いずれか「東方想幻華」の方も追って投稿します。
末妹の誕生
「あ、姉さん。今日はごみ捨て。よろしく」
「え?あれ?今日はさとりじゃないの?」
「何言ってるのよ、昨日は私。今日も私がやらなきゃいけないの?」
「あ、いや、それならいいんだけど……」
「しっかりしてよね。もうすぐ新しい妹が生まれるんだから、少しでもお母さんの負担を和らげないと」
そう、もうすぐ妹が生まれる。
地上からここに来るまで、一体何年経ったのだろうか……
人間からは忌み嫌われ、人をコントロールできる私とさとりの心を読む能力だけで距離を置かれていった。
それにより、お母さんにはたくさんの迷惑をかけた。
心を読む能力はお母さん譲りなのだが、さとりはそれを無意識に行ってしまうため、制御は出来なかった。
私は人の様子を見て、気を狂わせたり、気を良くしたり悪くしたりなど、人の調子を自由に操れることが出来る。
不気味なものでしょ?ただそれだけで鬼に頼んで地底まで来たんだから。私の名は古明地 しんり。黒髪のロングに白色のフリルスカート。白いサードアイを身につけている。
サードアイの使い方はさとりのとはまた別のもので、心を読むのではなく、コントロールをする。
つまり、簡単に言えば『人間コントローラー』だ。
なかなか便利なものだ。
「よっこらせ……」
重いゴミ袋を持ち、地霊殿を出て右手のごみ捨て場に放り投げる。力持ち、という訳でないが身長はさとりよりも少し高め、大体140センチくらい。まぁ、勇儀さんに比べればかなり低いけど。
「さとりぃー……」
「どーしたのよ?」
さとりのサードアイがゆっくり開く。
「あぁ……今日の晩御飯ね……どうしようかしら」
「永遠亭まで行ってお母さんに作ってもらう?」
「何言ってるの…………」
「冗談だよ」
「冗談に聞こえないわ」
さとりの心を読む程度の能力。私の調子を操る程度の能力果たして妹はどんな能力で生まれてくるんだろうか。まぁ、可愛い子だったらなんでもいい。お母さんの名は古明地 りんね。お父さんの名前は知らない。私が産まれる前に死んじゃったらしいから。
しかし、現在お母さんは新しい妹を迎えるため、永遠亭の方でお休みしている。
だから今現在、地霊殿の中は私とさとりのみ。
『地霊殿』とか大層な名前だが、一軒家の大きい方。人間でいう『豪邸』ってやつほどだ。館と呼べるほど大きくない。
「じゃあ、私が作るよ。さとりは待ってて」
「え、姉さん料理の経験は?」
「んー、一度だけお母さんに教わった」
「何を?」
「ゆで卵」
「妹ながら恥ずかしいわ」
「なっ?!ゆで卵をバカにするな!」
「はいはい、まぁ、私も料理の経験はないし、お願いするわ」
どうして姉の私より、妹のさとりの方が権力があるのだろうか………確かに私は少し抜けているところが多い、それに対しさとりは言葉遣いも丁寧で、誰にでも優しい。私とは正反対だ。まぁ、実際私はさとりに頭が上がらないけど………
「じゃあ、ナポリタンでも作ってくるよ」
「最低でも食べれるものをお願いね?」
「分かってるよ!」
まったく………私はブツブツいいながら書斎から消える。しかし、廊下に出た瞬間、1人の兎が走ってきた。
「え、えっとー、あっ、鈴仙さん!どうしました?」
「お二人共、すぐに永遠亭に来てください!もうすぐ生まれます!」
その言葉に、私は一瞬目を見開く。
「な、何ですって?!」
書斎からさとりがものすごい形相で鈴仙さんを見る。鈴仙さんは少し後ずさりながら答える。
「え、ええ!急いでください!」
「さとり、行こう!」
「ええ!」
飛んで約15分。迷いの竹林内の永遠亭に来ていた。そこにはベッドに横たわって苦しい顔をしている私とさとりの母、古明地 りんねがいた。
「か、母さん!!」
「ふ……2人とも…………………も、うすぐ…新しい娘が生まれるから…………待っててね…」
その苦しそうな顔を見て、私の不安は募るばかり。
即座に右手を握って、応援する。
「うん、頑張って、お母さん!」
さとりは左手をそっと握る。
「じゃあ、行くわよ、りんねさん」
八意永琳さんがお母さんの腹に手を添える。
しかし、すぐに顔が青ざめていく。
