「お燐〜?」
「あ、しんり様。どうしました?」
「昨日さ、セリカナちゃんの家で遊んだでしょ?」
「ええ」
「私も綺麗な髪型になりたい」
「はぁ……」
何故こんなことを頼むのかというと、実質私とセリカナちゃんは髪型と髪色が同じ黒色。でも艶やかさが全然異なっていて、私のは光に反射せず、少しパサついているが、セリカナちゃんのはサラサラで光によく反射する。それに感化されたというか、憧れちゃってお燐に散髪と髪の手入れを頼んでいる次第だ。
「どういった髪型にするんですか?さとり様はショート、こいし様はセミロング、しんり様はロング。ひとりひとり個性があっていいじゃないですか」
「ロングなのは変えないで、ただ、少し伸びすぎかなって、たまに足で踏んじゃうし…」
私の髪はもう数年近く切っていない、切る時間が無いというのも一つの理由だがそもそも髪が長い方がお姉さん感が出ていて憧れているからだ。
「じゃあ少し散髪するくらいでいいですか?」
「あ、あともっとツヤツヤにして欲しい」
「充分艶出てますけど……」
「いーの!お燐みたいな三つ編みでもいいから!」
「被ると嫌じゃないですか……」
「だって今私とお空同じじゃんか!」
「あの馬鹿はそろそろショートにしたいとか言ってましたね……」
「馬鹿……………馬……鹿…」
私の頭の中には馬鹿という単語が何故か反芻させられた。私の中で「馬鹿」という単語から何らかの髪型が思いつくという発想になったのだ。
「馬……………ポニー…………ポニーテール!」
「しんり様の脳内が本当に働いているのか不安になる今日この頃ですね」
「ひどい!」
「ポニーテールいいじゃないですか。しんり様、シュシュとか持ってないんですか?」
「え、ずっとこの髪型だったから持ってないよ」
「じゃあこれあげますよ」
お燐は自分の頭につけてあった赤色のシュシュを手渡した。そんなのどこに付けてたんだ…と一瞬疑ったが、あまりのシュシュの可愛さに見とれてしまっていた。
「可愛い…」
「可愛いでしょ?前に雑貨屋で買ったんです」
「へぇ……じゃあ付けてよ」
「分かりました」
お燐は私の髪を持ち上げ、赤いシュシュを髪に巻き付ける。すこし引っ張られる感触があって多少の痛みはあったが、いざ付けてみると自分が新しく変身した気分に陥る。
「おおー……」
「可愛いじゃないですかしんり様」
「うん、ありがと、お燐」
「いえいえ」
椅子から立ち上がり、新しくなった自分を見せびらかそうと部屋を出て、書斎へと向かった。
「さとりー」
「あら、姉さん、どうしーーーー!?」
さとりはガタッと椅子が一度床から浮く、そして立ち上がり、私に近づいていく。
「ね、姉さん?それどうしたの?」
「お燐が結ってくれた」
「へぇ……可愛いわね。まさか姉さんがお洒落するとは…」
「どーゆー意味……」
さとりは無愛想な感じで私に話しかけているが、振り返りざまに見てる耳は少しだけ赤らんでいたことがわかった。すると私の中でちょっとしたいたずら心が目覚めていた。
「あれれ?さとり、実はちょっと姉さんのこと可愛いって思った?」
「ええ、可愛いわ」
「さとりもこうして欲しいのぉ?」
「いいえ?この髪型が好きだもの」
「………」
あっさり負けてしまった。私の脳内では「ち、ちがっ、違うわよ!この髪型が好きなの!」って赤面しながら弁解するさとりの姿があったのだが、大きな予想ハズレだった。
「だって、姉さんがこの髪型が可愛いって言ったんだもん………」
「え?なんて?最近耳が遠くて……」
「うるっさい!何も言ってないわよバカ姉!」
「ば、バカ姉ってなんだよ!」
「そのままの意味よ!バカ姉!」
「私がバカってこと!?うぎぃぃぃぃ!妹のくせに調子乗らないでよ!ちょっと頭がいいからって!」
