それは今日も止まった街を守り続ける。
来たる敵軍と、守るべき人々の生活の夢を見るように。


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機械の騎士

―――定時報告

自己診断プログラム起動。

自機ソフトウェア...対低年齢用会話データベース劣化。

自機ハードウェア...スピーカー破損。

 

武装チェック

トール・ハンマー...制式弾薬欠乏。

76mm砲...徹甲弾、HEAT弾欠乏。

M2ブローニング重機関銃...車体前部、砲塔上タレット共に異常なし。

 

追加搭載装備...修復ナノマシン異常なし。

 

外部チェック

小隊1番機・H-3-1...機能停止

小隊3番機・H-3-3...機能停止

小隊4番機・H-3-4...機体大破

STC...機能停止、自己判断権付与

メンテナンス部隊...通信不通

CAS...通信不通

HQ...通信不通

 

電力供給80%。

電力少量不足。

トール・ハンマーをスリープモードへ。

修復ナノマシン稼働率を86%へ。

 

City-132-Guard-H-3-2・ヤークトウェヒターⅡ

―――

 

今日も届くことのない定時報告を送信し、それは活動を続ける。

来る日も来る日も、それは同じことを繰り返していた。

街の規定位置に陣取り監視、定時になれば定時報告。

敵軍など来ることもなく長い長い時が流れ、街からはいつしか人が消え活動を停止。

小隊味方機はそれを残して経年劣化により機能停止または戦闘不能。

更に長い長い時が流れ先日戦術コンピューターも機能を停止。それでもそれはそこに立ち続けていた。

当然だ。それはそのように作られたのだから。

街が廃墟と化していても、敵軍などというものがいなくなっても、自軍がほぼ己のみとなっても、それは街を守り続けている。

それが使命であり、存在意義であった。光が前に進み、石が重力に引かれるのと同じように街を守る。

今日もまた、それは警戒を続ける。

守るべき暖かい街と、倒すべき侵略者達の夢を見るかのように。

しかし今日は、今までとは変化があった。

アンノウンを発見。

H-3-2が発見したのは、少年と少女の二人組と、それを追う竜であった。

追われる二人はそれの、街の方へと走る。追う竜も同様に飛んでくる。

H-3-2にとって二人は不明な人型存在であり、竜は不明な航空機であった。IFF応答なし。

二人は前時代的な服装をしているが、武器等を持っているわけではない。

民間人のように見えるが、スピーカーが破損しているために呼びかけることはできない。

第一警戒ラインを通過。臨戦態勢。H-3-2は八本の、しかし放射状で蜘蛛などとは似ても似つかない脚で立ち上がる。

不明な航空機へ正面を向け、二人に車載機銃を向ける。

第二警戒ラインを通過。

もうすぐ防衛ラインへ突入し、防衛のために攻撃を開始する。民間人らしき人間にはできるだけ発砲するべきでないが、防衛ラインを超えるのであればやむを得ない。

所で二人の少女の方は幼く、あまり物事をわかっていなかった。恐怖そのもののような存在である竜に追われ、ほとんど判断力を失っていた。

H-3-2には防衛部隊のエンブレム、騎士のマークが描かれていた。そのマーク以外の部分は灰色の塗装であり、背景の街と同化していた。

そして......少女はこの時代において「魔法」と呼ばれている技能を持っていた。

『騎士さま!助けてください!』

民間用ナノマシン通信による通信を受信。

それは独特な訛りがありながらもH-3-2の時代と変わらず公用語であり、H-3-2は自然言語を理解することができた。

H-3-2は返信を送る。騎士さまというのが自らを指していることはわかっていたし、民間人に対し修正の必要はないとされていた。

