ハートだよ!覚り三姉妹!   作:かくてる

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こいしと零羽

「………遅いね、しんりねぇ」

「そうね…」

 

 私とレミリアは永遠亭でしんりねぇの帰りを待っていた。

 数時間前に「一度地霊殿に戻る」と言ってここを出た後、帰ってこない。

 しんりねぇの事だから、襲われたということは有り得ないが、ここまで遅いとどうしてもそれも視野に入れてしまう。

 

「……瑞乃のお墓も作ってあげないとね」

「…恐らく、あいつらは人も殺しているわね」

 

 レミリアの予想は何となく予想ができた。人里からは聞きたくもない断末魔のような人々の悲鳴がこだましていたのだから。

 

「…ねぇ、フランちゃんとさとりねぇは?」

「……分からない。恐らく、異変には気づいているだろうけど、どこにいるのかしら…」

「……レミリア、こいし」

「っ!?」

 

 私たちが永遠亭の入口で立っていると、永遠亭内部から現れたのは、赤と青のナース服。八意永琳がいた。

 脇腹を抑え、苦しそうにしている。するとその脇腹からじわりと血が滲んでいた。

 

「ちょ、永琳!まだ休んでなさい!」

「…2人とも、この異変の黒幕は「本来」のステナミアじゃない」

 

 永琳が掠れた声でそう放った。

 

「え、どういう事よ?」

「分かる。私たちが襲われたセリカナ・クレセ・ステナミア。彼女は月面戦争滅んだステナミア連合軍の司令長官の娘」

「……じゃあ彼女が最高司令官というのは…?」

「デタラメよ」

 

 永琳は即答だった。

 

「セリカナに襲われた時、何故か久々に感じた妖力があったの」

「久々に?」

 

 永琳はここできつくなったのか、壁に寄りかかって、ズリズリと腰を降ろしていった。

 

「ええ、それこそ、「私が月にいた時に感じた怨霊の妖力」ってところかしらね」

「つまり……あいつらは……月の怨霊が…セリカナちゃん達に憑いたってこと?」

「……そういうこと。恐らく、黒幕は…………」

 

 その瞬間、近くで大きな爆発音が響いた。そして、聞いたことのない艶のある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ?まだ生きていたのね?八意永琳」

 

 

 

 

 

 

 バッと後ろを向くと、そこに居たのは銀髪の女性。

 大それた美貌を持つ彼女は不敵に笑っており、悪寒が走るほど。

 

「あなたは……」

「………零羽……」

「覚えていてくれたの?まさか月の頭脳とも呼ばれたあなたに覚えてもらっていて光栄だわぁ」

「……彼女よ」

「え?」

 

 永琳の顔は今までにないくらい、苦しそうにしていた。

 

「この異変の張本人、怨霊を取り仕切る長、零羽紗姫」

「……どぉもぉ、零羽でーすっ」

 

 陽気な性格とは裏腹に、とんでもない殺気を放っているため、気を緩めることは出来なかった。

 私とレミリアは拳を作り、浮遊している零羽を睨みつける。

 

「あなたはどうして、幻想郷を攻撃したの?」

「……2人は知らないと思うけど、私達はね、以前の月面戦争で中立側に入っていたの」

 

 先程までの雰囲気とは違い、トーンが落ち着き、冷ややかになっている。

 

「それなのに、私達は月側の勢力に攻撃されて、月側が私たちを中立だと認識する頃には遅かった」

「……」

「それで、その時の襲撃してきた月の第二軍隊。それを仕切っていたのが……」

 

 零羽は一呼吸置いて、私たちをしっかりと見据えながら、その一言を強く放った。

 

「最強の精鋭の玉兎部隊、「霊兎(れいと)種族」の長、今では雅 瑞乃と呼ばれているらしいわね」

「っ!?」

 

 私とレミリアは目を見張った。

 あの優しい彼女が月の主力部隊の長というとんでもない階級だからだ。

 

「あら、分からなかったの?考えて見なさい、どうしてそんな主力が地上にいたのか」

 

 言われてみればそうだ。

 瑞乃は兎姿のまま、私に拾われたんだ。地底の町並みにちょこんと座っていたので、不思議に思わなかった。

 

「それは、彼女の間違えた判断で月のトップに泥を塗った。公平であることが優先の月面戦争で、中立を攻撃しては、掟を破ることと同じですもの。追放令でも軽いほうだわ」

「……それが……瑞乃の罪…」

「そう、だから、おしゃべりはおしまい」

 

 零羽の目つきが一気に変わり、不敵に笑った。

 その顔は私の背筋を凍らせるほどの恐ろしい笑みと同時に深い闇を持ったオーラが私を包んだ。

 

「君たちも、殺してあげるよ…」

 

 やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 これは直感が逃げろと、警告を出していた。

 ここまでの恐怖を感じたことは生きてきて感じることがなかった。

 

「レミリア……逃げよう」

「何言ってるの?ここで逃げたら被害が……」

「私たちじゃ一秒ももたないよ!」

 

 声を張り上げて叫ぶ。

 レミリアは私は焦りと絶望に満ちた顔を見たのか、下唇を噛んでいた。

 

「あら、こいしちゃんせいかーい、私は誰にも止められない。だって…最強の妖怪と呼ばれる、古明地しんりを殺したのだから」

 

