立てない
言っときますけど、私まだ若いからね?
年じゃないからね
「あ、暑い………いや、熱い……」
今私がいるのは間欠泉の地下センター。これもいつの間にかそう呼ばれており、元々地霊殿の地下に存在する灼熱地獄の跡地らしい。お空がそれを管理していたのだ。どこの誰が彼女に核融合を取り付けたのか知らないが、まぁ実害は今のところないし、多分大丈夫だろう。中心に大きな太陽のような恒星が激しく燃えて、光っている。
「しんり様。お燐です」
後ろからお燐の声が聞こえる。私は首だけ回し、お燐の方を見る。
「どうしたの?」
「博麗の巫女が地底にやって来たそうです。今、ヤマメさんと弾幕ごっこをしているのだとか」
「ほぇ……?来るの早いな」
「どうします?一度見に行きますか?」
「そうだね。見に行こう。お燐、付いてきて」
「りょーかいです」
地下センター、もとい灼熱地獄を出て、地霊殿を通り商店街の方へと飛んでいく。その間にも、勇儀さんやパルスィさんなど、いつもの場所でお酒を飲んだり、橋でぼーっとしてたりと、いつもと変わらない様子だった。
「はてはて、ヤマメさんはどこにいるんだ?」
「あ、いましたよしんり様」
「お、ほんとだ」
そこに居たのは紅白を纏った女性、後ろ姿だけでも確認が出来た。恐らく、あれが博麗霊夢なのだろう。そしてその正面には黒谷ヤマメが弾幕を放ち続けていた。私達は物陰に隠れて、それを観戦する。
「つ、強いね……」
「ええ……ヤマメの弾幕をあんな軽々と……」
キスメもヤマメと対峙する前に一瞬でやられたという。最初は雑魚だと思っていた博麗の巫女だが、これを見るとそうは見えない。
「あ」
最後の最後、博麗が飛ばした札がヤマメさんに当たり、小さな爆発を繰り返しながら、ヤマメさんは下に落ちていく。それをしばらくほうけた顔で見ていた私達は数秒後、我に返り、物陰に体ごと隠す。
「と、とんでもない強さですよ……」
「まぁ、お空の実力は桁外れだし、お燐だって強いでしょ?世間じゃお燐は地霊殿最強って言われてるしさ」
「え、ええ!?」
私がお燐のことを「地霊殿最強」というと、お燐は驚きを隠せないと言わんばかりに、仰け反り、大声を出す。私は慌てて人差し指を口に当てる。
「しーっ!見つかるから!」
「誰かしら?」
「っ!?」
お燐の大声で、博麗の巫女がこちら側を向きながら問う。私達は口を塞いで、その場で固まる。
「(そ、そうだ!)」
私のサードアイが開く。そして、私は能力を発動する。「気をコントロールする程度の能力」。これを使い、博麗の巫女が私たちを気にとめないようする。つまり、博麗の巫女は私たちがいることに興味を示さないようにしたのだ。
「………」
博麗の巫女はこちらを訝しげに見た後、そっぽを向いて、商店街の方へと飛んだ。私はそれを見送った後、大きく息をついた。
「お燐のバカ!気づかれるところだったよ?!」
「も、申し訳ありません。あたいがまさか地霊殿最強とは……」
お燐の口元が緩む。よほど嬉しいのだろう。
私は一度ヤマメさんと戦いっている時に博麗の巫女に向かって能力を発動した。ヤマメさんと弾幕ごっこで勝つ気を操って失わせようとしたのだが、ちゃんとした理由がある気だと、通用しないらしい。
つまり、勝つ気があるのはこの異変を終わらせるためだから。さっき、私たちに興味を示そうとしても能力が効いたのかは恐らく、私たちを見つけることに理由が無かったからだろう。
しっかりとした根底の理由があるとほぼ通用しないらしい。どうでもいいこと、理由や大きな目的が無いものに通用するのだろう。思ったよりも不便かもしれない。
「さて、地霊殿に戻ろっか」
「はーい」
ヤマメとやらを倒した後、私は何かに近づこうとしたのだが、どうやらどうでも良くなったのか、調べなかった。
「霊夢。どうしたの?」
