このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第12話

あのデュラハンはかなりの実力者だった、間違いなく百戦錬磨の古狩人であるガスコイン神父に匹敵する戦闘力の持ち主だということはあの佇まいから伺えた。

あの神父には数え切れないほど殺されたが、だからこそあの時に貴方は内臓攻撃の魅力に目覚めた。

内臓攻撃は素晴らしい、リゲインに血の喜びによってHPも回復し相手に大ダメージも与えられる攻防一体の大技だ。

貴方も幾たびか別世界の狩人狩に追い詰められたことがあったが、その度にパリィからの内臓攻撃で逆転というのはよくある展開だ。

この世界は貴方があの診療所で目覚めてから記憶がある唯一の街であるヤーナムに比べると天国のように快適で優しい。

少なくともいきなり聖職者の獣とガスコイン神父レベルのモンスターがチュートリアルとして出て来ることはないし

知り合った人間ことごとくと殺し合うと言う普通の展開もない。

貴方はゆんゆんに取り敢えずの狩人の基礎を教えた。

 

道具は出し惜しみするな

常に1on1へと持ち込める状況を自分から作り出せ。

手強いならまず弱らせろ

よく観察して隙を見出せ

地形を活用しろ

相手を罠にかけろ

不利なら迷わず逃げろ

これは狩りであって戦いではない

 

この世界の冒険者にしても特段目新しいことではないらしく、ゆんゆんはメモをとってはいたが直ぐに覚えた。

 

 

貴方は取り敢えず近場のジャイアントトードでゆんゆんが狩りをできるように計らった。

『ライト・オブ・セイバー!』

彼女は新しい仕込み杖で魔法攻撃を行使し、ジャイアントトードを一刀両断にする。

貴方は見事だと称賛した、魔力消費が比較的大きく射程が短いが破壊力は一級品の魔法だ。

消費魔力の大きさは彼女自身の元々大きいキャパシティで補える。

どっかの爆裂娘とはえらい違いである。

とはいえ、彼女が狩人になる事を望むのならばこれからは仕込み杖についても更に慣れるしかない。

貴方は彼女に今度は杖としてではなく鞭として使ってみろと指示した。

ゆんゆんは指示に従い、今度は魔力のエンチャントを鞭に施す。

物理攻撃力の低さを補うその戦い方は貴方のヤスリや神秘と基本的には変わらない。

神秘も銃撃もいいが、狩人にとっては接近しての方が安全な場合が多い。

特に相手が大火力持ちの場合は、射撃戦では押し負けるだろう。

結局はその場その場への対応力を鍛えなければ何も始まらないのだ。

「せいっ!」

ゆんゆんはカエルの舌をサイドステップで避けると走りざまに鞭の先端をカエルの脇腹に速度を活かしたまま叩き込む。

仕込み杖に仕込んだ刃が体内奥深くにまで切り裂いて達するとカエルは呆気なく死んだ。

相手をあえて正面に置かないノーロック戦術での鞭形態をここまで使いこなすとは、彼女は才能があるのだろう。

貴方は素直にゆんゆんを称賛した。

「え?そ、そんな…・えへへっへ、す、すごいだなんて。

私褒められた褒められた、うふふふふふ」

 

で、あれば貴方もゆんゆんにそろそろ例のアレを披露しなければなるまい。

「え?何を?私も覚えられるって?」

ゆんゆんは瞳を輝かせて期待の目で貴方を見上げている。

貴方は鉈も銃も置くと、またまた出てきたカエルに無造作に歩み寄った。

カエルが貴方をまたしても舌で攻撃しようとしたが貴方は一瞬で背後に回る。

サイドステップからの溜め攻撃を食らわせるとカエルは態勢を大きく崩し、急所である腹を貴方に向けた。

内臓攻撃の時間だ。

貴方は右手を凄まじい勢いで腕を突っ込んだ、尻に。

貴方は幾億回と繰り返した動作通りに内臓も骨も掴むとカエルのそれを勢いよく引っこ抜いた、辺りには血腥い匂いが立ち込め地面にはカエルの中身と外側が転がる。

「え、えええ…」

ゆんゆんが死んだような目で目の前にやってきた血まみれの貴方を見上げる。

前とはうって変わって輝きが消えたいわゆるレイプ目という奴だ。

貴方は難しそうなのはわかるが狩人としてやっていくには銃パリィと内臓攻撃は必須だと教えた。

さぁ、殺ってみなさい。

そう言うと、ゆんゆんの昏い目はますます暗くなっていった、このままではダークリングが現れるかもしれないと貴方が心配するほどに。

ゆんゆんの練習はベルディアが撤退してから昼食時まで続いた、結局ゆんゆんは内臓攻撃を習得できなかった。

溜め攻撃はできるが、なぜかちょっと右手でゴムのように分厚いカエルの尻を掘れなかった。

貴方は別に急ぐ必要はないし、今度はもっとパリィしやすい相手で試せばいいと言ってあげた。

例えば豚とか。

 