 私は一瞬、世界が止まった。

 

「は?」

「聞こえなかった?あなたの姉、しんりは私の手で殺したの」

「……」

 

 終わった。

 この戦いは完全に、そして、私たちの生活も終わった。

 私は両膝を地面に落とし、零羽を見上げる。

 

「…どうして……」

「敵だから」

 

 零羽は表情一つ変えずに、淡々と続けた。

 

「しんりはね、怨霊の中でも最重要人物として挙げられていたの、その割には、なんだか弱かったけどね。どうしてあいつはは、あんな弱っちい覚り妖怪を選んだんだろうね」

「……いや、やめて……」

「いーや、やめないよ?あなたの姉は弱かった。所詮、母親も救えない、あなた達妹すらも助けられなかった、ただの雑魚、あなたは…………」

 

 ザシュッと零羽を貫く音が聞こえた。

 頭を抱えて耳を塞いでいた私はそれを離して零羽を見る。すると真紅の槍が零羽の腹を貫通していた。

 

「口を慎め、怨霊風情が」

 

 レミリアだった。

 その顔は怒り、ただそれだけしか含まれていなかった。

 光のないレミリアの目は味方の私でさえ、恐れるほどの怒気をはらんでいた。

 

「あら、吸血鬼さん、あなたも最強のひとりよね?もういっそここでみんな殺すわ」

「こいし、鈴仙と永琳を連れて逃げなさい」

「嫌」

「………はぁ、永琳、起きれるなら、逃げてちょうだい」

「わ、分かったわ、死なないでよ」

「……」

 

 永琳は足を引きずりながらも、素早く逃げた。

 私はもう涙は乾いていた。

 立ち上がり、レミリアの隣に立つ。

 そして、こう叫ぶ。

 

「殺してやる」

「おー、可愛い顔が台無しだよー?」

 

 煽る零羽に向けて、私はスペルカードを放つ。

 

「「サブタレイニアンローズ」」

 

 回転し続ける弾幕を零羽に向けて出し続けるが、零羽はそれを剣一振りでそれを薙ぎ払う。

 その反動が、私とレミリアに届き、数メートル吹っ飛ぶ。

 吐血をしながらもすぐに立ち上がる。

 

「紅魔「スカーレットシュート」!」

「抑制「スーパーエゴ」!」

「あ〜、無駄無駄、しんりよりも数倍弱い。もういいわ」

 

 零羽は全ての弾幕を避けた後、空を蹴って目にも留まらぬ速さでこちらへと向かってきていた。

 零羽の剣先は私の心臓へと向かっていたが、私は足がすくんで動かせなかった。

 

「(やばい……死ぬ……しんりねぇ……)」

 

 目を瞑る。

 とうとう死を覚悟した私は力を抜いて、なるべく苦しまないようにした。

 しかし、それを叶わなかった。

 

 私の目の前でレミリアが真紅の血を流していた。

 背中からは突き出るように零羽の剣が飛びてていた。

 

「レミ……リア…」

「がぁっ……はぁ……」

「あら、身を呈して助けるなんて、いい友情だこと」

 

 零羽はかき混ぜるように剣を動かす。

 レミリアの中から零羽の剣に何かが移っていき、レミリアから妖力が感じられなくなった。

 

「はい、お疲れー」

 

 零羽はゆっくりと剣を抜く。

 レミリアは人形のように、倒れ込んだ。

 

「レミリアっ!!」

「こい……し……逃げて……」

「いや……死なないで……」

「私は……死なない……」

 

 私の裾をつかみ、震えていた。

 止血をしようとするが、その前に、レミリアはかくんと力が抜けた。

 

「あらあら、レミリアちゃん、死んじゃったかなぁ?」

「ぅ………やめて……よ」

「んー?」

 

 零羽はわざとらしく私に耳を傾ける。

 私は泣き叫ぶ断末魔のように大口を開けて、涙を流しながらも必死に叫んだ。

 

「これ以上!私の大切な人を殺さないでよぉ!!」

「………古明地こいし……愚かな人ね…………興ざめよ」

 

 零羽はへたり込む私の前に立ち、見下すように冷めた声で語りかけた。

 私は今度こそ、ここで死のうと、そう思った。

 このままだと、さとりねぇもフランちゃんも殺されるけど、どうせ私じゃ止められない。

 幻想郷はもう終わりだ。

 

「はい、古明地こいし死亡ー」

 

 振り上げられた大剣が私めがけて落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イタ……零羽紗姫………コロシテアゲルヨ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 その聞きなれた声、私は声の主を探していた。

 しかし、いくら辺りを見渡しても、私と零羽以外の姿が見えなかった。

 

「ど、どこだ!」

 

 どうやら、零羽も混乱しているようで、息が荒くなっていることがわかる。

 しかし、一瞬で"零羽も姿を消した"。

 その数秒後、遅れてくるように強力な衝撃波と強風が吹き始めた。

 零羽はその先で気に叩きつけられていた。

 

「……アハ、ヨワイジャン……」

 

 先程まで零羽がいた場所には、黒色の綺麗な長髪、白色の服と白色……のはずなのに、黒くて雷電を纏ったサードアイ。

 

「コイシ……ワタシガマモルヨ……」

 

 そこにいたのは、変わり果てた私の最愛の姉、古明地しんりだった。

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