ハートだよ!覚り三姉妹!   作:かくてる

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帰ってきた玉兎

「ええと……じゃあつまり、敵の戦力は残り三人?」

 

 永遠亭に全員が集まる。

 お燐、お空、霊夢、レミリア、鈴仙、永琳、そして私。

 

「ええ、一気に削れたわね」

 

 輝夜やてゐはというと、妹紅達と一緒に人里へ支援へ向かったそうだ。普段ニートだからとはいえ、さすがは蓬莱人といったところだろうか。行動力は凄まじいと感じた。

 

「零羽と永琳はここに残りなさい。けが人の治療に専念すべきよ」

「了解したわ」

「相手が3人なら、ペアで1人を相手取りましょう。そうね……」

 

 霊夢はそう言って顎に手を当てる。3人とはいえ、零羽よりも力がある3人だ。実力は計り知れない。

 

「私とお空、鈴仙とレミリア、こいしとお燐。どうかしら?」

 

 全員がその意見に納得……と思ったところでレミリアが右手を上げた。

 

「このペアの根拠は?」

「相手がどんな奴らなのか情報不足な以上、遠近で攻撃ができるペアにしてみた」

「なるほど、分かったわ」

 

 顔も見た事がない敵にどうこう作戦を立てられるわけじゃないのだ。

 幻想郷指折りの実力者が揃っても、恐らく拮抗した戦いになるのは確実だ。

 

「零羽、あなたは永琳と共に敵の情報を集めなさい」

「……は? 私、いつあなた達の仲間になったの?」

 

 零羽は銀色のロングヘアを揺らしながら霊夢を睨みつける。霊力は存在しなくとも、十分な圧力が私たちにかかる。

 しかし、それは霊夢も同じだった。

 

「いいわ、協力しないというのなら今ここで殺してあげる」

「っ!」

「私は生き物を殺すのに抵抗があるからね。永琳、少しでも怪しい動きをしたら息の根を止めて」

「ええ」

 

 八意永琳。幻想郷の医者でありつつ、誰も逆らうことの出来ない最強の存在でもあるのだ。

 かつて、蓬莱の薬の研究材料を盗もうとした人間がいた。しかし、そいつらは呆気なく永琳に捕まった。それから、そいつらの行方は今も分からないままだ。

 マッドサイエンティストなんて巷では言われているが、もしかしたらそれ以上に恐ろしい存在なのではないかと思っている。

 

「……わかったわよ。私も死にたくないからね。協力するわよ」

「そう。じゃあ今の作戦で行くわよ」

 

 霊夢の言葉に全員に緊張が走る。

 怖い。これはいつもの弾幕ゲームなんかじゃない。命をかけた戦いだ。もちろん、そんな経験今までなかった。

 それに、しんりねぇが死んでしまった今、戦力も随分と削れてしまった。でもそれは敵側も同じはずだ。

 

「変な作戦は混乱を生むだけだから、私から言いたいのは一つ」

 

 霊夢の黒い目が全員を見据えた。その目には闘志が燃えているような気がした。

 

「全員、無事に帰ってくること。いいわね」

「「「「おー!!」」」」

 

 そうして、私たちは永遠亭を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里に降りると、そこはもう火の海だった。所々に血がこびり付いていて、凄惨な殺人が行われていたことに全員が顔を歪める。

 

「……やけに静かだね」

「相手の戦力は3人だけですしね」

 

 不思議に思った私に鈴仙が応答する。

 しかし、そう思った矢先に背後から冷たい声がした。

 

「……静かなのは誰も動いていないだけですよ?」

「ッ!?」

 

 6人全員がその声の主から距離を取った。白色のショートカット。全身に鎧を纏った女性がそこにはいた。

 

「……誰?」

「自己紹介が遅れました。私、「加賀」と言うものです。以後、お見知り置きを」

 

 私は先程零羽が話していたことを思い出していた。

 幻想郷を自発的に破壊しに来た三人の内の一人、加賀だ。それを認識すると唐突に悪寒が走った。

 

「れ、霊夢。どうするの?」

 

 耐えられなくなった私は霊夢に指示を促す。しかし、先に冷静を取り戻していた霊夢は冷や汗をかきながらレミリアと鈴仙の方を向いた。

 

「レミリア、鈴仙。ここは頼んでもいいかしら」

「ええ」

「任せてください」

 

 まさか、こんな序盤で一人目と当たるのは運がいいのか悪いのか。

 グングニルを取り出したレミリアとスペルカード「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」を発動した鈴仙が前に立った。

 

