ハートだよ!覚り三姉妹!   作:かくてる

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決断したその先は

「はぁ……はぁ……」

 

 決着は一向につかなかった。というのも、霊夢の一方的な攻撃をただただしんりは弾き返しているだけだ。しんりも攻撃を仕掛けるが、霊夢は自慢の俊敏性を活かして全てを避けていた。

 

「……すばしっこいなぁ……楽に殺してあげるから諦めなよ……」

「嫌よ。まだ跡取りもいないもの」

「博麗の巫女は霊夢で終わりにしよぉよ」

 

 互いに息を切らしながらも、攻撃を繰り出していく。しんりの方はまだ狂気に支配されたまま、自我と理性と狂気が混ざりあって狂い始めている。

 

「霊符「夢想封印」」

 

 もちろん、スペルカードには殺傷能力は存在しない。本気で殺しに来ているしんりには遊びにしかならない。

 それに比べ、霊夢には殺す意思が無い。しんりの本気の攻撃に霊夢は全力で避けるだけだった。

 

「なかなかキッついわね……」

 

 しんりもスペルカードを使っているが、どれも初見だった。

 

「挟殺「スパムカッター」」

 

 魔法陣が霊夢を囲い、そこから飛び出してきた腕が霊夢の首を捕える。そして、しんりが両手を握った瞬間、それに呼応するように霊夢の首が締まる。

 

「あっ……がっ…………」

「ほら! 早く!」

 

 早く、死ね。この世界には、何もいらない。今までの友達も、家族も。力さえ存在していれば、私は満足だ。

 

「……はぁ!」

 

 霊夢は負けじと札を投げる。だがその攻撃はしんりにとってお遊びでしか無かった。しんりは防御障壁を展開する。

 

「っ、あぁ!」

 

 そうして、障壁で跳ね返ってきた札が霊夢に直撃する。弾幕とはいえ、少し魔力を込めた弾幕なので、殺傷力がある。その札が人間である霊夢に当たったのだ。ひとたまりもない。

 

「あーあ、終わり? 博麗の巫女が聞いて呆れるよ」

「あっ……がっ…………」

 

 霊夢は地に這いつくばって、痛みにこらえる。しばらくすると、吐き気を催すようになった。

 

「っ!? がはっ……」

「あらら、吐血しちゃった」

 

 吐瀉物かと思いきや、思い切り血液だった。経験すらない激痛と吐血。霊夢が混乱するには十分すぎる材料だった。

 

「うそ…………こんな所で……私……」

「はいはい、さようなら」

 

 魔法陣から一つの槍が飛び出す。その技は誰にも見せたことのない、もしかしたら「表」のしんりですら認知していない即殺の技だった。

 

「極殺「イグニッション・スピア」」

 

 しんりが腕を上げる。狂気に染められたしんりは霊夢という友人を殺すことさえも躊躇がなかった。

 

「じゃあね、霊夢。色々ありがとう」

「っ!」

 

 そうして、腕を振り下ろし、魔法陣から槍が出かけるところで、しんりは動きを止めた。

 そして、苦しそうに、心臓を抑えながらもがくしんりの姿が霊夢の目に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「あっ……あがっ…………ぐぅ……ぎぃあぁ……」

「? …………な、何よ……」

 

 苦しみ悶えるしんりの口から声が発せられる。

 

「れ、霊夢!」

「っ!?」

「今のうちに…………あた、しを…………ころ、して……」

「え……し、しんり?!」

 

 そう、今出てきたのは「表」のしんり。いつものように笑って、元気な古明地姉妹の長女。

 

「はや、く……」

「…………」

「くそっ、今更……になって…………出て……来ないで……よ! 雑魚のくせ……に!」

 

 今、しんりの心の中で大きな綱引きがされているんだろう。しんりという人格と、何故か心に存在していた「裏」のしんり。

 

「はや、く……れい、む…………ぐぁ…………あ、あぁあああああああぁあ!!??」

「…………っ!」

 

 しんりは暴走状態になっていた。自分の技で自分を傷つけ、今では霊夢よりも流血していて、見ていられない。腹はえぐれ、少し内蔵が見えている。片目を潰し、その目玉を握る。

 いつものしんりからは想像なんて出来ないくらい、狂気もなっていた。

 博麗の巫女が妖怪とはいえ、殺人をする。先代の巫女でさえ行ってこなかった最悪の所業。

 霊夢は今、最大の葛藤に侵されていた。幻想郷を守るために友達を殺すか、友達を守るために幻想郷を見捨てるか。

 そんなの、霊夢にとっては辛すぎる選択だったが、今まで築き上げてきた博麗としての意志を持つしかなかった。

 

「ごめんね、しんり。色々迷惑かけたわね」

 

 一枚のスペルカードを取り出す。きっと、今くらいしんりが弱っているのならば、きっと殺せる。

 

「夢想天生」

 

 霊夢の周りに数個ほどの陰陽玉が現れ、それは霊夢の周りで円を描くように回っていた。

 

「さよなら、しんり」

「……あ、ぐっ…………あ、……ありが…………と……」

 

 最後にお礼を言われた霊夢は一瞬だけ躊躇った。もしかしたら、まだしんりを救う方法が残っているんじゃないか、殺さなくてもいいんじゃないか。そう思わずにはいられなかった。

 しかし、しんりの決心も決まっている。そして、それは同じく私も。

 

 

 

 

 

