ハートだよ!覚り三姉妹!   作:かくてる

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前回でも言った通り、正しくは覚り妖怪ではなく、覚妖怪なんだそうですが、それだとほのぼの感が欠けてて個人的にしっくりこなかったので、「覚り妖怪」で続けていこうと思います。


鈴奈庵、憧れの小説作家

 お燐が家族の一員となって地霊殿が少し狭く感じるようになった。食事も賑やかだし、家事はほとんどお空とお燐がやってくれて、私たちがダメダメになりそうだった。そんな中、自分がだらしない生活を送っていると自覚しながらも「真実の歯車」に没頭していた。

 

「姉さーん、ご飯だってー」

「待って、あと5分」

「………冷めないうちにね」

 

 そう言ってさとりが扉をまた閉める。もうすぐで序章が終わる。この小説は稗田阿求さんが書いた小説の中で一番の長編だとか。稗田阿求さんは小説以外にも詩や書道など、和の心を大切にしている方だと鈴仙さんからは聞いている。

 

「あ〜………お腹空いた…」

 

 栞を挟み、パタンと優しく本を閉じる。その時に本を閉じた時の風が私の顔面全体にかかる。本独特の匂いがして、少しだけ気分が良くなる。正直、この匂いが好きだ。心が落ち着くというかなんというか………

 

「よし……」

 

 ドアノブを捻り、廊下に出る。部屋の中が暖かかったからか、廊下が妙に肌寒く感じる。私は早足で食卓へと向かった。そこにはもう、私以外の全員が座っていた。

 

「じゃあ食べましょうか」

 

 さとりの号令と共に私達はナイフとフォークを手に取り、ホカホカのステーキにナイフの刃を付け、押し引きして切る。フォークで刺して口に入れる。ステーキが口の中でとろけるように味が広がっていく。

 

「んう〜!」

 

 パタパタと足をばたつかせながら私は落ちそうなほっぺを手で抑える。な、なんだこの美味しさは……!そんな私を見てお空は鼻を鳴らして胸を張る。

 

「今日人里に言ったら安売りしてたんだっ!」

「へぇ………また珍しいね…」

 

 お金がカツカツの私たちにとって安売りセールは有難いものだ。こいしたちも美味しそうに食べてるし…………と、私は上辺だけお姉さんを演じてた。

 明日………鈴仙さんにお願いして阿求さんと会えたりしないかな………まぁ、そんなうまい話あるわけないか………そうだよなぁ……人里の有名人とそんな簡単に出会えたら世の中苦労しないもんなぁ……………

 

「阿求さんに会いたい?いいですよ、お付き合いします」

「え?」

 

 案がうまく行くものだった。次の日買い物ついでに永遠亭に寄り、ダメもとで鈴仙さんに頼み込んでみたら、快く快諾してくれ、まさか連れていってもらえるとは………や、やばい………正装で行かなきゃいけないのに………いつもの私服だぁ……!白のフリルスカートに赤が基調でボタンや襟周りは白い服。さとりに「大人になったから」という理由で私服を丸ごとチェンジすることになってはや数ヶ月。これにも慣れつつある時期だった。

 

「あの鈴仙さん…」

「はい?」

「服…着替えてきていいですか?」

「あはははは!大丈夫ですよ、とても優しい人ですから気にしませんって……」

「ほ、本当ですかね……」

 

 心臓の鼓動が歩く度に大きくなっていって、体がカチコチになる。それを鈴仙さんは少しだけ呆れながらポンポンと背中を叩く。

 

「そんな緊張しなくても……」

「だっ、だって………人里だけで数千万部も売れてる超人気作家さんですよ!?緊張しない訳ないじゃないですか…」

「あ、つきましたよ」

「ひゃう!?」

 

 鈴仙さんが指さした先には「鈴奈庵」と書かれた木の看板。その先には小さな木造建築。地霊殿と比べればとてもちっぽけな建物だった。

 

「ふぅー落ち着けー…………すぅーはぁー……」

「失礼しまーす」

「ちょ、鈴仙さーん!?」

 

 私が目の前で深呼吸していると鈴仙さんは躊躇なく扉をカラカラと開ける。すると奥から幼い声が聞こえた。

 

「あら、鈴仙さん。こんにちは、今日はなにかお探しですか?」

「いえ、阿求さんのファンを連れてきました。私の友人です」

「ど、どうもっ!ち、地底の妖怪、古明地 しんりと、も、申しまひゅ!」

「そんな固くならなくていいですよ……」

 

 ぎこちない話し方と噛み方に阿求さんはクスクスと可愛らしく笑う。よく見ると………幼いなぁ…紫色の髪でややセミロング。人間って聞いたから10歳くらいだろうか?私よりも小さい……でも……なんか風格あるなぁ…部屋の中も本でぎっしりだ……

 

「………おや、あなた「覚り妖怪」でしたか……」

「!」

 

 阿求さんが私をまじまじと見た後、真剣だがまだ幼さの見える声でそう言い、私はその場で固まってしまう。それを見かねた阿求さんは微笑みながら

 