「あとは頼んだよ。レミリア」

「いつの間にか呼び捨てになってるわね。こいし」

「えへへ……終わったら、一緒にお酒飲もう」

「ええ、高いのを用意させるわ」

 

 そう言って、私達は人里内部へと駆け込んだ。その瞬間から、爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、どこだろうか。

 真っ白な空間、何もかもが少し眩しく感じるほど白々しい。

 そして、私の目の前には真っ黒に染まったモノが現れた。

 

「起きたんですね。××」

「あ、あなた……は」

「名乗る名前はありません。そうですね……」

 

 声がする方にあるのは暗やみに紛れた人の体だった。

 そして、そいつはこう名乗った。

 

「心理。とでも名乗っておきましょうか」

「し、心理?」

「ええ、訳あって今あなたの体に干渉してるんです」

「……ぇ」

 

 心理。

 そう名乗った彼女は手を広げ、堂々と騙り始める。

 

「あなたはここで死んでいい存在ではないはずですよ? 穢れを振り払い、鮮やかで穢れなき幻想郷を作るために月を抜け出したのでは?」

「……そ、そうだけど……」

「望まぬ形で幻想郷へ来てしまったようですが、個人的には結果オーライでしたね」

 

 この人は誰なんだろうか。

 しかし、私はその声に少し懐かしさを感じていた。

 大切な人だった気がする。

 

 家族のように私を愛してくれて、家族のように可愛がってくれた。

 確かに、一緒にいた期間は短くとも、私は確かにその愛を感じていた。

 

「まぁ、貴方のような人が「あんなこと」で死ぬわけないじゃないですか、あそこの演技は大したものです」

「……は、は?」

「まさか、ただ単に出血多量で貧血になって、死んだと思っていたんですか?」

「で、でも、ここは……」

「ここは、私と貴方が干渉し合う世界です。まぁもっとも、こんなことが出来るのは穢れているあなたの身体だけですけどね」

 

 穢れている。

 その言葉に私は目を見開いた。

 

「ああそれと、あなたの体は今快方に向かっていますよ。もうそろそろ、現実世界で目が覚めるのでは無いですか?」

「……死んでないんだ」

「月の民に「死」はありません。そうでしょう?」

「はぁ……」

「「八意永琳の傍付き」として、あなたはこれからも生を歩むんですよ」

「っ……」

 

 彼女がもう、誰なのか分かってきた。

 人の「気」を操って心にまで干渉出来る。

 そんな化け物じみた能力の持ち主で、なおかつ、そこから私の記憶をも抜き出して全てを「悟る」。

 こんな妖怪が私の仲間だなんて心強い。

 

「……私も多分、後から向かいます。今はまだボロボロの死体ですが、いずれ……」

「……ありがとう」

 

 黒いシルエットだけしか見えないのに、どこか微笑んだような気がした。

 そう思う頃には、もう視界が真っ白になっていた。

 まるで水の底から浮かび上がってくるかのような感覚。

 

「また会いましょう。「雅 瑞乃」」

 

 彼女はそう、私の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ……」

 

 意識が戻ると、口の中いっぱいに血の味が広がり、激痛も走った。

 首だけを起こして自分の体を見ると、体は綺麗に裂かれていたみたいで、まだ傷口が完全には塞がっていなかった。

 私は痛みに耐えながらも体を起こして、裸になっている自分の体を

 

「……戻ってきた……」

「……みず……の?」

 

 右手から声がする。

 そこにはカルテを持った八意様が大きく目を見開いて硬直していた。

 瞳孔が震えていた。体が震えていた。

 八意様の目尻に、涙が溜まっている。そして、手に持っていたカルテが力無く落ちる。

 私は、久しぶりに戻ってきた幻想郷の空気をめいっぱい吸い込みながら、親愛なる八意様に笑いかけた。

 

「ただいま戻りました……永琳様」

 

 瞬間、永琳様の体と密着した。

 痛みがなかった訳では無い。何なら、声を上げてしまいたいくらいだ。

 きっと医者としては患者にとんでもないことをしたと、永琳様は後々後悔すると思う。

 ただそれ以上に、永琳様の震える身体に私は驚いた。

 

「……良かった……良かった……」

「永琳様……」

 

 人智を超越し、誰よりも長い年月の生を生きてきた永琳様が自分のために泣いてくれていた。

 そして、永琳様の抱擁から早二分が経っていた。しかし、いつまで経っても永琳様が動くことは無かった。

 

「……」

「あの……永琳様?」

「……なに」

「離していただけると……嬉しいのですが……」

 

