ハッピーハロウィン!今日は10月31日。私達古明地姉妹は大いに盛り上がっていた。何故こんなに盛り上がるのかって?
「ハッピーバースデーしんりお姉ちゃん!!」
パァンッパァンッ、クラッカーの破裂音が部屋中に反響する。その大音量に私は少しだけ体を強ばらせた。そう、10月31日は私が生まれた日。今日で16歳だ。ハロウィンと重なっているのは……本当に偶然だけどね。ドンッと目の前に大きなショートケーキが置かれ、その上には16本のロウソクが立っていた。真ん中には「HAPPY BIRTHDAY SHINRI」のプレートがあった。
「お空が腕を奮ってくれたんだよー!」
「ささ、しんり様。大きく息を吸ってー………」
すぅーと空気を吸えるだけ吸う。そして一度で16本のロウソクを消そうとして、私は自分の肺活量全てを使って息を吹いた。しかしどうやらオーバーキルだったようで、ロウソクが吹っ飛んでしまった。
「あ」
飛んだロウソクが、対面にいたさとりにクリームごとかかる。そしてさとりは全身が少しだけ白く染まった。さとりの顔を恐る恐る見ると、怒りに満ち溢れているのが見て取れる。
「ねーさーん!!」
「わわ、ごめんごめん。まさかそんなに飛んでくとは思わなかったよ」
「あはははは!さとりねぇケーキだらけ!」
そう言って、こいしはさとりについたケーキを指ですくって、それを口に入れる。
「んぅ〜、おいし!」
「ちょ、主役よりも先に食べないでよー!」
私はこいしが食べるのをやめようとしないので、それを制そうとしたらこいしは自分の指を私に差し出してきた。
「んじゃあ、しんりねぇも食べる?」
「くっ……食べるよー!」
ムシャクシャになり、私はこいしの指をくわえる。それにこいしは顔を赤くしてドキッと跳ね上がる。こいしの指があまりにも甘く、美味しかったためペロッと舌で指を舐めてしまった。
「ちょ、しんりねぇ!!」
「ん?どーしたのこいし?」
「どうしたのって………うぅ、ほんとに私の指食べるとは思わなかったよ……」
「美味しかったよ。ありがと、こいし」
「そうじゃなくて!……………もういいよぉ……」
こいしはだんだんと体を小さくしていく。私はこいしが何故こんなに恥ずかしそうになっているのか全く理解ができなかった。私が首をかしげていると、扉がコンコンと二回叩かれる。
「はーい!」
さとりが反応して椅子から立ち上がり、扉を覗く。そしてパァとさとりの顔が明るくなり、ガチャっとドアを開けた。
「やっほー!しんり!」
「み、瑞乃!鈴仙さんと永琳さんも!」
「お誕生日おめでとうございます。しんりさん!」
「おめでとー!」
普段地霊殿には来ることのない永琳さんと鈴仙さんが初めてここに顔を出してくれた。また新たなクラッカーが取り出され、二度同じ炸裂音を聞いた。
「はい、これ、誕生日プレゼント!」
「あ、これって………」
瑞乃から渡されたのは一冊の本。「真実の歯車」。この本は私と瑞乃の二人で香霖堂に買い物に行った時、私がずっと見ていた小説だ。
「この作者が鈴仙と知り合いでね。香霖堂を通してくれたんだよ」
「や、やったぁー!」
私は子供のように跳ねて、その本を抱きしめる。鈴仙さんが「稗田阿求」さんと知り合いとは……
そこにも驚きだが、私は憧れの本が手に入ったことが何よりの喜びだった。
「じゃあ、私からも、姉さん」
「ん、何これ……?」
さとりから手渡されたのは小さい紙袋。ガサガサと揺らすと何やら何かのキーホルダーみたいだった。
「開けていいの?」
さとりは首を縦に振る。私はテープを剥がして中身を取り出す。するとそのキーホルダーは白色が主体の女の子のキーホルダー。するとお空が少しだけ声を張って
「さとり様とこいし様、それと私の三人でしんり様のキーホルダーを作ったんですよー!」
「あ、これ私?」
「文句があるなら返してもらうわよ」
「ごめんなさい、とっても嬉しいですさとりさん」
「そ、それなら良かったわ」
