このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第11話

 

「あ!アクセルの狩人殿。先日は我々の仲間が失礼した!」

ダクネスは普段は礼儀正しい、きっと育ちが良いのだろう。

「うむ、この近くに住み着いた魔王軍の幹部がとうとうこの街にやって来たのだが…

まぁ、聞いての通りだ。原因はやはり…」

貴方が知る限りこの街で爆裂魔法を使えるのはアークウィザードでもMPが高いめぐみんとウィズくらいのものだ。

だがウィズは朝昼晩と店の営業時間以外は貴方の家に入り浸っているので違う。

となれば別に啓蒙が無くとも犯人はめぐみんという結論だ。

見ればめぐみんは冒険者たちの視線を受けて緊張していたようだが、さすがは紅魔族。

名乗りを上げて幹部:ベルディアの前に出て行った。

「だ、大丈夫かな。めぐみん」

 

ゆんゆんはライバルでありまた同じ一族のめぐみんを心配している。

だが流石に頭がそんなにおかしくないので、魔王軍の幹部相手に突っかかる度胸はないようだ。

貴方の後ろに隠れている。

 

貴方の目の前で魔王軍の幹部、ベルディアとめぐみんが低啓蒙な言い争いを続けている。

爆裂魔法を一日一回打たないと紅魔族は死ぬだとか幹部であるベルディアをおびき寄せるためだとか言い訳が二転三転するが。

そこは別に啓蒙が無くともわかりきった事なのか、カズマ少年も

「いや、お前が撃ちたかっただけだろ」

とツッコミを入れていた。

というか爆裂魔法を一回使うと倒れるというゆんゆんの話が本当だとしたら、魔力が尽きたらどうしていたのか。

案外、わざわざこのカズマ少年がおんぶして帰っていたのかもしれない。

いやまさか、わざわざそんな手間暇をかけて一銭にもならないのに魔法を使う意味もないと思う。

とはいえ、貴方にしてもわざわざダンジョンに潜ってマラソンしたりとめぐみんの事は笑えない。なので微笑ましく見守ることにした。

「ふふふふふ、我が策に嵌りノコノコと出て来たのが運の尽きです!

魔王にすら届く刃である我が爆裂魔法とアクセル一の使い手の狩人がいれば魔王の下っ端など恐るるに足らず!

さぁ、やっちゃって下さい先生!」

 

あれだけ啖呵を切って先生とやらに頼るらしい。

貴方はピクリとも動かなかった、そもそもあの幹部は獣では無いのだから貴方の狩の範囲外である。

貴方は獣狩りや上位者狩りはしても、人狩では無いのだから。

アンデッドが人かどうかは微妙だが。

 

「あのー先生…ジェヴォーダンさーん。正直私ではちょっと無理っぽいのでやっちゃってはいただけないでしょうか…」

 

めぐみんは下手に出た。

先生とは、つまりは貴方のことである。

貴方はめぐみんの師匠になったことなどないし、魔法に関しては優等生のゆんゆんよりも上のめぐみんに教えられることなど無いだろう。

レベルを上げて物理で殴り、相手の攻撃は確実に避ける。

貴方が教えられるのはそれくらいだ、つまりアークウィザードには何の役にも立たない。

更に言えば、別にスキルでも何でも無いのでポイントで教えられない。

その点ではゆんゆんの魔法の才能は貴方には無かったものだ。

更に言えば体術の点でもウェアウルフを考えなしに殴り殺そうとした昔の貴方よりも優っている。つまり、非常に優秀な狩人になりうるということだ。

 

「えーと…呼ばれてるんですけど。行かないんですか?」

ゆんゆんはめぐみんはライバルであるので幹部に殺されて欲しく無いらしい。

貴方は無論、彼が殺す気なら殺される前に殺すつもりだが本人はめぐみんにまずは謝罪と注意をしに来たらしい。

それならばまずは殺しあう前にめぐみんが謝るべきだろう。

いくら知らなかったとは言え、他人の家を毎日爆破していいわけでは無いのだから。

 

「おい、待て。何か勘違いしているみたいだが、俺は今日戦いに来たわけでは無い。

とりあえずはだ、そこの頭のおかしいアークウィザードに注意をしに来ただけだ」

「だ!誰が頭がおかしいウィザードですか!?」

「お前だ!お前!それ以外にどんな奴がいるんだ!?」

 

周りの冒険者も頭がおかしいという点では同意しているようだ。

 

それからもベルディアとめぐみんは

「爆裂魔法はもう撃つな!いいな!?絶対に撃つなよ!」

 

「それは無理です、硬くて大きいモノじゃ無いともう満足できない体になってしまいました。

貴方のせいです、貴方が城を魔力で固めてたせいです。

責任取って下さい」

 

「おい!なに人のせいにしようとしてんだ!?