私とさとりの喧嘩に書斎の扉から顔だけをのぞかせるこいしとお燐とお空。その顔はとても微笑んでおり、ずっと見ていた。
「まだまだ子供ですねぇ……」
「こいし様がそれ言いますか………」
「何か可愛らしいね!」
「末妹としては嬉しいものだよ。まだお姉ちゃん達と遊べるしね」
そんな会話をしているとはつゆ知らず、私とさとりの口喧嘩はそのまま続けられる。それを未だ微笑ましく見る三人。
「だいたい、これ以上髪型をいじったら姉さんやこいしに近くなっちゃうじゃない!」
「いいじゃん別に!こいしの髪型も可愛いじゃん!」
こいしは自分の名を呼ばれ、フラフラと私とさとりの間に割り込んできて、嬉しそうにお互いの顔を見る。
「しんりねぇ、さとりねぇ、私のこと呼んだぁ?」
「外野は黙ってなさい!」
「外野は黙ってて!」
同時にこいしを叱り、その当人のこいしは少しだけたじろぐ。そしてこいしにもスイッチが入ったのか、顔を真っ赤にして怒りを顕にする。
「むきぃぃぃぃ!私だって外野じゃないもん!二人の妹だもん!」
「だから何よ!一番可愛いからって構ってもらえるわけじゃないんだよ!」
久しぶりの三姉妹での喧嘩、もう数年やっていないので、喧嘩している側もとても楽しかった。傍から見たら大喧嘩に見えるが、全員が楽しんでいるのが私から見て実感できていた。
「しんり様もさとり様もこいし様も………まだまだ子供なんだよなぁ……心配の域はまだ越えない………か…」
「んね!まだまだ私が勉強教えてあげなきゃ!」
「それはひょっとしてギャグで言ってるんだよね?お空?そうだよね?あたいはお空の頭も心配だよ……」
お燐とお空は二人で楽しく会話をしながら台所へ向かい、私達は昼ごはんが出来るまでお互いを貶しあっていた。
「しんり様、さとり様、こいし様。お昼ご飯が出来ましたよー」
「あ、ありがとうお空、すぐ行くね」
まだまだ怒りが収まらない私達はお空によって一時休戦となったが、向かう途中も食堂に着いた時も怒っていた。特にこいし。
「もう!お姉ちゃん達はでりかしーが無さすぎだよ!」
「………………ぷっ!」
さとりが唐突に吹き出していた。
「あはははは!」
「さ、さとり?どうしたの?」
腹を抱えて笑うさとりに私とこいしは質問する。すると涙を拭きながらさとりは答える。
「いや、姉妹でこんな喧嘩久しぶりだし……私達も沸点低くなったなぁ………って」
「確かにそうだね……こんな喧嘩したの久しぶりかも……」
「ね!しんりねぇの怒った顔久しぶりに見たよ!」
数秒前まで喧嘩していた間柄とは思えない会話だった。すっかりとそのことも忘れ、いつも通りの笑顔で話し、笑い合う。
「まぁ、沸点が低いのはさとりだけだけどね」
「………………いやいや、姉さん達も低かったでしょ?」
「いや、しんりねぇとさとりねぇだよ」
「……………」
プツンと何かが私の中で切れた。
「さとりが一番怒りやすいよ!なんでそうデマばっか言うわけ!?」
「あなたよ!姉さん!ちょっと言われただけですぐ怒るじゃない!それに何色気づいてるのよ!」
「二人ともだよ!お姉ちゃんのくせに妹にばっか怒ってさ!」
「こいしもだよ!デリカシーがないのはどっちだよ!」
「まぁた喧嘩ですか……三人とも飽きないですねぇ……」
これからまた長い時間喧嘩していた。この後弾幕ごっこにまで進展したが、部屋を荒らしに荒らしたからか、怒ったお燐が料理のおたまをもって私たちの脳天を叩いて数分間疼くっていた事は内緒だ。
その時に、私のポニーテールはお燐から貰った赤いシュシュを境にフワフワ揺らいでいた。
バンドリーマー[ハクア]さん。
誤字修正ありがとうございます。