さっきまで鬼のような表情だったさとりが恍惚とした輝かしい笑顔を私に返す。こいしもお空も機嫌が良さそうだ。
確かにこのキーホルダー、私に似ているかと言われれば、ぶきっちょながらも頑張って作った感が出ていて、似ているとは言い難い。しかし、これがお祝いの気持ちになるのならば、それに越した事はない。ここは素直に礼を言おう。
「ありがとう三人とも。とっても嬉しいよ」
「えへへー……」
こいしは満足げに笑っており、お空は少しだけ照れていて、頭を掻いていた。私はそのキーホルダーを腰につける。キーホルダーをつける場所がないので、腰にぶら下げるしかなかった。
「じゃあ、ケーキ食べようか。瑞乃達もどうぞ」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「いただきまーす!」
あっという間にケーキが平らげられた。数分前まで綺麗に乗っていた楕円のケーキはもうそこには存在していなかった。主役の私はもちろん沢山…………食べれなかった。
「うぅ……みんなよく食べるね……」
「しんりねぇが少食なだけでしょ」
「そうなのかな……」
「そんなことよりお酒!持ってきたから飲も飲も!」
「げっ、瑞乃……お酒飲めるんだ………」
「残念ながら、玉兎はみんなお酒好きよ?ね、うどんげ」
「はは、まぁ、好きですけど……瑞乃程じゃ無いですよ……」
瑞乃はコップと酒瓶を何本も取り出す。どこから出したんだ………するといつの間にかコップを手渡され、お酒が入れられる。半透明のもので匂いはなかなか強かった。もちろん、私はお酒なんて飲めない。冷や汗がダラダラと流れる。
「え、私は………飲めないんだけど……」
「えぇー!?一緒に飲もーよーしんりぃー!」
私にズカズカと言い寄ってくる瑞乃。私は後ずさりながら妹達に助けを求めるが、二人共目をそらし、別の話の輪を作り始めた。畜生、あの悪魔妹共めぇー!
私は瑞乃の流されるがままになっていた。
数時間後
「だぁーかぁーらぁー!私だってもっとお洒落したいんだよぉー!」
「それぇなぁ!永琳様だってお洒落しなさいって言ってるのに出来ないんだよぉ!」
私と瑞乃はもうベロベロに酔っ払っていた。呂律も回らないほどに飲まされ、もう今では自我なんて保っていなかったよ。
「ちょ、姉さん。飲みすぎよ」
「瑞乃も。ちょっと回りきっちゃってるよ」
さとりと鈴仙さんが止める。しかし、それを振り払って私と瑞乃は酒をぐびぐび飲んでいた。顔を真っ赤にして、だらしない格好をしながら。
「うへぇー、さとりいい匂ーい」
「げっ、姉さん酒臭い!」
「あはははは!しんりねぇおもしろーい!」
鼻をつまむさとりとオレンジジュースをちびちび飲むこいし。今日の誕生日会で記憶に残っていたのは、そんな妹二人のそんな姿だった。
「うぅ………頭痛い…」
11月1日。
二日酔いによる頭痛が私のことを寝起きから襲う。どうやら私はあの後手に負えなくなったらしくて、永琳さんに安全な麻酔を打たれて眠ってしまったらしい。ちなみに瑞乃も一緒ね。それでさとりに自室のベッドに運ばれてきたとか。
「あ、姉さん起きた?」
「んあ、さとり………私って何してたの?風邪でも引いたのかな………」
「記憶にないのね…………」
「何が?」
「何でもないわ。おかゆ作ったから、気が向いたら食べてね。二日酔いさん」
「ふ、二日酔い?」
さとりがにやっと笑ってそう言った。二日酔い?私はいつどこでお酒を飲んだのだろうか…………ここに来るまでの経緯を頭を回転させて考える。いや、考える必要も無い、導き出される答えなんて決まっている。
「私……昨日お酒飲んだ?」
「ええ、全くもってその通りよ?」
「ぜんっぜん記憶にないや……」
ガンガンする頭を抑えながら、私は16歳を迎えた。机には、瑞乃から貰った「真実の歯車」が本棚に置かれていて、私の腰には家族が作ってくれた私のキーホルダーがぶら下がっていた。