「いらっしゃいま…ヒィイィ!」

ギルドの軒先にやってきた貴方達に向かってルナ嬢が叫ぶ、貴方はともかくゆんゆんまで頭の上から爪先まで血まみれだ。

ゆんゆんの目は相変わらず死んでいる。

血まみれでレイプ目で日頃からお人形ちゃんが友達とか言っている少女がこの状況である。

貴方は気づいた、思春期の少女が爪先まで血まみれなのはどうかと

一応は払ったが貴方の革の狩装束と違い布のゆんゆんの服は血をよく吸収してしまった。

血腥い。

そこで貴方はゆんゆんに風呂に入ってくるように言った。

貴方のことは別に放っておけば落ちるので気にしなくていいと、ルナ嬢には言っておいた。

 

「気にします!ギルドに血を落とさずに入ったら罰金ですからね!」

床掃除が大変ということなので貴方も血まみれのまま街を歩くのを禁じられてしまった。

豊満な少女が一緒にお風呂に行く、しかも少女はレイプ目。

傍目にはあれな事態に見える。

普通なら揶揄されるところだが血まみれの貴方とゆんゆんを揶揄するものはいない。

貴方は別に構わない、蝋を塗ってある狩装束は血は払えばいつの間にか落ちている。

 

疲れた表情でトボトボと歩きながら風呂から上がってきたゆんゆん。

「あの…もう今日は帰ってお人形ちゃんとお話しして寝ます…」

今日もお人形ちゃんにお土産を貢いで疲れるまで会話して泥のように眠るつもりらしい。

そしてウィズがゆんゆんを案じて夜に晩御飯を作ってあげて寝かしつけるのだ。

ウィズはもしもリッチーになっていなかったらいい母親になっていたろう。

ちょっと娘役が大きすぎる気もするが、いろんな意味で。

貴方には縁がないが、彼女達のような家族を持てる男性は幸福者だろう。

それこそギルドの食堂で爆発しろと言う呪詛を投げつけられる程度には。

狩人に家族は持てぬ、もしも持てば最早狩人を続けられぬ。

呪われた血をその身に宿す哀れな狩人たちよ。

ガスコイン神父は家族を持ちながら狩人である事を辞められなかったのだ。

貴方は思い出のオルゴールを鳴らしながらそう思った。

それはともかく狩だ…一日一内臓攻撃しなければ腕が鈍る気がする。

 

貴方がギルドに来るとルナ嬢はまたも疲れた顔で貴方を迎えた。

「…いらっしゃいませー」

棒読みで迎えられてしまった、そこまでひどい扱いを受ける謂れはないが?

そういえばギルド職員はいつも人手不足だと嘆いていた気がする、そのせいだろうか?

貴方はさりげなくルナ嬢に聞いてみた。

女性が家庭を持ちたいと言い出したらどのような男性を勧めれば良いのだろうかと。

貴方は真昼間だというのにまだベルディア撃退の報奨金で飲み耽っている例の四人組を目の端に捉えながらルナ嬢に相談した。

「あっ!ジェヴォーダン殿!聞いたぞ!今度はまた別の少女を血まみれぶっかけコースの目に合わせたとか!ぜひ!今度は私にもBUKKAKEをお願いしたい!」

「おい馬鹿!この変態クルセイダー!やめろって!すみません、うちの変態がまた暴走して。

またキツく言っときますんで・・」

「んな!カズマまでこの私を公衆の面前で罵倒とは、さ流石は私が見込んだ男」

「ふっ、流石は我がライバル”ジェヴォーダン the Bloodborne”

相変わらずの勇猛さですね!ですが、この紅魔族随一に爆裂魔法の使い手めぐみんがいる限り

貴方が安泰できる日は来はしません!」

「お前もなに!煽ってんだ!」

 

変な依頼を出されてしまった、貴方はそれはともかくとルナ嬢に相手いるテーブルに座ってもらって相談した。

百戦錬磨の獣狩りの貴方も女性という存在にはとんと縁がない。

 

アクセルの街のマジキチ狩人の恋話って?嘘!?相手は?

決まってるでしょ、ウィズさんよ。ウィズさん。通い妻の!

やだ!遂に入籍!?

でも籍を入れればあのマジキチも落ち着くかもね

そうなったら私たちも感謝感謝。

あのマジキチの作ったミンチを回収する仕事も減ってくれるじゃん!

どう考えてもギルド職員じゃなくて特殊清掃員になってるもんねー

森の中とかはまだいいけど、暑い日の屋内とか洞窟の中とか最悪だもんねー

というルナ嬢が隙をみてギルドの女性職員がカウンターの向こうでワイワイと騒いでいる。

貴方は狩の後始末が下手らしい。


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