民間人からの臨時コールサインとして「騎士さま」を登録。

『救援要請を確認した。あなたたちはCity-132の領域を侵犯している。民間人のように見えるが、所属を確認する。』

『え?えーっと...ごめんなさい。わたしまだ小さくて難しいことはよく...』

さらに接近。申告と目視により、彼らが幼いことがわかる。そして何より、本当に一切武装をしていないことを。

脅威度判定を修正。防衛ラインを突破するが発砲はしない。対低年齢用会話データベースを参照。少し欠落しているが可能な範囲を適用。

『軍隊ではないのか?』

『はい!』

民間人であると判定。部外者としての対応として、中枢を除く街へのアクセスなどが可能となっている。車載機銃を不明航空機へ。

『助けてくださいとは何からか?』

『レッドドラゴンです!』

レッドドラゴン。データベースにない単語だ。

『それは何だ?』

『私たちを追いかけてきてる、あれ!』

不明航空機のことだとわかる。不明航空機をレッドドラゴンと呼称。

レッドドラゴンは防衛ラインを突破寸前だった。そこで首を大きく逸らす。高熱量を感知。

レッドドラゴンの口から火球が吐き出される。H-3-2は脚部のローラーで地面を滑り、民間人の保護のために二人をかばう。

着弾。塗装は大きく焼け焦げたが、耐熱装甲により損傷はなし。

周辺にも炎が散る。防衛ラインを突破。

民間人への攻撃、街への攻撃、防衛ラインの突破。H-3-2はレッドドラゴンを敵機と断定する。

『救援要請を受諾。敵機を排除する。危険であるので都市内へ避難せよ。』

H-3-2が動いたことで、二人には騎士ではないとわかる。

二人は驚くが、少女には助けてくれるとわかっていた。

兄にも軽く説明し、街の方へ駆けて行く。

エンゲージ。

H-3-2は二人の民間人と敵機についての情報、自らの交戦を届くことのない司令部へと送信する。

まずは車体前部と砲塔上の12.7mm機銃を発砲。レッドドラゴンは翼をはためかせ回避するがいくらかが命中。しかし効果はなし。

H-3-2を怒りの籠った目で睨み付ける。

これまでの情報から、H-3-2は不明航空機「レッドドラゴン」をティルトロータータイプの攻撃機・CAS機に近いものだと判断していた。

H-3-2の時代にはすでにオーニソプターも実用化されていたが、そのデータは破損し失われていた。

12.7mmは効果がないとわかったので、76mm砲を発砲。小気味良いリズムとともに榴弾と榴散弾が連射される。

レッドドラゴンは素早い動きで回避。敵機の機動力情報を修正。ティルトローターではなくマルチコプターなどである可能性も考慮。

レッドドラゴンは移動しながらH-3-2へ火球を放つ。H-3-2は回避せず命中。効果はなし。

長く溜めた火球を放つ。滑走し回避。

そうしている間にもレッドドラゴンの回避機動の情報は蓄積し命中弾が出始める。鱗に対しては効果がないようだが、榴散弾の子弾が翼の皮膜を穿つ。

レッドドラゴンは痛みに叫び声を上げ、近接攻撃を仕掛けようとH-3-2へ突撃。

H-3-2は後進し引き撃ちの構えに入る。

.......そこで、横合いから何かがレッドドラゴンを掻っ攫う。

H-3-2は砲塔をそちらへ向ける。黒い竜がレッドドラゴンを捕獲、捕食していた。

IFF、応答なし。防衛ラインの内側に新たな不明航空機。

暗黒の古龍(ダークネス・ドラゴン)です!』

少女からの通信。市街地からだ。避難は成功したらしい。不明航空機をダークネス・ドラゴンと呼称。

『あれは?』

『伝説にもあるようなとても古い竜で、とっても強くて、村とかを襲ってて、凶暴で......』

焦っているようだが情報は伝わった。ダークネス・ドラゴンはレッドドラゴンを平らげた後、獲物を探しそこらじゅうを荒らしまわる。

防衛ラインの突破、市街地への攻撃、間違いなく敵機だ。

エンゲージ。