それと変な言い方はやめろ!誤解されるだろうがぁ!」

などと不毛な言い争いを続けていた。

 

 

「いいだろう…口で言ってもわからんお前にはきつーいお灸を据えてやろう!」

ベルディアは赤眼を光らせると右手から魔力の塊を発射した。

めぐみんは目の前に迫る魔力の塊を避けられないと、当たってしまうと思い目を瞑る…

 

しかし魔力の塊が命中したのはめぐみんではなく目の前に立ち塞がったダクネスであった。

あろうことかめぐみんを庇ってダクネスが魔王軍の幹部の攻撃を受けた。

貴方は別に理由など構わないがダクネスの行動には感心した。

例えその理由がどうであれ、仲間を庇う人としての誇り・気概を感じた…事にしておこう。

 

「よく聞け、めぐみん。

お前を庇ったその騎士が受けたのは『死の宣告』

一週間後にその騎士は死ぬ!お前の大切な仲間は死の恐怖に悶え苦しみながらな!

お前のせいで!」

 

めぐみんは驚き、絶望し俯く…

魔王軍幹部の魔力は人間のそれとは隔絶しており、そして真実だろう。

しかしながら当のダクネスはというと…

「そこの魔王軍幹部…つまりお前は私に呪いを解いて欲しければ私に言う事を聞けと言うのだろう!?エロ本みたいに!エロ本みたいに!!」

「はっ!?」

 

ダクネスはもはや啓蒙がどうとかいうレベルではなくトチ狂っていた。

貴方はダクネスをまぁまぁ啓蒙高い系女子かとも思ったが違った。

ただの変態だった、だがこの変態ぶりを高啓蒙へと導くのもまた貴方の務めなのだろうか…

やっぱ務めたくない。

もはや聞いてはいられない、ダクネスは魔王軍幹部のど変態プレイでエロ本のような陵辱女騎士を晒すためにホイホイついて行こうとしたのをカズマに止められた

貴方はベルディアに少し同情した

「ま、まぁとにかく!そこのウィザード!仲間にかけられた死の宣告を解きたくば一週間以内に俺の城へ来い!

だが果たしてアンデッド蠢く城を突破して俺の元へたどりつけるかな?わははははは!」

 

魔王軍幹部は捨て台詞のようにとても重要な事を吐いてそそくさと去っていった。

 

その後はアクアが呪いをあっさりと浄化した、めでたしめでたし。

ベルディアの実力は本物だった、本気でかけたのであろう呪いは種類こそ違えど呪詛溜まりと同じ性質の強力な物だった。

貴方にはわかる、異世界から現れたイかれた神秘マンが投げつけるクソと同じくらい強烈だ。

だがそれを浄化したアクアのアークプリーストの実力はそれ以上だった、貴方は彼女が自分を女神と言っていたが今は信頼した。

啓蒙低き世間の香りに紛れているが、かの月の魔物や貴方自身と同じ神秘の月の香りがする。

「…行きましょうか」

ゆんゆんの疲れた目が語っている、自分たちの感動と時間を返して欲しいと。

貴方は城外に出た事だし、ゆんゆんに基本的な狩人のイロハを教えてやろうと考えた。

すると顔を輝かせて…

「あ、めぐみん!き!奇遇ね!どう!?一緒に訓練してあげても、い、いいわよ!」

ゆんゆんはドヤ顔でさも構ってほしそうに今はうなだれているめぐみんに近づいて言った。

「…今日は疲れたのでやめときます」

「はうっ!そ、そうだ!…しょ!勝負よ!めぐみん!そう!どっちが上手に訓練できるか!

逃げるの!?」

 

だがめぐみんは疲れた顔で無視して街に帰ってしまった。

あっさり魔王軍幹部を撃退できて拍子抜けしたのか貴方とゆんゆん以外の冒険者も街に戻っていってしまう。

まぁこんな事もあると貴方はゆんゆんを慰めた。

助言者でもある貴方は後輩への気遣いにも優れ、無慈悲で、血に酔った良い狩人だ。


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