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秋といえば紅葉。
ハロウィンも過ぎ、もうすっかり肌寒くなってきて、クーラーが欲しかった夏が恋しくなる。そんな私はこたつの中で瑞乃から貰ったみかんを食べていた。
「ありゃ、地底に紅葉なんてないのに……」
開けた窓から一葉のカエデの葉が落ちてくる。とても鮮やかな色をしており、同時に紅葉も降ってきた。きっと勇儀さんあたりが紅葉の木でも植えてくれたのだろう。その葉を拾いに言った瞬間、冷たい風が地霊殿内に入り込んできた。
「おおふ……さぶぅ……」
カタカタと震える私の元に元気の良い愛妹が飛び込んできた。
「しんりねぇー!ピクニック行こー!」
「ぐぼぉ!」
こいしの勢いあるダイブが私の腹に直撃、尋常じゃない痛みが私を襲う。「ぐおおぉ…」と言いながら痛みに耐え、引いてきたころ、こいしがまた叫んだ。
「しんりねぇー!ピクニックに」
「二回も言わなくていいよ!とゆーか、ピクニックって普通穏やかな春に行くものだよ!こんな寒い日に行きたくないよ!」
「もう!16歳になったんだから外に出ないと!」
「何その私ニートだったよ設定は!定期的に外に出てるからいいよ!」
「ええー!さとりねぇも同じこと言ってた!」
「そりゃそう言うよ………しかも少人数すぎるよ。いたとしても私とさとり、こいしとお空でしょ?」
「お空の友達も来るよー!」
「へ?友達?」
こいしは首を縦にブンブンと振りながら表情を明るくしたまま言った。
「そ、昔の友達らしくて、今幻想郷にいるって情報を買い物中に聞いたんだって、それで昨日偶然出会ったらしくて、「明日一緒に家族とピクニックしませんか」ってお空が友達に言ったんだってさ!」
「あんの鳥頭ぁ!勝手に話を進めるなー!」
ここにいないお空に私は大きな声で叱る。今日だけは外に出たくなかったのに………
しかし、お空の友達も来るというのならば、行くのが礼儀というものだろう。お空も傷ついちゃうもんね…。私は深くため息をついて
「このこと、さとりには話したの?」
「まだ、今から言うの」
「じゃあ私が教えてくるから先に外に出といて」
「はーい!」
まぁ、少しでも室内にいる時間が欲しいだけだけど。私は内心そんなことを思いながらさとりのいる書斎にゆっくりと向かう。そしてたどり着いたと同時にコンコンと二回ドアを叩く。「どうぞー」という声が聞こえたので、私はドアノブを捻り、開く。さとりはカリカリと何かを書いていた。
「………何書いてるの?」
「ちょっと永琳さん達にお礼の手紙を……」
「……なんのお礼?」
「姉さんの誕生日会の事ね。他にも色々お世話にもなったし」
「へぇ……」
こうやって礼儀正しいのは古明地家の中でさとりだけなんだろうな……私もこいしも礼儀のれの字も無いしね。私はさとりに尊敬の眼差しを送った後、話題を切り替えた。
「さっきこいしがここに来てピクニック行こうって言ってたよね?」
「あぁ、かなりしつこかったけど、なんとか断ったわ」
「なんかもうお空の友達が来ることすら決定してるらしいよ」
「え、じゃあ行かなきゃ行けないってこと?」
「そーゆー事」
「こんな寒い日に出かけたくないのに……」
「私も同じこと言った」
「まぁ、お友達が来るのなら行かないわけにはいかないからね」
ブツクサと言いつつ、さとりは奥に消えてなにか準備をしていた。とゆーか、ピクニックなのにお弁当とか持っていかなくていいのかな…………なんか不安になってきた…………
「さ、行きましょうか」
「うん」