 帽子をとって、いつもの三つ編みも解いている永琳様の鮮やかな銀髪からシャンプーのいい匂いがする。

 私の言葉を断るかのようにさらに強く抱きしめる。

 

「……少しくらい……心配させて」

「……はい」

 

 唯一。唯一気になるのは永琳様の大きなふたつの胸が私の胸に押し当てられて、少しだけくすぐったい。

 でも、耳元で聞こえる鼻のすする音がそんな邪な考えを打ち消させてくれる。

 

「……すみませんでした。永琳様、ご心配をお掛けしました」

「ほんとよ。鈴仙も、しんりも。みんなあなたの死を悲しんでたんだから」

「…………そう、ですか」

 

 しんり。

 彼女は一体何者なんだろうか。私の意識の中に直接干渉してきて、なおかつ「月の民」を知り尽くしているかのような言い方だった。

 

「……落ち着きました? 永琳様」

「ええ、取り乱してごめんなさい」

 

 体を離した永琳様は顔を赤く染めながら自分の髪をいじっていた。

 誰よりも大人な永琳様もまだ可愛らしい少女であることに、私は少しだけ微笑する。

 

 

 

 

 しかし、私はすぐに顔を引き締める。

 永遠亭の患者がかなり重傷者が多いところを見ると、まだ戦いは終わっていないのが推測できた。

 

「それで、永琳様。今はどうなっているんですか?」

「……話すけど、少し場所を変えましょう」

 

 今ここには、治療中の重症患者もいれば、私たちの会話を聞いている人間も多くいるはずだ。聞かれてまずい話も無いはずがない。

 

「はい」

 

 永琳様が用意してくれた車椅子に乗って、私は永琳様に押してもらいながら移動した。

 

 

 

 

「あ、あなたは……」

 

 場所を移し、診察室に向かうと、そこには見知らぬ女性がいた。

 色白で永琳様以上に輝いている銀髪が腰まで伸びている。

 肌の色よりももっと白色ワンピースを着て、丸椅子に腰掛けていた。

 

「……はじめまして、零羽沙姫よ。よろしくね、瑞乃」

「……月の霊……ですか」

「あら、分かるのね。あなたが攻撃して、追い込まれた月の霊よ」

 

 皮肉るように零羽という女は私を睨みつけた。

 

「……ごめんなさい」

 

 私はただ謝る敷かなかった。

 あの時、私が犯した罪。それは「中立側の月の霊を攻撃する指示を出した」事だ。

 地上と月の大いなる戦を乱した罪は重く、蓬莱の薬という禁薬に手を出した永琳様や輝夜様同様、追放令を下されたのだ。

 

「あの時に私がやったことは許されないことだってわかってます。あなたが私を殺そうと、それは正しいことだと思っています。どうぞ、あなたが私の処遇をお考え下さい」

「……瑞乃」

 

 永琳様も何も言わなかった。

 これは正しいことなのだ。この罪から逃れることは出来ない。

 私は零羽の前で頭を下げる。そして、私の前でため息をつく零羽がいた。

 

「……別にいいわ。今更何かしようなんて思ってない」

「……そう、ですか」

「そんなことよりも、この異変を止めるために動くんでしょう?」

「…………ありがとうございます」

「ただ、あなたを許すつもりは無い。月の霊はいつまでも玉兎を恨んでいることを忘れないで」

「……はい」

 

 責任逃れすることは出来ないのはわかっている。

 だからこそ、私はここからまた再スタートをきる必要があるのだ。

 

「……じゃあ、これまでの経緯とこれからのこと、話すわね」

 

 永琳様が雰囲気を断ち切り、私の正面に座った。

 そして、私が死んだ後から今までをこと細かく説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘……しんり……が」

「……ええ、零羽との戦闘中、能力に支配されて歯止めが効かなくなったしんりを霊夢がとどめをさしてくれたわ」

「……そうですか」

 

 しんりが死んだ。

 その事に私は動揺を隠せずにいた。

 悲しみよりも戸惑いが勝る。それはなぜなのか、それは「私の精神の中の出来事」が関係している。

 

(……後から向かう……そう言ってた気がする……)

 

 私の記憶が正しければ、"生きている"と思う。

 

「……あの、永琳様」

「何かしら?」

 

 私は永遠亭で目覚める前に感じた自分の精神の中での心理との会話を思い出しながら話す。

 

「……覚妖怪は未知ね」

「……それは私も思いました。零羽さんを凌駕するほどの実力を持ち、なおかつ月の民にも詳しくて……」

「それは私も感じたわ。というかさ」

 

 零羽が横から口を開いた。

 

「古明地しんりって本当に覚妖怪なの?」


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