 そして、陰陽玉から吐き出されるように出現した無数の札。そして、それは一直線に霊夢の目の前のしんり目掛けて飛んでいく。そして、しんりに着弾する。

 グチャッ、ズブ……生々しい音と共に、煙の中でもわかるほどの血が流れていた。

 そうして10秒ほどの夢想天生を終えた後、煙が晴れる。

 

「しん、り……」

 

 そこには、大量の血を流して倒れている黒髪の少女がいた。左腕が千切れ、首も半分切れている。背中を見れば、背骨が丸見えである。うつ伏せになっていて顔は見えないが、凄惨な状態なのはひと目でわかる。

 

「ごめん、しんり。弱くて……ごめん」

 

 霊夢は涙こそ出なかったが、とてつもない罪悪感と友達を失ってしまった喪失感が同時に込み上げてくる。

 

「…………くそっ」

 

 膝をついて、地面を思い切り殴る。どうしてしんりは自分の狂気に打ち勝てなかったのか、そもそも、何故しんりの中に狂気が存在していたのか、どれもこれも謎だった。

 

 

 

 

「え…………れい、む?」

「っ……」

 

 

 

 

 背後から声がする。今この場で一番いてはいけない人物かもしれない。黄色と緑を基調にした服に銀色の長髪。間違いなかった。

 正真正銘、しんりの妹である、古明地こいしがその場にいた。そして、そのこいしの後ろには、レミリアもついてきていた。レミリアに関しては、ところどころ包帯を巻いており、大怪我をしたのだと認識できた。

 

「れ、零羽には……かて、たの?」

「ええ……」

「そ、そっか、そういえば、しんりねぇは無事?」

「…………」

 

 何も言えない。霊夢は下唇を噛んで、握りこぶしを作る。

 

「れ、霊夢。何とか言いなさいよ。しんりはどこなの?」

「…………」

「しんりねぇは……」

 

 こいしは途中で話すのをやめた。彼女の視界に、「あるもの」が入り込んでしまったから。レミリアもそれに気づき、言葉を失っていた。

 

「…………ねぇ、霊夢」

「何かしら」

「零羽は、今どこにいるの?」

「あそこの岩陰で捕らえているわ」

「じゃあ、これは誰?」

 

 恐る恐る、こいしが指を指す。こいしの目にはもう光がなかった。

 そして、霊夢はしんりに心の中で謝礼を述べてから、実の妹に真実を告げた。

 

「…………しんりよ」

「……は?」

 

 静寂が訪れる。こいしもレミリアも、ただただ硬直していた。

 

「え、嘘……だよね。これが……しんりねぇ? は、はははっ、笑わせないでよ霊夢」

「…………事実よ」

「……嫌…………しんりねぇ……なん、で………ぃゃ……いやああああああああぁぁぁ!!」

 

 とうとう、状況を理解したのか、こいしは大粒の涙を流し、泣き叫ぶ。

 

 そう、古明地しんりは死んだのだ。裏表関係なく、しんりそのものが、この世から消えたのだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! しんりねぇ! 置いてかないでよ!! ねぇ、生きてるんでしょ!? 起きてよ!!」

「こいし……」

 

 レミリアの顔は酷く歪んでいた。涙をこらえているその顔が、霊夢の目に酷く焼き付いた。

 

「霊夢…………」

「…………なに」

「誰が殺したの……」

 

 こいしが睨みつけるように霊夢に問う。怒りを堪えているのがわかる。いつも笑っているはずのこいしがこんなにも酷く怒ることがあったとは知らなかった。

 ここではぐらかしてもしょうがない。きっと、こいしでも受け止めるには時間がかかるかもしれないが、この事実だけはどうしようもなかった。

 

「私よ」

「っ!?」

「こいしっ!?」

 

 霊夢が殺したのだと分かった瞬間、こいしは霊夢に弾幕を放とうとした。しかし、それはレミリアがこいしの腕を掴んで制止する形で止められた。

 しかし、こいしの怒りはそのままで、口頭で矛先を向けていた。

 

「殺すッ! 絶対に! お前だけは絶対に殺すッ! 博麗霊夢!!」

「こいし、落ち着きなさい!」

 

 レミリアが必死に宥めようとしているが、こいしは一切それに答えようとはしなかった。

 どうやら、レミリアはどうして私がしんりを手にかけたのか、理解出来たらしい。

 

「…………今説明しても無駄よね」

 

 そう言って、霊夢はこいしに近寄る。歯を食いしてばって霊夢を睨みつけているこいしの頬に触れる。

 

「少し、眠っててもらうわよ」

 

 こいしの魔力を抜き取る。体が一気に重くなったこいしは気を失って倒れてしまった。

 こいしを横に倒して、レミリアは自分の帽子を枕にして、上着を布団代わりにした。

 

「……分かってる。仕方ないって言うのは」

「レミリアは……冷静で助かるわ……」

「冷静ってわけじゃない…………」

 

 レミリアは霊夢の顔を見た時から、望んでしんりを殺した訳でもないことは分かっていた。悲しさを通り越して、抜け殻のような目をしていた。

 

「……霊夢。助けに行けなくてごめんなさい」

 

 ただ、レミリアはそれだけしか言えなかった。もっと早く私が応援に来ていれば、零羽なんかに遅れを取らなければ、しんりは助かったのかもしれない。そう考えると、後悔が波のように襲ってくる。

 

「いいわ、きっと、しんりは最初からこのつもりだったのかもしれないしね……」

「霊夢……」

 

 霊夢は上を見上げる。下を向くと、涙が零れてしまいそうだから。しかし、それは上を向いても同じだった。目の横を通り過ぎて、霊夢の涙は地面に落ちた。

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