4面は正直、避けてて楽しいよね
「生きた亡霊」を読み、私はそれを閉じて外を見渡す。書斎から覗ける地底の景色は決していいものではなかった。岩肌が露出し、太陽もなければ空もない。つまらない光景だ。しかし、私はそれが好きだった。姉さんやこいしはそれを好きとは言わない。むしろこの景色は嫌いという。それは違うと思う私は異端なのだろうか。
「………ん?」
なんとなく外を覗いてみた結果、私の視線の先で爆発や弾幕が飛び交っていた。勇儀さんが弾幕ごっこでもしているのだろうか?私は目を凝らして、それをよく見る。
すると勇儀さんは楽しそうに白い歯を見せながら戦っていたが、ボロボロの勇儀さんを見て、私は気づいた。あの勇儀さんが押されていると。私はそれに釘付けになり、両手を窓につけて、その戦いの終わりを見届けようと思った。
しかし、その数分後、小さな爆発が起こった。それから、勇儀さんは姿を見せなかった。
「ゆ、勇儀さんが………まけ……た?」
そこに現れた人影は紅白の衣装を身にまとった少女だった。あんなにひ弱な女の子に勇儀さんが負けるとは到底考えられなかったその最中、書斎の前の廊下がやけに騒がしかった。
ドタドタと誰かが全力で走る音が聞こえたと思ったら、勢いよく扉を開けられた。
「さ、さとり!」
そこに現れたのは、銀色のロング、黒いセーラー服をまとった兎の少女、瑞乃がいた。その顔は慌てていて、冷や汗もかいていた。
「どうしたの瑞乃。そんな凄い形相で」
「そ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないわよ!」
「え?」
私は瑞乃が何を言っているのか全くと言っていいほど理解出来ず、その場で呆然としていた。
「お、怨霊!いっぱい地上に出てるよ!?」
「え?そうなの?」
「そう!だからしんり呼んで!」
「わ、わかった」
そう言うと、私は書斎を出て姉さんを探す。恐らく、自室で本を読んでいることだろう。私が廊下を歩くと、鈴仙さんが息を切らしながら、歩いてきた。
「み、瑞乃……足速い……」
「あ、鈴仙さん」
「あ、さとりさん。知ってますか?今の地上」
「はぁ……具体的には聞いていないですけど……」
「怨霊がたくさん出て、地上を蔓延っています。今、博麗の巫女がここに来ているのでは?」
「あっ」
恐らく、勇儀さんを倒したのが、その博麗の巫女なのだろう。私は冷や汗をダラダラと流しながら、全力で姉さんのいる自室へと走る。今は呑気に「真実の歯車」を読んでいることだろう。
「ここから遠いから嫌なんだよなぁ……」
走りながらも、私は深いため息をつく。私自身、こんなこと知らなかったし、興味もないが、博麗の巫女に退治されるのは真っ平御免だ。黒幕として考えられるのは、姉さんとお空かな、こいしはこんなことに興味は無さそうだし。お燐は真面目だからこれをやるとは思えないしね。
そう言って、私は玄関の前を通ろうとした時に、バタ……とドアが開く音がした。木材独特の音がホールに響く。
「……」
私は出来るだけバレないように息を潜める。確実に博麗の巫女だろう。少し顔を覗いてみると、少しイライラが見えた。心が少し見にくいのはあるが、外見から伺えた。
「………出てきなさい」
「……」
一瞬でバレてしまった。私はため息をついて、博麗の巫女の眼前に姿を現す。そしてサードアイを開かせる。
「いらっしゃい、ようこそ地霊殿へ」
「観光に来たわけじゃないわ。怨霊を止めに来たの、早く止めてよ」
「………またペット達が何かしたのね。ごめんなさい。私ではどうにも出来ないわ」
「……どうしてよ。見た感じ、あなたがここの主でしょ?」
「いいえ、私は主の妹よ」
そこで私は心を読む。その心の中は自分の欲望と賽銭でいっぱいでこの異変を本気で止めたいとは思っておらず、どちらかと言うと、この後の温泉が楽しみなんだとか。いいことをしたような悪いことをしたような………なんとも言えない感覚になる。
「温泉………入りたいみたいね」
「……っ?」
「心が丸見えよ。博麗の巫女さん」
「……なるほど、地上に妖怪がいるんだとか、その陰陽玉に……」
「あなた……何者……」
「おっと、紹介が遅れましたね」
私はスカートの裾をつまんで、淑女の見本となる挨拶をして見せた。実際一度もやった事がないので、少しだけ恥とぎこちなさがあった。
「私の名は古明地さとり。地霊殿の主、古明地しんりの妹です」
「……っ!」
博麗の巫女は息を飲んだ。なるほど、博麗の巫女の間ではずっと古明地姉妹の名は語り継がれていた見たいね。そりゃ驚くのも納得ね
「別にあなたを殺そうとも思いません。今の人々が優しいことは知っていますから」
「じゃあ何で、こんな異変起こしたの?」
「さっきも言ったでしょう。私も知ったのはついさっきです。この仕業はペット達でしょう」
「じゃあそこまで案内してよ」
私はその言葉を聞いた後、口元が綻ぶ。そして博麗の巫女の目の前まで移動し、立ちはだかる。
「いくら悪さしても、私の大切なペットですしね。ある程度の抵抗はします」
「そう………なら退治するまでよ」
お祓い棒を構えた博麗の巫女は札を大量に取り出した。久しぶりの弾幕勝負に私は心を踊らせていた。
「真実の歯車」を読んでいた私は途中、大きな物音がしたので、本を閉じて外に出た。そろそろ博麗の巫女がここに来る頃かな。廊下に出て、あたりを見渡す。
「しぃーんーりぃー!」
「み、瑞乃?」
瑞乃の顔が凄く怒っていた。しかしそれは本気の怒りではないようだが、慌ててはいた。
「あの異変は何!?」
「え、あぁ、お空が核融合を手に入れてね。なんかいつの間にか間欠泉から温泉が吹き出てて、結局地上に届いたの」
「じゃああの怨霊は?」
「知らない。地底の奥深くから来たんでしょ?」
「んな適当でいいのかしら……」
瑞乃は額に手を置き、ため息をつきながら私の部屋を見渡す。
「久しぶりに地底に来たな……しんりの誕生日パーティー以来かな?」
「んー、そうだね。久しぶりでしょ?なんか新鮮」
「でも、その久しぶりに来た理由が異変の事って……」
「で、どーして来たの?永遠亭には地底がないから、迷惑はかかってないでしょ?」
「永琳様が患者さんが殺到してるから。だって」
「患者?」
「なんか怨霊にビビって逃げて怪我した人が多いんだとか…………」
「な、なんか申し訳ないな……」
「という訳だから、今すぐやめて欲しいんだって」
「って言っても、黒幕お空だから、私じゃどうにも出来ない。今、博麗の巫女が退治してくれるでしょ」
私は肩を竦めて、瑞乃に呆れた顔で言った。本当に私じゃどうしようもない。このまま時間に任せるのも悪くない。私は回転する椅子をくるりと回して背伸びをする。
「さーてっ!私も博麗の巫女を迎える準備をしよっかなっ!」
「あら、あなたも戦うの?」
「まぁね、一応地霊殿の主だから」
「そ、私は別にいいわ。頑張って」
瑞乃は素っ気なさそうに言っていたが最期の応援の言葉には心がこもっていた気がした。私はそれに応えるように首肯した後、部屋を後にした。私は廊下を歩く度に少しだけ体が軽くなっていった。