「はい、終わったわよ」
「ん、ありがとうございます。では」
ぐるぐる巻きにされた腕を下ろし、永琳さんに一礼し、外に出る。そう、怪我をしてしまったのだ。調子に乗ってお空の灼熱弾幕を素手で受け止めようとしてしまい、やけどとその威力に軽い打撲をしていた。さとりにはこっぴどく怒られたし、こいしには「ダサすぎるよしんりねぇ!」って大笑いされた。くそ、誰も私の怪我の心配をしてくれるやつはいないのか!
「大丈夫ですか?しんり様。どこか不便なところは……」
「あぁ、大丈夫だよお燐。ありがと」
「ならいいですけど………あ、綿菓子食べますか?」
「え、ほんと!?食べる食べる!」
「では人里に行きますか」
お燐だけは私のことを本気で心配してくれた。お空自身も申し訳ないと、反省はしてるみたいなんだが、どうにも内心ほくそ笑んでるようにしか見えない。地霊殿唯一の常識人と言っても過言……………過言だけど…。
お燐はいつでも周りに気を配れるし、本当に地霊殿に来てくれてよかった。
「覚り妖怪は再生能力が高いわけじゃないし……こうやって手当はしないとね」
「そうですね。でも痛みってありました?」
「まぁ、人並みよりは少ないけど無いわけじゃないかな」
「へぇ………あ、買ってきますね」
「うん」
タタタッと小走りで綿菓子屋に向かうお燐。お燐もお空もそうだけど、身長高いよね。スタイルもいいし、どうして覚り妖怪だけこんなに小さいの。種族の問題かな………?
「あれ、しんりちゃん?」
「へ?」
突然名前を呼ばれ、私は体をビクッと強ばらせる。人里で私の名を知っている人は指で数えられるほど、それにこんなフレンドリーな掛け声をかけてくれる人なんかもっと限られる。
「せ、セリカナちゃん!」
「やっほー」
「ど、どうしてここに?」
「や、ここから家近いしね、しんりちゃんの姿が見えたから出てきたの」
「そ、そうなんだ……」
「しんり様ー!買ってきましたよー……………おや?」
「あ、お燐は初めて話すよね。セリカナ・クレセ・ステナミア、私の友達。で、こっちが火焔猫燐。家族だよ」
「どうも、火焔猫燐だよ。お燐って呼んでね」
「あ、はい!セリカナって呼んでください……………えと、お燐さんも妖怪ですか?」
セリカナちゃんはお燐の全身を見て、少しだけ引き攣りながら問う。まぁ、猫耳と尻尾があれば誰だって驚くよね。人里の目線も少しだけ集まってたし。
「そうだよ。まぁ、地底に住んでるから別に特別視はされないかな」
「そうなんですね……」
お燐は火車という妖怪で、よく物語に出るらしい。葬儀などの時に死体を持ち去る妖怪、それが火車という妖怪、地底は怨霊が多く、火車はその怨霊たちとも会話ができ、お燐はとても楽しんでいるとか。それにこんなに常識人ではあるのだが、本人曰く「死体が大好き」とのこと。妖怪によって殺された人間などはよく持ち帰って来ている。まぁ、迷惑としか言いようがないが、彼女自身とても楽しそうだし実害もないので放っている。
「ね、しんりちゃん、このあと暇?」
「うん。用はないかな」
「じゃあ私の家に来てよ!もちろんお燐さんも!」
「…いいの?」
「いいよ!お家おっきいから!」
「そ、そういう問題じゃなくて……」
「………行きましょうか、しんり様」
「だね……」
「?しんりちゃん……その腕どうしたの?」
心配そうに見つめるセリカナちゃん。良かった、地霊殿の連中よりも情が深い……人間はいい奴なのかもな……
「あぁ、ちょっと大やけどしちゃって…」
「だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫。永遠亭で診てもらったから」
「そう、ならいいんだけど………あ、着いたよ!」
「え……」
でっか。
全身真っ白の建造物、人里の外れにこんな大きな屋敷があったなんて……地霊殿より大きい屋敷初めて見たかも。ちょっと悔しい。
「ささ、入って入って!」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うん、ただいま、セリシウス!今日は友達を連れてきたんだ!」
「……………………左様ですか…はじめまして、セリシウス・クロミーと申します。ここでセリカナお嬢様の執事をやらせて頂いてるものです」