「………大丈夫です。私はあなたを嫌いになんかなりませんよ?もちろん、現在の人里の住民は覚り妖怪の事なんて記憶にございません。安心なさい…」

「そ、そうですか…ありがとうございます」

 

 この人……こんなに幼いのに…まるで大人びいているというか……自分が年下に見えるというか………

 

「あ、あの、阿求さん」

「はい?」

「「真実の歯車」いま読んでいます」

「ええ、ありがとうございます。一番の長編ですので、ゆっくりと読んでってくださいね?」

「いえ、今後どういった小説を出すおつもりなんですか?」

「そうですね……」

 

 阿求さんは指を顎に当て、上を向いてしばしの間考える。

 

「次は恋愛ものにしてみようかと、サスペンスと恋愛、殺人を題材にした「真実の歯車」の続編とか……今は考えてますよ」

「ほ、ほんとですか!?」

「ええ、まぁ、読者さんに言ってはいけない事ですけどね……」

「わ、私、楽しみにしてます!頑張ってください!」

「ええ、ありがとうございます」

 

 阿求さんとの会話を済まし、私は鈴奈庵内の本を少しだけ探していた。大体が幻想郷の歴史や文化、代々博麗の巫女の事なんかも書かれていて少々不愉快。するとひょこっと鈴仙さんが私の顔を覗いた。

 

「………しんりさん。今の博麗の巫女は以前のような非人道的な方じゃありませんよ?」

「………え?」

「彼女は、博麗霊夢。幻想郷最強で博麗最高の巫女さんとも謳われてる程です。それに人妖問わず好かれてるんですよ……」

「そうなんですね…………まぁ、関わる機会は理由がない限り極力避けるつもりなので……」

「ええー、もったいないですよー」

「それよりもこれとか……」

「あ、それは輝夜様ですね。蓬莱の薬の奴でしょう」

「あ、瑞乃が言ってた嫦娥って……」

「月の女神様です、今はどこにいるか知りませんが……」

 

 そんな話をしているうちに日がすっかり暮れてしまっていたがまだ半分も見れていない。阿求さんは「気が済むまでここにいて構わないですよ〜」と、本当に優しく声をかけてくれた。私はお言葉に甘えて少しだけ鈴奈庵にいることにした。鈴仙さんは薬の販売のため帰ったが、私はまだ夢中になって本を漁っていた。

 

「あ、阿求さん。これって阿求さんの最初の作品ですよね?」

「恥ずかしながら………」

 

 少し顔を赤らめた阿求さん。可愛らしくて少しだけ見惚れていた。どうやら初めてだから文面もバラバラになっているらしい。実際、一番売れた本がこれなのだが……

 

「へぇ………「生きた亡霊」………ねぇ……凄く面白そうな物語ですね……これ買ってもいいですか?」

「買うというより、もう自分には必要の無い本です。無料で差し上げますよ」

「え、いいんですか?ありがとうございます!」

 

 頭を下げ、阿求さんにお礼を言う。すると後ろのドアがガラッと力強く開けられ、私は頭を思い切りチョップされた!

 

「いったぁぁぁ……」

「姉さん、まだ帰ってなかったの!?……すいません…うちのバカ姉が………」

「大丈夫ですよ。久しぶりに妖怪と話せましたし……何より優しい方でしたので……」

「いやいや、それはきっと裏の顔ですよ阿求さん。この人は腹黒くてゲスでバカな妖怪ですから」

「そこまで言わなくたっていいじゃんかぁ……」

「ふふっ、楽しそうな姉妹ですわね……」

 

 私とさとりのやり取りを見て、阿求さんは微笑ましいと言わんばかりの顔で笑う。とゆーか、チョップが何気に強力でたんこぶ出来てるんだけど…………てか、今9時やん……

 

「さ、姉さん帰るわよ!晩御飯冷めるわ!」

「わわっ、引っ張るなよさとりぃ〜!」

「またのお越しをお待ちしております〜」

 

 ヒラヒラと手を振って阿求さんに見送られた。外に出ると少しだけひんやりした空気が私の口の中に充満する。空気が美味しい、とはこの事だろう。

 

「ね、さとり、阿求さんに新しい小説貰ったんだ〜」

「そう、私にも読ませてね」

「やだっ!私のことチョップしたから読ませてあげない!」

「姉さん今月の小遣いなしでいいの?」

「ごめんなさいどうぞお先にお読みください」

「我ながらいい姉を持ったわね」

 

 いつからこんな悪ガキに成長したんださとりよ。前まで「姉さん、姉さん」可愛かったのにいつの間にか反抗期に入ってしまった………

 

「早く帰りましょ。お空達が待ってるわ」

「おー」

 

 キュルキュルとなるお腹を抑えながら少しだけスピードを上げて地底に帰っていった。途中、セリカナに会えるかなって思ったけど、流石にないか……

 阿求さんの小説を抱きながら地霊殿へと帰った。

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