、永琳様は迷うなく私を勧誘してくれた。鈴仙もいるし、家族のように過ごせると思った。古明地姉妹とも仲良くできそうだが、鈴仙ともっと過ごしたい。
「なら好都合だわ。じゃあこれからよろしく。えっと……」
「瑞乃です」
「瑞乃ね………何か姓名が欲しいわ…………うーん……」
「雅 瑞乃」
永琳様がそう告げた。ずっと憧れだった永琳様に名を貰った。それだけで私は感極まって涙が出そうになるほど。嬉しかった。
「…………はい!よろしくお願いします!」
私達は瑞乃が出てくるのを待っていた。すると永遠亭のドアが開き、出てきたのは瑞乃ではなく鈴仙さんだった。
「ごめんね。今師匠と瑞乃はお話中だから中に入ってお茶でも………」
「じゃあ、お言葉に甘えます。鈴仙さん」
少し遠慮気味にそう言って、私達は永遠亭内部へと足を運んだ。地霊殿とはまた違う雰囲気の穏やかさに、私の心は落ち着いていた。
「ね、しんりねぇ」
「ん?」
「瑞乃ってここに住むのかな………」
「私はそれをオススメしたいな。覚り妖怪よりも、同じ玉兎の方がいいと思うし、何より私達の事で迷惑はかけたくないしね……」
「……まぁ、ここならいつでも来れるし、いっか!」
こいしは少しだけそれを心配していたが、どうやら納得してくれたようだ。こいしも大人になってきたな…………しかし、覚り妖怪は14歳から成長が止まり、350歳までは同じ身長であることがもう分かっている。お母さんも享年900歳で約163センチ程で身長は高めだった。
それに比べ、私は140センチ、さとりは130後半、こいしハ130前半程でまだまだ小さい。ちなみに、私は今14なので、350歳まではこの身長であるという事だ。もう少し伸ばしたかったな…………と、一人で頭を抱えていると、奥から瑞乃が姿を現した。
「およ、瑞乃。ここに住むことになった?」
「うん、永琳様からも許可は頂いたよ」
八意様から永琳様に人称が変わっているあたり、永琳さんも分かってくれていたみたいだった。これでとりあえず一安心。瑞乃とはいつでも遊べるし、永遠亭も遠いわけではないので、毎日会えると言っても過言ではない。
「じゃあ、瑞乃。鈴仙さんと仲良くね」
「な、なんか最後の別れみたいになってるよ……」
「瑞乃の事は………グスッ………忘れないよ!」
「何で感動してるの!」
さとりとこいしの迫真の演技がこの場を和やかにしてくれた。さすが古明地姉妹………やるべき事はよく分かっているみたいだ……………
私達は永遠亭を離れ、地底のある方角へと歩を進める。
「ね、しんりねぇ、さとりねぇ!手繋ごーよ!」
「いいよ」
「仕方ないわね……」
こいしを真ん中にし、私はこいしの右手を、さとりは左手をぎゅっと握った。こいしのほんのり暖かい手が私は右手を通じて全身に伝わる。心地よい肌さわりと温度で、私は手を離したくなくなった。
「あ、しんりねぇ!お好み焼きたべたーい!」
「ダーメ!帰ったら晩御飯があるから!」
「ね、姉さん………あそこの抹茶美味しそう……」
ジュルジュルと涎を垂らす二人。晩御飯があるのに………二人はそれを考えていないのか、はたまた別腹なのか……さすがにこの二人の食べる量が最近私よりも多い気がしてならない。
「仕方ないね……一つだけだよ?」
「やったー!しんりねぇ大好き!」
「全く………」
私達はゆっくりと人里の一角にある甘味処に入ろうとする。しかし、その途中のことだった。
「うにゅ?妖怪は排除ー!」
私達目掛けて、太陽のような暑さを誇る巨大な球体が襲い掛かる。
「え?!」
私は咄嗟に後ろにジャンプして、それを躱す。球体が落ちたところは大きなクレーターができ、陥没したかのようにへこんでいた。とんでもない威力に私は息を飲んだ……
「あなた……誰……」
「………うにゅにゅ?」
私は目の前にいる妖怪に問うた。大きな翼を掲げた大きな鴉がそこで私たちに銃口を向けていた。
最近、センスがただ下がりですな……