H-3-2は滑走しながら76mmを発砲する。

『いくらなんでも無茶です!逃げましょう!』

『拒否する』

簡潔な返答。当然だ。H-3-2は街を守るためにここにある。

76mmは着弾。煙の中から黒い残光を引きながらダークネス・ドラゴンが飛び出す。かなりの高速だ。

空中でひらりひらりと回避。かなりの高機動だが直線的だ。H-3-2はダークネス・ドラゴンをティルトジェットの戦闘攻撃機あるいはジェット戦闘機と判断した。

ダークネス・ドラゴンがホバリングし、口から黒い火球を放つ。高熱源反応。滑走し大きく回避。

その間にも76mmを発砲し続けている。いくらかが命中。しかし効果が見られない。

現状使用できる火器では効果がない。H-3-2はヤークトウェヒターⅡの主兵装、トール・ハンマーを使用することにする。

滑走で高速移動し、ダークネス・ドラゴンの横側へ、外壁に対して平行になり、ダークネス・ドラゴンの攻撃が市街へ着弾しないようにする。

停止。地面に杭を打ち込む、アイゼン・ロック。

トール・ハンマーのスリープモードを解除。電力不足。脚部スリープモード。修復ナノマシン稼働率を64%に。

スリープモードから復帰中。電力チャージ中。

ダークネス・ドラゴンは静止したH-3-2へ火球を放つ。1発。2発。小破。

トール・ハンマー使用可能。制式弾薬は欠乏しているが、制式弾薬以下の口径であれば発射可能で、90%ほどの威力が見込める。

余剰弾薬を捜索。背部ラックに小銃用5.56mm弾を発見。修復ナノマシンを操作し、砂が動くように運搬、装填。

ダークネス・ドラゴンはとどめとばかりに大きく溜めている。超高熱源反応。命中すればひとたまりもないが、当然H-3-2に恐怖などない。

装薬装填。電力チャージ。ブロアー準備完了。

ダークネス・ドラゴンが火球を放つ。瞬間、それに大穴が空きかき消える。射弾の空気抵抗を極限まで減らすため、弾道の気体を取り除くブロアーだ。

火薬に点火、5.56mm弾が加速。電磁加速、さらに5.56mm弾が加速。超高速で発射された5.56mm弾は、ブロアーの効果によってほとんど減速することがない。

あまりの速度にブロアーの使用後であってさえ高熱を帯び、小銃用の5.56mm弾は耐え切れずに融解。しかしそのまま飛んで行く。

命中。純粋な運動エネルギーの暴力がダークネス・ドラゴンを襲う。弾体は瞬時に貫通し、一部を残して飛散。

さらに、柔らかいダークネス・ドラゴンの体内はぐちゃぐちゃにされる。

決着は一瞬だった。穿たれた極小の穴から血液―――おそらくは液状化した内蔵や肉も含む―――を流しながらダークネス・ドラゴンは落下、倒れ伏し、動くことはなかった。

『無事か?』

H-3-2は少女に通信を送る。

長い長い沈黙ののち、返答。

『は、はい。』

戦闘終了。敵機二機撃墜。民間人二人を保護。届くことのないレポートを送り、この戦闘は終了した。




ヤークトウェヒターⅡ:
防衛用無人兵器のひとつ。狙砲撃タイプ。
放射状に伸びる八本脚、その裏のローラーによる滑るような走行で移動する。
武装はトール・ハンマー、76mm砲、M2ブローニング重機関銃2丁。
都市での防衛時の民間人との会話や、通常の兵士と同様に命令を出せるようにするための自然言語を理解する能力が備わっている。
H-3-2には試験装備の修復ナノマシンが装備されている。

City-132-Guard-H-3-2:
第132都市防衛部隊Hunter第三小隊二番機 といった意。

ドラゴン
あまり設定はない。完全なファンタジー存在かもしれないし、ナノマシンと共生した生物かもしれないし、どこかの生体兵器かもしれない。

実質処女作ですがいかがだったでしょうか?
感想などいただけると嬉しいです。

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