~ナザリック地下大墳墓 玉座の間~
アインズは玉座に腰を下ろし、眼下に並ぶ僕達に視線を向ける。
それぞれがそれぞれの表情をその顔に映し出しているが、一葉に酷い物だった。特にアルベドとナーベラル、そしてデミウルゴスの三人の表情は、見ているアインズが心配になるほど焦燥しきっていた。
理由は、ビクトーリアを失った喪失感。
良い気持ちを持っていなかった者達も、命を賭してアインズを表舞台に立たせた行動で、自分達の間違いに気付きビクトーリアの事を悲しみ、悔やんでいた。
「皆の者、面を上げるが良い。姿勢も楽にして構わん。まずは、今回の一件について、私から話そう」
アインズは、まず今回の集まりの本題を切り出す。
「最初にゲヘナの草案についてだが。……デミウルゴス、あれはビクトーリアが改ざんした物だな?」
「……」
「デミウルゴス?」
「……」
「デミウルゴス!」
アインズは声のボリュームを上げ、デミウルゴスの名を呼んだ。その事によって、デミウルゴスはやっと自分が呼ばれている事に気付いたのだった。
「はっ、アインズ様、申し訳御座いません」
頭を下げ、謝罪の言葉を口にする
「よい。ゲヘナの改ざん、あれはビクトーリアのした事だな」
アインズの問いに、デミウルゴスは拳を握り悔しさを噛み締めながら口を開く。
「ま、誠に御言葉通りで御座います。私がもっと優秀であれば、ビクトーリア様の心内を理解出来ていれば……アインズ様! どうか、どうか私を罰して頂きたい!」
心からの言葉だった。
デミウルゴスは許せなかったのだ。自分の決断の甘さが。ビクトーリアの裏を読み切れなかった自分自身が。だが、アインズは首を横に振る。
「良い。アレの考える事など、誰にも解りはしない。そもそも、知られる様な行動を起こしていないのだからな。私が聞きたいのは一つ。ゲヘナの改ざんは、ビクトーリアの意思か否かだけだ。どうなのだ、デミウルゴス?」
デミウルゴスは奥歯を噛み締め、質問に答える。
「アインズ様の御言葉通り、ゲヘナは、私の草案をビクトーリア様が修正した物です」
「そうか、解った。皆も聞いたな。今回のビクトーリアの行動は、ビクトーリア自身の物だ。デミウルゴスに罪は無い。したがって、罰も必要無い」
ここで一息着き、アインズは杖で床を突いた。カツンッ! と言う乾いた音を響かせ、僕達の視線を集め
「ここからが本番だ。皆の者、ビクトーリアの復活を願うか?」
究極の二択を迫る。
此の言葉で、皆の瞳に、僅かに生気が戻った気がした。
「アインズ様! 出来るのですか? ビクトーリア様を蘇らせる事が!」
アルベドが問いかけて来る。その姿は、必死であり、何か僅かな可能性に縋ろうとする様にも見えた。後ろではナーベラルが、横ではデミウルゴスがアインズを視界に留めていた。
だが、アインズは冷静に言葉を選びながら口を開く。
「ビクトーリアを蘇らせる。つまりは死者の蘇生。それは、不可能だ」
アインズの言葉に、僕達は絶望を顔に映す。
しかし、それを見つめながらも、アインズは言葉を続ける。
「ビクトーリアの蘇生は不可能だ。だが、復活、と言う手段ならば出来ない事は無い」
「ほんとう、で御座いますか?」
アルベドが再び言葉を紡ぐ。
「本当だ。しかし、それには二つの条件をクリアーしなければならない」
「「二つの、条件?」」
誰とも無く、声が重なる。
「そうだ。一つ目の条件は、すでにクリアーしている。それは、かの神の復活は、ナザリック地下大墳墓でなければならない、と言う事だ」
アインズの言葉に、場は僅かに活気づく。
しかし、第二の条件を提示された時、再び絶望が襲う。
「第二の条件だが。至高の四十人が力を合わせねばならぬ、と言う事だ」
「そ、そんな!」
アルベドが膝を付き項垂れる。その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「無理だ、と決め付けるのか?」