私とさとりは書斎を抜け、廊下を渡り、玄関を出た。そこには笑顔のこいしと何やらソワソワしているお空がいた。どうやら楽しみなのだろう。自分の友達と私達が仲良くなれるのをね。
「とゆーか、お空、こいし。場所は決めてるの?」
「一応妖怪の山!待ち合わせは麓の辺りだって」
「また遠いわね……」
私とさとりは同時に肩を落とす。まぁ、飛べばいいだけだけど、ピクニック前に体力を使いたくないしね。途中までだけ飛ぼ。
私達は一斉に飛び上がり、地上に出てからこいしの無意識で私たちの存在を認識出来なくし、妖怪の山まで着いた。大体30分程度。シュタッと地面に足をつけ辺りを探し回る。
「うーん、そもそも人がいないね……」
「あれ?いるはずなんだけどな…」
お空がもう一度空へ飛んで、見下ろす形で探す。難しそうな顔をした後、唐突にパァと顔が明るくなる。
「い、いましたしんり様!」
「ど、どこ?!」
チョンチョンと指を指すお空。私はその指の下まで走る。するとそこにはゴスロリ風の服を身にまとい、赤毛の長髪は三つ編みにし、緑のリボンを境に髪が二つに分けられていた。頭には黒い猫耳が、あれ、この人耳四つない?まぁ、一目でわかる。この人は猫の妖怪だ。
「燐!この人達が私の主様だよ!」
「そうなのかい?どうも、火焔猫燐だよ。燐って呼んでくれ!」
「うん、私は古明地しんり。紫髪の方がさとり、緑銀髪がこいし。よろしくね」
と、燐と握手をする。するとこいしが「うーん」と悩み始めた。首を傾げる私達はこいしに問う。
「どうしたの?」
「いや、燐って少し言いにくいから……」
「お空なんだし「お燐」は?」
私の何気ない提案にここにいた全員が「おおー」と感嘆の声を漏らした。
「うん、じゃあお燐!」
「うん、ありがとうしんり。嬉しいよ」
お燐は女の人とは思えないくらい爽やかで凛々しい笑顔をこちらに向ける。男らしいというか…爽やか系ってなんかいいよね。しかし……あの猫耳はしっかりと音が聞こえるのだろうか………私が凝視していると、こいしが急にフワフワと浮いて、優しくお燐の耳を触った。
「ひゃん?!」
「わ、お燐変な声出した!」
「ちょ、いきなり触らないでくれるかな!」
「えへへー、柔らかぁーい………」
案外モフモフだったのか、こいしは安らいでいるかのようにペタペタとお燐の耳を触る。どうやら、感覚は猫と同じなのかね。耳や尻尾は触られると変な感覚になる。
「もう………人間になるのもめんどくさいんだから………」
「え、どーゆー事?」
「こーゆー事だよ」
ぼぉぉん…という音とともにさっきまでお燐がいた所には何も無かった。
「あ、あれ?お燐、どこ行ったの?」
「にゃーん………」
「およ?可愛いし………珍しい色の猫だね」
私はその猫を凝視する。黒い毛並みにところどころ赤毛が混じっている。しかし、耳には見覚えのある緑色のリボン。私はそれで確証がついた。
「あ、お燐か!」
「動物になれるのね……任せなさい……」
さとりのサードアイがカッと開いて、何やらお燐止めを合わせている。これはさとりの能力、「心を読む」で動物の心さえもわかるという。よく良く考えれば便利な能力だった。
「なるほど。猫姿の方が楽らしいわ」
「うにゅ、私だって鴉になれるよー!」
お空は対抗するように変身する。すると緑色の大きなリボンをつけた鴉がそこでバサバサと翼を動かしながら飛んでいて、何やらドヤ顔しているみたいだった。
「すごいわねこの子達……」
さとりが少しだけ興味深そうに二匹を見ていた。これは、さとりが心を開いてくれそうだ。
「ね、早くピクニック行こーよ!お腹空いちゃった!」
「ん、そうだね。じゃあみんな。行こうか……」
猫のお燐。鴉のお空。動物の妖怪は面白い人ばかりなんだな………