「いや……なんか大事な事があった気がするのに、覚えてない」
「…………いたわね」
「何が?」
「あなたは恐らく、覚り妖怪の能力に飲み込まれた。そう考えてるわ。あなた、ヤマメを倒した後に、声が聞こえたから調べようとしたのよ」
「……そうだっけ?」
「そう、その時にあなたは能力に飲み込まれて、その気が失せた、ということよ。多分ね」
確証は無いのか、紫は最後に付け足すようにそう言った。私はその時は全く意味が分からず首を傾げたまま、地底を飛び回っていた。
地霊殿に戻り、私はさとりのいる書斎へと向かう。
「ね、お燐」
「はい?」
「まださとり気づいてないのかな?異変が起きてること」
「流石に気づいてると思いますよ。まぁ特別大きな音があった訳でもないし。ここからじゃよく聞こえませんけど」
廊下で話を広げる。さとりが気づいたら、きっと私怒られるんだろうなぁ……少し憂鬱になりながらも、早足で書斎に向かう。書斎のドアをコンコンと二回叩き、声をかける。
「さとり。私だよ」
「どうぞ」
さとりが篭もり気味な声で招いた。私は木の軽いドアを開けて、書斎に入る。さとりはどうやら、何かの書類を机に広げ、書いたりまとめたりしていた。
「どうしたの?姉さん」
「え?」
「え?じゃないわよ。何かあったの?」
「き、気づいてないのかな………?」
「何が?」
「う、ううん!何でもないよ」
「さとり様。今日の晩御飯どうします?」
お、お燐ナイス!これで上手いこと話が逸らせる。何はともあれ、さとりにはバレていないようで良かった。
「そうねぇ……ハンバーグとか」
「承知しました。しんり様。行きましょう」
「う、うん。じゃあさとり。後でね」
「ええ」
そう言うと、さとりはまた仕事に戻った。私は一息安堵し、書斎の部屋を出る。そして書斎からさとりに聞かれないように距離をとってからお燐に聞く。
「そう言えば、こいしは?」
「あ、朝から見てませんね。どこにいるんでしょうか?」
「まぁこいしの事だしそこら辺フラフラ放浪してるんでしょ」
「そうですね」
「とりあえずお燐。あなたは怨霊の管理に戻って、灼熱地獄跡地に沢山いると思う」
「りょーかいしました。ではしんり様。後ほど」
「うん」
さてさて、私はどこにいようかな。
恐らく、博麗の巫女は確実に地霊殿に殴り込みに来るだろう。これの原因はお空なんだし、間欠泉地下センター、もとい灼熱地獄最深部は地霊殿の真下だ。ここは通らないと行けない。今頃、パルスィさんや勇儀さんとも戦っているのではないかな?
私は部屋に戻り、博麗の巫女が来るまで、部屋に戻り、「真実の歯車」を読み始めた。
多分、現代の博麗の巫女は鈴仙さんが言っていた通り、博麗の巫女の中でも最強の方なのだろう。ヤマメさんがやられて、パルスィさんでも厳しいだろう。しかし、地底の鬼、星熊勇儀さんの実力はあの博麗の巫女を上回ると私は思った。
「地霊殿に来る前に、勇儀さんが倒してくれたら嬉しいんだけど………」
「姉さん」
「っ!」
ドアが叩かれ、ビクッと体を強ばらせる。さとりの声だ。
「さ、さとり?どうしたの?」
「いや、「生きた亡霊」ちょっと貸してくれないかなって」
「あ、ああ、うん。良いよ」
「失礼するわね」
気づかれたのかと思って私はヒヤヒヤしていたが、どうやら私の思い込みだったみたいだ。私はほっと安堵のため息を吐いて、さとりが出ていくのを待つ。
「ん、ありがとう姉さん。じゃあ後で」
「うん、お疲れさん」
バタン……とドアを閉めた後、私は今日二回目の溜めていた息が一気に出ていく。
「あ、危なかったぁ……」
あの時に「ちょっと物音がするんだけど」みたいな事言われたら絶対に私は怒られる。そう思った。気持ちを切り替えて、私は「真実の歯車」を手に取り、栞をとって続きから読み始めた。