「鈴仙!少しやばいわ…………」
「母体の方に少しだけ異常が…………このままでは危険です!」
「?!まずいわ、母体の方の心拍が少ない!」
少しずつ慌てる永琳さんと鈴仙さん。
それを見た私達は少しずつパニックに陥っていった。
「ち、ちょっと、永琳!大丈夫なの?!」
「これは………もう賭けよ。子供は無事、母体が助かるかどうかは分からない…………それでもいい?りんね」
それは、大人のお母さんでも重く苦しい選択だった。自分が助かる可能性が極めて低いが子供は無事。自分は助かるが、子供の生まれる確率が極めて低くなる。
「………分かったわ。そっちに賭ける」
お母さんの覚悟に、私とさとりは従うしかなかった。そのお母さんの答えに、永琳さんはふっと微笑んで、こう放った。
「あなたの覚悟、しかと受け止めたわ。じゃあ、頑張りなさい!」
そこからはもうまるで戦場のようだった。その3時間後。
「りんね!最後よ!せーの!」
永琳さんの掛け声とともに、お母さんは力を入れる。すると下の方から1人の産声が聞こえた。
「う、生まれた…………」
「や、やったー!」
「良かった……」
両手をあげて喜ぶ私と、胸に手を当ててほっとするさとり。どうやら、お母さんは賭けに勝ったようだ。
「良かったわね……しんり、さとり。末妹よ………名前は……そうね………」
息を切らしながら、お母さんは考える。
「あなた達が恋焦がれていたから…………『こいし』…………古明地 こいし……どう?」
こいし………こいし………私はこの子の名前、『こいし』という単語を反芻させる。
いい……名前だ。
「か、可愛い………私はそれがいい!」
「私も、よろしくね。こいし」
「ふふっ、あなたもいいお姉ちゃん2人を持ってよかったわね………」
お母さんはこいしの頬にキスをする。しかし、その刹那、お母さんの体重は真下に落ちる。
「お、お母さん?!」
落ちそうになるこいしを抱っこする。まだまだ産声が響いていた。そんな中、お母さんが過呼吸になり、苦しんでいた。
「り、りんね?!鈴仙、血液パック!血液が足りないわ!急いで!!」
「はい!」
「ど、どうなったの?お母さん……?」
私達姉妹は何がなんだが全くわからず、そのまま呆然と立ち尽くしていた。
「鈴仙!電気ショック!」
「はい!」
ピュイイイイインという音を立てながらお母さんの胸を刺激していた。
「お、お母さん!しっかりして!」
ようやく状況を理解した私はお母さんの傍により、手を握る。
その反対側をさとりがまた握る。
「お母さん!!」
「ヒュー…………ヒュー……………………………………………」
ピーーーーーーという同じ音がずっと続く。その瞬間、永琳の顔は暗くなり、こう放った。
「もう…………………だめよ……」
その言葉、今の私にはトラウマでしかない。この時を持って、私たちの母、古明地 りんねは息を引き取った。その状況に私は目を見開き、目尻から大量の涙が溢れる。
「おかあ…………さん?……目を覚ましてよ…………」
私らお母さんの頬に触れ、返事を求めた。きっといつものお母さんのイタズラだ。いつもこうやって私たちをひやひやさせる。本当にいい性格してるよね………
「お母さん!!目を開けて!」
さとりが叫ぶ。
しかし、お母さんは体すらも反応を示さない。
「おかぁさぁぁぁぁぁん!!」
私達は『お母さん、お母さん』と、数時間そこで泣き続けていた。
それから3日後。こいしが永遠亭から退院し、地霊殿に帰ってきた。親のいない、この地霊殿はいつもより広く感じた。
「さとり、今日の晩御飯、どうする?」
「そうね………私はこいしのミルクを買ってくるから、夕飯お願いしていい?姉さん」
「オーケー、分かった」
そう言ってさとりは地霊殿を後にした。こいしが何かを言っている。
「ん?どーしたの?こいし?」
まだ言葉になっていないその声はとても愛らしく、いつまでも見ていられるようだった。
「ふふっ、可愛いね…」
こいしを抱っこし、ギュッと抱きしめる。それに応じてくれたのか、こいしは口元が緩み、へにゃっと笑った。
ここから、私たち覚り妖怪三姉妹の地霊殿生活が始まった。