「……はい、よろしくお願いします」
何だろ、セリシウスさんの目つきが一瞬とんでもなく悪くなってた気がする。少し年老いてるし寝不足なのかな?どうやらお燐も少し気づいていたようで、私の肩をチョンチョンとつつく。
「しんり様。少しだけあの人には警戒しておきましょう」
「うん、分かってる」
「しんりちゃん、お燐さん!紅茶でも飲みましょ」
「うん、分かった」
バルコニーに案内され、私とお燐はその規模の大きさに自然と感嘆の声が漏れる。妖怪の山が一望できるバルコニーと木目が整っている木材を使った鮮やかな茶色の床。天井からぶら下がるハンモックなど、とてもここらじゃ見ることができない物がずらりと並んでいた。私達はセリカナちゃんち指示されたところにちょこんと座った。椅子も豪華で鮮やかな白色に薄い紫でソフィの花のようだった。
「どうぞ、紅茶でございます」
「あ、ありがとうございます」
さっきまで私を睨んでいたセリシウスさんが笑顔で紅茶を出してくれた。紅茶の中身には毒でも入っているのかな?まぁ、私達妖怪には効くはずもないし、多分心配は要らないだろう。セリカナちゃんにバレたら色々とまずいし、まだセリシウスさんが私達に恨みを持っているって決まったわけでもないしね。
「ん、うま……」
「ほんとに……美味しい…」
「へへっ、良かったねセリシウス!」
「ええ、お客様に喜んでもらえるのなら光栄でございます」
どうやらセリシウスさんが悪者というのは私達の勘違いっぽいな……能力を使っても、セリシウスさんの気には全くの悪気がない。少しだけ安堵の息をつき、紅茶を飲み干すとセリカナちゃんが元気よく立ち上がった。
「ねね、セリシウス!今日は部屋で遊んでいい?」
「ええ、ご主人様からの許可も頂いております」
「やったー!ねね、しんりちゃんとお燐さん、部屋で遊びましょ?」
「うん」
ここの一家とは仲良くできそうだ……色々人間と関わるのは怖かったけど、案外人間は悪い生き物ではないのかもしれない。鈴仙さんが言ってたとおりだったかもな。
「ま、負けたぁぁぁぁ!!」
「しんり様…ジャンケンといいトランプといい、弱すぎませんか?」
「しんりちゃん弱すぎー!」
現在、ババ抜きを楽しんでいるが、絶賛15連敗。ジョーカーがいっつも手札に残ってしまう。
「しんり様、顔に出すぎですよ。丸わかりです」
「え、ええ?ポーカーフェイスを保ってるつもりなのにな………」
「しんりちゃん世の中には「寝言は寝て言え」っていう格言もあるんだよ?」
「ひどい!とゆーか、格言なの?」
そうしてまた、トランプを切り始める。ババ抜きがこんなに楽しいとは思えないほどに没頭してしまい、遂には日が暮れるまでやり続けていた。
「わ、私が勝てる日は……そう遠くはない!」
「25連敗が何言ってるんですか……」
「言わないでお燐」
「あはははは!楽しかったよ2人とも!また遊ぼーね!」
最後まで元気なセリカナちゃんは満足げにピョンピョンと跳ねた。艶やかな黒髪が私の目を魅了させる。こんなに無邪気な子でも女の子を保ち続けていた。同じ黒髪の私だが、念入りなお手入れなんてしてないし………またさとりにでも相談しようかな……
長く伸びた自分の髪を触りながらそんなことを考える。友達にこんな綺麗な子がいたら気にしちゃうんだよなぁ………お燐も綺麗だし……
「しんり様、とりあえず帰りますか」
「う、うん。じゃーね、セリカナちゃん」
「ばいばーい!」
そう言って私達は大きく手を振りながら人里を離れる。飛んでいる間、お燐が私に近寄り声をかけた。
「しんり様、自分の髪には自分の魅力があるんです。別にセリカナちゃんが綺麗だからって対抗する必要はありませんよ?」
まるで心を見透かしたかのような口ぶりに私は少しだけ励まされた。
「……でも、ちょっと髪型も考えないとな……お燐、後で一緒に考えて」
「了解しました」
自分の髪を気にしながら、私は地底へと戻った。その時にはもう、ついさっき負ったやけどの傷跡はきれいさっぱり消え失せていた。
しんりちゃんの髪型、ロングかショートどっちがいいかな?
挿絵ないからイメージだけど、やっぱりイメージは大切だよね