「ど、どう言う意味で御座いましょうか?」
デミウルゴスが冷静に言葉を返す。
その言葉に、アインズは苛立ちを顕にする。
「セバス!」
「はっ!」
アインズの呼びかけに、セバスが腰を折り答える。
「お前は何と言われた! あの時、カルネ村に救援に行く際、ビクトーリアに何と言われたのだ!」
セバスはビクトーリアの言葉を思い出す。
「ナーベラル・ガンマ! お前はどうだ? スケリトルドラゴンと戦った時、あの者はお前を何と呼んだ!」
ナーベラルは覚えている。
あの、温かな言葉を。
「皆もそうだ! お前達は、至高の四十人が手塩に掛けて産み出した者達だ! 親に出来て、子に出来ぬ道理は無い! 思え! 彼の神が、再びこの地に降臨する姿を! 願え! かの神が、この玉座に座する事を! 捧げよ! 彼の神に忠義を! 我らの思いを! 愛を! 彼の神に! ビクトーリアに捧げるのだ!」
声高らかに宣言し、ギルドの印、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げる。
その言葉を聞き、全僕が膝を付き、ビクトーリアに呼びかける。
「ビクトーリア様!」
「ビクトーリア様!」
「お姉さま!」
「ビッチ様!」
その呼びかけに呼応するように、数匹の黄金の蝶が舞い降りる。
「ダメだ! 足らぬ! まだ足らぬ! 叫べ! 乞え! ビクトーリアの存在を! ビクトーリアの愛を!」
「「ビクトーリア様!」」
全員の声が重なる。
アインズは、再度杖を掲げ、力ある言葉を紡ぐ。
「喝采せよ! 王の帰還である!」
アインズの宣言に反応する様に、玉座の間は、黄金の輝きで満たされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜の闇が支配する時間。
王城の一室で、黄金の姫は就寝の為の身繕いを行っていた。
しかし、無遠慮、とも言う時間に来客が訪れる。無論、まともな客では無い。
部屋の中に暗闇が現れ、そこから産み出でる様に一体の悪魔が現れる。赤い、スーツと言われる衣装を身に纏った悪魔が。
「まあ、ヤルダバオト様。こんな時間にいかが致しましたか?」
笑顔の仮面を貼り付け、黄金の姫、ラナーは来訪者を迎い入れる。
「いえ、こんな時間に申し訳無いね」
「いいえ。あなた方は、私の願いを聞き入れてくれた方々。遠慮など無用ですわ」
ヤルダバオトの謝罪に、ラナーは微笑みで返す。
しかし、これからが本題である。
悪魔の来訪の理由、とは?
「実は、法皇暗殺について、私の主人が最終確認をしたいと言うのだよ」
「まあ。あの酷い人は、早く殺した方が良いわ」
ラナーは、朗らかに物騒な言葉を紡ぐ。ヤルダバオトは笑顔でその言葉を受け入れる。
「では、私の主人に、説明してくれるかい? 法皇がいかに酷い人物かを」
「ええ。ええ、もちろんですわ」
ラナーの言葉に、我が意を得たりと、ヤルダバオトは主人を招き入れる。
「ビクトーリア様、同意を取り付けました。お姿を御見せ下さい」
ヤルダバオトの言葉に、ラナーは胸をときめかせる。
だが、その感情は、徐々に絶望へと変わって行った。
暗闇からヤルダバオトの主人が産まれ出でる。
黄金のグリーブが。赤いドレスの裾が。その、豊満な胸が。そして、神が創りしその相貌が。
「初めまして、ご機嫌はどうじゃ? 発情期のクソガキ」
煉獄の王が、楽しげに言葉を紡ぐ。
王の帰還、最終話いかがでしたか?
細かい言葉は、後程活動報告で上げますが、十二月を目途に、第二部を開始したいと思います。
煉獄の王を迎えたナザリック。
そして、その手は、世界へと向けられます。
未回収の伏線。
兎の国や、エルフの国。
そして、法国に集った者達。
王国の運命や、帝国、聖王国の進む道。
ビクトーリアとアインズの選択。
ナザリックの魔手が世界へと伸ばされます。
感想お待ちしております。